( No 1 ) コロイド Colloid ある媒質に、微粒子や分子が分散している状態を、コロイド状態という。粒子 が小さいので、重力の影響をほとんどうけず、粒子はいつまでも均一に分散して いる。 コロイド状態 固体、液体、気体のどれもが、媒質および分散粒子としてコロイド状態を生ずる ことが可能であるが、媒質と分散粒子がともに気体であるコロイド状態は知られ ていない。媒質が気体のエーロゾルというコロイド状態には、分散粒子が固体の タバコの煙や、分散粒子が液体の霧がある。 乳 濁 液 (エ マ ル シ ョ ン )は 、 液 体 中 に ほ か の 液 体 が 分 散 し て い る コ ロ イ ド 状 態 で 、 水中に小さな油滴が分散している例が、マヨネーズである。サスペンション、つ まり懸濁液とよばれるゾルは、液体中に固体が分散しているコロイド状態で、油 性の媒質中に固体の色素粒子が分散しているペンキがその例である。ゲルはゾル のひとつの状態で、分散粒子が緩やかではあるが、安定な 3 次元空間構造をもっ てならび、流動性はないが弾力性をもっている。ゼリーがその例である。 コロイド状態で分散粒子が均一に分散しつづけるのは、媒質分子がたえず分散粒 子に不規則に衝突しているため、つまりブラウン運動によっている。逆にいえば 分 散 粒 子 は そ の く ら い に 小 さ い と い え る 。 し か し 、 高 速 遠 心 分 離 機 (→ 遠 心 分 離 機 )な ど に よ っ て 、 ひ じ ょ う に 大 き な 重 力 を か け る と 、 コ ロ イ ド 状 態 が こ わ れ て 分 散粒子を沈殿させることができる。 コロイドの調製 工 業 的 に 液 体 を 媒 質 と し た コ ロ イ ド を 調 製 す る に は 、分 散 粒 子 が 固 体 の 場 合 に は 、 粉砕機で徹底的に小さくしたり、液体の場合には、両液体を乳化機ではげしくま ぜあわせる。コロイド状態をたもつために乳化剤として湿潤剤をくわえることも ある。液状のコロイド粒子に直流電圧をかけると、プラスに荷電した粒子は陰極 へ 、 マ イ ナ ス に 荷 電 し た 粒 子 は 陽 極 へ 移 動 す る 。 こ の 現 象 を 電 気 泳 動 と い う 。 1937 年にスウェーデンの生化学者ティセリウスが開発した電気泳動装置は、タンパク 質や血清の研究、血清の異常をひきおこす病気の診断、その原因追求に使用され ている。 透過性 コロイド粒子は、ふつうのろ紙を通過してしまうが、透析膜のような半透膜のき わめて小さな穴は通過できない。これはコロイド粒子の大きさのためである。ろ 紙を通過してしまうコロイド粒子は、ろ紙をもちいたろ過では精製できない。そ のため、コロイド粒子の精製には透析法がもちいられる。つまり、コロイド液を 半透膜の袋にいれ、これを純粋な水の中におく。コロイド液中にとけている小さ な不純物も、半透膜をどんどん通過するわけではないが、時間をかければ徐々に 半透膜の穴を通過して拡散してゆく。しかし、コロイド粒子はその中にとじこめ られたままのこり、精製できる。透析をじゅうぶんにおこなうとコロイド状態が やぶれてコロイド粒子が沈殿してくることがしばしばおこる。これはコロイド状 態として安定しているためには、電解質の存在によってコロイド粒子の電荷が特 定の状況にある必要があること、つまり、個々のコロイド粒子自体の電荷がその 安定性に一役かっている場合があることをしめしている。 観察 個々のコロイド粒子は小さすぎて、ふつうの顕微鏡ではみることができないが、 暗視野顕微鏡の一種である限外顕微鏡をつかえば観察できる。コロイド液をこの 顕微鏡下において片側から光束をあてると、コロイド粒子からの光散乱によって 光 が 通 過 す る 部 分 に あ る 粒 子 が ひ か っ て み え る 。 こ れ は 、 く ら い 部 屋 の 隙 間 (す き ま )か ら 光 線 が は い っ て き た と き 、 光 の と お る 部 分 が か が や き 、 ほ こ り な ど が み え る現象と同じで、顕微鏡をつかって高い倍率で反射してくる光をみていることに なる。このようなコロイド粒子の観察によって、粒子がブラウン運動によって不 規則にうごいており、うごく速さも粒子の大きさに依存していることがしめされ ている。電子顕微鏡をもちいれば、コロイド粒子を直接観察することができる。 ブラウン運動 Brownian Motion 液体や気体に分散している微粒子がたえずつづけている気まぐれな運動。この現 象 は 、 1827 年 に イ ギ リ ス の 植 物 学 者 ブ ラ ウ ン に よ っ て 、 花 粉 の 研 究 中 に 発 見 さ れ た。しかし、ブラウン運動は有機物の微粒子ばかりでなく、無機物の微粒子にも みられた。これは、流体の分子が固有の運動をしているために、分散している微 粒子に無秩序なかたちで衝突するためである。衝突の衝撃をうけて、粒子も無秩 序 に 運 動 す る 。 1905 年 に ア イ ン シ ュ タ イ ン が こ の 現 象 に 数 学 的 な 説 明 を く わ え 、 気体運動論に統合した。アボガドロ定数の値のもっとも初期の推定値は、フラン スの科学者ジャン・バプチスト・ペランによって、ブラウン運動の定量的研究か らえられた。 エマルション Emulsion 乳濁液ともいい、水と油のようにたがいに溶解しない 2 種類以上の液体の混合物 で 、一 方 が 他 方 の 中 に 微 粒 子 に な っ て 分 散 し て い る コ ロ イ ド の こ と 。牛 乳 ( → 乳 ) 、 クリーム、バター、石油乳剤などはひとつの例である。エマルションという言葉 は 、 も と も と 乳 を し ぼ る と い う 意 味 の ラ テ ン 語 emulgere の 過 去 分 詞 emulsus に 由 来 する。家庭用の塗料としてつかわれるエマルション塗料は、酢酸ビニルなどを乳 化させた中に顔料を分散させた塗料。コンクリートやモルタル面などの塗装に適 し て い る 。酢 酸 ビ ニ ル 系 、ス チ レ ン ブ タ ジ エ ン 系 、ア ク リ ル 系 な ど の 種 類 が あ り 、 アクリル樹脂系は、屋外塗装にも適する。 エマルションの生成 水 と 油 の よ う に た が い に ま ざ り あ わ な い 液 体 を 接 触 さ せ 、は げ し く か き ま ぜ て も 、 や が て 分 離 し て し ま う 。 安 定 し た エ マ ル シ ョ ン を つ く る た め に 、 界 面 活 性 剤 (乳 化 剤 )が も ち い ら れ る こ と が 多 い 。界 面 活 性 剤 は 油 と 水 の 界 面 で は た ら く 界 面 張 力 ( → 表 面 張 力 )を 低 下 さ せ 、 水 と 油 の ど ち ら と も な じ む 微 細 な 液 滴 を 生 成 し 、 長 く 同 じ状態にたもつ働きをする。また、エマルションの生成のためには、通常、ミキ サーで攪拌したり、超音波などで外部から機械的振動をくわえる。 エマルションの種類 エ マ ル シ ョ ン に は 、 水 の 中 に 油 が 微 粒 子 状 に 分 散 す る 油 — 水 エ マ ル シ ョ ン ( o/w 型 エ マ ル シ ョ ン )と 、 そ の 逆 の 水 — 油 エ マ ル シ ョ ン ( w/o 型 エ マ ル シ ョ ン )の 2 種 類 が あ る 。 o/w 型 の エ マ ル シ ョ ン は 水 で 希 釈 で き 、 水 溶 性 の 染 料 で 着 色 で き て 、 電 気 伝 導 性 が 高 い も の が 多 い 。 w/o 型 は 油 や 有 機 溶 剤 で 希 釈 で き 、 油 溶 性 染 料 で 着 色 可 能 で、電気伝導性は低いものがほとんどである。 乳化剤によってエマルションをつくったときは、乳化剤の性質によってエマルシ ョンの型が決定されることが多い。 懸濁液 Suspension 泥水のように、液体中に土の微粒子が分散している状態で、サスペンションと もいう。これは液体や気体の中に固体の微細粒子が連続して分散した状態で、お も に 固 体 粒 子 の 大 き さ が 肉 眼 か 光 学 顕 微 鏡 ( → 顕 微 鏡 )で み え る も の を い う 。 顕 微 鏡 で も み え な い が 、 ふ つ う の 分 子 サ イ ズ よ り 大 き い コ ロ イ ド 粒 子 ( 100nm (ナ ノ メ ー ト ル : 10 億 分 の 1m )以 下 程 度 )か ら な る も の は 懸 濁 質 と よ ば れ る が 、 広 義 に は 同 一 のものとされる。これに対し、油が水中に分散したような液体と液体の系は、エ マ ル シ ョ ン (乳 濁 液 )と い わ れ る 。 懸 濁 液 中 の 粒 子 は 水 と な じ ま な い も の が 多 く 、 長時間放置したり電解質をくわえると容易に凝集して沈殿するが、短時間では比 較的安定性をたもっている。一般に固体粒子が微細なほど凝集しにくい。凝集を ふせぐには、たとえば墨汁は炭素の微粒子が水中に分散したものだが、これに安 定 剤 で あ る 膠 (に か わ )を く わ え る と 粒 子 の 分 散 が 安 定 す る 。 写 真 フ ィ ル ム の 乳 剤 は、臭化銀のコロイド粒子をゼラチンで安定化させたものである。 コロジオン Collodion 微黄色のシロップ状の溶液で、ピロキシリンともよばれる硝化度の低いニトロ セ ル ロ ー ス (窒 素 含 有 率 10.5 ~ 12.2% ) 4g を エ ー テ ル 75 ミ リ リ ッ ト ル と エ タ ノ ー ル 25 ミ リ リ ッ ト ル の 混 合 液 に と か し 100 ミ リ リ ッ ト ル に し た も の 。 水 に と け ず 、 引 火 性 (引 火 点 -17.7 ° C )の 有 機 物 質 で あ る 。 コ ロ ジ オ ン の 語 源 は ギ リ シ ャ 語 の kolla (に か わ )に 由 来 し て お り 、 同 系 の 単 語 で あ る コ ロ イ ド 、コ ラ ー ゲ ン ( → タ ン パ ク 質 )な ど も「 に か わ 」の 意 味 か ら 発 し て い る 。 皮膚にぬるとエーテルとアルコールが蒸発して可燃性のコロジオン膜という半透 膜 が の こ る 。 皮 膜 は 、 局 所 を 保 護 す る ほ か に 殺 菌 の 効 果 も あ り 、 水 絆 創 膏 (ば ん そ う こ う )な ど の 商 品 名 で 爪 (つ め )や 皮 膚 の 保 護 に つ か わ れ る 。 そ の ほ か に は 浸 透 圧 測定用の膜、透析膜、あるいは写真感光膜、リトグラフィーにもつかわれる。 コ ロジオン膜は溶剤が完全に蒸発してしまうと亀裂ができやすいが、少量のヒマシ 油 ( 3% )か さ ら に カ ン フ ル ( 2% )を く わ え て 、 コ ロ ジ オ ン 膜 に 弾 力 性 を も た せ て 、 亀 裂 を ふ せ ぐ 。 特 殊 引 火 物 に 指 定 さ れ て お り 、 密 封 容 器 に い れ て 30 ° C 以 下 で 火 気をさけて保存する。 牛乳 完 全 食 品 と も い わ れ る ほ ど 多 く の 栄 養 素 ( → 栄 養 )を ふ く ん で い る 。 牛 乳 100g 中 の 成 分 は だ い た い 、 水 分 88g 、 タ ン パ ク 質 2.9g 、 脂 質 3.2g 、 炭 水 化 物 ・ 糖 質 4.5g 、 カ ル シ ウ ム 100mg 、 リ ン 90mg 、 ビ タ ミ ン A110IU 、 ビ タ ミ ン B20.15mg な ど を ふくむ。タンパク質はカゼインが主成分で、カルシウムやリンとむすびついてコ ロイド状になっている。また、人間の血液と組織をつくる必須アミノ酸がすべて ふくまれている。脂肪はタンパク質の膜でおおわれて乳化しているので消化され やすい。糖質のほとんどは乳糖で、ほのかな甘みを感じる。カルシウムは、カゼ イ ン と 結 合 し て い る た め 吸 収 さ れ や す い 。 牛 乳 の カ ル シ ウ ム 吸 収 率 は 40% 程 度 で 、 小 魚 の 33% 程 度 、 野 菜 の 19% 程 度 と く ら べ て も 高 く 、 カ ル シ ウ ム 不 足 を 解 消 す る にはありがたい食品である。 金 ( No 2 ) けんだくえき 金 は 、 海 水 中 に も 、 ご く わ ず か に ふ く ま れ る 。 と け て い る 金 は 0.000004ppm と い わ れ 、 海 洋 全 体 で は 、 550 万 t に 達 す る と 推 定 さ れ る が 、 濃 度 が 極 端 に 小 さ い た め、採取は困難である。海水からの金採取にかかる費用は、採取された金の価格 を大きく上まわることになろう。 銀 鏡の製造では、銀を蒸着させたり、硝酸銀溶液を塗布するなどして、ガラス の 表 面 に 銀 膜 を つ く る ( → 銀 鏡 反 応 )。 最 近 で は 、 ア ル ミ ニ ウ ム が 銀 の か わ り に ひ ろく利用されている。また、電気部品の接点や電池につかわれる。銀コロイド、 硝酸銀の希薄溶液は殺菌剤となる。銀とタンパク質の化合物アルジロルは、目、 耳、鼻、のどの消毒薬である。 グレアム Thomas Graham 1805 ~ 69 イ ギ リ ス の 化 学 者 。 気 体 と 液 体 の 拡 散 の研究をおこない、コロイド化学の創設者として有名。スコットランドのグラス ゴ ー に 生 ま れ 、 エ デ ィ ン バ ラ 大 学 お よ び グ ラ ス ゴ ー 大 学 に ま な ん だ 。 1837 年 か ら ロ ン ド ン 大 学 の ユ ニ バ ー シ テ ィ ・ カ レ ッ ジ の 化 学 教 授 と な り 、 55 年 か ら は 王 立 造 幣 局 の 長 官 を つ と め た 。 1831 年 に 気 体 の 拡 散 速 度 が 気 体 密 度 の 平 方 根 に 逆 比 例 す るというグレアムの法則を発表した。この法則は気体の分子量の測定と混合気体 の分離に利用される。さらに溶液中の分子の拡散を研究し、拡散性の結晶性物質 をクリスタロイド、非拡散性の非結晶性物質をコロイドと定義・命名し、溶液か らコロイドを分離する透析法を考案した。 オストワルト Wilhelm Ostwald 1853 ~ 1932 ド イ ツ の 物 理 化 学 者 。 ラ ト ビ ア の リ ガ に 生 ま れ 、 ド ル パ ト 大 学 に ま な ん だ 。 1881 年 に リ ガ 工 業 大 学 の 教 授 、 1887 ~ 1906 年 、 ド イ ツ の ラ イ プ ツ ィ ヒ 大 学 で 物 理 化 学 教 授 と 化 学 研 究 所 長 を つ と め た 。 近代物理化学の創設者のひとりで、有機酸の電気伝導と電離に関する重要な研究 をふくめて、とくに電気化学の分野で大きな業績をのこした。いまでも溶液の粘 度 を 測 定 す る の に つ か わ れ て い る 粘 度 計 を 発 明 し 、 1900 年 に は 、 ア ン モ ニ ア の 酸 化によって硝酸をえるオストワルト法を発見。第 1 次世界大戦中、ドイツが連合 国の封鎖により硝酸塩の供給がとめられたとき、この方法をもちいて爆薬を製造 し た 。 オ ス ト ワ ル ト 法 は 現 在 も つ か わ れ て い る 。 1909 年 、 ノ ー ベ ル 化 学 賞 を う け た 。 著 書 に 「 一 般 化 学 教 科 書 」「 一 般 化 学 綱 要 」「 分 析 化 学 の 科 学 的 基 礎 」 な ど が ある。息子のウォルフガングも著名な科学者で、コロイド化学の創設者として知 られている。 ジグモンディ Richard Adolf Zsigmondy 1865 ~ 1929 オ ー ス ト リ ア 生 ま れ の ド イ ツ の 化 学 者 。 1925 年 、 コ ロ イ ド の 研 究 に 対 し て 、 ノ ー ベ ル 化 学 賞 が 授 与 さ れ た 。 ウ ィ ー ン に 生 ま れ 、 1890 年 に ミ ュ ン ヘ ン 大 学 で 有 機 化 学 の 博 士 号 を 取 得 。 グ ラーツの工業大学で化学工学をおしえ、ついで、イエナのガラス工業会社で着色 ガラスや乳濁ガラスの研究に従事した。のちにゲッティンゲン大学の無機化学教 授に就任した。 ガラス工業会社につとめるうちに色ガラスに関心をもった。色ガラスは独特の色 とコロイド粒子による不透明さをもつ。その粒子は肉眼ではみえないので、ジグ モンディは暗い視野を照明で明るくした超微細顕微鏡を発明し、粒子を観察でき るようにした。これは限外顕微鏡とよばれ、空中にまっているほこりが光を散乱 させてかがやいてみえるのと同じ原理を利用している。 研究の多くは金のコロイ ド溶液に関するもので、溶液にさまざまの塩をくわえるとコロイドの色が変化す ること、また、ゼラチンやアラビアゴムを保護剤としてくわえると色の変化を防 止できることをしめした。限外顕微鏡による観察で、色の変化はコロイド粒子が 凝集して大きさが変化することが原因であり、保護剤はこのような凝集をさまた げることによって、色の変化をふせぐことを明らかにした。 ( No 3 ) ゲルとゾル Gel and Sol ゾ ル も ゲ ル も 液 体 に 分 散 し て い る コ ロ イ ド の 状 態 を し めし、ゾルは液体に近く、ゲルは固体に近いものをいう。 ゾルというのは、水などの溶 媒の中で固体や液体の粒子が 自由に運動できるように分散 している状態をいう。ゲルと いうのは分散させていた水な どがなくなって、粒子が凝縮 し運動できなくなった状態で ある。ニューガラスの製造な どでは、ケイ素やほかの金属 の有機化合物を溶媒に分散さ せてゾルからゲルをつくる。 ゾ ル Sol コ ロ イ ド 溶 液 と も い い 、 本 来 は 液 体 (分 散 媒 と い う )の 中 で コ ロ イ ド 粒 子 (分 散 質 と も い い 、 直 径 が 1 万 分 の 1mm 程 度 の 微 粒 子 )が 自 由 に 運 動 で き る 状 態 をゾルという。分散媒が水の場合には、とくにヒドロゾルといい、有機溶媒の場 合にはオルガノゾルという。この概念が拡張されて、気体の中に液体や固体の微 粒子が分散して浮遊している状態をエーロゾルという。ゾルというのはドイツ語 の発音で、英語ではソルと発音する。ゾルを生成させる方法には、分散法と凝縮 法の 2 つの方法がある。分散法は、大きな粒子を電気的、化学的、機械的などの 方法によって微粒子にして液体に分散させる方法で、凝縮法は、イオンや分子の 状態になっている分散質を適当な大きさの粒子になるように凝縮させる。 ゲ ル Gel ゾ ル で コ ロ イ ド 溶 液 中 に 分 散 し て い る 粒 子 が 、 運 動 性 を う し な っ て 固 化した状態をゲルという。ゾルで分散しているコロイド粒子にはたがいにひきつ けあう力が作用しているが、コロイド粒子の濃度が高い状態で、適当な刺激がく わえられると、コロイド粒子が強くひきつけあって 3 次元の網目や蜂の巣のよう な構造になる。そうすると外見はゼリー状や固体になる。ゾルがゲルに変化する ことをゲル化という。ペクチンを使用してつくられるゼリーは、典型的なゲルで ある。テングサを原料につくられる寒天もゲルのひとつで、医薬品、食品の原料 などに広くつかわれるほか、細菌を培養する寒天培地にもつかわれる。 シリカゲル 煎 餅 な ど の 包 装 に 乾 燥 剤 と し て は い っ て い る シ リ カ ゲ ル SiO2 ・ nH2O は 、 水 ガ ラ ス (ケ イ 酸 )を 中 和 し て ゲ ル 化 し 水 分 子 を 除 去 し た も の で あ る 。 ゲ ル と し て の 構 造 を とっているかぎり、水分子が少ないほど水蒸気をはじめ大量の気体を吸着する作 用がある。食品用だけでなく、石炭ガスからベンゼンをとりだしたり、天然ガス から分子量の小さい炭化水素をとりだすのに利用する。 吸着剤としての働き:シリカゲルは水やその他の分子を吸着する力が強く、乾燥剤 や脱色剤につかう。ゲルとしての構造をもっているかぎり、よく脱水されている ものほど、吸着力が大きい。熱に強いので、水分を吸着して吸着力をうしなった ものを再度加熱して利用できる。市販のシリカゲルが吸湿量によって青から赤に 変色するのは、混入してある塩化コバルトによるものである。冷水にわずかだが とけ、熱水にはやや多くとける。コロイドをつくりやすい。アルカリにかなりよ くとけ、塩酸、硫酸、硝酸にとけない。熱するか、無水エタノール、濃硫酸など の脱水剤にふれると脱水される。 原形質 Protoplasm かつて、細胞の中の生命の基礎をになう「生きた物質」と考えられ、それをさし て つ か わ れ た 言 葉 。原 形 質 は 、コ ロ イ ド 性 の 複 雑 な 構 造 を も っ た 物 質 が ふ く ま れ 、 細胞核や細胞質、色素体、ミトコンドリアをかたちづくっている。今では原形質 という言葉は、細胞質という言葉にほとんどとってかわられているが、細胞質に は 細 胞 核 は ふ く ま れ な い 。 ま た 有 形 成 分 は 、 オ ル ガ ネ ラ (細 胞 小 器 官 )と よ ば れ 、 それ以外の無構造部分を一括して細胞ゾルという。 天然ゴム パ ラ ゴ ム ノ キ な ど の 植 物 に ふ く ま れ る ラ テ ッ ク ス に は 、 直 径 0.05 ~ 2µm (マ イ ク ロ メ ー ト ル : 100 万 分 の 1m )ほ ど の ゴ ム の 粒 子 が コ ロ イ ド と し て 分 散 し て い る 。 ラ テ ッ ク ス の 供 給 源 と し て 商 業 的 に も っ と も 重 要 な 植 物 は 、ト ウ ダ イ グ サ 科 の パ ラ ゴ ム ノ キ で 、 高 さ 約 30m の 高 木 で あ る 。 も と も と は ブ ラ ジ ル 原 産 の 植 物 だ っ た が 、 現 在 で は マ レ ー 半島やスリランカ、インドネシアのゴム園で、大規模に栽培されている。天然ゴムの 全 生 産 量 の う ち 、 約 90% は パ ラ ゴ ム ノ キ の ラ テ ッ ク ス に よ る も の で あ る 。 パラゴムノキ以外の植物では、アカテツ科のグッタペルカや、バラタからラテッ クスを採取することができる。これらの植物のラテックスは、ゴルフボールの外 皮などの原料として、わずかに利用されている。そのほかメキシコ産のキク科低 木、グアユールや、中央アジア、カザフスタン地方原産のゴムタンポポが、ラテ ックスをふくむ植物として知られている。第 2 次世界大戦中アジアからの原料が はいりにくくなったため、アメリカでは、天然ゴムの不足をおぎなうためにグア ユールとゴムタンポポの栽培がおこなわれた。 電気泳動 Electrophoresis 液体中に分散された固体粒子や油粒子は帯電しているので,電界を与えられると移動 する。この現象を電気泳動という。粒子はその帯電電荷に応じて陰極または陽極に移 動 し , ま た 粒 子 の 大 き さ や 形 状 に よ っ て 泳 動 速 度 (移 動 度 )も 異 な る の で , こ れ を 利 用 し て 精 製 ・分 離 や 分 析 を 行 う こ と が で き る 。 電気泳動の具体例:気体や液体中で帯電した粒子が、電極をいれると発生した電 界によって移動をする。たとえば、ゴムの微粒子が液体中で乳濁しているゴムの ラテックスでは、ゴム粒子はイオンの吸着によって帯電しやすくなっている。 こ のラテックスの中に 1 対の電極をいれると、ゴム粒子は自分のおびている電気と は逆の電極にむかって移動する。 このとき電極に人間の手などの形状をもたせて おくと、移動してきたゴム粒子がこれをおおうように付着するので、手術用のゴ ム 手 袋 な ど を つ く る こ と が で き る 。 自 動 車 の 塗 装 ( 電 着 : 水 溶 性 樹 脂 (ア ク リ ル 樹 脂 な ど )に 顔 料 を 混 じ た 塗 料 を 15 % 以 下 の 濃 度 で コ ロ イ ド 粒 子 と し て 水 中 に 分 散 さ せ , 被 塗 物 と 塗 料 槽 の 間 に 40 ~ 270V の 直 流 電 圧 を 与 え る と , コ ロ イ ド 粒 子 は 被 塗 物 に 向 かって電気泳動し,ここに達すると電荷を失って,被塗物表面に連続して被膜を形成 す る 。 こ の よ う な 原 理 に 基 づ く 電 着 を 泳 動 電 着 と い う 。) に も 同 様 の 方 法 が も ち い ら れ て い る 。 ま た 、 集 塵 機 (し ゅ う じ ん き )に も 電 気 泳 動 が 利 用 さ れ 、 電 極 に よ っ て ちりの粒子をあつめ、空気を浄化する。 限 外 顕 微 鏡 (暗視野顕微鏡) この装置では、照明先の直進先が対物レンズにはいらないようにし、側方からのみ光が あたるようにしている。こうすることで、物体からの散乱光だけをとらえ、その結果、暗い 背景の中に明るくうかびあがる微小な物体の観察が可能になり、ふつうの顕微鏡照明 では見ることができない微小な物体も見えるようになる。 ( No 4 ) 【コロイド】 均 質 な 媒 質 中 に 直 径 1 ~ 500nm ( 10 - 6 ~ 5 × 10 - 4mm )程 度 の 微 粒 子 あ る い は 巨 こに多くの光り輝く粒子が不規則なブラウン運動をしているのを見いだした。こ 大 分 子 が 分 散 し て い る 状 態 (コ ロ イ ド 状 態 )に あ る 系 を コ ロ イ ド あ る い は コ ロ イ ド れはコロイド系が不均一な分散系であることを直接に証明するものであり,この 分 散 系 と い う 。 コ ロ イ ド と は ギ リ シ ア 語 の に か わ (膠 )を 意 味 す る kolla に 由 来 す る 装 置 は 限 外 顕 微 鏡 と し て 完 成 さ れ た 。 A. ア イ ン シ ュ タ イ ン や M.von ス モ ル コ フ ス 名 称 で , 膠 質 (こ う し つ )と も い う 。 こ の 大 き さ の 粒 子 (あ る い は 分 子 )は 普 通 の 光 キ ー の ブ ラ ウ ン 運 動 の 理 論 に 基 づ い て , J. B. ペ ラ ン ( 1909 )は 粗 大 粒 子 の ブ ラ ウ ン 学顕微鏡では見えず,また普通のろ紙を通り,見たところ通常の均一溶液と同じ で あ る が , 1 粒 子 当 り 103 ~ 109 個 の 原 子 を 含 ん で い て , 103 個 以 下 の 原 子 か ら 成 運 動 の 解 析 か ら 分 子 の 実 在 性 を 示 し た が , 同 じ こ ろ T. ス ベ ド ベ リ は 限 外 顕 微 鏡 を る低分子が分散溶解している溶液とは異なる特徴的な性質を示すことが知られて よるコロイド粒子の大きさの決定法を開発した。 いる。コロイドは,大きく粒子コロイド,分子コロイド,会合コロイドの三つに 【コロイドの種類】 分類することができる。 金や銀のコロイドなど多くの無機物のコロイドは少量の電解質の添加により凝集 【コロイドの概念と特徴】 し 沈 殿 す る 。 こ れ を 凝 結 と い う 。 凝 結 し や す い コ ロ イ ド を 疎 水 コ ロ イ ド hydrophobic コ ロ イ ド の 概 念 は 1861 年 イ ギ リ ス の 化 学 者 T. グ レ ア ム に よ り 初 め て 提 唱 さ れ た 。 colloid , あ る い は 一 般 的 に 疎 液 コ ロ イ ド lyophobic colloid と い う 。 疎 水 コ ロ イ ド は 多 彼 は 種 々 の 物 質 の 拡 散 の 現 象 を 研 究 し , あ る 種 の 物 質 (硫 酸 マ グ ネ シ ウ ム , 砂 糖 な く微細な結晶質あるいは非晶質の粒子が分散した系で,このように微細ではある ど )は 速 い 拡 散 速 度 を も つ の に 対 し , 別 の 物 質 (ゼ ラ チ ン , ア ル ブ ミ ン な ど )の 移 動 が独立した一つの相をつくる粒子が分散したコロイド系を粒子コロイドという。 速度は非常に遅いことを知り,前者がたやすく結晶として取り出すことができる 粒子コロイドが安定に存在する要因は粒子表面の電荷である。 のに対し,後者はそうでないことから,一般に物質は 2 種に分類できると考え, がコロイドの一種であることはかなり以前から知られていたが,アメリカのマク 前 者 に ク リ ス タ ロ イ ド crystalloid , 後 者 に コ ロ イ ド と い う 名 前 を 与 え た 。 そ し て 半 ベ イ ン J. W. McBain ( 1913 )は こ れ が セ ッ ケ ン 分 子 の 会 合 に よ る と 考 え , そ の 会 合 体 透膜を用いる透析によりクリスタロイドは容易に透析されるのに対し,コロイド をミセルと呼んだ。界面活性剤分子が水溶液中でコロイド次元の会合体を形成す は半透膜を通らないことから,両者を容易に分離できることを示した。グレアム ることは,その後多くの研究により明らかにされ,これらは会合コロイドと呼ば の提案は基本的に重要な意味をもつものであったが,この分類は必ずしも適切で れる。デンプンやタンパク質など高分子物質は巨大分子からなるので,媒質中に ないことがすぐに明らかになった。すなわち多くのコロイド,たとえばアルブミ 分散して分子コロイドをつくる。これも初めミセル構造をもつ会合コロイドと考 ンなどのタンパク質は結晶化され,一方ほとんどすべてのクリスタロイドはまた えられたが,X コロイドとすることができることが,実験事実として示された。これによりグレ で あ る こ と が , 30 年 こ ろ ま で に 明 ら か に さ れ た 。 巨 大 分 子 あ る い は 高 分 子 の 概 念 アムのいうコロイドは物質固有の性質を示すものではなく,物質がある大きさの はコロイド粒子の構造解明の過程で生まれたともいえるのである。親水性高分子 微 粒 子 に 分 散 し た と き の 状 態 を 示 す も の で あ る こ と が 明 ら か と な り , F. W. オ ス ト が水中に分散したコロイドは非常に安定で,少量の電解質の添加によって凝結す ワ ル ト ( 1909 )は 分 散 度 の 概 念 を 導 入 し て 分 散 系 を 表 1 の よ う に 分 類 し た 。 こ の よ る こ と な く , 親 水 コ ロ イ ド hydrophile colloid , あ る い は 一 般 に 親 液 コ ロ イ ド lyophilic うにしてコロイドの概念は,初めグレアムが提案した物質そのものの分類として colloid と 呼 ば れ る 。 ではなく,物質のある分散状態を示すものとして確立されることとなった。 [ 粒 子 コ ロ イ ド particular colloid ] コ 用 い て コ ロ イ ド 粒 子 の ブ ラ ウ ン 運 動 を 解 析 し た 。 彼 は そ の 後 1924 年 に 超 遠 心 法 に セッケンの溶液 線回折などの実験や化学結合理論の発展によって,実は巨大分子 ロイド系が共通してもつ最も重要な性質は,分散粒子が非常に大きな表面積をも つ と い う こ と で あ る 。 1 辺 が 1cm の 立 方 体 は 6cm2 の 表 面 積 を も つ が , こ れ を コ ロ 分 散 コ ロ イ ド dispersion colloid と も い う 。 粒 子 コ ロ イ ド は 媒 質 と 粒 子 の 少 な く と も イ ド の 典 型 的 な 大 き さ で あ る 1 辺 が 10 - 6cm の 立 方 体 に 分 割 す る と 全 表 面 積 は 6 × 106cm2 に 増 え る 。 こ の よ う な 微 細 な 粒 子 が 分 散 し て い る コ ロ イ ド 系 は 分 散 粒 子 すような種々の型ができる。粒子コロイドをつくるには,大きい粒子を細分して と媒質との広い界面をもち,この界面の物理化学的性質がコロイド系の性質を強 凝縮法が用いられる。凝縮法としては,溶媒組成を変えたり温度を下げることに く支配する。コロイド系における界面の重要性を初めて指摘したのはドイツのフ より溶解度を下げてコロイド粒子を析出させる方法,あるいは化学反応により生 ロ イ ン ト リ ヒ H. M. F. Freundlich ( 1907 )で あ り , そ れ 以 来 コ ロ イ ド の 化 学 は 界 面 の 成した物質を成長させる方法がある。コロイドの研究に広く用いられてきた金コ コ ロ イ ド 粒 子 の 構 造 は 1930 年 こ ろ ま で に し だ い に 明 ら ロ イ ド は , テ ト ラ ク ロ ロ 金 ( III )酸 HAuCl4 水 溶 液 を 沸 騰 さ せ な が ら ホ ル ム ア ル デ 化学とともに発達した。 か に さ れ た 。 コ ロ イ ド 粒 子 の 存 在 が 初 め て 実 験 的 に 確 定 し た の は , R. シグモンデ 二つの相をもち,それぞれの相は気体,液体,固体の場合があるので,表 2 に示 コ ロ イ ド 粒 子 と す る 分 散 法 (機 械 的 ・電 気 的 ・化 学 的 分 散 , 超 音 波 分 散 ), あ る い は ヒ ド で 還 元 す る こ と に よ り つ く ら れ る 。 10 ~ 20nm の粒径をもち,ルビー色を示 ィ に よ る 簡 単 な 実 験 ( 1900 ) に よ っ て で あ る 。 彼 は 金 や 銀 の コ ロ イ ド に 日 光 を 照 射 す。 水中に分散した固体粒子は一般に界面に電荷をもっている。系全体として し,側方からその光束を顕微鏡で観察したところ,そ は電気的中性が保たれるので,粒子界面の周辺には粒子電荷と反対符号のイオン がとりまき界面電気二重層をつくる。界面電気二重層のために,電気泳動,電気 ( No 5 ) 浸透,流動電位,沈降電位などの界面電気現象を示すが,これらの挙動を支配す が比較的高濃度までニュートン粘性を示すのに対し,後者は低濃度でも非ニュー トン性の高粘性を示す。これらの親水性分子コロイドが安定なのは分子表面が強 く水和しているためで,多量の電解質を加え水和水を奪うことによって沈殿させ ることができる。これを塩析という。塩析効果はイオンの水和力の順になり,次 の 系 列 が 知 ら れ て い る 。 陽 イ オ ン :Mg2 + > Ca2 + > Li + > Na + > K + > NH4 + 陰 イ オ ン : ク エ ン 酸 イ オ ン 3 - > SO42 - > Cl - > NO3 - > Br - こ れ を ホ フ マ イ ス るのは粒子界面の真電荷ではなく,粒子と媒質の相対運動が生じるすべり面の電 位 で あ り , こ れ を ゼ ー タ (ζ )電 位 ま た は 界 面 動 電 位 と い う 。 電 気 二 重 層 を も つ 二 つ の 粒 子 が 接 近 す る と , 粒 子 間 に 働 く 普 遍 的 な 力 で あ る フ ァ ン ・デ ル ・ワ ー ル ス 力 のほかに,電気二重層間の相互作用による静電的な反発力が働き,この 2 種の力 のかね合いによって粒子間に働く力がきまる。分散媒の電解質濃度が十分低いと きは静電的反発力が勝ち,粒子は凝集せず安定に存在する。電解質濃度が高くな ると反発力は小さくなり,粒子は凝集してかたまりとなって沈降する。これが凝 結 で あ る 。 凝 結 に 対 し て は シ ュ ル ツ ェ H.Schulze ( 1882 )お よ び ハ ー デ ィ W. B. Hardy ( 1900 )に よ る シ ュ ル ツ ェ = ハ ー デ ィ の 法 則 が 知 ら れ て お り , そ れ に よ る と 凝 結 は 粒 子電荷と反対の電荷をもつイオンの価数により強く支配され,2 価イオンの凝結力 は 1 価 イ オ ン の そ れ よ り 20 ~ 80 倍 大 き く , 3 価 イ オ ン の 凝 結 力 は 2 価 イ オ ン の そ れより数十倍大きい。これらの疎水コロイドの安定性に対する親水性高分子の添 加 効 果 は か な り 複 雑 で あ り , 少 量 の 添 加 で は 凝 結 を 促 進 (増 感 作 用 )す る が , 多 量 の 添 加 で は 凝 結 を 抑 え 安 定 化 (保 護 作 用 )す る 。 こ れ は 粒 子 界 面 へ の 特 異 的 吸 着 に よると考えられ,少量の添加は荷電の部分的遮へいや粒子間の橋架けとして働く が,多量の添加では粒子表面をおおい粒子を親水性とするためである。増感作用 を 示 す も の は 凝 集 剤 と し て , 保 護 作 用 を 示 す も の は 保 護 コ ロ イ ド protective colloid として利用される。古くから保護コロイドとしてアラビアゴム,ゼラチンが有名 であったが,最近ではカルボキシメチルセルロース,ポリビニルアルコールなど も用いられる。 互いに混じり合わない 2 液体の一方を他方に分散させ,安定な エマルジョンをつくるためには乳化剤を加える必要がある。乳化剤分子は親水性 部分と疎水性部分から成り,2 液の界面にあって層状に配列し薄膜をつくる。エマ ルジョンの安定性はこの薄膜の強さとそれがもつ電荷による。水と油のつくるエ マ ル ジ ョ ン に は 二 つ の 型 が あ り , 水 を 連 続 相 と す る 水 中 油 滴 ( O/W ) 型 と , 油 を 連 続 相 と す る 油 中 水 滴 ( W/O ) 型 で あ る 。 牛 乳 は , 脂 肪 滴 が タ ン パ ク 質 の 薄 膜 に よ り 安 定 化 さ れ た O/W 型 エ マ ル ジ ョ ン で あ る 。 放 置 す る と 比 重 の 差 に よ り 脂 肪 滴 が 上 部 に 集 ま り ク リ ー ム を つ く る 。 ク リ ー ム も O/W 型 の 濃 厚 な エ マ ル ジ ョ ン で あ る 。 [ 分 子 コ ロ イ ド molecular colloid ] グリコーゲンやアルブミンなどが水に分散して安定なコロイドをつくることは古 くから知られており,とくにこれらは少量の電解質を加えても凝結せず,水に対 す る 親 和 性 の 強 い こ と か ら 親 水 コ ロ イ ド と 呼 ば れ た 。 30 年 こ ろ H. シュタウディ ン ガ ー ら に よ り 巨 大 分 子 (高 分 子 )の 存 在 が 明 ら か に さ れ , 巨 大 分 子 が 単 独 あ る い は少数個集まって浮遊する分子コロイドの概念が確立された。その後多くの高分 子物質が合成されるようになったが,伝統的に親水性高分子の水溶液がコロイド と し て 取 り 扱 わ れ る こ と が 多 い 。分 子 コ ロ イ ド に は ,グ リ コ ー ゲ ン や ア ル ブ ミ ン , ヘモグロビンのような球形分子コロイドと,デンプン,コラーゲン,フィブリン などの線形分子コロイドがある。分子の形状は力学的性質に強く反映され,前者 ター系列といい,イオンの離液系列と一致する。 分子コロイドとくに線形分子 コロイドに特徴的なことはゼリー状になりやすいことである。これは線状分子が 長い分子鎖のところどころで会合し系全体にわたる網目構造をつくるためで,そ の間隙を水分子がうずめる。ゼラチンや寒天がつくるゼリー状構造が典型的であ り,非常に軟らかいが固体状態をとりゲルと呼ばれる。しかしこの三次元網目構 造をつくる分子鎖の会合はそれほど強くないので,温度が高くなり分子鎖の運動 が激しくなるとほどけて液体状態となる。これをゾルという。外力が加わっても 分子鎖の結合がほどけてゾルとなり,放置すると再びゲルとなる。このようにゾ ル‐ゲルの変換が可逆的に起こり,かつその変換にかなりの時間がかかると,チ キソトロピーなどの複雑な力学的性質を示すようになる。線状高分子を化学的に 架橋し網目状高分子とすると,水で膨潤しゲルとなるが,流動性をもつゾルには ならない。 [ 会 合 コ ロ イ ド association colloid ] ミ セ ル コ ロ イ ド micelle colloid と も い う 。 親 油 性 の 炭 化 水 素 基 と 親 水 性 の カ ル ボ キ シル基,スルホン酸基,硫酸基,アンモニウム基などをあわせもつ分子は界面活 性剤と呼ばれ,その水溶液は低い表面張力をもつ。溶液中である濃度以上になる と , 数 十 個 の 分 子 が 会 合 し ミ セ ル を つ く る 。 こ の 濃 度 を 臨 界 ミ セ ル 濃 度 critical micelle concentration (略 号 CMC )と い う 。ミ セ ル は コ ロ イ ド 次 元 の 大 き さ を も つ の で , 臨界ミセル濃度以上で界面活性剤溶液はコロイド系となり,コロイドに特有の性 質を示すようになる。水中で比較的低濃度では疎水性部分を内側に向け親水性部 分を外に向けて界面活性剤分子が球状に会合した構造をもつ球形ミセルをつくる が,高濃度になるとさまざまな配向状態をとるようになる。ミセルコロイドは水 に 溶 け な い 物 質 を 溶 解 す る こ と が で き る 。こ れ は ミ セ ル の 内 部 に 溶 け こ む た め で , こ れ を 可 溶 化 solubilization と い う 。長 鎖 ア ル コ ー ル な ど 極 性 物 質 を 可 溶 化 さ せ る と , これらの分子はミセルの中に配向して入り,ミセルは全体として膨潤して大きく なり,非極性物質をさらに可溶化させるようになる。このような系をマイクロエ マルジョンという。非極性溶媒中では界面活性剤分子は極性基を内側に,疎水性 基を外に向け会合する。これを逆ミセルという。逆ミセルは水を可溶化すること が で き る 。 可 溶 化 能 の 大 き い 逆 ミ セ ル は 膨 潤 し て W/O 型 の マ イ ク ロ エ マ ル ジ ョ ン をつくる。界面活性剤のつくるミセルコロイドが会合コロイドの典型的なもので あ る が , レ シ チ ン な ど 脂 質 が つ く る ベ シ ク ル (小 胞 )も 会 合 コ ロ イ ド の 一 種 で あ り , 生体系では種々の両親媒性物質がつくる会合コロイドが存在し,重要な働きをし ていると考えられている。
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