会津いいとこ巡り 茸子一番のお気に入り-只見町叶津番所と幻の露天風呂

会津いいとこ巡り
茸子一番のお気に入り-只見町叶津番所と幻の露天風呂-
只見くびったけの会
茸子(たけこ)
福島県南会津郡只見町に「叶津番所」という築 250 年近い古民家がある。福島県指定の重
要文化財でもあるそのお屋敷に初めて訪れたのは、2009 年の夏のことだった。
私はヨガをかじっていて、私の師匠が開催する叶津番所での半断食合宿に参加を申し込んだ
のだ。ところが埼玉から只見までの遠いことと言ったら!!電車では新幹線を利用して只見
町にたどり着くのに約半日、ダイヤは日に数本しかなく、しかもやたら高くつく。車ではど
うかと調べてみると、なんともすごいくねくねの山道・・・私に運転できるだろうか?しか
も、ネットで番所を検索したら、ほんとに何にもない、うっそうとした草むらと、累々とし
た山をバックにどーんとお屋敷がそびえている。萱にはコケがむしていて、本当にこんなと
ころに泊まれるの??一度行ったら二度と帰れなくなるのではないかしら?と思わせる風
貌だ。
意を決して車で只見に向かう事にした。矢板方面にはゴルフで何度も行っているので慣れた
道だ。問題は西那須塩原で高速を降りてから、只見町までの約 120 キロの山道だ。
いざ!只見へ。牧場の横を通り、塩原温泉峡にさしかかってその景色の美しさにまずびっく
り!川沿いにホテルが張り付くように林立している。そこを抜けるといくつもの峠を越え、
どんどん会津の奥深くに向かっていく。ところが不思議なことに、どれだけ行っても、山深
さは変わらないものの、峠を越えると川沿いには広く平地があり、そこには田畑が開け、険
しい山奥に向かって行くという感じがないのだ。富山育ちの私には、山に向かえば山村があ
り、やがて集落もないくらいの厳しい標高になり、そこから先は修験者の世界・・・山とい
うのはそういうものだと思っていた。だから、行けども行けども厳しさが増していかない、
どこまで行っても豊かで美しく、立山ほど厳しくない山々が続き、里があるという景色がと
ても新鮮だった。そしてその集落の美しいことと言ったら!!以前は萱ぶきであったろう古
民家が当たり前のように集まって集落を形成しているのだ。
会津田島でちょっと都会の空気を感じたら、そこから先は本当に運転しながら瞑想の世界だ
った。伊南川を左手に、全面 360 度山々のパノラマを見ながら、どこまでもまっすぐに只
見町へと向かう。そしてやがて只見の町を抜け、行き当たったところにその叶津番所は建っ
ていた。
その威風堂々としたたずまい、温かい優しい感じというよりは、ちょっと近づきがたい威圧
感というか、そんな風格を持った男性的な建物だと思った。
さて、無事に断食合宿を終え、埼玉に帰ったが、あの番所が気になって、行きたくて行きた
くてたまらない。10 月に番所のオーナーがセミナーをするというので飛びついた。
2 度目の只見行き、赤く染まった山々と、黄金色の田んぼが海のようにうねっているその景
色は、もう言葉にならないほどの美しさだ。只見まではあっという間に着いてしまった。
お昼時に到着、すると管理人さんと、もう一人お爺さんがちょうどお昼を食べようとしてい
た。
「そうめん食べるかい?」そう言うとその爺さんは、ひょいと立ってそうめんを湯がき始め
た。
「はいどうぞ」と、出されためんつゆにはなぜか油が浮いている。ひとくち食べてみると・・・
何だこれは?このそうめんつゆ、めちゃくちゃおいしいではないか!!
「これ、何のだしですか?とっても美味しいんですけど?!」
これがかの有名な渓のおきな氏との出会いで、このつゆはご自慢の鶏とあさりとごぼうのお
だしだった。
豊かな自然、雄々しく凛とした番所、おいしい食べ物に、多くのユニークな人たちが集って
いるこの場所にすっかり私は魅了され、気がつけば昨年は 8 回も番所に通っていた。山歩き、
山菜採り、きのこ採り、石拾い、沢歩き、温泉巡り、熊汁…番所はとにかく楽しい事、美味
しい事だらけなのだ。
番所での宿泊は、たくさんの人との出会いも楽しいが、静寂の中、たった一人で泊まるのも
なかなかよいものだ。風の音や、虫の音、蛙の声を聴きながら、囲炉裏の火を一人見つめて
いると、大宇宙の中で自分は生かされているんだという感覚になり、番所は大地にしっかり
と根を生やした樹木のように、揺らぎない安心感で包み込んでくれる。この感覚を覚えてか
ら、私は時々ここに来て、妻でも母でも先生でもない、裸の自分を見つめることが自分のラ
イフワークとなってしまった。
さて、この春、山菜三昧と称して 10 日間も只見に滞在したのだが、新たなとっておきを見
つけた!!
番所から車で 15 分ほどの金山町というところに大塩温泉がある。この温泉は炭酸泉で、入
湯料はたった 200 円だ。はじめて行った時にはびっくりした。温泉なのにシャワーも蛇口
もない。つまり、シャンプーはもちろん、せっけんで体を洗う事もはばかられる感じ…ただ
ただ温泉につかるだけなのだ。ところがその気持ちいいことと言ったら。外には美しい山と
豊かな只見川、もちろん源泉かけ流し、地元の方との話も楽しい。今では私の一番のお気に
入りの温泉だ。
この温泉は隣にあるたつみ荘さんが管理しているのだが、先日ご縁があってたつみ荘にお邪
魔したら、何とこの時期限定の幻の露天風呂があるのだとか。何でも雪解け水が注ぎ込んで、
只見川の水位が上がった時期だけわき出る露天風呂なのだそうだ。その話を聴いた我々熟女
三人、早速に厚かましくも入らせていただくことに・・・。「ご一緒に」とお誘いするも、
頑なにお断りなさる渓のおきな氏を番所に残し、よろこび勇んで幻の温泉を貸し切り状態で
堪能させていただいた。天気は快晴、悠々と流れる只見川と新緑の若葉の美しさ、遠くに列
車が、ゆっくりと通っていく姿を見ながら、気が付いたら延々1 時間半も楽しんでいた。
今年(2011年)は 4 月の 22 日より入浴開始し、自噴終了したのが 6 月 4 日だったそう
だ。地元の人もなかなか入った事がないという幻の温泉、わが友人は初めての只見来訪でい
きなり入湯という幸運に恵まれたのだった。
それにしても渓のおきな氏、聞けば未だ入った事がないという。なんとも申し訳ないと思っ
ていが、そこはさすがである。
我々が都会に戻ってから、一人たつみ荘に出向き、ちゃっかり?初入湯をはたしたのだそう
だ。しかもその時、ここの温泉のファンだという絶世の美女が入湯中、混浴構いませんとの
事で、至福のひとときご一緒したそうである。
叶津番所
福島県南会津郡只見町字叶津居平 456 番地
TEL 0241-82-2407
叶津番所は江戸時代後期に建てられたと推定される建物で、桁行き14.35m、梁間10.15m
を誇り南会津地方では最大級とされる豪農建築です。構造は厩中門をもつ曲家で屋根は寄棟、茅葺と
なっています。棟の高さや天井、セガイ造り、座敷など細かな意匠が身分の高さを示す所が随所で見
られます。家主である長谷部家は代々叶津村の名主を勤めた家柄でこの村が"八十里越え"と呼ばれる街
道沿いの会津藩と越後藩との藩境にあった為、番所として兼用されました。叶津番所(長谷部家住宅)
は昭和48年に福島県指定文化財に指定されています。現在は会員制の別荘クラブとなっています。
大塩温泉たつみ荘
福島県大沼郡金山町大字大塩字休場 3106-2
TEL 0241-56-4158
宿は、只見川のほとりに建ち、大塩温泉に隣接しています。春季は敷地内にある期間限定露天風呂に
入りながらの絶景がサイコー。四季それぞれの山里の風情と源泉かけ流し温泉を楽しめるところです。
泉質は炭酸泉・含鉄・塩化物泉。効能はリュウマチ・皮膚病・婦人病・高血圧・動脈硬化など。
素泊まりは 3500 円から。露天風呂のみの利用は何と無料という太っ腹さです。
追記 ご紹介しました期間限定露天風呂は、2011年7月末の会津地方大洪水の際、たつ
み荘、大塩温泉とともに水没。現在たつみ荘と大塩温泉は営業していますが、残念ながら露
天風呂は自噴しなくなってしまいました。その代わり、昔枯れてしまった河原の温泉が再び
自噴したとのことで、こちらの露天風呂は利用できるそうです。