訴 状 2015年5月29日 東京地方裁判所民事部 御中 原告ら訴訟代理人 当事者の表示 地位確認等請求事件 訴訟物の価額480万円 貼用印紙額 29、000円 -1- 弁護士 平 弁護士 後 藤 弁護士 山 添 健 之 弁護士 萩 尾 健 太 弁護士 三 澤 麻衣子 弁護士 青 龍 美和子 別紙の通り 和 元 寬 請 求 の 趣 旨 (主位的請求) 1 原告らが、被告の特別職非常勤職員(東京都講師)たる地位を有することを確認 する。 2 被告は、平成27年5月15日以降毎月15日限り、 (1)原告中嶋祥子に対し12万6666円 (2)原告●●に対し10万3866円 (3)原告▲▲に対し4万5600円 及びこれらに対する各支払日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支 払え。 3 被告は、原告中嶋祥子に対して、7万6000円及びこれに対する平成27年4 月15日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (主位的請求1に対する予備的請求) 4 被告は、原告らを、平成27年4月1日付で、東京都産業労働局雇用就業部能力 開発課公共訓練係都立職業能力開発センターにおいて下記の時限の講義をなす特 別職非常勤職員(東京都講師)として任用せよ (1)原告中嶋祥子につき、年間400時限 (2)原告●●につき、年間328時限 (3)原告▲▲につき、年間208時限 5 被告は、原告らを、平成27年4月1日付で、東京都産業労働局雇用就業部能力 開発課公共訓練係都立職業能力開発センターにおいて下記の時限の講義をなす特 別職非常勤職員(東京都講師)として任用しなかったことが違法であることを確認 する。 (1)原告中嶋祥子につき、年間400時限 -2- (2)原告●●につき、年間328時限 (3)原告▲▲につき、年間208時限 (全体に対する予備的請求) 6 被告は、 (1)原告中嶋祥子に対して、451万4400円 (2)原告●●に対して、411万3120円 (3)原告▲▲に対して、180万5760円 及びこれに対する平成27年3月31日から支払い済みまで年5分の割合によ る金員を支払え。 7 訴訟費用は被告の負担とする。 との判決及び第2項、第3項、第6項について仮執行の宣言を求める。 請 求 の 原 因 本件は、被告の特別非常勤職員であった原告らが、2015年3月末で従来の条件 による就労を打ち切られたことについて、主位的に民事上の地位確認と未払賃金請求 をし、予備的に行政訴訟として申請型義務づけの訴えと不作為の違法確認ないし被申 請型の義務づけの訴えをし、さらに予備的に期待権侵害による損害賠償請求をなすも のである。以下に詳論する。 第1 1 当事者 原告らの経歴 (1)原告中嶋祥子 原告中嶋祥子(以下、原告中嶋という。)は、1974(昭和49)年4月1 日、被告に東京都職業訓練講師として任用され、江戸川区所在の都立江戸川職業 訓練校のトレース科の非常勤講師として勤務を開始した。その後、1年ごとの「 -3- 任用」を繰り返して、最終の任用は、2014(平成26)年4月1日に行われ た。 その間、「都立江戸川職業訓練校」は「都立江戸川技術専門校」、そして現在 の「東京都城東職業能力開発センター江戸川校」と組織変更が行われた。また、 原告中嶋が担当する科も1998(平成10)年に「CAD製図科」に変更された 。 原告中嶋は、1981(昭和56)年1月14日付で、東京都知事より、職業 訓練指導員の免許を与えられている。 なお、原告中嶋は、1990年以来被告に勤務する非常勤職員が加入している 東京公務公共一般労働組合(以下「東京公務公共一般労組」という。)の組合員 であり、2002年より同組合の分会である首都圏職業訓練ユニオン(以下、「 首都圏職業訓練ユニオン」という。)の委員長、及び2010年より同組合中央 執行委員長を務めている。 (2)原告●● 原告●●(以下「原告●●」という。)は、1993(平成5)年6月、被告 に東京都職業訓練講師として任用され、東京都城東職業能力開発センター江戸川 校のCAD製図科の非常勤講師として勤務を開始した。その後、1年ごとの「任用 」を繰り返して、最終の「任用」は2014(平成26)年4月1日に行われた 。 その間、2004(平成16)年4月1日から、城南職業能力開発センター大 田校のCAD製図科の非常勤講師もあわせて担当した。なお、江戸川校CAD製図科 の担当は2014(平成26)年3月31日で終了し、同年4月1日から201 5(平成27)年3月31日までは、大田校CAD製図科のみ担当していた。 原告●●は、1989(平成1)年12月、二級建築士免許を取得している。 なお、原告●●は、1994年以降、東京公務公共一般労組及び首都圏職業訓 練ユニオンの組合員である。 -4- (3)原告▲▲ 原告▲▲(以下「原告▲▲」という。)は、1987(昭和62)年5月、被 告に東京都職業訓練講師として「任用」され、東京都城東職業能力開発センター 江戸川校のワープロ編集科の非常勤講師として勤務を開始した。その後、1年ご との「任用」を繰り返して、最終の任用は2014(平成26)年4月1日に行 われた。この間、1998(平成10)年4月1日からワープロ編集科が廃科と なったことに伴い、同日から就業基礎(各訓練科目において就業に必要な訓練を 行う)の担当となり、最終の任用まで就業基礎担当としてパソコン指導(マイク ロソフトエクセル・ワード操作指導)を行った。また、2003(平成15)年 4月から2009(平成21)年3月までは、江戸川校での指導とあわせて、東 京都城東職業能力開発センター亀戸校において、パソコン科の指導も担当した。 2014(平成26)年4月1日から2015(平成27)年3月31日までの 最終の任用において、原告▲▲は、江戸川校CAD製図科において年144時限1、 同校介護サービス科において年64時限の授業を担当していた。 原告▲▲は、1974(昭和49)年2月、千葉県タイプ科指導員免許を取得 している。 なお、原告▲▲は、1993(平成5)年から、東京公務公共一般労組の組合 員であり、2002(平成14)年から同労組の分会である首都圏職業訓練ユニ オンの書記長を務めている。 2 原告らの労働条件 原告らの労働条件(ただし、2014(平成26)年4月1日から2015( 平成27)年3月31日までのもの)は、次のとおりである。 (1)共通する労働条件 職名 1 1 東京都講師 「時限」とは、授業1回の時間(45分)を意味する。 -5- 報酬 1時限あたり3800円 支払期日 当月25日締め翌月15日支払 (2)原告中嶋の労働条件 勤務内容 CAD製図科指導 勤務態様 12か月・400時限 勤務箇所 東京都城東職業能力開発センター江戸川校 (3)原告●●の労働条件 勤務内容 CAD製図科指導 勤務態様 12か月・328時限 勤務箇所 東京都城南職業能力開発センター大田校 (4)原告▲▲の労働条件 勤務内容 就業基礎指導(パソコン操作) 勤務態様 12か月・208時限 (うち、CAD製図科における指導が144時限、介護サー ビス科における指導が64時限) 勤務箇所 3 東京都城東職業能力開発センター江戸川校 被告について (1)公共職業訓練の概要 被告は地方公共団体であり、職業能力開発促進法第16条2項に基づき職業能 力開発校として、「東京都立職業能力開発センター」を設置運営している。同セ ンターは、2015(平成27)年4月1日現在、以下の各校により構成されて いる。 中央・城北職業能力開発センター 高齢者校 -6- 板橋校 赤羽校 城南職業能力開発センター 大田校 城東職業能力開発センター 江戸川校 足立校 台東分校 多摩職業能力開発センター 八王子校 府中校 (2)東京都職業能力開発センターの科目 東京都職業能力開発センターにおいて訓練が行われる科目は、大きく分けて「 普通課程の科目」と「短期課程の科目」がある。「普通課程の科目」は、訓練期 間が1年または2年で、授業料等が有償とされている。「短期課程の科目」は、 訓練期間が2か月、3か月、4か月、6か月、1年のいずれかであり、授業料等 は無償とされている。 (3)CAD製図科 原告らが講師を行っていたCAD製図科は、コンピューターを用いた製図技術を 訓練する科目であり、2015(平成27)年3月31日まで、江戸川校、府中 校、大田校、足立校の各校において訓練生の募集・選考・訓練が行われ、短期課 程の6か月コースとされていた。 第2 1 1 原告らの雇用の継続と更新拒絶に至る経緯 原告らと被告との雇用関係の実態 原告らの「任用」は、各年の4月1日から翌年の3月31日までの1年ごとに -7- 行われてきたのであり、前述の通り、原告▲▲は28年、原告●●は21年、 原告中嶋は41年にわたり雇用関係が更新されてきた。 なお、原告らが就労していた CAD 製図科では、定年が無く更新が繰り返され、 73歳まで雇用が継続してきた講師もいた。 2 「任用」の更新は毎年2月に原告らが勤務校に健康診断書を提出し、2年ごと 2月に履歴書を提出するほか、特段の手続を経ることなく行われてきたもので あり極めて形骸化していた。被告は、原告らに毎年交付する発令通知書におい て、被告と原告らの法律関係を自ら「有期労働契約」であるとしてきた(甲1 )。 3 原告らの担当業務は経験の蓄積が重要な業務であり、事実上の賃金の経験年数 加算がなされてきた。 4 原告らの所属する公務公共一般労組と労使交渉でも、意に反する更新拒否は行 わない旨繰り返し確認されてきた。 5 被告においては過去に廃科や廃校、担当業務が廃止されるときでも、公務公共 一般労組が交渉する中で、配置転換によって雇用が継続されてきた。 2 更新拒絶の通告と更新拒絶 ところが、2014(平成26)年10月20日、原告中嶋は江戸川校の校長 室に呼ばれ、藤田校長同席の下、小金井・城東センター長から口頭で「民間でや れるものは民間でやるということで、CAD製図科は平成27年4月より民間に委 託する。身の振り方を考えてください。」との旨を突然伝えられた。原告●●、 原告▲▲も、その後、藤田校長より電話で同様の旨を伝えられた。 この通告の撤回を求めて、2014(平成26)年11月12日、11月28 日、12月12日、2015(平成27)年1月13日、2月20日、原告らの 所属する公務公共一般労組は、被告の産業労働局との間で団体交渉を行ってきた 。 2015(平成27)年1月13日の労使交渉において、産業労働局は「希望 者のリストを出せば、実績・経験を考慮する」と述べた。 -8- 2015(平成27)年1月22日、原告らはいずれも、「類似科目への継続 就労を希望する講師のリスト」(以下「希望者リスト」という:甲2)に自らを 記載して公務公共一般労組を通じて提出したほか、同労組の団体交渉を通じて雇 用継続を求めた。 しかし、同年3月31日付で、原告らは従来の労働条件での雇用は更新されな かった。 原告中嶋については、公募の結果、原告中嶋については城東職業能力開発セン ター・ジョブセレクト科での採用となった。しかし、従来年間400時限の講義 を担当してきたにも拘わらず、その10分の1である年間40時限しか担当させ ない職務内容であった。 原告▲▲は、介護サービス科における84時限の講義担当のみとされた。 第3 民間委託の問題点 本件更新拒絶は、CAD製図科の民間委託を理由とするものなので、まず民間委 託の経緯と公共職業訓練の理念、民間委託の不必要性について論じる。 1 CAD製図科の民間委託 (1)CAD製図科の民間委託検討時期 被告においてCAD製図科の民間委託が検討されはじめた時期は明らかではな いが、少なくとも原告らは、第2、2記載の解雇の意思表示がなされるまで、被 告においてCAD製図科の民間委託が検討されていることを認識していなかった。 (2)CAD製図科民間委託の経緯 被告は、2015(平成26)年9月頃、東京都公共職業訓練実施要綱(都立 城東職業能力開発センター江戸川校 CAD科)及び東京都公共職業訓練実施要綱 (都立城東職業能力開発センター府中校 CAD科)を定め(甲3)、これまで前 記の各校において行われていたCAD製図科の訓練実施を、2015(平成27) 年4月1日から民間事業者に委託することを決定した。同要綱によると、業務を 実施する民間事業者は、「民間事業者間の総合評価一般競争入札による」ものと -9- された。また、訓練生の募集・選考は、民間委託後も被告(江戸川校および府中 校)が自ら実施することとされた。 また、被告は、同要綱に基づき一般競争入札を行うための落札者決定基準を決 定した(甲4)。 (3)落札者の決定 被告は、前記実施要綱及び落札者決定基準に基づき、2014(平成26)年 11月26日に期日入札を行い、江戸川校で募集・選考を行う訓練生の訓練実施 についてはTAC株式会社が、府中校で募集・選考を行う訓練生の訓練実施につ いてはヒューマンアカデミー株式会社が、それぞれ落札した。落札金額は、TA C株式会社が2052万円、ヒューマンアカデミー株式会社が1585万440 0円であった。 2 公共職業訓練の意義 被告において原告らが担当してきた公共職業訓練は、労働者の能力を高め、労 働市場における価値を向上させることにより、持続的かつ安定的な雇用を達成さ せることを目的として行われるものであり、国・地方自治体により責任をもって 行われることが求められる雇用政策の一つである。 わが国では、職業能力開発促進法に職業訓練についての規定がある。 まず、第3条に以下の通り職業能力開発促進の基本理念が規定されている。 「労働者がその職業生活の全期間を通じてその有する能力を有効に発揮できるよ うにすることが、職業の安定及び労働者の地位の向上のために不可欠であるとと もに、経済及び社会の発展の基礎をなすものであることにかんがみ、この法律の 規定による職業能力の開発及び向上の促進は、産業構造の変化、技術の進歩その 他の経済的環境の変化による業務の内容の変化に対する労働者の適応性を増大さ せ、及び転職に当たっての円滑な再就職に資するよう、労働者の職業生活設計に 配慮しつつ、その職業生活の全期間を通じて段階的かつ体系的に行われることを 基本理念とする。」 このように、「職業の安定及び労働者の地位の向上」という憲法22条及び2 - 10 - 7条の要請とともに「経済及び社会の発展」という公共的観点から職業訓練が求 められるのである。 そのことを承けて、同法4条2項には公共職業訓練について規定されている。 「国および地方公共団体は、・・・職業を転換しようとする労働者その他職業能 力の開発及び向上について特に援助を必要とする者に対する職業訓練の実施、事 業主、事業主の団体等により行われる職業訓練の状況等にかんがみ必要とされる 職業訓練の実施、労働者が職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向 上を図ることを容易にするための援助、技能検定の円滑な実施等に努めなければ ならない。」 3 民間委託の必要性が認められないこと 前記のように、本来的には国及び都道府県が行うべき公共職業訓練について、 被告はこれまで、必要性及び効果について十分に検討を行わないまま、訓練の民 間委託を進めてきた。具体的には、2006(平成18)年度に訓練の民間委託 を開始し、2006(平成18)年度に一科目(定員80名)の訓練の民間委託 を開始したのを皮切りに、2014(平成26)年度には18科目(定員計15 20名)の訓練を民間委託している。 被告は、公共職業訓練の民間委託の問題点について審理された2014(平成 26)年11月18日開催の都議会経済・港湾委員会において、公共職業訓練の 推進予算のうち、施設整備費、再就職促進委託訓練費等を除いた金額について、 民間委託が進みつつあった2010(平成22)年度から2014(平成26) 年度の間に、39億7500万円から39億5300万円と、予算額にほぼ変化 がなく、民間委託による費用削減効果が乏しいこと、また、民間委託訓練を受け た訓練生の就職率について、2009(平成21)年度から2013(平成25 )年度までの5年間の平均で、40%程度であることを答弁している(甲5)。 また、江戸川校CAD製図科における就職率は、2010(平成22)年度から 2013(平成25)年度までの平均で、約81.2%と高い就職率を上げてき た。それは、職業能力開発センターおよびその講師として責任を持って生徒を就 - 11 - 職させてきたからである。それに対し、民間委託した場合には、委託先は責任を 持って企業と連絡をとり就職要請をする就職支援体制が取れていなため、約40 %程度だったのである。 以上のとおり、被告による公共職業訓練の民間委託は、費用削減効果が認めら れないばかりか、公共職業訓練の最大の目的であるべき訓練生の就職の実現につ いても、就職率の向上という効果が認められないものである。よって、CAD製図 科についても、本来の公共職業訓練に対する被告の責務を放棄してまで民間委託 をする必要性は全く認められない。 第4 1 民事上の地位確認と賃金請求 労働契約法19条の適用 (1)原告らの就労関係は私法上または公法上の雇用関係であること 公務員の任用は、職員の身分を保障し職員をして安んじて自己の職務に専念 させる趣旨から、無期限のものとされるのが法の建前であり、任期付きの任用 は特段の事由が存在し、かつ上記趣旨に反しないものでなければ、許容されな い(東郷小学校事件・最三小判昭和38年4月2日民集17巻3号4 35頁)。この判示 に照らすと、前述のように、正規職員と何ら変わりなく就労してきた原告らの 就労実態からすれば、任期付きでの任用は法令上の根拠を欠くものというべき であるから、原告らの就労を適法なものとして解釈するのであれば、これを任 用と解すべきではない。 そもそも、原告らのような特別職非常勤職員は、地方公務員法4条2項によ り、地方公務員法の殆どの条文の適用がないことからも、地方公務員法が想定 する任用制度の埒外であると解すべきである。 そうすると、原告らの就労関係は、私法上または公法上の雇用関係と解する ほかない。 また、被告は、原告らに毎年交付する発令通知書において、被告と原告らの 法律関係を自ら「有期労働契約」であると自認している(甲1)。この点にお いても、原告らの就労関係は、私法上または公法上の雇用関係と解するべきで - 12 - ある。 よって、原告らは、労働契約法22条で労働契約法の適用が除外される「地 方公務員」には該当せず、被告における就労については労働契約法が適用され るというべきである。 (2)原告らに労働契約法19条が適用されること 第2、1①から⑤の雇用の実態すれば、原告らは、期間の定めのない労働契 約を締結している労働者と社会通念上同視できる(労働契約法第19条1号) 。 または、産業労働局から「希望者のリストを出せば、実績・経験を考慮する 」との言明も加えれば、原告らは、本件契約期間満了時において、雇用契約が 更新されるものと期待することについて合理的な理由を有しているといえるの で(労働契約法第19条2号)、本件更新拒絶には労働契約法19条(雇止め 濫用法理)が適用され、更新拒絶が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念 上相当であると認められないとき」は、使用者が更新の申込を承諾したものと みなされる。 (3)被告による原告らの雇用の更新拒絶が濫用であること ア 申込の事実と整理解雇の4要件 前述の通り、原告らはいずれも「希望者リスト」(甲2)に自らを記載して 公務公共一般労組を通じて提出したほか、同労組の団体交渉を通じて雇用継続 を求めることで有期労働契約締結の申込をした。 ところが被告は、原告らが講師を務めるCAD製図科を2015(平成27) 年4月1日以降民間委託するという理由をもって更新拒絶をした。 この場合、整理解雇に相当するから、更新拒絶が「客観的に合理的な理由を 欠き、社会通念上相当であると認められない」か否かの判断については、整理 解雇の4要件に準じて、①人員整理の必要性、②更新拒絶回避努力義務を尽く したこと、③対象者選定の合理性、④協議説明を尽くしたこと、について検討 すべきである。 イ 4要件による検討 - 13 - 1 人員整理の必要性の欠如 前述の通り、民間委託の必要性は認められないから、民間委託のための人員 整理の必要性は当然認められない。 2 更新拒絶回避努力義務の懈怠 原告らは CAD 製図科専属の職員ではなく被告の他の部署にも「配置転換」 可能である。 前述の通り、被告はこれまで、職業能力開発校の廃校あるいは訓練科目の廃 科に際しては、組合との交渉により、廃校・廃科の対象となる開発校・科目の 非常勤講師を他校あるいは他科の講師として採用を継続してきた。 よって、被告は原告らを他の科や他の職業能力開発施設に「配置転換」させ て雇用更新するなどして更新拒絶を回避する措置を執るべきであり、そのよう な措置をとることが十分に可能であった。 ところが、被告は、原告らについてはこのような措置をとることなく漫然と 更新拒絶したのであり、義務の懈怠は明らかである。 3 対象者選定の不合理性 被告は、原告ら以外の職業訓練講師について、内部先行的に個別的に類似科 目や他科目への配置転換をさせて雇用を継続した。また、原告ら以外には委託 先のTAC株式会社やヒューマンアカデミー株式会社における講師の職を紹介 された講師もいる。 また「希望者リスト」に記載された組合員以外の者については、委託事業者 へ就職あっせんされるという不平等な取扱いがなされた。その狙いは、後述す る通り、組合嫌悪による不当労働行為であった。よって、およそ対象者選定の 合理性は認められない。 4 協議説明義務違反 前述の通り、被告が原告らに対して更新拒絶を通告する以前には、その事実 は明らかにされず、原告ら及び原告らが所属する組合に対して、何ら事前の説 明も協議もなされなかった。 (4)小括 - 14 - 以上より、かかる更新拒絶は、客観的に合理的な理由を欠き、また社会通念 上相当とは認められず、無効である。 よって、原告らは被告に対し、非常勤職員(東京都講師)としての地位を有 するとともに、 従前の賃金額である、原告中嶋については年給152万円の1 2分の1の金額である月額12万6666円、原告●●については年給124 万6400円の12分の1の金額である月額10万3866円、原告▲▲につ いては年給54万7200円(ただし、CAD製図科における指導についての給 与のみ)の12分の1の金額である月額4万5600円の賃金額において、被 告に対する賃金請求権が認められなければならない。 2 労働契約法19条の類推適用 仮に、原告らが被告において就労していた法律関係が、雇用契約ではなく、任 用行為とされたとしても、本件のように期間の定めのない労働契約を締結してい る労働者を解雇することと社会通念上同視できるか、または、本件契約期間満了 時において、雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が ある原告らについて、違法な更新拒絶から保護すべきことは、民間労働者の場合 と何ら変わりはないのであるから、労働契約法19条の雇止めの法理の類推適用 がなされるべきである。 その場合に、原告らに被告に対する非常勤職員(東京都講師)としての地位 確認請求及び各賃金請求が認められるのは前記1同様である。 3 不当労働行為による更新拒絶の無効 ここで浮かび上がってくるのは本件更新拒絶の不当労働行為性である。 不当労働行為は公序違反であってそれのみで更新拒絶を無効とすることは言う までもない。 前述の類似科目や他科目への配置転換や委託事業者への就職あっせんは、公務 公共一般が強く求めたものである。それに対して、被告は2014(平成26) 年11月12日、11月28日、12月12日の団体交渉で「1年契約であるか - 15 - らその必要を認めない」として一切応じようとせず、原告らについては上記の措 置が執られなかった。それは、原告中嶋は東京公務公共一般労働組合の執行委員 長として長年非常勤職員の権利擁護のために活動し、原告●●も同組合員として 活動し、原告▲▲についても、職業訓練ユニオンの書記長として活動してきたこ とを、被告が嫌悪した為である。 すなわち、公務公共一般労組には、2015年3月31日現在、都立職業能力 開発センター全14校に現在18人の講師が加入しており、そのうち CAD 科の組 合員は6人いたが、2015年3月末で全員再任用拒否とされることにより、組 織的にも重大な打撃を受けることになった。 その理由は、東京都における非正規職員を組織している当該労組の中心的な役 割を果たしてきたのが、訓練校に存在する組合組織(職業訓練ユニオン)であり、 とりわけ CAD 科の組合員が中核になっていたからである。しかもその指導的立場 にあった原告中嶋は、2014年10月20日、再任用拒否通告を受けると同時 に、「12月15日をもって出勤に及ばず」と、職場での他の講師および訓練生 との接触を妨害する措置を言い渡されたのであった。 原告ら地方公務員法第3条3項第3号の特別職非常勤職員には労働組合法が適 用されるから、上記の経緯による原告らに対する更新拒絶は、労働組合法7条の 不利益取扱及び支配介入に当たることとなる。 被告は、2015(平成27)年4月より、大半の特別職非常勤職員につい て地方公務員法適用の一般職に任用根拠を変更して労働組合法の適用をはずし、 労働基本権を制約した。それ自体が、特別職非常勤職員を組織してきた公務公共 一般労組への攻撃であった。それと同時に、原告らのような講師など特別職非常 勤職員として残る部分を排除することによって、公務公共一般労組潰しを図った のが今回の更新拒絶であり、労働組合法7条の不利益取扱及び支配介入に当たる ことは明らかである。 その結果、原告らに被告に対する非常勤職員(東京都講師)としての地位確認 請求及び各賃金請求が認められるのは前記1同様である。 - 16 - 4 未払賃金の請求 (1)雇用契約関係上の請求 前述の通り、原告中嶋は、2014年10月20日、再任用拒否通告を受ける と同時に「12月15日をもって出勤に及ばず」と言い渡されたため,2014 (平成26)年度予定授業時限数20時限分を就労できずに年度を終了した。そ の結果、原告中嶋はその分の賃金7600円も得られなかった。 これは、合理的理由のない不当労働行為意思による就労拒否により、原告中嶋 は雇用契約に基づく賃金を得られなかったのであるから、民法536条に基づき 被告は7600円を遅くとも3月分の賃金の支払日である2015(平成27) 4月15日以降支払済みまで遅延損害金を付して支払わなければならない。 (2)損害賠償請求 仮に原告中嶋と被告との間に雇用契約関係が認められなかったとしても、予定 授業時限数とされた20時限分の就労についての期待が原告中嶋に生じていたの であり、被告が原告中嶋についてその時間分就労させなかったことは、原告中嶋 の期待を合理的理由無く不当労働行為により侵害したと言えるから、原告中嶋は 被告に対して未払「報酬」相当分7600円の損害賠償請求権を有する。 第5 1 非常勤職員としての任用の義務付けの訴え 行政事件訴訟法37条の3、同法3条6項2号に基づく義務付け (1)義務付けの訴えの要件 行政事件訴訟法3条6項2号は「行政庁に対し一定の処分・・・を求める旨の 法令に基づく申請・・・がされた場合において、当該行政庁がその処分・・・を すべきであるにかかわらずこれがされないとき」に「行政庁がその処分をすべき 旨を命ずることを求める訴訟」を義務付けの訴えの一類型としている。 そして、行政事件訴訟法37条の3第1項1号は「当該法令に基づく申請・・ ・に対し相当の期間内に何らかの処分・・・がされないこと」、同条第2項は、 原告らが「法令に基づく申請・・・をした者」であること、同条第3項は「処分 - 17 - の不作為の違法確認の訴え」を「併合して提起」することを、上記の義務づけの 訴えの訴訟要件としている。 そして、同条第1項から3項の要件を満たした場合に「請求に理由があると認 められ」「行政庁がその処分・・・をしないことがその裁量権の範囲を超えもし くはその濫用になると認められるとき」には、行政処分の義務づけが認容される こととなる。 なお、中野区非常勤保育士事件・東京高判平成19年11月28日判決は、本 件同様の特別職非常勤職員の再任用拒否の事件において「義務付けの訴えにおい て、行政庁に対して、ある行政行為をなすべきことを命ずることができる」と判 示している。 (2)訴訟要件への該当 この点に関し ①「都立職業能力開発センター等に勤務する東京都講師設置要綱」(甲6)第 4条2項には「前年度も講師として任用されていた者について、当該職におけ るその者の勤務実績等に基づく能力の実証の結果が良好である場合、公募によ らない再度任用をすることができる。」と規定されている。 ②原告らはこの条項に基づき、原告▲▲は28年、原告●●は21年、原告中 嶋は41年にわたり再任用を繰り返されてきた。そのことは「当該職における その者の勤務実績等に基づく能力の実証の結果が良好である」ことをも示して いる。 ③原告らの所属する公務公共一般労組と労使交渉でも、意に反する「再任用拒 否」は行わない旨繰り返し確認されてきた。 ④被告においては過去に廃科や廃校、担当業務が廃止されるときでも、公務公 共一般労組が交渉する中で、配置転換によって再任用が継続されてきた。 ⑤加えて、従来、原告らについての更新手続は毎年2月に健康診断書を提出す るのみであり極めて形骸化していた。 ⑥原告らの担当業務は経験の蓄積が重要な業務であり、事実上の「報酬」の経 験年数加算がなされてきた。 - 18 - ⑦公務公共一般労組と被告の産業労働局との2015(平成27)年1月13 日の労使交渉において、産業労働局から「希望者のリストを出せば、実績・経 験を考慮する」との言葉を得た。 以上の「再度任用」の規定(①)、その実態(②~⑥)に加え、労使交渉での 産業労働局の言明(⑦)に基づく信義則からすれば、原告らは再任用がなされる と産業労働局を信頼したのであり、原告らは被告に対して2015(平成27) 年4月1日以降も原告らを引き続き再任用するよう法令上申請する権利を有する 。 そして、2015(平成27)年1月22日、原告らはいずれも「希望者リス ト」に自らを記載して公務公共一般労組を通じて提出することで上記の申請権を 行使した。 よって、原告らの訴えは、行政事件訴訟法37条の3の訴訟要件に該当する。 2 行政事件訴訟法37条の2、同法3条第6項1号に基づく義務付け (1)義務付けの訴えの要件 行政事件訴訟法3条6項1号は「行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわ らず、これがされないとき」に「行政庁がその処分をすべき旨を命ずることを求 める訴訟」を義務付けの訴えの一類型としている。 そして、行政事件訴訟法37条の2第1項は「一定の処分がされないことによ り重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるために他に適当な 方法がないとき」であり、同条第3項は、原告らが「行政庁が一定の処分をすべ き旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する」ことを、上記の義務づ けの訴えの訴訟要件としている。 そして、同条第1項の要件を満たした場合に「行政庁がその処分をしないこと がその裁量権の範囲を超えもしくはその濫用になると認められるとき」には、行 政処分の義務づけが認容されることとなる。 (2)訴訟要件への該当 前述の通り、原告らが、希望者リストに氏名を掲載して申し入れたにも拘わら - 19 - ず、被告は同人らを再任用するとの処分をしなかった。 原告らは、都立職業能力開発センター太田校及び江戸川校の CAD 製図科の非 常勤講師を務めることによって生計を維持してきたのであり、原告らに対する本 件再任用拒否は、原告らの生活に重大な損害を与えることになる。 また、原告中嶋にとって、従来年間400時限の講義を担当してきたにも拘わ らず、その10分の1である年間40時限しか担当させない職務内容での任用は 、原告中嶋の生活に重大な損害を与えることになる。 原告▲▲は、介護サービス科における84時限の講義担当は継続された。しか し、従来の CAD 製図科と併せて208時限でギリギリの収入を得てきたのであ るから、介護サービス科の講義担当のみで、CAD 製図科の担当について再任用し なかったことは、原告中嶋の生活に重大な損害を与えることになる。 さらに、原告▲▲は28年、原告●●は21年、原告中嶋は41年にわたり、 誇りを持って被告の職業訓練講師を務めてきたのであり、その勤務継続は原告ら の社会人としての人格的利益に必要不可欠であるところ、再任用を拒否されるこ とは原告らの人格的利益を著しく損なうものである。 このような場合に、原告らが義務づけを求める法律上の利益を有することは言 うまでもない。 そして、これらの重大な損害を避けるためには、原告らを、従来通り、原告▲ ▲は年間208時限、原告●●は年間328時限、原告中嶋は年間400時限の 講義を担当する被告の非常勤職員として任用する旨の処分がされるほか適当な方 法がない。 よって、原告らの訴えは、行政事件訴訟法37条の2の訴訟要件に該当する。 3 裁量権の逸脱又は濫用 (1)再任用拒否の判断基準 任命権者の裁量の逸脱・濫用として違法・無効というべき場合の判断基準は以 下の通りである。 ア 行政処分における比例原則と必要性・再任用拒否回避努力義務 - 20 - 行政処分においては、ある目的を達成するために、必要最小限度を超えた不 利益を課するような手段を用いることは禁じられる(比例原則)。この原則は、 長年再任用を繰り返されて再任用への期待を抱いている非常勤員に対する再任 用拒否についても妥当する。 民間委託を理由とする再任用拒否は、職員には責任がないにもかかわらず、 専ら任命権者の都合によって、職員の身分=生活の糧の喪失という重大な不利 益をもたらす処分である。したがって、長年再任用を繰り返されて再任用への 期待を抱いている非常勤員に対する再任用拒否が有効とされるには、再任用拒 否が必要かつやむを得ないものであるという事由が必要というべきである。 すなわち、人員削減の必要性が存在し、かつ、再任用拒否以外の方法によっ てはその目的を達成できないという特別な事情(再任用拒否を回避する努力を 尽くした事実)が存在しなければならない。 イ 平等原則と不当労働行為の禁止 行政を規律する平等原則(憲法14条)に照らせば、再任用拒否における対 象者の選定は、公平・公正な手続及び人選基準に基づいてなされなければなら ないのであり、憲法28条に照らして、組合差別による不利益取扱がなされて はならない。 ウ 説明・協議義務 再任用拒否は不利益処分であるから、その対象者は、憲法31条が規定する 適正手続の保障として「告知と聴聞」を受ける権利を有する。また、憲法28 条に基づき、被告は、再任用拒否に際して、労働者・労働組合に対する協議を 尽くさなければならない。 したがって、使用者である被告には、対象者及び対象者が所属する労働組合 (職員団体)に対して十分な説明と協議を行う義務がある。 (2)本件における裁量権の逸脱ないし濫用 ア 必要性の欠如と再任用拒否回避努力義務の懈怠 前述の通り、民間委託の必要性は認められないから、民間委託のための人員削 減の必要性は当然認められない。 - 21 - また、原告らは被告の職業訓練講師を生活の糧としておりその生存権を保障す る必要があること、および前述した1項(2)①~⑦の事実によれば、原告らは 再任用を期待していたのであり、被告には原告らの再任用拒否回避の努力をなす 義務がある。 この点で、前述の通り、被告が原告らの再任用を拒否したのは、原告らが勤務 していた CAD 製図科を民間委託するため廃科となり、原告らの職場がなくなる 、というのが表向きの理由であった。 しかし、原告らは CAD 製図科専属の職員ではないため、被告の他の部署にも 「配置転換」して再任用することが可能であるから、被告は原告らを他の科や他 の職業能力開発施設に「配置転換」させて再任用するなどして再任用拒否を回避 する措置を執るべきであった。従来被告は、特別職非常勤職員について、廃校・ 廃科・廃職などの場合にこうした措置を執ってきていた。 ところが、被告は、原告らに「希望者リスト」を提出させて再任用について 期待を抱かせておきながら、従来の労働条件での任用をせず、原告らの再任用 を拒否した。 よって、被告には原告らについての再任用拒否回避努力義務の懈怠があること はあきらかである。 なお、原告中嶋については、従来の10分の1の40時限のみの担当とさせら れたことは前述の通りであるが、これも、被告は400時限での講義内容につい ては再任用拒否をし、その後、40時限の講師として採用したものに他ならない 。 イ 対象者選定の不平等と不当労働行為 前述の通り、被告は、原告ら以外の職業訓練講師について、内部先行的に個別 的に類似科目や他科目への配置転換をさせて雇用を継続した。また、原告ら以外 には委託先のTAC株式会社やヒューマンアカデミー株式会社における講師の職 を紹介された講師もいる。 それらが、組合嫌悪の意図でなされたことは前述の通りである。 ウ 協議説明義務違反 - 22 - 前述の通り、被告が原告らに対して更新拒絶を通告する以前には、その事実は 明らかにされず、原告ら及び原告らが所属する組合に対して、何ら事前の説明も 協議もなされなかった。 (3)まとめ こうした再任用拒否回避努力義務違反や前述した組合嫌悪意思に基づき協議説 明義務違反よる再任用拒否は、被告の裁量権を逸脱するものであることは明らか である。 4 小括 よって、被告は原告らを平成27年4月1日付で東京都産業労働局雇用就業部 能力開発課公共訓練係都立職業能力開発センターにおいて従前の時限数の講義を なす特別職非常勤職員として任用しなければならず被告がこれを行わなかったこ との違法が確認されなければならない。 また、被告が原告らの再任用を行わない以上、本訴においてこれを命ずる判決 がなされるべきである。 第6 1 損害賠償請求 期待権侵害による慰謝料 万が一、原告らと被告との間の法律関係が雇用契約ではなく、任用という公法 上の関係だとして、更新拒絶に労働契約法19条の類推適用も認められず、かつ 再任用義務づけの訴えも認められなかったとしても、被告において「任用期間満 了後も任用が継続すると期待することが無理からぬものと認められる行為をした というような特別の事情」がある場合には、かかる再任用拒否は、原告らの期待 権を侵害したものとして違法となり、原告らは損害賠償(慰謝料)を請求する権 利を有する。そして、長期間、任用を更新し、しかも任用更新の手続も厳格にな されていなかった場合には、「特別の事情」が認められる(中野区非常勤保育士 事件・東京高判平成19年11月28日判決)。 - 23 - 2 本件における「特別の事情」と期待権の侵害 この点について、第5,1(2)の①~⑦の事実は、「任用期間満了後も任用 が継続すると期待することが無理からぬものと認められる行為をした」ものと言 える。さらに、前述の通り、原告らが就労していた CAD 製図科の民間委託にあ たり、被告は、一部の非常勤講師については内部先行的に個別的に類似科目や他 科目への配置転換をさせて再任用を継続した。また、数人もの講師について委託 先の職を紹介するなどの措置を執った。そうでありながら、原告らについてはこ のような措置を執ることなく、従来通りの時限の講義担当という内容では任用し なかったこと等の事情がある。 これらからすれば、上記「特別の事情」があり、被告による再任用拒否は、原 告らの期待権を侵害し、国家賠償法1条1項の違法性が認められる。 3 原告らの損害 原告らは、21年ないし41年もの長期間に亘って任用を継続され、それによ り給与を得て自身や家族の生計を維持して生活の基盤とし、また自身の誇りとし て職業訓練講師を務めてきた。そのことからすれば、本件再任用拒否において任 用が継続するとの期待を裏切られ、生活基盤と誇りとする職業を喪失ないし制限 されたことに因る、経済的・精神的損害は計り知れない。 また、それが組合差別により行われたことに対する怒り・憤激による精神的苦 痛も甚大である。 以上からすれば、被告の違法な期待権侵害によって原告らが被った損害は、3 年分の差額「報酬」相当額とその1割である弁護士費用相当分を下回らない。 3年分の差額「報酬」は、 1 原告中嶋祥子:年360時限:410万4000円、 2 原告●●:年328時限:373万9200円 3 原告▲▲:年144時限:164万1600円 それらに弁護士費用分を合計したものが請求の趣旨6記載の金額である。 - 24 - 第7 まとめ よって、原告らは、請求の趣旨記載の判決を求めて、本件訴訟を提起する。 附 属 書 類 1 訴状副本 1通 2 甲号証写し 各2通 3 訴訟委任状 3通 - 25 - 当 事 者 目 録 〒■■■■■■■■■ 原 告 中 原 告 ●● 原 告 ▲▲ 嶋 祥 子 和 元 〒■■■■■■■■■ 〒■■■■■■■■■ 〒190-0022 東京都立川市錦町一丁目17番5号 三多摩法律事務所 ℡042-524-4321 Fax042-524-4093 原告ら訴訟代理人弁護士 平 (送達場所) 〒130-0022 東京都墨田区江東橋三丁目9番7号 国宝ビル6階 東京東部法律事務所 ℡03-3634-5311 Fax03-3634-5315 原告ら訴訟代理人弁護士 後 藤 同 山 添 - 26 - 寬 健 之 〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町4番23号 渋谷桜丘ビル 8 階 渋谷共同法律事務所 ℡03-3463-4351 Fax03-3496-4345 原告ら訴訟代理人弁護士 〒104-0061 ℡03-3543-6851 健 太 三 澤 麻衣子 青 龍 美和子 第一法律事務所 Fax03-3543-6660 原告ら訴訟代理人弁護士 東京都新宿区四谷1-4 四谷駅前ビル 東京法律事務所 ℡03-3355-0611 Fax03-3357-5742 原告ら訴訟代理人弁護士 〒160-0023 尾 東京都中央区銀座四丁目9番6号 陽光銀座三原橋ビル7階 〒160-0004 萩 東京都新宿区西新宿二丁目8番1号 被 告 東 京 都 同 代 表 者 知 事 舛 添 要 処 分 行 政 庁 知 事 舛 添 要 一 一 - 27 -
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