発光ダイオード照明のヒトへの影響について

卒業研究区分:論文
千葉大学人間生活工学研究室卒論概要(2002)
発光ダイオード照明のヒトへの影響について
─照明用LEDと従来光源の比較および評価
キーワード:発光ダイオード、照明、疲労、hue test
人間生活工学研究分野:福田修平
■研究背景
近年、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)の技術は
めざましい進歩を遂げてきた。光の3原色のうち、青色の高輝度
相対発光強度
1
LEDの開発が最後まで残されていたが、この問題が解決し、これ
.75
LEDは従来の光源と比較して、小型・軽量、長寿命で手間がか
.5
を応用することによりLEDから白色を得ることが可能になった。
からず低ランニングコスト、水銀を使用しないため環境にやさ
しい、今後のエネルギー効率の改善が見込まれることによる省
エネへの期待、などの利点がある。現在すでに、信号灯などの表
示用途やディスプレイ、液晶バックライトへの活用が進んでおり、
1998年より国家プロジェクトとして「高効率電光変換化合物半
.25
0
導体開発(21世紀のあかり計画)」が発足し、LEDを照明として利
400
500
600
図1 各種光源の発光スペクトル分布
さまざまな研究の成果から、今後白色LEDの発光効率のさら
緑線:蛍光灯、赤線:白熱灯。
用するための研究が進められている。 なる改良が見込まれ、照明として一般に利用される日も近いと
思われる。そこで、LED照明のヒトへの影響を生理的に評価する
ことが必要なのではないかと考えた。
700 波長[nm]
青線:青色
(+黄色蛍光体)
LED、
紫線:紫外光
(+RGB蛍光体)
LED、
認められなかった。100 hue testについて、色相全体の総エラー
得点は、白熱灯が他の光源より有意に高く、LEDと蛍光灯の差に
有意性は認められなかった。この結果を図2に示す。また、総エ
■研究目的
ラー得点に対する色票個々のエラー比を照明条件間で比較した
ペクトル分布の違いが挙げられる。
LEDより、No.39で白熱灯が青色(+黄色蛍光)LEDより、No.40
LEDとこれまでの照明光源との相違のひとつに、その発光ス
LEDが実際に照明として使用されたとき、分光分布の違いに
よってヒトに対する負担や色の知覚への影響があるのではない
かと考えられる。これらがどのようなものであるのかを明らか
にすることを、本研究の目的とする。それによって、LEDを照明
として日常の生活に利用する場合の最適な方法、効果、性質、留
意点などについて考察した。
■研究方法
LEDの現状に関する資料調査の結果、照明として今後利用で
きうると考えられている白色LEDの発光方法は、
1)青色光とそれで励起される、補色関係にある黄色の蛍光と
を混色する、青色(+黄色蛍光体)LED、
2)紫外光でRGB蛍光体を励起する、紫外光(+RGB蛍光体)LED、
などがあることが分かった。
この2種類のLEDを含め、照明条件を青色(+黄色蛍光体)LED、
とき、色票No.23で青色(+黄色蛍光)LEDがRGB蛍光紫外光
で白熱灯が青色(+黄色蛍光)LED、蛍光灯より、No.83でRGB蛍
光紫外光LEDが他の光源よりそれぞれ有意に高い。
エラー得点
225
200
175
150
125
100
75
50
25
0
青色(+黄色 紫外光(+RGB 蛍光灯
蛍光体)LED
蛍光体)LED
紫外光(+RGB蛍光体)LED、蛍光灯、白熱灯の4つとして実験を
図2 100 hue test 総エラー得点
のLEDも、昼光や従来光源の発光スペクトル分布とは異なる、特
■考察
行った。これら各光源の分光分布を図1に示す。2種類のどちら
有の分布パターンをもつ。
被験者として健康な大学生8名を用い、1日1条件を各々同時
p値<0.001
白熱灯
本実験において、従来の光源と比較したとき、LED照明に特有
な負担の増加は認められなかった。
刻に行った。被験者は各照明環境下で充分に順応した後、疲労誘
照明環境でのヒトの色差弁別能力は、色相全体で見たときは
生理指標として精神疲労を見るためのフリッカー値、眼精疲労
認められなかった。これにより、色の知覚においてLEDは、総合
発タスクとして30分間の加算テストを行った。タスクの前後に、
を見るための近点距離、脳の覚醒度を見るため脳波、精神的な緊
張度を見るため心拍変動、および心理指標としてPOMS(感情プ
ロフィール検査)を測定した。また、色知覚の違いを見るため
白熱灯下において他の光源よりも悪く、LEDと蛍光灯に違いは
的には従来光源と同等、白熱灯に対してはそれ以上の、色に対す
る見分けやすさを持っていることが明らかになった。また、照明
によって見分けにくい色相があり、
黄色と緑黄色の中間に青色
(+
100 hue testを行った。統計解析には、条件を要因とする一元配
黄色蛍光)LED、緑色に白熱灯、紫にRGB蛍光紫外光LEDのそれ
検定を行った。
■まとめ
■結果
たが、特異な欠点は認められなかった。白熱灯は色相全体で色差
置の反復測定分散分析を用い、主効果が現れたものに対し対比
近点距離、フリッカー値、脳波、心拍変動、POMS疲労因子のタ
スク前後の変化量を照明条件間で比較したが、条件の主効果は
ぞれに特有な色弁別の欠損が見られる。
照明用LEDを従来の光源と、疲労、色の見えの観点から比較し
弁別が困難であり、また照明によって色差弁別が困難な色相に
偏りがあるため、実際の利用の際には考慮が必要である。