(京 都医学会雑誌 。第51巻第 1号・平成16年 6月 ) 125 糖尿病食事療法 として糖質制限食 を実施 した 3症 例 静 祐 尿病の本態は糖質処理システムの機能低下・破綻 が主と捉え、 食事療法 として糖質制限食を導入 し た。基本的に血糖値 を上昇 させ るのは糖質であ り、脂質や蛋 白質はほとんど上昇させない。糖質 員由美 哲 1 2 田 井 要旨 相対的不足 のた 糖尿病 はインス リンの絶対的、 を生 自質代謝、脂質代謝に異常 めに糖代謝や蛋 じ、 慢性的な高血糖の結果特有の糖尿病合併症を もた らす病気 と定義されて いる。今回我々は、糖 洋 一郎 横 酒 部 本 藤 1 1 江 橋 佐 部 本 林 江 松 小 康 二 哲 宜 真理子 2 夫 1 子 2 夫3 た。原貝Jと して入院当初の 7∼ 11日 間は通常の 糖尿病食を摂取 し、 入院 7日 目の血糖値 の 日内変 どの検査終了後糖質制限食に切 りかえた。こ 動な のうち現在 も外来通院し経過を追えている症例は 42例 である。今回は約 2年 間の経過が追えてい る 3症例を対象 としその治療効果について報告す る。入 院 中 の糖 質制限食 の総摂取 カ ロ リー は 1200kcal(対 エネルギー比で糖質約 35%、 月 旨質 を制限 した食事では食後血糖値の改善が認め ら れ、 通常 のカロリニ制限が中心 の糖尿病食 と比べ 約 40%、 蛋 白質 25%)か ら1600kcal(対 エネル ギー比で糖質約 30%、 脂質約 45%、 蛋白質約 25 %)で ある。基本的に穀物・ 芋類・ 牛乳・砂糖 治療効果 は速やかであった。空腹時血糖値、血清 糖質制限食は糖尿病 の食 中性脂肪値 も改善 した。 事療法 の一つ として有用 と考え られた。 果物は糖質が主成分なので摂取を減 らした。昼食 のみ副食 と共に玄米飯を摂取するが、朝食 と夕食 は副食のみとし糖質含有量の少ない食品を選び糖 はじめに 質が主成分 の穀類、イ モ類な どは摂取 しな い。 1200kcalの 糖質制限食 の具体的な献立表 を表 A に示す。間食 として糖質含有量が少な いチーズ、 糖 質 摂 取 を 一 定 程 度 減 らす 糖 質 管 理 食 (carbohydrate∞ 肛山町)は 欧米では糖尿病食事 療法の選択肢 の一つ として既 に一 般的 である。 我々は 3食 共主食を摂取する糖質管理食を一歩進 0 ナ ッツ類、 トマ トなどを 1日 2回 程度摂取 した。 質管理食と区別す るため糖質制限食 と呼ぶ ことと した。治療をかねた教育入院後は外来で糖質制限 糖質制限食開始 栄養指導 は管理栄養 士が入院時、 時、退院時の 3回 実施 した。尚、高蛋白食 となる ことか ら腎機能異常例は対象外 とした。 症例 によ り昼食の糖質摂取時、α―グル コシダーゼ阻害薬 食を継続 した。今回そ の治療効果 を検討 し代表的 な 3症 例を報告する。 症例 め、 昼食のみ主食を摂取する食事療法を導入 し糖 対象と方法 2001年 1月 か ら2003年 12月 の間に当院入院 し糖質制限食による治療 を行 つた糖尿病患者は 50例 で、男性 27例 、女性 23例 、年齢は 26才 か ら76才 で平均 58.3才 、50才 代が 24例 と多かっ 1 2 3 財団法人高雄病院内科 同栄養課 同検査室 を併用 した。 症例 1は 50才 の男性で、 身長160m体 重60kg で飲酒歴は酒 1.5合 /日 であつた。高血圧、高尿 酸血症、喘息加療中である。20∞ 年 12月 の空腹 時血糖値は 135mg/dlで 、2001年 4月 検診で血 糖値 400mg/dlで あった。2∞ 1年 9月 4日 当院 外来受診時血糖値 560mg/dl、 HbAlc14.5%あ り、9月 5日 入院となった。入院後は従来の糖尿 (炭 水化物 の対エネルギー 比約 病食 1600ko1/日 126 (京 都医学会雑誌・第51巻 第 1号・平成16年 6月 平成16年 4月 5日 ∼平成16年 4月 思一 夜 糖質制限食】 【 表A 予定献立―覧表 4月 6日 (火 ) 4月 7日 (水 ) 4月 8日 (木 ) トマ トジユース トマ トジ ュー ス 6pチ ーズ 6pチ ーズ ウインナーソテー コンソメ煮 トマ トジ ュー ス 6pチ ーズ 納豆 トマ トジ ュー ス 6pチ ーズ 胡瓜 の和 え物 トマ トジ ュース 6pチ ーズ 辛子和 え トマ トジユー ス 6pチ ーズ 炒 め物 トマ トジ ュース 6pチ ー ズ しいたけのワサビ和え 玄米 こはん 180 い り鶏 中華口和 え物 美 山濱 い よかん 玄 米 こ は ん 180 開 き あ じの 焼 き魚 辛子和 え 五 日豆 白菜 演 玄米こはん 180 千草焼 リヨネーズポテ ト ほうれん車のこま味 りんこ たくあん 玄米 こはん 180 チキンポール甘酢煮 ビーナッツパター和え けんちん汁 のざわな演 玄米 こはん 180 ソース EOグ リル7-モ ンド 湯頭 りん こ 自粟演 玄米 こはん 180 栞 し鶏 コン ソメ煮 翻 煮 た くあん 味噌 汁 鯖 の こまたれ焼 酢 の もの 茶碗蒸 し 豚 肉の ソテー 胡麻和 え 味 噌汁 スー プ 煮 味噌汁 酒蒸 し トマ トサ ラダ あさリマーボー豆腐 ぶ どう豆 炒 り卵 味嗜汁 ソーセー ジエ ッグ サニー レタス 白菜の炒 め物 煮魚 含め煮 味噌汁 福袋 と付 け合わせ ね り胡麻和 え 穴子の煮物 と り照焼 味噌汁 えび玉 ほうれん草の胡麻和え おろ し ひ じきの共煮 豆腐サ ラダ シルバーの照焼 揚 げ茄子 炭 水 化物 110。 778 食颯相当量 8.418 嵐水化物 食塩相当■ 4月 5日 朝 11日 ) (月 ) 玄 米 こはん 焼 き豚 180 マカ ロニサ ラダ コン ソメスー ブ のざわな演 け 味嗜汁 木 の芽 田楽 わ らび の 煮 物 穴子 の照焼 卵とじ 癖義量 炭 水 化物 食塩湘当量 104.278 9。208 炭 水 化物 食塩相当量 ‖ 2.238 8.898 サラダ ツナ豆腐 鮨の照焼 ね り胡麻和 え 4月 9日 (金 ) 炭水化物 107.368 食塩相当■ 9。 318 炭 水化物 食塩相当量 4月 10日 (土 ) 110.588 9。448 4月 11日 (日 ) 108.988 9.678 55%)を 10日 間続けた。 1日 尿糖は 9月 6日 の 畜尿開始時が98。 9g、 7日 が93。 8g、 13日 が55。 4g、 14日 が 50。 4gと 減少 した。9月 15日 か ら糖質制 限食 1600km1/日 (炭 水化物の対エネルギー比30 食 事 記 入 表 調 査 で は 、総 摂 取 カ ロ リー は約 15∞ ka1/日 で糖質の対エネルギー比は約 %で %)に 切 りかえた ところ 16日 の 1日 尿糖は 睦 杯毎 日飲んでいる。 8。 と急速に減少 し19日 は 6。 40g、 20日 は4。 76g、 21 日は 3.18g、 25日 は 2。 96g、 27日 は 2。 42gと さら に改善がみ られた。 入院翌 日9月 6日 の血糖値 の日内変動と従来の 糖尿病食開始後 7日 目の血糖値の日内変動 とを比 較すると、改善は軽度であったが、糖質制限食 に 変更後 6日 目の 20日 の血糖値 の 日内変動では朝 食前は 200mg/dl未 満 とな り、朝食後、昼食前、 と改善 した 症例 2は 53才女性で1990年 糖尿病を指摘され 本院受診、 外来で管理栄養士に従来 の糖尿病食の 栄 養 指 導 を受 け て後 検 査 デ ー タ が 改 善 し HbAlc6.6%以 下 となった。その後 も11年 間従来 の糖尿病食を実践 して 2001年 9月 の時点ではオ イグル コン (1.25mυ 1/2錠 、グル コバイ (5mg) 3錠 毎食前内服加療で HbAlc6。 4%と コン トロー 表1 症例1の 血糖値日内変動と一日尿糖 阻害薬は使用 していない。退院後 の経過 も順調で 糖質制限食開始半年が経過 した 2002年 4月 か ら は昼食に加えて朝食 も米飯を摂取 してみたが、良 好な コ ン トロー ル で維持 された。 自己判 断で 9月 13日 9月 20日 9月 27日 419 369 422 382 174 (mg/dD 149 424 455 329 324 309 159 103 表2 症例 1の 経過表 (96) 01毎 り月 4日 10月 29日 2月 17日 02年 1月 28E 3月 4日 2003年 1月 か ら夕食にも米飯を摂取 し始めたと 11月 26日 ころ、3月 にはHbAlc10。 %と 悪化 したため再び 4月 7日 夕食の米飯摂取 を中止 し、 6月 には HbAlc6.6% 265 208 180 1日 朧 ケ トン体 (μ mol/1) (mg/dl) 眠前 368 379 304 143 129 (g/日 ) 98。 9 55.4 Au U G︼ T とも329,3独 /dlと 高値であった。(表 1)。 本 症例では 10月 2日 以降は尿糖 (― )と なった。イ ンス リン、経 口血糖降下剤、α―グル コシダーゼ 雌 朝食前 朝食後 昼食罰 昼食後 夕食前 夕食後 9月 6日 耐 ¨ 180gを 摂取するので昼食後血糖値は20日 、27日 管理栄養士 による外来での あった。これに加えて晩酌 として焼酎の水割 “ り2 夕食前、眠前も顕著な改善がみ られた (表 1)。 糖 質制限食開始 13日 目の 27日 の朝食前、朝食後、 昼食前、夕食前、夕食後、眠前の血糖値はさらに 改善 した (表 1)。 糖質制限食でも昼食は玄米飯 (表 2)。 (京 都医学会雑誌 0第 51巻 第 1号 ・ 平成16年 6月 ル良好であった。年 に 1回 程度の栄養指導を実施 し、高脂血症に対 しメバ ロチン10mgを 併用 して いた。その後食事療法 を行っているにもかかわ ら ず、徐 々にコン トロールが悪化 し2002年 5月 に は空腹時血糖値 283mg/dl、 mAlc9.1%と な り、 2週 間の教育入院を行 い 1200kcalの 糖質制限食 を実施 した。入院時の身長 159crrl体 重 59kgで 、 飲酒歴 はない。5月 9日 に入院 し従来の糖尿病食 を摂取 し5月 10日 に日内変動を行 い、5月 11日 か らは糖質制限食 1200k」 /日 を開始 した。糖質 制限食開始後 は朝夕のグルコバイは中止 し、オイ グル コン (1。 25mg)1/2錠 朝食前 とグル コバイ (5mg)2錠 昼食前服用 を併用 した。5月 14日 の 空腹時血糖値は 143mg/dlと 改善 した。糖質制限 食開始 7日 目の 5月 17日 の血糖値の 日内変動の 検査では朝食前、朝食後、昼食前、夕食前、夕食 後 、眠前の血糖値 は入院翌 日 (5月 10日 )と 比較 し改善がみ られたが、 昼食 の玄米飯摂取後はグル )127 日で炭水化物の対エネルギー比は約 15%で あっ た。これに加えて毎晩晩酌 として焼酎 の水割 り2 杯飲んで いる。 症例 3は 66才 の男性、身長 161cm体 重 70kg で 日本酒やウイスキーなど4-5杯 /日 摂取 してい た。 1994年 59才 時に検診で糖尿病を指摘 され、 61才 か らインス リン注射を開始 し、66才 時には 朝食前 レギュラーインス リン 10単 位、夕食前 レ ギュラーイ ンス リン 6単 位注射 していた。経 口血 糖降下剤、α―グル コシダーゼ阻害薬 は使用 して いない。高血圧、発作性頻拍症 の加療 を受けてい た。2001年 1月 11日 当院入院 し当初従来の糖尿 病食 (12∞ kcal)を 11日 間実施 し、1月 22日 か ら 1200kalの 糖質制限食を開始 した。糖質制限 食開始後インス リンを徐 々に減量 していった。入 院時 mAlc8。 0%で あったが血糖値、HbAlcと も に順調な改善が得 られ、 4月 11日 よ リインス リ (5mg)2錠 食前服用 にもかかわ らず血糖 ンを中止 した。インス リン中止後 14日 目の血糖 値 の 日内変動では、良好なコン トロールであった 値 269mg/dlと 高値であった (表 3)。 糖質制限 食開始後 11日 目には朝食前血糖値はさらに改善 がみ られたが昼食の玄米摂取時は血糖値274・ mg/ (表 5)。 昼食時は玄米飯 180gを 摂取するため血 糖値 21h電 /dlで あった。大酒家で禁酒は困難で あったため退院後 はビール、日本酒は禁止 し糖質 3)。 退院後の経過 も順調 で、2003年 2月 にオイグル コ ンを中止 したが 含有量のな い焼酎、ウイスキーのみの飲酒 とし、 糖質制限食 を継続 して コ ン トロール 良好である 2003年 12月 の段階で HbAlcは 5。 3%に 保たれて (表 6)。 症例 2は インス リン基礎分泌改善 の 目的で、2003年 10月 3日 か ら 3食 とも主食な しの糖質制限食 としている。 外来での食事記入表 による調査では、総摂取カ ロ リー は約 1400ko1/ 値 の改善があ り、 通常 のカロリー制限を中心 とし た糖尿病食 と比べその効果は速やかであった。 コバイ dlと 高値であった (表 いる (表 4)。 表3 症例2の 血糖値日内変動と一日尿糖 哺 (mg/dl) 夕食 前 夕食後 朝食前 朝食後 昼食前 昼雛 259 5月 10日 助 糖質を制限 した食事 また中性脂肪値 も速やかに改善 し、総 コレステ 1日 朧 (g/日 ) 表5 症例3の 血糖値日内変動とHbAlc 187 血糖値 (mg/d!) 5月 18日 朝食前 磁 5月 21日 90 84 2月 8日 3月 27日 4月 24日 04年 9月 30日 1月 30日 3月 27日 12月 18日 255 8.0 137 4月 19日 9月 6日 43 03年 1月 21 11月 21日 947 d A ノ U g m 11 G岬 T 症例3の 経過表 ケ い 01年 1月 4月 6日 9月 1日 30 一m 隣剛 89 (%) 104 (%) 213 8月 1日 眠前 108 m m 106 404 328 夕食後 149 228 283 6月 6日 AM U Cu T ケ“ (%) CM T 隣剛 腱時血腱饉 di) (m働 ′ 12月 11日 昼食痢 昼食後 夕 帥 1月 12日 表4 症例2の 経過表 7月 4日 ら食後血糖 玄米飯180gを 摂取する昼食後は高血糖 となるが、 この場合も夕食前には血糖値は改善がみ られた。 5月 17日 02年 5月 9日 5月 18日 (主 食な し)な 128 (京 都医学会雑誌・第51巻 第 1号 0平 成16年 6月 ロール値 はゆるやかに正常化 していった (表 2、 4,6)。 血清 BUNや クレアチエン、尿酸値に影 響 はなかった。糖質制限食を開始 して しば らくの 間は血中ケ トン体値は上昇するが、 制限食を続 け ていれば数週間か ら3な いし4ヶ 月でケ トン体値 ) HbAlc6。 2%以 下で推移 していた。 しか しなが ら 2003年 1月 か ら夕食にも自米を摂取 し始めて急 速に糖尿病が悪化 し3月 にはHbAlc10.3%と 一気 の上昇は落ち着 くことが多い。今回の検討では糖 にコン トロール不良となった。これは糖質含有量 が多 い主食を摂取 したあとは一定時間高血糖が持 続 し 3食 とも主食を摂取することで 24時 間中か 質を制限 した朝食や夕食の食後血糖値は 120∼ な りの時間高血糖状態があった ことが要因の一つ 180mg/dl程 度で 200mg/dlを 越えた症例はな と考えられる。また高血糖の持続はインス リンの かった。 考察 分泌を抑制 しインス リン抵抗性を大 としさらなる 高血糖 を引き起 こす。。 3食 とも主食を摂取 して 欧米 とくにヨー ロッパにおいては、 糖質摂取を減 らす食事療法は糖質管理食 として定着 している。。 急激に糖尿病が悪化 したことにはこれ らの要因が 関係 していたものと思われる。2003年 3月 12日 また米国において も、1993年 に発表された 1型 か ら、夕食の主食を中止 したところ 6月 30日 に は HbAlc6。 6%と 再びコン トロール良好 とな り糖 糖尿病研究 の Diabetes Controland Cmm― tionstialに おいて糖質管理食が成功を収めたこ とで、カロリー制限最優先の食事療法だけではな くな りつつあるD。 血糖値 を上昇させるのは基本的に糖質であ り、 糖質摂取後 15分 ∼ 90分 で 100%、 蛋 白質は 3時 間前後で約 50%、 脂質は数時間∼ 12時 間で 10 %未 満が血糖 に変わるう。当院で も過去糖尿病患 者 に対 しては従 来 の糖尿病食あるいは低GI※ 1食 である玄米 菜食 の食事療法 を行 ってきた。 しか しそれでは十分な改善の見 られな い糖尿病患者 に対 し、 糖質制限食を行 った ところ、著名な改善 が得 られた。 症例 1は 通常の糖尿病食を入院当初 10日 間実 施 してお り、 糖質制限食 との治療効果発現 の速度 の差が検討できる。 通常の糖尿病食の場合 1日 尿 糖は翌 日は ごく軽度の減少で、7日 後に約半分 に なっている。糖質制 限食 の場合 開始 の翌 日には 1/5以 下に劇的に改善 している。この改善に要 し た期間は通常の糖尿病食 に比 し極めて短期間で あった。 、また表 1の ごとく糖質制限をする限 り 食後血糖値の改善は速やかである。一方昼食 の糖 質摂取後は低 GIの 玄米飯にもかかわ らず 20日 も27日 もいずれ も 300mg/dlを 越えて いる。こ のように糖尿病患者が糖質を摂取すれば必ず高血 糖 を引き起 こすので、 糖毒性 を考慮すれば糖質摂 取に関 して一考 の余地がある。 糖質制限食で コン トロール良好 とな りある程度インス リン作用の回 復があった と考 え られ、 糖質制限食開始後半年経 過 した 2002年 4月 か ら朝食に自米を摂取 しても 質制限食が有用であったと考え られる。症例 1は 結果 として夕食の糖質摂取チャレンジ 0テ ス トを 行 い糖尿病が劇的に悪化 した こととなる。症例が 少ない段階で安易に結論は出せな いが、少な くと も本例にお いては、夕食の主食 (白 米)摂 取が糖 尿病のコン トロールを劇的に悪化させた主因と考 えられる。 症例 2は 従来の糖尿病食を実践 し初診後 11年 間コン トロール良好であったが、2001年 10月 以 降同様 の食事療法 を続 けて いたにもかかわ らず 徐 々にコン トロールが悪化 した。 入院後糖質制限 食に切 りかえたところ糖尿病は急速 に改善 した。 糖質含有量の多い主食を摂取 しなければ血糖値は あまり上昇せず、インス リンの追加分泌の必要が 少なく膵臓のβ細胞は休養できてインスリン作用 不足 も回復 していくと考え られる。7年 間服用 し たオイグル コンも糖質制限食開始約 9ヶ 月後の 2003年 2月 には中止できた。症例 2は 長期間実 践 してきた従来の糖尿病食が無効 となった時に、 糖質制限食に切 りかえ速やかな改善が得 られてお り、 本例にお いては有用な食事療法だった と考え られた。本例は 2003年 10月 3日 か ら 3食 とも主 食な しの糖質制限食を実行 しているが この場合、 ほぼ 24時 間高血糖状態にはな らずに β細胞 は一 日中休養できる こととなる。 症例 3は レギュラーインスリンを朝夕食前に注 射 していたが 2∞ 1年 1月 11日 入院時 HbAlc値 はコン トロール不良であった。入院後従来の糖尿 病食を 11日 間行ったが改善は軽度でイ ンス リン (京 都医学会雑誌・第51巻 第 1号 糖質制限食に切 りかえた 減量 には至 らなかった。 ところ血糖値は順調に改善 し徐 々にインスリンを 減量でき、3ヶ 月日に中止できた。退院後 も糖質 制限食のみで 2004年 3月 30日 の HbAlc5。 5%と コン トロール 良好が維持できている。 糖尿病治療 としては糖質制限食 のみで足かけ 6年 注射 して いたイ ンス リンの減量 0離 脱ができ、その後の経 過 も良好であ り本食事療法が有用であった と考 えられる。従来の糖尿病食では禁酒が基本であ 0平 成16年 6月 )129 して糖質制限食を行った。 2)主 食無 しの糖質を制限 した食事であれば、提 示 した 3症 例 において食後血糖値は 120∼ 180mg/dl程 度 であ り、膵臓の β細胞 はイ ン ス リン追加分泌の必要が少な くてすみ休養で き、その結果空腹時血糖値 も改善 していくと 考え られる。脂肪酸―ケ トン体 エネルギーシ ステムが活性化 し血中ケ トン体が高値 となる が生理的現象の範囲である。 り前医 において も指導 されていたが本例では守 られて いなかった。当院では糖質 を多 く含む醸造 3)糖 質制限食は糖尿病 の有用な食事療法 の一つ 糖質を含 まない蒸留酒である 酒は禁止であるが、 アル 焼酎やウイスキー は適量な ら許可 している。 コールそのものはエ ンプテ ィー カ ロ リー とされ 謝辞 血糖 を上昇させることな く一番 最初 にエネル ギー源として利用され少量な ら糖尿病への直接作 用は少な いと考 え られる。 9、 近年食後高血糖が早期か ら大血管の合併症に影 響 を与えると指摘され、血糖値が 220mg/dlを 超 えれば有意に組織障害が増加すると言われる0。 血糖を上昇させるのは基本的に糖質であるので糖 質を制限することが最も単純な高血糖対策である と考え られる。糖質 を制限 した食事 (主 食無 し) であれば食後血糖値の改善が見 られ、 結果 として 膵臓 の β細胞が休養でき、空腹時血糖値 も改善 し ていくと考え られる。 糖質を制限すれι 潮旨肪酸一 ケ トン体エネルギーシステムが活性化 し当初血中 ケ トン体値が上昇するが生理的変化であ り、 糖尿 病のコン トロールが悪化 し極端な高血糖が存在 し 高ケ トン血症が出現する病的な状況 とは異なる。 糖質制限食は従来の食習慣 とは大きく異なる食事 計画であ り、 継続 できない症例や理解が不十分で コン トロール不良の症例 もあったが、 症例を選択 すれば有用な糖尿病食事療法の一つであると考え られた。今後更 に症例 を重ね検討を続けるととも に、長期予後 についても検討 したい。糖質制限食 によ り糖尿病のコン トロールが良好 となれば脂質 代謝が改善し大血管 の合併症の予後 リスク要因の 一部は減少す ることが期待 されるが、この点に関 しても長期 の経過観察が必要である。 まとめ 1)糖 尿病 の本態 は糖質処理 システムの機能低 下・ 破綻であると考え、糖尿病の食事療法 と である。 愛媛県宇和島市 アクアクリニック別当、釜池豊 秋先生に糖質制限食 に関する貴重なア ドバイスを 頂 いた ことを深謝 いたします。 参考文献 1)Diabetes UK.Diabetic Medicine,20,786‐ 807,2003. 2)Diabetes Control and Complications Trial (DCCr)Reseach Group:New Eng JlMed,329: 977-986,1993. 3)糖 尿病教室パ ー フェク トガイ ド Life with E)iabetes A series of Teaching Outlines by the Michigan Diabetes Research and Training Cen‐ r池 田義雄 監訳 p378,p4012∞ 1年 医 “ 歯薬出版株式会社 4)糖 尿病専 門医研修 ガイ ドブ ック 日本糖尿 病学会編著 診断 と治療社 p42∞ 1年 5)糖尿病専 門医研修 ガイ ドブ ック 病学会編著 診断 と治療社 日本糖尿 p712∞ 1年 6)http:〃 hb8.scikyoueneojpノ home/Pianomed/ index.html板 東 浩 徳 島大学 医学部第 一 内科 註 ※l GI(Glycemic hdex血 糖指数 )は 血糖上昇反 応度 とも言 われ る。糖質50gを 含 む食品 を 摂取 した後 の血 糖値 の上 昇 を、基 準 とな る食品 (ブ ドウ糖50g)を 摂取 した後 の血糖 値 の上 昇 と比 較 し、 パ ー セ ン トで表 した 数字 である。GIが 高 い食品 ほ ど食後 の血 糖が急激 に上昇す る。
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