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The IPSN Quarterly No.20, Winter 2015
The IPSN Quarterly
東京都千代田区丸の内 1-7-12 サピアタワー 10F Tel: 03-5288-5401
知的財産戦略ネットワーク株式会社ニュースレター
巻頭言
2015 年冬号(第 20 号)
日本医療研究開発機構に期待すること
知的財産戦略ネットワーク㈱(IPSN) 代表取締役社長 秋元 浩
今春、いよいよ日本医療研究開発機構(AME
D)が発足する。オールジャパン体制の下、医療分
野の研究開発を基礎から実用化まで一貫して推
進し、医薬品創出や再生医療の実現化を目指す。
AMEDには、その実現のために、「グローバル知
財人財の育成・確保」および「グローバルに戦える
真の知的財産戦略の構築」を期待したい。
(次ページへ続く)
目次:
巻頭言 日本医療研究開発機構に期待すること
知的財産戦略ネットワーク㈱(IPSN) 代表取締役社長
1
秋元 浩
寄稿
医療イノベーション創出に向けてネットワークの果たす役割
東京医科歯科大学 研究・産学連携推進機構 教授・産学連携研究センター長
医学系大学産学連携ネットワーク協議会(medU-net) 事務局長
飯田 香緒里
寄稿
創薬の新しい潮流⑩
知的財産戦略ネットワーク㈱(IPSN)
長井 省三
東京都「インキュベーョン HUB 推進プロジェクト事業」 活動状況
INFORMATION
4
7
9
10
1
The IPSN Quarterly No.20, Winter 2015
(前ページから続き)
●はじめに
とに、10~15年を見据えたうえで、国家戦略とし
2015年4月、日本医療研究開発機構(以下、
て一元的に計画を遂行・フォローできる体制を構
「AMED」)が誕生する。AMEDは、医療分野の
築すべきである。各省の研究開発を集約するAM
研究開発を総合的に推進する司令塔として位置
EDにおいて、人財育成についても、一元的な中
づけられ、これまで文部科学省、厚生労働省、経
長期計画に基づき、世界で実践的に戦える人財
済産業省がバラバラに実施してきた研究開発プロ
の育成ができるような仕組みを構築してもらいた
グラムを集約し、基礎から実用化までの切れ目な
い。
い支援を一体的に行うべく、医療分野の研究開発
及びその環境整備の実施・助成等の業務を行うこ
とを目的とする。
また、これからの10年間を無駄にしないために
も、当面、真の優秀なグローバル人財が不足して
いる機関・組織(特にアカデミア、ベンチャー、中小
創薬実現に向けたオールジャパン体制が整い
企業など)では、世界で戦っている産業界との連携
つつあるこの機会に、創薬ビジネスの経験者や創
或いは活用により中長期計画に社内担当者の育
薬回りのライセンス実務に習熟した人財の不足、あ
成と確保を図る仕組みを考えるべきである。人財
るいは事業戦略に沿った知財戦略の不備などによ
育成にリソースを充分に割けない機関・組織は、専
り有望技術の事業化を阻害することのなきよう、「グ
門的な外部機関によるアウトソースの活用を促進
ローバル知財人財の育成・確保」および「グローバ
するような仕組みを検討すべきである。
ルに戦える真の知的財産戦略の構築」について真
剣に取り組んでいただきたい。
さらに、中長期的なグローバル知財人財の育成
計画と共に、喫緊の課題として外国人も含めたグロ
●グローバル知財人財の育成・確保
創薬ビジネスを世界に伍して活発化させるため
には、技術の発掘・選定、創薬ベンチャー創生、
ーバル知財人財を如何にグローバルな基準で確
保するかという社会システムの構築についても同
時に注力すべきである。
ベンチャーから製薬企業への技術移転までの各
プロセスにおいて、それらを担う各機関・組織の中
●グローバルに戦える真の知的財産戦略の構築
に、技術・知財・事業化を一気通貫で理解し、事業
創薬プロセスでは、研究初期段階から事業化に
戦略と知財戦略を立ててグローバルな観点から実
至るまで、事業戦略に沿ったグローバルな知財戦
践できる人財が必要不可欠となる。しかし、我が国
略の構築を最優先に考えなければならない。医薬
にはそのようなマルチ人財が決定的に不足してお
品のメイン市場は欧米であり、また近年はアジアで
り、我が国の優れた研究成果や要素技術の事業
事業展開を活発化させる製薬企業が増加している
化への道を大きく阻む要因の1つになっている。
ことから、グローバル化を前提にした知財戦略を構
築する必要がある。しかしながら、現実には一部の
人財育成のような国家百年の大計に係わる重要
グローバル製薬企業を除いて、わが国の多くの企
課題は、担当責任者が1~2年で変わる関係省庁
業、ベンチャー・大学等の知財部門やTLOは依然
にバラバラに任せるのではなく、国民的な合意のも
として日本での権利化に意識が集中しており、グロ
2
The IPSN Quarterly No.20, Winter 2015
ーバルな事業展開を視野に入れた知財戦略が欠
戦略を含めた事業化支援」を中心に、国内研究拠
如しているのが、ややもすると現状ではないであろ
点に埋もれた新規技術の発掘・選定から、事業戦
うか。
略と知財戦略、ベンチャー創生あるいは事業化な
どの各支援を行っている。
また、医薬品は、少数の特許で独占的に保護さ
れ、巨額の富を生む可能性をもっていることから、
●さいごに:スピード感をもって
他者参入を阻止するために、基本特許とともに周
世界のライフサイエンスをめぐる国際競争は熾
辺特許を押さえておくことも十二分に配慮しなけれ
烈を極めている。特に、近年、新興諸国の台頭が
ばならない。もっとも、知財戦略の構築も結局は
目立っており、たとえば中国では、「第12次5ヵ年
「人財」の英知によって生み出されるものであるか
計画」の戦略的振興産業(全7産業)として、「バイ
ら、人財育成・確保が課題となるが、そのような人
オ産業」を指定し、さらに重大特定プロジェクトとし
財が組織内にいない場合には、前述の通り、専門
て「新薬開発」を指定している。また、韓国では、2
的な外部機関によるアウトソースを上手く活用して
016年までに世界7位のバイオ大国になる目標を
グローバルな視点で事業化を見据えた高品質の
掲げており、サムスンなどもライフサイエンス分野に
知財戦略を立てていく必要がある。
大きく舵を切っておいる(「主要国の研究開発戦略
(2013年)」、科学技術振興機構研究開発戦略セ
知財戦略は事業戦略と表裏一体であり、知財戦
ンター参照)。インドあるいはブラジル等も参入して
略がないということは、10年先の事業戦略がない、
きている。いずれの国も国家戦略としてライフサイ
あるいは見えていないということに他ならない。海
エンスに力を入れており、人工衛星並みのスピー
外での知財取得は手間も費用もかかるが、世の中
ドで諸外国が動いている中で、いくら今までの蓄
の流れを見ながら、10年~20年先を見据えて事
積・財産があるといっても、自動車・新幹線並みの
業戦略の幅をグローバルに広げていく必要があ
スピードで動いている我が国は早く手を打たないと、
る。
これら諸外国の後塵を拝することは目に見えてい
る。
AMEDが進める医療分野の施策においても、
将来を見据えた事業戦略・知財戦略を盛り込んだ
過去の反省の上に立って、10年ワンサイクル程
研究開発の環境整備を実施したうえで助成を行う
度の一貫したオールジャパン体制で、予算や人事
べきであろう。
の決定権を現場の責任者に移譲し、本当に危機
感をもって、まずできることからスピーディにかつ確
●IPSNの活動
グローバル知財人財の育成・確保および真の知
実に創薬支援のための環境整備に向けて取り組
んで行って欲しい。(了)
的財産戦略の構築について、IPSNでは、大学の
産学連携担当者のOJT研修や知財コンサルティン
グなどを通じて日々取り組んでいる。
加えて、昨年8月に始まった東京都「インキュベ
ーションHUB推進プロジェクト事業」の「IPSN・三
井不動産ライフサイエンス支援連合」を通じた活動
においても、東京都、公的研究機関及び業界団体
等と連携しながら、「人財の育成・確保」及び「知財
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The IPSN Quarterly No.20, Winter 2015
寄稿
医療イノベーション創出に向けてネットワークの果たす役割
~医学系大学産学連携ネットワーク協議会(medU-net)の今後の展望~
東京医科歯科大学 研究・産学連携推進機構 教授・産学連携研究センター長
医学系大学産学連携ネットワーク協議会(medU-net) 事務局長
飯田 香緒里(いいだ かおり)
ここ数年、我が国の科学技術関連政策は、医療を戦略産業と位置付けた、世界最先端の医薬品、医療
機器、医療サービスの創出を目指す具体的な政策が次々と打ち出されている。2015年4月には「日本医
療研究開発機構」が発足する。これまで文部科学省・厚生労働省・経済産業省が個別に支援をおこなって
きた医療分野の基礎研究、臨床研究、実用化研究開発は、同機構により横断的にサポートされることとなり、
研究成果を創出し、育成し、実用化まで導くための本格的な体制構築になるとの期待が大きい。これら動
きは、産学連携によるイノベーション創出体制が政策的に推進され、従来以上に産学官が共通目標の下
で恊働する必然性、機運が高まっていると言い換えることができる。その一方で、2003 年以降約 10 年続い
た、文部科学省や経済産業省等による大学の知的財産・産学連携活動体制整備に対する支援は 2013 年
3 月末をもって大幅に減少した。以降、各大学等は、改めて産学連携活動を大学の活動の中でどう位置づ
けるか、その必要性、組織の在り方を考え直す時期をむかえている。
医学系産学連携活動を推進するために設立された、医学系大学産学連携ネットワーク協議会(以下
「medU-net」という)も、設立からまもなく5年をむかえようとしている。時勢に従い、medU-net の活動も段階
的に変貌してきている。本稿では、medU-net の活動状況を紹介し、今後のネットワークとしての在り方、展
望を述べていく。
1.medU-net の活動状況について
(1)medU-net の構成(会員制度)
medU-net は、2010 年 6 月、文部科学省イノ
ベーションシステム整備事業大学等産学官連
人材が活動に参加している。正式に活動に参画
する法人会員としては28機関、北海道から九
州の24の国公私立の大学及び研究所、行政、
民間企業が参画している。
携自立化促進プログラム(東京医科歯科大学)
の一環で活動を開始した。同プログラムが終了
(2)
活動内容
した2013年4月以降は、自立的な活動を開
medU-net では、我が国の医学系産学連携機
始し法人会員制度(有料)を導入し、法人会員
能の標準化・高度化に向けた各種リソースの共
を核にネットワーク運営を行なっている。2014
有、ネットワーク体制を活かした意見集約に基
年1月 1 日現在における会員数は、個人会員に
づく政策提言を核に活動を展開している。以下
ついては 159 機関に渡る 296 名、学及び公的研
個別に紹介していく。
究機関のいわゆるアカデミア関係者、産業界と
しては製薬企業、医療機器メーカー、医療業種
a)
リソースの共有
に新規参入を狙う多様な業種の企業の人材が
medU-net に参加するアカデミア会員は、前
登録されている他、行政関係者や業界団体の関
述した通り、地域は広域に分布し、機関の性質
係者等、多種多様なバックグラウンドを有する
も大学・研究所、国立・公立・私立、総合大学・
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The IPSN Quarterly No.20, Winter 2015
単科大学と多種多様である。そのため、課題や
② 教育の場の共有
苦悩も多岐にわたる。しかしながら、それら課
産学連携、知財に関する研修は数多く存在す
題については、機関毎に内容やレベルの差はあ
る。しかし、医学系産学連携実務を磨く場、特
れど、人材不足や実務者スキルや経験の不足、
化したセミナーは少ない。そこで、medU-net
企業へのアプローチの場の不足によるところ
は、医学系産学連携契約の対応力を強化するた
が大きい。そこで、medU-net は、課題解決、
めの「産学連携契約セミナー(講師:弁護士)」
、
産学連携支援機能の標準化を達成するために、
文系出身者のための「産学連携実務者のための
各種リソースを共有化する仕組みを形成した。
バイオ入門講座(講師:製薬企業出身者)
」、厚
① 経験の共有
生労働省及び独立行政法人医薬品医療機器総
各機関が取扱に苦慮する医学産学連携特有
合機構(PMDA)の協力を得て実施している「ア
の具体的事例を持ち寄り、当該事例を題材に解
カデミア発医薬品・医療機器のためのレギュラ
決方法を検証し共有する場(ケーススタディワ
トリーサイエンスセミナー(5回シリーズ、講
ーキング)を定期的に開催している。過去に実
師:厚生労働省・PMDA)」を提供している。
施したテーマとしては、
「知的財産管理」
「薬事
これらセミナーには毎年200名近い受講生
と臨床研究」
「有償マテリアルトランスファー」
が参加している。
「産学共同研究による発明の取り扱いについ
③ 発信の場の共有
て」「ライセンス交渉」等のテーマで開催され
大学発の研究成果を発表する場として、技術
ている。当初は、産学連携実務のボトムアップ
イベントは首都圏又は大きな都市では頻繁に
を目的に、経験の少ない機関が、先進的な機関
開催されている。しかし、医学系技術移転は特
の取り組みをヒントとして持ち帰る場として
殊であることや、規模の小さい医科大学や地方
活用することを主眼とした。取り上げられる課
の大学ではこういったイベントへの単独出展
題も常に進化し、昨今は社会的課題に即した内
は敷居が高いこともあり、効果も限定的である。
容や、行政が特に注力している医師主導臨床研
そこで、medU-net として、国際イベントに共
究を支援するための方策として、「医学研究利
同出展する方式を確立した。出展ブースやプレ
益相反マネジメント」や「研究とレギュラトリ
ゼンテーションの時間帯を集約すること、産業
ーサイエンス」など医学系産学連携における解
ニーズを意識した発表スタイル、テーマについ
決困難な複雑な課題がテーマの中心になって
て或る程度一致させるという戦略を図ること
きている。
で、アプローチする企業に対し発信力を高める
また、単なるアカデミア実務者間の情報共有
という相乗効果を狙っている。具体的には、
の枠から踏み出し、医療系産学連携を推進する
2011 年より BioJapan への共同出展を行ってい
ための効率的な方法論や制度を提言・運営する
て、共同出展する機関は年々増加し、毎年 10
動きも始まっている。具体的には、不毛なライ
〜15機関程度が本枠組みによる出展に参加
センス交渉を避けるために、産業界の関係者と
している。今後海外での展示会、国内医療機器
行政関係者で協力して作成した『ライセンス契
や医療サービス関連の展示会等にも共同出展
約の考え方・各条項の考え方』
(平成 24 年度発
することを企画している。
行)や、限られた人員で徹底した知財管理を行
④ 情報の共有
なう方策を提言する『知財管理ワーキンググル
産学連携に関する新たな制度や政策(予算
ープ活動報告』
(平成 25 年度発行)
)は、法曹
含)、企業が発信する産学連携ニーズ情報、各
界、行政、産業界と合同で作成にあたった。
種セミナーの開催情報などは日々刻々と変化
する。その中で医学系に特化した情報にアプロ
5
The IPSN Quarterly No.20, Winter 2015
ーチすることは、容易いことではない。そこで、
構築が求められる。このことは、従来以上に高
会員向けにメールマガジンの配信、ホームペー
度専門スキルが求められると言い換えること
ジの充実を図り情報発信が行なわれている。メ
ができる。また、社会環境、技術革新、産業競
ーリングリストでは、情報取得のみならず、法
争の変化等で、産学連携の在り方は日々変化し
人会員による各種のイベントや公募情報の提
ている。革新的なイノベーションに向けて、医
供ができるという、双方向型の広報手段として
工連携、医食農連携等の異業種連携も増えてい
好評をえている。特に、最近では、産業界から
る。そうした動きに、医療系産学連携業務は従
はライセンスニーズや共同研究ニーズ、行政か
来以上に複雑化し、産学連携手法の多様性、産
らは新たな公募情報や法改正情報の発信ニー
学連携業務の専門性が求められることが予測
ズ、アカデミアからは求人情報等も発信されて
される。
いる。学会や団体からも情報発信の要請は増加
medU-net は、設立から 5 年間の活動を通し
しており、医学系産学連携情報拠点として定ま
て、会員制度の充実化により深まってきたアカ
ってきているといえる。
デミアネットワークの団結力の下、アカデミア
の医学系産学連携業務機能の強化、ボトムアッ
b)意見集約・分析検討・政策提言
プは進んだ。次のステージは、我が国発医療イ
医学系産学連携の推進は、実務スキルの強化
ノベーション創出に必要な本格的な産学連携
のみでは解決できない恒久的な課題というも
活動を誘因する仕掛け作り含め、医療産業の成
のも存在する。そこで、medU-net は文部科学
長の一助となるべく産業界とアカデミアとの
省、経済産業省、特許庁、厚生労働省、内閣府、
架け橋・ハブとしての立場を確実にすることを
製薬工業協会等業界団体における関係部署の
目指している。既に、企業法人会員含む、製薬
管理職や専門の弁護士等との定期的な意見交
企業十数社と medU-net は合同で、医療系産学
換を重ね、アカデミアの現状を踏まえた政策提
共同研究を創出する新たな方法論の検討を行
言を目指している。集約された意見は、政府の
なっており、2015 年度から新しい制度もスタ
審議会やパブリックコメント(実績:知的財産
ートできる見込みである。
推進計画 2013、知的財産推進計画 2014、産業
今後 medU-net は、産業界及び業界団体とア
構造審議会知的財産小委員会:職務発明制度見
カデミア、行政の恊働体制確立に向けた活動を
直し
強化を図るため、従来以上に医学系産学連携活
等)、学会発表の場(日本知財学会、レ
ギュラトリーサイエンス学会、産学連携学会、
動に関わる多く機関に、多方面からご参加頂く
日本分子生物学会等)で、発信を行なっている。
こと、ご指導頂くことを強く期待している。(了)
2.medU-net のこれから:今後の展望
冒頭で述べた通り、医学系産学連携は、昨今
ご略歴:
基礎研究の知見を臨床研究の場で実証するト
2005 年
東京医科歯科大学知的財産本部
ランスレーショナル・リサーチの推進が強調さ
2008 年
同大学特任助教
れるようになり、新たなフェーズに入ったとも
2010 年
同大学特任講師
いわれている。橋渡し研究では、技術移転が臨
2011 年
同大学 研究・産学連携推進機構
准教授
床研究遂行に直結することため、最適なビジネ
スモデルの策定として、臨床研究の安全性及び
健全性下で、戦略的な資金や特許の獲得、ベン
チャー等企業への橋渡し、開発アライアンスの
6
2013 年
現職
入職
産学連携研究センター長
The IPSN Quarterly No.20, Winter 2015
寄稿
創薬の新しい潮流⑩
知的財産戦略ネットワーク㈱(IPSN)
長井 省三
文芸春秋本年2月号に鳥取大学医学部教授浦上克哉先生を奥野修司氏がインタビューした記事が掲
載されました。その内容は極めて衝撃的でした。現在まで病気を治療するツールとして考えられていなかっ
た「香り」で病気を治療することに効果がある可能性があることが示されています。しかも、その対象が、現
在まで治療薬が存在しない「アルツハイマー型認知症」の治療薬です。これは正に創薬の新しい潮流と思
いますので紹介します。
認知症の治療には大きく分けて「薬物療法」と
型認知症は神経変性疾患と言う分類に入る疾患
「非薬物療法」があります。「薬物療法」とは、アリセ
ですが、この疾患は進行の順番が決まっていて、
プトやレミニール、メマリーと言った薬を使う治療法
先ず鼻の奥の「嗅神経」から障害され、その次に海
ですが、あくまで進行を遅らす対症療法にすぎま
馬が障害されるのです。病理学的にも「嗅神経」の
せん。現在、治療薬に関して多くの研究者、企業
「アミロイドβ蛋白」が溜り易いと報告されてから、
が研究していますが、現時点ではその成果が挙が
今ではアルツハイマーの研究者であれば、このこと
っているとは言えません。また、「非薬物療法」とは、
は常識になっています。
学習療法、回想法(過去の思い出を語り合う)、音
楽療法、アートセラピー(絵を描く)、アニマルセラ
「嗅神経」は脳に直結している神経です。通常、
ピー(動物と触れ合う)といったもので、暴言、暴力、
脳の神経は頭蓋骨に守られていますが、唯一「嗅
妄想と言った周辺症状の改善に効果があるとされ
神経」だけは外界に接しています。その為危険な
ていますが、認知症が治るわけではありません。一
物質(例えばPM2.5など)に触れて障害を受けや
旦認知症になると、現在の治療法では根本的に治
すいと思われます。神経細胞は再生能が低いのに
すことは出来ません。
「嗅神経」だけは例外的に高いのです。
アルツハイマー型の原因物質である「アミロイド
そこで、「嗅神経」が壊れ始める段階で、効果的
β蛋白」は、実は正常な人でも常に生産されてい
に刺激して活性化できれば、「嗅神経」が再生され
ます。その役割は不明ですが、最近の研究から、
て認知機能を回復できるのではないかと考えまし
健康な人は睡眠中に分解されることが分かってき
た。
ました。即ち、質の良い睡眠が取れないと「アミロイ
ドβ蛋白」の分解が悪くなって少しずつたまって行
しかし、効果的に刺激する方法がなかなか見つ
き、認知症のリスク要因になる可能性が高いと言う
かりませんでした。当時、「嗅神経」を電気刺激して
ことです。
脳の嗅覚野を調べる嗅覚誘発電位という技術が開
発されました。この技術で患者の「嗅神経」を刺激
認知症の症状として嫌な匂いが感じられないこ
すると臭いが良くわかるようになった患者が相次ぎ
とがあります。これは嫌な匂いを感じる「臭神経」が
ました。そこで、電気の刺激で「嗅神経」を活性化
障害されているからです。そして、アルツハイマー
できるのではないかと考え、実際に試みてみると確
7
The IPSN Quarterly No.20, Winter 2015
かに効果がありました。ところが、この方法はかなり
マー型には知的機能の改善が認められ、最も効果
不快の様で、再度やりたいという人は現れません
があったのは軽度~中等度の患者でした。現在は
でした。
MCIの患者にアロマオイルを使った三年間の臨床
データを集計しているところです。一般的にMCI
悪戦苦闘する中で出会ったのがアロマでした。
から三年経過すると認知症になると言われている
フランスでは二百年近く前からアロマオイルを使う
のに、三年後も認知機能をMCIレベルで維持でき
ことは常識でしたが、日本でそういった発想はなく、
ている患者もいます。
メディカルアロマセラピーの考えが入ってきたのは、
今から十年ほど前です。半信半疑で試したところ
昼用のアロマに使われるロ-ズマリーには三種
意外なほど効果がありました。文献から数種類に
類あり、効果があるのはその中のカンファー(ケトン
絞り込んで臨床試験をすると、最も効果的だった
類)という種類です。ローズマリー・カンファーには
のがローズマリー・カンファーで二番目はレモンで
神経毒性があるためこれまでリラクゼーションでは
した。一番と二番を足したら相乗効果得られるので
使われてきませんでしたが、神経毒性があるからこ
はないかと考え実験してみると効果がありました。
そ、神経に効果があると考えています。アロマはオ
現在はローズマリー・カンファーとレモンを混合した
ーガニックで栽培されたエッセンシャルオイル(精
ものを推奨しています。このアロマの目的は、弱っ
油)100%のもので、昼用はローズマリー・カンファ
た「嗅神経」を活性化して回復させることです。この
ーとレモンを二対一に、夜用は真正ラベンダーとス
組み合わせは昼用で、夜用には真正ラベンダーと
イートオレンジを二対一に配合します。使い方は、
スイートオレンジの組み合わせを推奨しています。
昼用は朝九時から十一時の二時間が効果的で、
これは疲れた神経を癒して良い睡眠を取るための
夜用は寝る一時間前から香りを拡散させてそのま
ものです。若い人なら昼夜逆転してもリズム(体内
ま就寝します。ただし、高血圧の人は医師に相談
時計によってコントロールされた生活活動のリズム)
してください。
は直ぐに元に戻りますが、高齢者は睡眠障害を起
早期発見こそ、認知症治療の根幹です。「早期
こしやすく認知症のリスク原因になります。良い睡
発見は早期絶望、本人を絶望の淵に追い込んで
眠をとることで、「アミロイドβ蛋白」を溜まりにくくす
何の意味があるか」と言われる人がいますが、これ
るのが夜用アロマです。
は大きな間違いです。認知症をMCIの段階で発
見し、早くから良い薬を使って、適切なアドバイス
アロマセラピーは、薬ではないとして「非薬物療
法」でひとくくりされてしまいがちですが、「回想法」
をすれば、その人のQOLを十年間維持することも
十分可能です。
など他の「非薬物療法」は間接的な効果(周辺症
状を改善すること)を目的としているのに対し、アロ
浦上先生の研究に賛同されたグル-プホーム
マは中核症状へダイレクトに働く点で一線を画すと
「陽だまりの家 ことうら」【鳥取県琴浦町】では、レ
考えています。実は、アロマを使って効果的なのは、
ビー小体型にも効果があったそうです。レビー小
認知症がある程度進んだ患者よりも、認知症予備
体型のデータ持っていませんが、レビー小体型も
軍といられる軽度認知障害(MCI)の患者です。既
アルツハイマー型と同じように「嗅神経」から障害さ
に認知症になった人にも効果がありますが、積極
れることが最近の研究からわかっていますので、理
的に薦めているのは、MCIの患者です。
論的にはアルツハイマー型と同じ効果があっても
実際、GBSスケール(認知症の知的機能などを
評価するスケール)を使って、介護老人保健施設
でMCIの患者にアロマを試してみると、アルツハイ
8
おかしくないと考えています。(了)
The IPSN Quarterly No.20, Winter 2015
東京都「インキュベーョン HUB 推進プロジェクト事業
活動状況
知的財産ネットワーク株式会社(IPSN)を代表事業者として、三井不動産株式会社を連携事業
者とする「IPSN・三井不動産ライフサイエン支援連合」は、昨年8月より、東京都の「インキュ
ベーション HUB 推進プロジェクト事業」に参加し、「ライフサイエンス・健康産業分野における
インキュベーションHUB」において、アカデミア、ベンチャー等に対して、知的財産(知財)の
サポートを中心に据え、東京都におけるライフサイエンスベンチャーの起業、及び育成の支援活動
を進めております。
具体的な活動と致しましては、下記の支援に取組んでおります。
① 新規技術の事業戦略・知財戦略・研究開発戦略についての支援
② ベンチャー経営者を含めた、幅広い人材の育成・交流の企画
③ グローバルな知財戦略展開のための資金調達の支援
この半年の活動を通じて、「当該連合体」としては、ベンチャーの中に一層浸透を図ることが、
ベンチャー支援の効果を高めることに繋がると考えております。その方法は、ライフサイエンス
ベンチャーに関連するセミナー等を開催し、関連する多くのベンチャーを会場に呼込み、IPSN の
活動をアピールすることで、ベンチャーとのネットワークの増強を図ることを目的としておりま
す。
今年度中には、2月23日に、ベンチャー事業に強いネットワークを持つ、トーマツベンチャ
ーサポート株式会社との共催カンファレンスとして、「ライフサイエンベンチャーの抱える問題
と打開策」をテーマに、ライフサイエンスベンチャー3社(オルソリバース㈱、㈱バイオメッド
コア、㈱スリー・ディー・マトリックス)のプレゼンテーションと弊社社長秋元浩を構成メンバ
ーとしてパネルディスカッションを行いました。ライフサイエンスベンチャーの現状と今後の方
向を知るよい機会になりました。参加された多くのベンチャーとのネットワークの形成に繋がる
ものと考えております。
また、3月10日には、会員に多くのベンチャーを抱えているバイオインダストリー協会(JBA)
と共催で、フランンスのキャビネ・プラスロー特許事務所による「欧州のライフサイエンス特許
における近年の展開:創薬及び食品を中心として」のタイトルでセミナーを開催致します。
更に、3月20日の IPSN 講演会でも、東京都、医薬基盤研究所、がん研究会、アステラス製薬
のご協力の下、「医学系アカデミアの研究開発と知財はどう変わるのか
~日本医療研究開発機
構がもたらす未来」なるテーマでご講演を賜り、JBA とも連携して、従来の対象者である産学官に
加え、ライフサイエンスベンチャーにも広くお声掛けすることを予定しております。
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The IPSN Quarterly No.20, Winter 2015
Information
■第11回IPSN講演会を開催します。
今回のテーマは、「医学系アカデミアの研究開発と知財はどう変わるのか ~日本医療研究開発機構が
もたらす未来」です。演者に米田悦啓様(医薬基盤研究所理事長)、野田哲生様(がん研究会常務理事)
及び野木森雅郁様(アステラス製薬会長)をお迎えし、IPSNからは秋元浩(代表取締役社長)が登壇し
ます。また、講演会冒頭には、IPSNが昨年8月から手掛けている東京都「インキュベーョンHUB推進プロ
ジェクト事業」について、東京都産業労働局商工部(創業支援課)技術連携担当課長内田聡様よりご紹介
いただきます。
ご参加希望の方は弊社までお問い合わせ下さい。皆様のご参加をお待ちしています。
日時: 2015年3月20日(金) 13:30~18:00 (交流会含む)
場所:東京ステーションコンファレンス 503(サピアタワー5階/東京都千代田区)
■BIO tech 2015に出展します。
5月13日(水)から15日(金)まで、東京ビックサイトにおいて開催される「BIO tech 2015」に出展します。
知財コンサルティング・マッチング相談などを承ります。
開催展名: BIO tech 2015 - 第14回 国際バイオテクノロジー展 –ウェブサイト:http://www.bio-t.jp/
会 期: 2015年5月13日[水]~15日[金]
会 場: 東京ビッグサイト http://www.bigsight.jp/
■主な活動報告(2014 年 12 月~2015 年 2 月)
 12月19日 第20回優先会員向けゼロ次情報提供
 1月13日 第19回賛助会員向けノンコン情報提供
 2月23日 トーマツベンチャーサポート㈱と共催「ライフサイエンベンチャーの抱える問題と打開策」
カンファレンス開催
■寄稿のお願い
IPSNでは、皆様から産官学連携推進、先端技術分野の知財を巡る問題や課題などの幅広いご意見、
論文をお寄せいただき、かかる問題を考える場として本ニュースの紙面を活用しています。
ご意見、論文がございましたら弊社までお寄せください。
編集後記
新しく始まりました東京都の「インキュベーショ
ン HUB 推進プロジェクト事業」も順調に進んでお
り、今回、わずかではありますが、その活動を報告
することができたことは何よりです。
(高橋良男)
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本書の内容を無断で複写・転載することを禁じます。
2015 年 2 月発行 The IPSN Quarterly (第 20 号・冬)
〒100-0005 千代田区丸の内 1-7-12 サピアタワー10 階
電話:03-5288-5401 ファクシミリ:03-3215-1103
URL: http://www.ipsn.co.jp/
Email: [email protected]