椎間板ヘルニアのリハビリテーション

2015/1/23
獣医療におけるリハビリテーションを行う目的
• 障害をもった動物の機能回復
埼玉動物医療センター
理学療法士 藤澤由紀子
犬の椎間板ヘルニアに対するリハビリテーション
• 残された能力を最大限にひきだし、それぞれ
の暮らしに合った生活能力を獲得し、 伴侶動
物らしく生活できることが大切
• 予防的リハビリテーション
リハビリテーションを組み立てるプロセス
問題点
抽出
情報収集・評価
効果判定
(再評価)
ゴール
設定
情報収集
・家族の希望
・犬と家族の関わり方
・家族のライフスタイル
・人数
ご家族・獣医師から
・犬の生活環境
・性格・好きな事・嫌いなこと・苦手な事
・日頃使っているコマンド
・発症前の歩き方や動作
獣
理学療法
の提供
プログラ
ム立案
医
か
ら
・医学的情報
現病歴・既往歴・重症度・病変部位・各種検査結果
現在の臨床症状など
・理学療法提供時の禁忌・注意点 など
・トリミング時の様子
トリマー・受付などから ・受付での犬の様子
・ご家族の様子
など
動作をみる
評 価
・ 視診(表情・体格・皮膚・関節・姿勢など)
・ 触診(腫脹・熱感・浮腫・筋緊張・皮膚など)
・ 周径測定
・ 関節可動域測定
・ 疼痛
・ 動作観察(起きあがり、立ちあがり、歩行など)
・ 神経学的テスト
師
どんな風に出来る?
正常な動き?
出来る
どこでも同じようにできる?
普通の速さでできる?
努力性は?
動作
回数持続可能な時間は?
全く出来ない?
出来な
い
動作の一部はできる?
どこを介助したらできる?
など
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問題点の抽出
目 的
• 集めた情報、理学療法評価の結果を整理し
て、何が問題点なのか、優先順位をつけて抽
出する。
• 問題点の抽出ができないと、目標もプログラ
ムも定まらない。
プログラム立案
•
•
•
•
•
•
•
•
•
疼痛緩和
手術部位の炎症・腫脹軽減
筋緊張の正常化
関節可動域の維持・拡大
筋萎縮の予防・改善
筋力強化
姿勢保持能力の向上
歩行能力の向上
ADL獲得
など
ICF(国際生活機能分類)
健康状態
• 問題点を解消し、目標達成するためのプログ
ラム検討を行う。
→禁忌や運動制限に気をつける
→同じような問題点でも、個体によって運動強
度、実施方法は異なる
→出来るだけ、家族のライフスタイルに沿った
方法で、無理なく実施できるプラン
→方法は何パターンも考えておく
動物に利用してみる
機能障害
•関節可動域低下
(両側股関節屈曲制限)
•痙性麻痺(両側股関節内転筋)
•固有位置感覚低下 ・・・など
参加制約
•家族と散歩に行けない
•排泄肢位に要介助
•ドッグランに行けない
・・・など
心身機能
機能
身体構造
障害
活動
活動
制限
環境因子
参加
個人因子
ゴール(目標)設定
活動制限
•立ち上がり困難(軽介助レベル)
•立位保時困難(中等度レベル)
•排泄肢位の保持困難
・・・など
• 目標は具体的なものでなければ意味がない
。
• 重度な障害で予後不良な場合でも。残存機
能を使って達成できる目標を設定する。
個体因子
•友好的 ・おやつが好き
•おもちゃに興味なし
•水にぬれると固まる
・・・など
環境因子
•多頭飼い
• 長期目標と短期目標を決める
・室内飼い
・・・など
長期目標:おじいちゃんと公園まで散歩する
短期目標:方向転換時に転倒しない
5センチの段差をこえられる
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いろいろな治療手段と効果
• 目標を達成するための手段はひとつではない。
• 状況にあわせたアプローチができるように様々
な方法を考えられるようにしましょう。
徒手療法
• マッサージ : 皮膚や筋組織を機械的に刺激
• モビライゼーション
: 関節面における遊びの動きを利用して関
節包などを刺激
• ストレッチ : 他動的に筋組織を伸張
マッサージ
物理療法
•
•
•
•
•
•
寒冷療法(アイスパック)
温熱療法(ホットパック)
電気治療(神経筋電気刺激NMES 、TENS )
超音波
針治療
低出力レーザー
など
マッサージ
目的:血液循環を促進し細胞代謝を高め、筋肉
の栄養を移送する。浮腫、拘縮予防。
適応:筋肉の筋緊張亢進、低下、筋肉痛など
禁忌:凝固障害、血栓症、皮膚炎、腫瘍
軽擦法・揉捏法・強擦法・圧迫法・振動法
振戦法・叩打法
などのテクニックがある
運動療法
• 他動運動
萎縮や拘縮の予防
→他動的関節可動域運動など
• 自動運動、自動介助運動
→リスクに注意しながら運動量、運動方法の
選択を行う。
→介助は必要な所に必要な分だけ
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他動的関節可動域練習
(PROM-ex)
自動運動・自動介助運の基本原則
• 苦痛を与えない
• 飼い主とよく話して、犬が好きな事を取り入れる
• 個体ごとに最も有効な運動を見つけるために、
色々な異なる運動を試してみる
• 運動量を増やすことが出来るように、飼い主へ
の手引きを行う。
立位保持能力向上
バランス
•
•
•
•
•
体重移動
バランスボード
バランスボール
外乱刺激
体幹側屈や、頸部の伸展・屈曲
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ゆっくり歩く
• リードをつけてゆっくり歩く
• 坂道を歩く
• マットの上を歩く
• 不整地を歩く
• 陸上トレッドミル
虚弱の場合はスリングで介助可能
角度を変えて前肢or後肢のストレス軽減
セラバンドで抵抗運動
•
•
•
•
•
•
8の字歩行
ジョギング
座位からの立ち上がり
ウエイト引き運動
ウエイト運び
レッグウエイト
カバレッティレール
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水中運動
水中運動
生理的作用
1. 温熱・寒冷作用
2. 静水圧
3. 動水圧(粘性・抵抗)
4. 浮力
脛骨外果
:91%
大腿骨外側顆:85%
大腿骨大転子:38%
水中トレッドミル
東京メニックス
カート
装具
ある犬ねん
東洋装具動物医療機器製作所
内科療法時の理学療法
手術をしていない
椎間板物質の脊髄への刺激が残存している
内科療法時の理学療法
発症後
1〜3日
厳格なケージレストで自動運動の制限。
疼痛管理
関節可動域確保程度の廃用予防。
厳格なケージレストで自動運動の制限。
発症後
疼痛管理、マッサージ、関節可動域の確保と軽度
4〜14日
な他動運動、物理療法 など
急性の背部痛・神経的な異常がある場合も
運動強度の選択を誤ると、理学療法により麻痺や一般
状態の悪化を招く場合がある
発症後
3〜8週
疼痛管理、マッサージ、関節可動域の確保、自動
運動、物理療法 など
発症後
9週
回復段階にあわせて、すこしずつ運動強度をあげ
ていく。ジャンプなどインパクトが強いものは制限。
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椎間板ヘルニア術後のリハビリテーション
医学的管理が大きい
■術後急性期(入院中) 安静度が高い(ケージレスト)
術後14日程度までは、運動
• 疼痛管理
機能の回復が良好でも自動
運動に制限をかける
• 排尿管理
• 褥瘡予防
• 術創部の炎症・腫脹緩和
• 関節可動域維持
• 筋萎縮予防
• 立位保持能力向上
外科療法後の理学療法
STEP 1 手術直後から体重支持まで
椎間板ヘルニア術後のリハビリテーション
■退院後外来
• 関節可動域維持
• 筋萎縮予防
• 筋力強化
• バランス向上
• 立位保持能力向上
• 固有位置感覚促通
• 歩行改善
回復段階にあわせた運動強度
の選択
家族指導
→生活環境、生活、練習指導
外科療法後の理学療法
STEP 1 手術直後から体重支持まで
目
的
プログラム例
急性疼痛緩和
手術部位の炎症・腫脹緩和
寒冷療法
関節可動域の維持・拡大
関節可動域練習
マッサージ・ストレッチなど
UMNS / LMNS に対して
マッサージなど
立位保持能力獲得・四肢筋力強化
立位保持練習
(必要に応じた介助・刺激入力)
筋萎縮予防
NMES 屈曲反射誘発
外科療法後の理学療法
外科療法後の理学療法
STEP 2 体重支持から歩行に介助が必要なレベルまで
STEP 2 体重支持から歩行に介助が必要なレベルまで
目
的
プログラム例
急性疼痛緩和
手術部位の炎症・腫脹緩和
寒冷療法
疼痛(炎症がない)
温熱療法 TENS
関節可動域の維持・拡大
関節可動域練習
マッサージ・ストレッチなど
UMNS / LMNS に対して
マッサージなど
立位保持能力獲得・
四肢筋力強化
立位保持練習
(必要に応じた介助・刺激入力)
筋力強化など
立ち上がり練習・立位保持練習・歩行練習
など(必要に応じた介助・運動強度)
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外科療法後の理学療法
外科療法後の理学療法
STEP 3 歩行自立可能だが軽度神経障害あるレベルまで
STEP 3 歩行自立可能だが軽度神経障害あるレベルま
で
目 的
プログラム例
疼痛(炎症がない)
温熱療法・TENS
関節可動域の維持・拡大
関節可動域練習
マッサージ・ストレッチなど
リラクゼーション、筋肉の状態を整え
マッサージなど
る
固有位置感覚促通、筋力強化、協
調性改善、持久力強化など
外科療法後の理学療法
STEP 4 STEP3〜ほぼ正常な歩行まで
能力に応じた各種運動
バランス運動、体重移動練習、立
ち上がり運動、水中運動、リード
付き歩行練習など。
ナックリングがある場合、外傷に注
意が必要。転倒注意、過用注意。
環境セッティング。
外科療法後の理学療法
STEP 4 STEP3〜ほぼ正常な歩行まで
STEP3の運動強度をあげる。
無理の無い範囲で。段階的に。
場合によってはリードをつけて、家族と一緒に軽い
ジョギングも開始
STEP5 ほぼ正常な歩行から正常な歩行まで
これまでの様々な運動を継続し、さらなる筋力・持久
力の強化も行っていく。正常な歩行になり、医
療的なリスクが軽減されていれば、ボール遊
びなども追加していく
退院後の理学療法(外来)
•
•
•
•
•
週1~2回の通院からスタート
理学療法評価
理学療法の提供
ホームワークのチェック・飼い主指導
獣医師との連携・他部門との連携
家族指導と自宅での練習
• 家族のライフスタイルになるべく合わせた提案を
する。
• 家族への身体的負担がかからない方法
• 可能な限り、特別な準備を要しなくても出来る
• 写真やイラストなどいれた参考資料・指導書の作
成
• 直接の実技指導や、動画をつかった実技指導
• 運動介入時の注意点、禁忌事項の説明
• 生活環境設定の助言
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さいごに
• 運動強度や回数は個体別に違う
動画で症例をみてみましょう
• それぞれの生活環境、身体状況にあわせた
オーダーメイドの理学療法が有効
• 禁忌、注意点に気をつけ、事故を防ぐ
• 安全な理学療法
• 家での過ごし方が非常に重要!!
END
[email protected]
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