2010 年京都ナボコフ国際大会報告 会長 三浦笙子

2010 年京都ナボコフ国際大会報告
会長
三浦笙子
去る3月 24 日夕方から、ホテルコープ・イン京都にて「2010 年京都ナボコ
フ国際大会」が開催され、27 日に無事終了しましたことをご報告いたします。
この大会を開くことが決議されたころ、実は不安でした。国際ナボコフ学会で
は日本ナボコフ協会はほぼ認識されていない上に、会員には国際学会を開催し
た経験は少なく、世界的な不況の中で海外からの来日は困難が予想されました。
果たしてこの大事を成し遂げられるのか、大会準備委員会の誰もが疑問を持っ
て当然のことでした。
しかし、昨年1月に NABOKV-L のリストに掲載した Call for Papers には予
想以上の申し込みがあり、果敢にも挑戦した日本人研究者も多く、もしやこれ
ならできるかもと、希望の光が見えてきました。毎月若島先生の研究室で『ア
ーダ』読書会の前に開かれた準備委員会のほかにも、アブストラクトの編集、
ホテルとの交渉、発表者や参加者とのメールのやりとり、会場の準備など、忙
しい日々が続きました。また、沼野先生と若島先生のご尽力で日本国際交流基
金の助成金が授与され、ようやく実現可能な大会になりました。
24 日のオープニング・レセプションでは富士川先生に見事な開会のスピーチ
をしていただきました。実質二日と半日の間に繰り広げられた大会のテーマは
“Revising Nabokov Revising”。大会のアドバイザーをお願いしたブライア
ン・ボイド氏の名案です。アメリカ、ロシア、フランス、イギリス、ニュージ
ーランド、カナダ、フィンランド、日本と、まさしく世界中から 25 名の発表者、
全体で 50 名以上の参加者が集まりました。日本からは8名の日本ナボコフ協会
会員が発表しました。使用言語はロシア語と英語でしたが、予算の都合で同時
通訳はなく、発表者も視聴者も言語力を酷使した日々でした。しかし、予想以
上に非常に優れた発表が多く、質疑応答も活発で熱心な議論が続きました。日
本勢の若手研究者からも興味深い質問が度々出たことをうれしく思いました。
さらに貴重だったのは 25 日のモーリス・クーチュリエ氏による『ロリータ』翻
訳の問題点と可能性について、26 日のブライアン・ボイド氏によるナボコフ文
学における心理学的研究の可能性についてのプレナリー・スピーチでした。両
者とも研究発表の領域を超えて、ナボコフ研究の将来を切り開く刺激的な内容
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でした。一方、コーヒーブレーク中のリラックスした談話、夕食を共にした人々
との楽しい語らいが緊張を程よく解いてくれました。心配していたお花見も鴨
川沿いでみごとな夜桜を堪能でき、その美しさに海外からの参加者から溜息が
漏れました。
27 日の大会終了後、40 名近く集まり、バスと徒歩で哲学の道、詩仙堂、銀
閣寺を回り、バンケット会場の白沙村荘の庭園を眺めながら橋本関雪画伯の美
し い 旧 邸 で 会 席 料 理 に 舌 鼓 を 打 ち ま し た 。 大 会 の 最 後 を 飾 っ た の は The
Magician’s Doubts の著者マイケル・ウッド氏の『セバスチャン・ナイトの真
実の生涯』についてのエレガントなキーノート・スピーチでした。
いまではすべてが夢ではなかったかと思うほど充実し、興奮に包まれた大会
でした。帰国した参加者の方々からうれしいお褒めの言葉をいただいています。
また、国際ナボコフ学会会長のエリザベス・スウィーニーさんから発表論文の
アブストラクト集が NABOKV-L に掲載され、『アーダ』読書会のページを
NABOKV-L にリンクしたいとのご提案がありました。日本ナボコフ協会が国際
舞台に大きい一歩を踏み出したように感じます。
大会での発表原稿はプロシーディングスに集めて6月末に出版する予定です。
刊行後、会員割引でも販売をいたします。また、この大会での発表原稿の一部
を論集にして出版するという提案を研究社からいただいて、検討中です。NSJ
会員の発表者の皆様にこれからご連絡があるかと思いますので、よろしくお願
いいたします。これからもこの大会がよい結果を多くもたらしてくれることを
祈っています。
見落としたことも多々あることと思いますが、この国際大会が成功を納めた
とすれば、それはひとえに若島先生と中田先生の熱意と懸命なご努力、そして
沼野先生のロシア人研究者へのご支援のお陰です。心からお礼申し上げます。
また、この大会の会計を始終担当して下さった京都大学の森慎一郎先生にも深
く感謝いたします。受付やバスガイドなどを引き受けてくださった大学院生の
皆様、ありがとうございました。そして日本人発表者 8 名の素晴らしいご発表
に惜しみない拍手を送りたいと思います。
(国際学会の模様は、次の写真アルバムのページでご覧いただけます。
http://picasaweb.google.com/112098904635946285793/TheInternationalNaboko
vConferenceInKyoto2010#)
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