遊離アミノ酸および遊離単糖類添加に対する海洋従属栄養細菌群集の

遊離アミノ酸および遊離単糖類添加に対する海洋従属栄養細菌群集の組成変化
大気海洋化学・環境変遷学コース 修士課程 1 年 中谷 理愛
[研究目的・背景]
海洋植物プランクトンは光合成過程で有機物を産生し、海水中に糖やアミノ酸等の溶存有機物(Dissolved
Organic Matter: DOM)を放出する(Nagata, 2000)。この植物プランクトン由来の DOM (以下、DOMp)の一部
は、従属栄養細菌により消費され、微生物ループを介して、海洋の炭素循環および食物網に寄与することが知
られている(Azam et al., 1993)。しかしながら、従属栄養細菌による DOMp の利用性および DOMp が従属栄
養細菌の群集組成に与える効果についての知見は未だ著しく限られている。そこで本研究では DOMp に含ま
れている遊離アミノ酸および遊離単糖類の標準物質を天然沿岸海水に添加し、自由遊泳性従属栄養細菌の群集
構造の変化およびそれら基質利用性を明らかにすることを目的とした。
[方法]
2015 年 7 月 28 日に北海道大学忍路臨界実験所にて、忍路湾内の表面海水を採取した。孔径 0.8 µm のポリ
カーボネート性メンブレンフィルターで海水を重力ろ過し、捕食者を除去した現場海水 100 mL に、孔径 0.22
µm の PVDF 性メンブレンフィルターでろ過滅菌した人工海水 (Price et al., 1989 改変)を 900 mL 加えて 1 L
とし、ポリカーボネートボトルに分注した。ここに有機物 (糖類 3 種: グルコース・キシロース・糖 mix (糖
類 5 種)、アミノ酸 3 種 : アルギニン酸、グルタミン酸、アミノ酸 mix (アミノ酸 17 種))を終濃度 10 µM C と
なるように添加した系、有機物を加えない系 (コントロール) の 7 処理区を用意し、さらに各処理区に対して、
栄養塩 (窒素 1.05µM、リン 0.2µM、ケイ素 6.7µM)を添加した系、添加しない系を作成した (計 14 処理区、
二組)。これらの海水を現場海水温 (23℃) で 6 日間培養した。培養初日に現場海水から光合成色素分析用、植
物プランクトン検鏡用、栄養塩分析用、溶存態・粒子態有機炭素分析用、細菌群集解析用試料を採取し、さら
に、それぞれの処理区から溶存態有機炭素分析用、糖分析用試料を採取した。また、培養期間中、1 日に 1 度、
細菌を DAPI 染色し、蛍光顕微鏡を用いた直接計数法により自由遊泳性細菌の細胞数を計数した。細菌の増殖
が定常期に入った直後、それぞれの処理区から溶存態有機炭素分析用、糖分析用、蛍光 DOM 分析用試料を採
取した。また、残りの海水を孔径 0.22 µm の PES 性メンブレンフィルターを用いてろ過し、細菌群集構造解
析用試料を得た。初期海水中の植物プランクトンの現存量と群集組成は UHPLC (ultra-high performance
liquid chromatography)による色素分析(Suzuki et al. 2015)、従属栄養細菌の群集構造解析は T-RFLP
(terminal-restriction fragment length polymorphism; Culman et al., 2009 ) を用いた。
[結果・今後の予定]
現場水温と塩分は、それぞれ、22.8°C および 32.4 であった。海水中の栄養塩濃度は未だ決定していないが、
クロロフィル a 濃度は約 0.5 µg L-1 であり、珪藻、渦鞭毛藻、クリプト藻由来の色素 (それぞれ、フコキサン
チン、ペリジニン、アロキサンチン)の濃度が相対的に高かった。栄養塩を添加した系における細菌数は、培
養 3 日目で最大となり、アミノ酸添加系は糖類添加系の約 2 倍増殖した。一方、栄養塩を添加しない系での細
菌数はほとんど変化しなかった。また、T-RFLP 解析により、培養実験後の細菌群集構造は、添加したアミノ
酸や糖の種類によって変化することが明らかとなった。今後はさらに次世代シーケンサーを用いて、より詳細
な細菌群集構造解析を行う予定である。また現在は、糖分析ための HPLC の立ち上げを行っている。