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特 集
環境調和型ロジスティクスマネジメントシステム導入マニュアル
《巻頭言》
取り組むべき課題とその方向性
IT物流研究所
長谷川 勇
中小企業診断士・ITコーディネーター 荷に関する定量データ(環境パフォーマンス指標)
マニュアル作成の経緯
2002年15年10月15日に、経済産業省は「環
算出の考え方をまとめた。
環境調和型物流活動の現状
境調和型ロジスティクスマネジメントシステム導入
マニュアル」(以下マニュアル)を公表した。本マ
ニュアルは、通商産業省(現経済産業省)が社団法
JILSの2000年度調査によると、39社の環
人日本ロジスティクスシステム協会(以下JILS)
境報告書の環境調和型物流(包装・輸送・保管・荷
に委託した1999年度の「環境調和型物流システム
役・流通加工などのうち、環境負荷低減に寄与する
構築に関する調査」、2000年度の「環境調和型物
活動)は、輸送(56.1%)、包装(32.8%)と、
流システム標準化に関する調査」、2001年度の
輸送包装だけで88.9%を占めている。
「環境調和型ロジスティクスの普及に関する調査」
にて検討を行い、環境調和型ロジスティクス普及の
ツールとして本マニュアルを作成した。
取組の目的は、インプットの削減(資源使用量・
燃料消費量の削減)が70%、アウトプットの削減
(廃棄物・有害排出物発生量の削減)が30%の比率
であった。
取り組みの特徴としては、コスト削減と環境負
マニュアルのねらいと特徴
荷低減の両立が主流であるが、コスト増加より環境
優先の取組(低公害車導入)や、企業間連携(共同
輸配送、商取引の見直し)、新商品設計段階での環
ねらいと特徴について、次の4点をあげている。
境負荷低減型商品開発などもあげられる。
①ロジスティクス分野の環境マネジメントの取組を
推進するツールとしての活用する。
②経営者から現場担当者まで、容易に活用できるよ
環境調和型物流の体系
うに配慮した。
③環境負荷低減を意識したロジスティクス(以下、
環境調和型ロジスティクス)の135事例をチェ
各社で行われている環境調和型ロジスティクス
ック項目とすることで、現状評価・事後評価を行
を、環境方針と物流方針で体系化すると図表1の様
うことができる。
になる。物流方針は、企業全体としてのより広い範
④環境調和型ロジスティクスの定量データ、環境負
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流通ネットワーキング 2003.9.
囲での環境方針の1分野を形成している。
1343‐5566 / 03/ ¥ 500/ 論文/ JCLS
特集:環境調和型ロジスティクスマネジメントシステム導入マニュアル
図表1 環境調和型ロジスティクスの体系
図表2 チェックリストの分類とチェック項目数
流通ネットワーキング 2003.9.
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●チェックリストの分類とチェック項目数
本マニュアルは、135のチェック項目を設け、
順法精神で公正競争を維持する
環境調和型ロジスティクスの視点から、自社の現状
を評価するツールである。チェック項目の概要と評
価基準は、図表2の通りである。総合評価の評価基
各種の公害防止法やリサイクル法は、環境改善の
準の視点で、環境調和型ロジスティクスを推進する
目的とは別に、公正な競争条件の確保の意味もある。
ことが期待されている。
一部の企業が、従来通り外部不経済を継続し、不正
紙面の都合で135の全てのチェック項目は掲載
競争が生じることのないように、順法精神を堅持で
できないが、詳細は日本ロジスティクスシステム協。
きる仕組みが求められる。外部不経済の内部化の過
会のホームページを参照願いたい。
程を円滑に進めるためには、内部告発者の保護や積
(http://www.logistics.or.jp/)
極的の法令違反を認めた者(企業)に対する刑罰軽
減策などの環境整備が求められる。
環境調和型ロジスティクスは
低コスト物流である
イオン㈱、取引先に対して「取引行動規範」(サ
プライヤー・コード・オブ・コンダクト)を制定し、
法令遵守、違法労働の禁止や環境汚染の防止を求め
ている。企業市民として社会的責任を果すと同時に、
環境対策は、「コスト要因」や「投資要因」のイ
取引先企業間での公正な競争を確保している。
メージが強いのが現状である。昨今のディーゼル車
規制や各種の公害防止法の強化やリサイクル法の施
行は、コスト増加要因となっていることは事実であ
る。しかし視点を変えると、従来は、本来企業や個
全社的な取り組みが環境調和型
ロジスティクスの成功要因
人の自己責任において処理すべき事柄を、外部不経
済として地球環境の悪化に押しつけて、責任を回避
企業内1部門の法令遵守の欠如が、企業崩壊を招
していたに過ぎないことを理解する必要がある。外
く事例を生じている。生活者の、健康志向・安全志
部不経済の内部化によるコスト増加は、本来の姿を
向の新しい展開である。全社的な環境への取り組み
回復する過程に過ぎない。
が必要な所以である。
数世代前までの農村社会は、自然から収穫したモ
外部不経済の内部化の視点から、公正競争の環境
ノは自然に帰し、外部不経済は存在しなかった。工
整備の重要性を指摘したが、企業内部においても同
業社会と都市化の進展で、自己責任において処分す
じことが言える。成果主義導入の風潮は、その運用
べきモノを自然界に放出し、現状の環境破壊に発展
次第で環境調和型ロジスティクス推進の阻害要因に
した。
なる恐れがある。成果主義の評価基準として、売上
図表2のチェック項目と総合評価項目を詳細に検
高や利益額を重視しすぎると、部門間の公正競争を
討すると、環境調和型ロジスティクスへの移行は、
阻害しかねない。内部不経済を内部化した部門は、
物流コスト削減の方策であることが理解できよう。
新たな経費の発生が利益を押し下げ、外部不経済を
大部分のチェック項目は、従来からの物流コスト削
内部化しない部門が高く評価される恐れがある。
減のための項目であることに注目したい。環境調和
企業間の公正競争確保の必要性は、成果主義の視
型ロジスティクスと物流コスト削減は、トレードオ
点から企業内部においても同様であり、全社的な環
フの関係でなく両立するのである。
境調和型ロジスティクスの取り組みが必要になる。
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流通ネットワーキング 2003.9.
特集:環境調和型ロジスティクスマネジメントシステム導入マニュアル
図表3 キリンビール㈱環境保全推進組織
キリンビール㈱の全社的
取り組みの事例
チェックリストを利用して、各部門別に自社の現
状を分析し、環境調和型ロジスティクスの視点から、
自社の現状を認識することが環境意識向上の出発点
と言えるだろう。自社の現状分析は、職場でグルー
全社的な取り組みのあり方として、1998年に全
プ単位に行うことが望ましい。身近な職場に、どの
ビール工場でゼロエミッション(再資源化率
ような環境問題があり、環境負荷低減に何ができる
100%)を達成した、キリンビール㈱環境保全推
かが見えてくる。同時に、外部不経済に疑問を感じ
進組織が参考になる。
ない人々の、意識の転換を促す契機にすることがで
国内ビール事業部門、医薬・アグリバイオ・研究
きる。
開発部門とグループ企業の各々に、環境推進会議を
設置し、各環境推進会議の議長は全て社会環境部長
が担当している。社会環境部長が3部門の議長を担
環境マネジメントシステム導入で
環境意識を定着させる
当することで、キリンビールとしての環境理念・環
境基本方針を、グループ会社を含めて統一的に推進
することが可能になる。
問題意識が芽生えたら、問題意識を全社的に吸い
上げて、企業としての環境方針や環境目標を設定し
マニュアルの導入で環境意識を
向上させる
(Plan)、計画を実行し(Do)、環境保全状況
を監査し(Check)、監査結果を次の計画に反
映させる。企業としてのPDCを実行すると同時に、
各部門でも実行することで、全社的に環境意識を定
マニュアルのチェックリストは、既に発行されて
着させることができる。
いる環境報告書から、環境調和型物流の取り組み事
環境調和型ロジスティクスは、物流の特徴として
例を抽出したものである。したがって、他社では環
企業内の各部門の協力や、仕入先・得意先の協力を
境負荷低減を意識して既に導入している事例であ
得られないと、円滑に実行できない要素が多い。そ
る。チェックリストの項目は、環境調和型ロジステ
れだけに、トップの果す役割が大きい。計画的・継
ィクスのベンチマークと言って過言ではない。
続的な、環境調和型ロジスティクスの導入が必要と
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ティクスは、物流コスト削減と両立することを認識
図表4 環境マネジメントシステム
する必要がある。しかし、物流の特徴として、「モ
ノ」は仕入先⇒当社⇒得意先の様に、企業間を流れ
環境方針・
目的・目標
環境保全状況
点検(内部監査)
ることがあげられる。したがって、環境調和型ロジ
スティクスを実現するには、サプライチエーンを形
成する全ての企業との連携が必要になる。
環境調和型ロジスティクスを共通の切り口にし
て、サプライチエーンを構成する企業との「企業間
連携」を推進する必要がある。企業間連携の共通の
ツールとして、「環境調和型ロジスティクスシステ
ム導入マニュアル」を活用することが現実的である。
される所以である。
マニュアルを共通のツールとして活用することで、
輸送と包装に偏って環境調和型ロジスティクスは、
今後の課題と方向性
さらに巾と深みを増し、「企業間連携」による物流
革新の推進力になることが期待できる。
既に繰り返し説明したとおり、環境調和型ロジス
アメリカ産業廃棄物の静脈物流《長谷川 勇》
★4回目のアメリカ流通業視察★
商業システム研究センター主催のアメリカ流通業視察
は、私にとり今年で4回目の参加である。今年の訪問先
はワシントンDC地区と、ワシントン州シアトル市地区
で、東西両ワシントンである。
★アメリカ流通業の最新動向をさぐる★
訪問先は、卸売業、小売業店舗や物流センターで、半
分位の訪問先では現場責任者のセミナーを受講する。今
年はFMI(Food Marketing Institute、全米食品
協会)も訪問し、本誌連載の「進む米国流通情報システ
ム」で紹介されているGDS(Global Data Synchronization)やRSS(Reduced Space Symbol)の
セミナーを受講した。
★流通業裏街道を歩く★
普通の流通業視察とは異なり、私は店舗の裏側を覗く
ことに努めている。店頭を支える物流が見えてくる。し
かし、リスクを伴う。店舗の裏側をうろつく者は正常な
客ではない。1店舗では、マネジャーの許可を受けてい
るかの問いを受けたが、英語音痴のふりをして退散した。
が、別のスーパーでは、屈強な4人の男に囲まれ、デジ
カメを取り上げられ一部を消去されてしまった。
★静脈物流は効率的、しかし…★
消去を免れた写真の一部を紹介する。廃棄物用のコン
テナーで、店舗の内側から大きな音をたてて、廃棄物が
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流通ネットワーキング 2003.9.
投げ込まれている。外からでも、悪臭が鼻につく。コン
テナーは1種類で、分別収集をしているとは見られない。
ダンボールだけは、別個に包装されていた。宿泊したイ
ンの廃棄物コンテナーは、あらゆる物が投げ込まれ剥き
出しになっていた。
★シアトル市の分別収集★
シアトル市在住の知人に確認したら、市の家庭廃棄物
の分別は、紙類(紙、ダンボール、空き缶、ペットボト
ル等)とガラス類の2種類だけ。粗大ごみ(冷蔵庫、タ
ンス、ベッド等)の回収は6ヶ月に1度、庭木のごみ
(草、枝、木等)は2週間に1度。物流は効率的である
が、環境に問題あり。京都議定書に調印しないアメリカ
の1面である。
●消去を免れた廃棄物用コンテナー