佐賀市「子どもへのまなざし運動」による協働のまちづくりに関する考察 亀山清美(佐賀大学大学院) Keyword: 子どもへのまなざし、協働、地域活性化 【背景・研究の目的】 近年、地方都市である佐賀市においても、人口減少、少子 運動」に対する認知度の変化を、時系列にグラフ化すると 図 1 のようになる。これは、問 1 あなたは、 「子どもへの 化、核家族化等に伴い、近隣の人々の人間関係が希薄化し、 まなざし運動」を知っていますかという問いに対し、 「運動 地域の絆が失われつつある。このような状況のなかで育つ子 を理解している」 「運動をある程度理解している」と答えた どもたちに、市民が関心を寄せ、協働による子どもの育成を 肯定的意見の推移である。 図るために、佐賀市は、 「佐賀市未来を託す子どもを育むた 図1 めの大人の役割に関する条例」を平成 19 年に制定し、平成 の変化 一般市民及び保護者の「子どもへのまなざし運動」に対する認知度 20 年度からこの条例に基づく市民総参加子ども育成運動 「子 どもへのまなざし運動」を展開している。 この「子どもへのまなざし運動」の活動が、条例制定後、 市民にどのような広がりを見せているのか、また、 「子ども へのまなざし運動」の効果がまちづくりにどのように現れて きたのかを明らかにすることを、研究の目的とする。 出典:佐賀市教育政策満足度調査を基に作成 【研究の方法】 図 1 から、保護者の認知度は平成 22 年度から継続して 1. 平成 22 年度以降に佐賀市教育委員会が毎年実施してい 50%前後を示しており、一般市民の認知度をかなり上回っ る佐賀市教育政策市民満足度調査の結果から、佐賀市民及 ている。これは保護者の関心の高さを示している証拠であ び保護者の「子どもへのまなざし運動」の認知度の変化と ると言える。しかし、一般市民・保護者共に、市の広報活 実践度を把握する。 動にもかかわらず、認知度が平成 22 年度以降、横ばい状態 2. 佐賀市内各小学校区の地域活動事例の中から、循誘小 であることは課題である。 学校の「えびすでまちづくり」の活動事例を取り上げ、 循 1-2 一般市民及び保護者(小学 4 年~中学 3 年の保護者) 誘校区内で行われている「恵比須 DE まちづくりネットワ の「 子どもへのまなざし運動」を意識した子どもへの関わ ーク」の活動状況の聞き取り、及び、循誘小学校 3 年生の りの変化 総合学習の実施状況を調査し、 「学校」 「家庭」 「地域」の協 佐賀市教育政策市民満足度調査において、問 2 「子ど 働がどのように行われているのかを分析する。 もへのまなざし運動」を意識して、子ども(自分の子ども・ 3. 佐賀市教育政策満足度調査における「子ども(小学生・ 地域の子ども)と関わるようになりましたかという問いに 中学生)が学校以外で参加したいイベント・行事」の調査 対し、 「関わるようになった」 「意識はするようになった」 結果、及び、北川副校区で実施している冬まつり(ほんげ と答えた肯定的実践活動の推移を時系列にグラフ化すると んぎょう)に参加した小学生・中学生・高校生への聞き取 図 2 のようになる。 り調査から、子どもの地域に対する関心・意欲の変化を調 図2 べる。 もへの関わりの変化 一般市民及び保護者の「子どもへのまなざし運動」を意識した子ど 【調査・分析結果】 1. 市民の「 子どもへのまなざし運動」に対する認知度 1-1 一般市民及び保護者(小学 4 年~中学 3 年の保護者) の「 子どもへのまなざし運動」に対する認知度の変化 佐賀市教育政策満足度調査による、一般市民及び保護者 (小学 4 年~中学 3 年の保護者)の「 子どもへのまなざし 出典:佐賀市教育政策満足度調査を基に作成 図 2 から、保護者及び一般市民の「子どもへのまなざし ては、前記の人々や保護者も指導補助に参加している。こ 運動」を意識しての子どもとの会話や関わりに、平成 22 年 の 2 回の総合学習の発展として、校内では 3 年生が 2 年生 度以降大きな変化は見られない。 を対象に「えびす発表会」を行っている。また、校外活動 1-1、1-2 の結果から、直接子どもの育成に関わっている 保護者の認知度は高いが、 「子どもへのまなざし運動」が一 としては次の二つが挙げられる。 2-3 「えびすカルタ」制作と「子えびすガイド」活動 般市民にまでは広がっておらず、市民総参加子ども育成運 その一つは、親子で作る「えびすカルタ」である。カル 動にするためには、更なる運動方法の工夫と継続した努力 タの文字札は子どもが考え、大人が絵札(写真)を考える が必要と思われる。 共同作業で制作する。子どもが考えた文字札の選考につい 2. 地域活動事例「えびすでまちづくり」 ては、循誘公民館が主として関わっているが、これは、循 2-1 「恵比須 DE まちづくりネットワーク」の活動 誘公民館と「恵比須 DE まちづくりネットワーク」が支援を 佐賀市内では、小学校区ごとに、公民館を中心に各種団 している「家庭」 「地域」の協働事例である。 体が協働して 「子どもへのまなざし運動」 を展開している。 その地域活動事例として、循誘校区の「えびすでまちづく り」を取り上げる。 活動の中心となっている「恵比須 DE まちづくりネット ワーク」は、恵比須像を活かしたまちづくりのために、平 写真 2「えびすカルタ」 出典:恵比須 DE まちづくりネットワーク 成 15 年に結成された団体である。市内に 800 体以上ある 他の一つは、 「えびすガイド」の活動である。3 年生で「え えびす像を活かしたまちづくりを行うことにより、中心市 びすはかせになろう」の学習をした子どもが、4,5,6 年生 街地の集客増を図り、まちの賑わいを創出するための活動 になると、佐賀城下ひなまつり期間に「子えびすガイド」 を行っている。具体的活動として、恵比須巡りツアーの案 の活動を行っている。子えびすガイドの募集及び、養成講 内、恵比須に関するイベント開催、恵比須像の調査・広報・ 座については、循誘公民館と「恵比須 DE まちづくりネット 宣伝活動等がある。 ワーク」の共催事業で、循誘小学校も支援している。子え 2-2 循誘小学校 3 年「えびすはかせになろう」の学習 びすガイドの養成は、大人のガイド見学やガイドの心がま え・言葉づかいについて学習した後、ガイド台本作りやリ ハーサル等、5 回事前学習を行いガイドとしてデビューし ている。ひなまつり期間の土・日、4 回、13:00~15:00 の 2 時間、ガイド活動を行っている。これも「学校」 「家庭」 「地域」の協働活動である。これらの協働推進のために、 佐賀市単独事業として地域教育コーディネーターを 4 名配 置している。地域教育コーディネーターは、学校と家庭・ 地域との連携体制を構築し、地域の教育力と子どものふる 写真 1 総合学習 出典:恵比須 DE まちづくりネットワーク さと意識を高める重要な役割を担っているので更なる増員 が望まれる。 循誘小学校では、校区内にえびす像が多いことに着目し 平成 27 年に「子えびすガイド」の活動をした子どもたち て、3 年生が総合学習の時間に「えびすはかせになろう」 に、活動についての聞き取り調査を行った。平成 27 年の というテーマ―で郷土学習を展開していて、平成 26 年度 「子えびす」は、4 年生 2 名、6 年生 6 名であるが、現在は は、11 月に校区内の歴史やえびす像について学んでいる。 5 年生と中学 1 年生に進級・進学している。 この学習については、教師の他に「恵比須 DE まちづくりネ 聞き取り調査 1 ットワーク」関係者が指導に当たっている。学校では、事 対象者 城東中学校 1 年生 5 名(男子 3 名、女子 2 名) 前に 3 年生対象にえびすについて知りたいことの調査を行 内容 い、それを基に当日の授業展開について関係者と連絡、協 参加回数 子えびすガイドの参加は 5 名とも初めて。 議を行っている。この学習後、12 月の総合学習の時間に校 参加理由 4 名は小学校の時、同じクラスで誘い合って 区内にあるえびすめぐりを行っているが、この学習につい 参加。他の 1 名は家族に勧められて参加。 活動日数 5 名とも 2/28(土) 、3/1(日) 、3/7(土) 、3/8 (日)の 4 日間活動。 活動内容 恵比須ステーションから、2 グループに分か 事」は、平成 22 年度から緩やかに増加傾向になっているこ とは、注目すべきことである。 図3 子どもが「学校以外で参加したいイベント・行事」 れ佐嘉神社周辺のえびすガイドコ-スと佐 賀市歴史民俗館周辺のえびすガイドコース でガイド活動を行った。 活動に対する感想 ・えびす像のことをくわしく知ることができてよかった し、案内したお客さんからお礼の手紙をもらって嬉しか った。 ・他所から来た人にえびすのことを説明できてよかった ことと、 「ありがとう」と言われて嬉しかったこと等。 今後の地域行事や祭りへの参加 ・5 名とも参加しようと思っていると答えた。 聞き取り調査 2 対象者 循誘小学校 5 年生2名(女子) 内容 出典:平成 26 年度佐賀市教育政策市民満足度調査報告書 p88 参加回数 子えびすガイドの参加は 2 名とも初めて。 参加理由 1 名は母親に勧められて参加。他の 1 名はえ 3-2 子どもが参加する「地域のお祭り、伝統行事」 前記のように、緩やかな増加傾向になっている地域行事 びすのことをもっと知りたいと思って参加。 の活動事例として、北川副校区で行われている冬まつりの 活動日数 1 名は用事があって 3 日。他の 1 名は 4 日。 「ほんげんぎょう」を取り上げる。 活動内容 上記、中学生と同じ。 活動に対する感想 ・最初は緊張したが、やっていたらうまく出来るように なった。 ・お客さんに話す声が初めは低かったが、慣れてきて大 写真 3「ほんげんぎょう」 きな声で言えるようになってよかった。 今後の地域行事や祭りへの参加 出典:館長コラム~ほんげんぎょう~ ・土、日はバレーボールをやっているので、参加は無理か 「ほんげんぎょう」は正月 7 日に門松やしめ縄を持ち寄 なと思う。 ・参加したい気持ちとそうでない気持ちの両方がある。 り、村のはずれ等で焼いていた火祭り行事で以前は各地で 行われていた。北川副校区では、昭和 53 年から北川副小学 3. 子どもや青少年が持つ地域に対する関心・意欲 校 PTA や農政協議会が主催して小学校の運動場で「ほんげ 3-1 子ども(小学生・中学生)が「学校以外で参加したい んぎょう」が行われ始めた。その後、各種団体が参加し、 イベント・行事」 平成元年からは 1 月 7 日に近い日曜日の早朝に行われるよ 佐賀市教育委員会が、毎年実施している佐賀市教育政策 うになり、近年は北川副校区の 1 大イベント伝統行事とし 満足度調査における調査項目に、 「学校以外で参加したいイ て継承され、参加者は 3,000 人とも言われている。この行 ベント・行事」がある。調査対象者は、小学 4 年生から中 事のため、前日に櫓組み用の孟宗竹 300 本の切り出しやも 学 3 年生である。 「あなたは、学校以外でどのようなイベン ぐらうち用の棒つくり、カッポ酒用盃作り等1日がかりで トや行事があれば、参加したいと思いますか」という問い 準備が行われている。 に対し、 「スポーツ活動」が最も高く、次いで「キャンプな 「ほんげんぎょう」行事には多くの子どもたちが参加し どの野外活動」 「地域のお祭り、伝統行事」となっている。 ているが、特に、前日にボランティアとして参加した小・ 上位の「スポーツ活動」や「キャンプなどの野外活動」が 中・高校生に聞き取り調査を行った。 いずれも減少傾向であるのに対し、 「地域のお祭り、伝統行 聞き取り調査 3 対象者 佐賀東高校 2 年生 13 名及び 3 年生 5 名(男子) 今後の地域行事や祭りへの参加 内容 ・これからも参加したいと思っている。 参加回数 参加者 18 名すべて初めて。 聞き取り調査 5 参加理由 依頼されて。 対象者 北川副小学校 6 年生 2 名(女子) 作業内容 竹を切りトラックまで運搬。木材運搬や櫓 内容 組み。木材投げ入れ等。 作業後の感想 参加回数 二人とも初めての参加。 参加理由 どんな準備をするか知りたくて参加。ボラン ・竹を鋸で切る作業が大変で、手がしびれたが、櫓が出 来上がった時は嬉しかった。 ティア活動をやってみたいと思って参加。 作業内容 ごみ箱設置やテントの中に椅子を運ぶ作業。 ・竹は運ぶのに重かったが、みんなで協力して仕事がで きてよかった。 作業後の感想 ・どんな準備をするのかが分かってよい経験になった。 ・櫓を組み立てる作業が楽しかった。 ・準備に参加できてよかったと思う。 ・櫓が出来上がって嬉しかった。達成感があった等。 今後の地域活動や祭りへの参加 今後の地域行事や祭りへの参加 ・二人とも参加しようと思っていると答えた。 ・ 「参加しようと思っている」と発言した 3 年生に、うな ずいたり、自分たちも参加したいと発言するなどほと んどの生徒が同意を示した。 【考察・今後の展開】 これまでの調査・分析の結果 「子どもへのまなざし運動」 聞き取り調査に応じてくれた生徒は全員野球部員で、こ は、条例制定後、直接子どもの育成に関わっている こ数年は野球部員が参加しているという顧問の先生の話 保護者の認知度は一般市民よりかなり高いものの、一般市 であった。参加した生徒に北川副校区に居住している生徒 民にまでは広がりを見せていない。また、 「子どもへのまな はいなかったが、校区内に所在する県立高校として参加を ざし運動」を意識した子どもとの会話や関わりには条例制 依頼されていると考える。 定後も変化が見られないことから、運動を意識した実践活 写真 4 竹の運搬 写真 5 竹の器洗い 動に結びつくまでには至っていないと結論できる。 しかし、地域活動事例に見られるように、それぞれの地 域においては公民館を中心とした各種団体の努力で、 「学校」 「家庭」 「地域」の協働による子どもに出番・役割を持たせ る動きが出てきている。その結果、ボランティアで参加し た子どもに対する聞き取り調査からもわかるように、子ど もの地域に対する関心・意欲が徐々に高まってきている。 出典:館長コラム~ほんげんぎょう~ 出典:城南だより第 33 号 今後は、地域教育コーディネーター等の人的資源の確保 聞き取り調査 4 とともに、市民全体の活動を活発化するための誰でも、ど 対象者 城南中学校吹奏楽部員 現3年生 1 名(女子) こでも気軽にできる活動を加えることが必要である。それ 「ほんげんぎょう」のボランティア募集に応募した 3 年生 が協働のまちづくりにつながるのではないだろうか。 12 名は卒業していてインタビューが不可能であった。 内容 【参考資料】 参加回数 8 回目、北川副町在住で、小学生のころから 毎年ボランティアで参加している。 佐賀市(2014)平成 26 年度佐賀市教育政策市民満足度調査 報告書 pp1~3,pp11~12,pp28~31,p88 参加理由 自分で希望して。 館長コラム~ほんげんぎょう~(2015 年 6 月 12 日閲覧) 作業内容 竹製の振る舞い酒用の器を水で洗う作業。本 http://www.tsunasaga.jp/kitakawasoe/2014/01/post- 部テントの机・椅子の設置及び雑巾でふく作 30.html 業。ブルーシートを敷く作業等。 恵比須 de まちづくりネットワーク Facebook(2015 年 6 月 作業後の感想 24 日閲覧) ・人のために自分が役立つことができて、よかった。 https://ja-jp.facebook.com/ebisumatikado
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