川島労務経営コンサルティングオフィス通信 8月号

川島労務経営コンサルティングオフィス通信
2015
8月号
発行:川島労務経営コンサルティングオフィス
〒141-0031 東京都品川区西五反田 7-22-17 TOC ビル 3 階
TEL 03-5436-1217 FAX 03-5436-1218
email:[email protected] 発行:2015 年7月19日
『 健 康 経 営 』 は 日 本 企 業 に 浸 透 す る か ?
アメリカの企業が先行していた「健康経営」が日本でも大企業を中心に根を張りつつあります。
「健康経営」とは一言でいえば、従業員を企業が成長するうえでの貴重な“資産”と捉えて、従業員の健康増
進を人的な資本に対する“投資”として捉える考え方であり、
“投資”を戦略的に行うことで、プラスの収益を
実現するという積極的な経営という意味です。
社員の健康に投資する会社こそがエクセレントカンパニーになれる、という「健康経営」の考え方を初めて唱
えたのは 1992 年に「ヘルシーカンパニー」を出版した経営学と心理学の専門家であるロバート・ローゼンと
いう学者で、社員の健康と会社の健康は実際に相関すると提唱しました。
そして、
『肥満や喫煙などの不健康な生活習慣には会社が積極的に関与して、予防や早期治療にお金をかけた
ほうが結果として医療費は少なくて済む。そればかりでなく、より健康な社員はそれだけ生産性も高く業績に
も貢献出来るので、健康への投資は将来何倍にもなって返ってくる。』これが、先行するアメリカ企業の考え方
です。
さらに、アメリカにおいて「健康経営」が普及したのは、ヨーロッパや日本と違い公的な医療保険制度がない
ことです。医療の高度化に伴い高額化する社員の医療費は直接企業財務を圧迫します。当初は医療保険料のう
ち会社負担分を減らして従業員に転嫁する荒治療も試しましたが、医療費高騰のペースには到底追い付きませ
んでした。
そこで様々な試行錯誤のうちに見いだせれ検証された「健康経営」は、極めてアメリカ的な経営モデルといえ
ます。
では、医療保険制度の存在する日本でも注目されている理由は何でしょうか?
1.
健康保険組合等の赤字
2008 年度から、
「特定健診・特定保健指導」
(俗にいうメタボ検診)が導入され、健康保険組合
等の加入者で 40 歳以上の人を対象に、生活習慣病対策が義務付けられました。大企業の多くは
健保組合を設立していますし、中小企業は全国健康保険協会が管掌する健康保険に加入していま
す。いずれにしろ、生活習慣病対策の一翼を担うこととなります。
心身を病んで治療が必要になる従業員が増加すれば、その医療費が健康保険の財政を圧迫します。
健康保険組合を例に取れば 2007 年度までは全組合の合計で経常収支が黒字
でしたが、後期高齢者医療制度がスタートした 2008 年度以降は毎年巨額の赤字を計上し続け、
2014 年度の経常収支は、経常収入 7 兆 4,155 億円、経常支出 7 兆 7,844 億円、経常収支差
引額は 3,689 億円の赤字となり、高齢者医療制度創設以降、7 年連続で大幅赤字となる見込み
で、7 年間の累計赤字額は約 2 兆 7,300 億円にも及びます。(健康保険組合連合会調べ)
料率引上組合数
経常収支差引額
2.
65 歳定年への対策
※健康保険組合連合会資料
2012 年に高年齢者雇用安定法が改正され、2013 年度からは、65 歳定年に向けた措置が本格
的に始まり、2025 年度以降企業は原則として希望者全員を 65 歳まで雇用しなければなりませ
ん。高齢になればおのずと持病の一つや二つは抱えることとなるでしょう。そうなれば当然健康
保険の財政をさらに悪化させることが予想されます。
3.
中堅・中小企業の場合
社員数の少ない中堅・中小企業の場合、病気などで休職者や退職者が発生すると生産性が大幅に
低下します。抜けた穴を埋めるのに、残った社員の負担が増して身体を壊す負の連鎖に陥る恐れ
もあります。また、オーナー企業のトップが倒れれば、会社自体の存続が危ぶまれるケースもあ
るでしょう。
理由はともあれ、
「健康経営」は企業側にも従業員側にもメリットがあると思われ、大いに進めてほしいもので
す。
さて、日本において大企業にとどまらず中小企業へも「健康経営」を水平展開するためには何が必要でしょう
か?
多くの経営者が「健康経営」に着手する際に考えるのは、その費用対効果です。
「健康経営」を進めるうえで、企業としては当然そのための費用が余分に必要となるので、その投資に対して
どの程度のリターンがあるのかを把握しなければなりません。つまり、リターンの「見える化」が必要となり
ます。
そのために、国は「データヘルス計画」なるものを推し進めています。
「データヘルス計画」とは、保険者(健康保険組合等)が保有するレセプト(診療報酬明細書)や、事業主か
ら提供された健康診断データなどの情報を活用し、加入者の健康づくりや疾病予防、重症化予防を行う事業で
す。2013 年6月に閣議決定された「日本再興戦略」にも盛り込まれました。レセプトや健康診断データの電
子化・標準化の進展により、従来困難だった、多くのデータに基づく医療費の内容や傾向の分析が可能となり、
また、医療費データと健診データの突き合せを行うことで、 個々の加入者の健康状態の変化を把握出来るよう
になっています。このような環境の変化を受け、データヘルス計画では、各種データの分析にもとづいた、よ
り効果的な保健指導の計画立案とその実施をPDCAサイクルで実施しようとしています。
これにより、企業が従業員の健康のために投資した結果、従業員の健康が増進されたことが数値化されること
により「見える化」され、さらに、生産性アップとの相関を検証出来る可能性が強くなります。
このほか国が企業の「健康経営」を後押しする施策には次のようなものがあります。
日本において先進的に「健康経営」を取り組む会社のなかには健康管理を担当する役員級の責任者、いわゆる
「最高健康責任者」を置くところが出はじめています。
CEO=最高経営責任者、CFO=最高財務責任者とならぶ CHO(Chief Health Officer)と呼ぶそうです。
CHO は会社や組織などが従業員やその被扶養者の健康づくりを企業経営の一部として位置付け、経営責任と
して従業員等の健康マネジメントを組織的に運営していくための最高責任者
です。
ロート製薬株式会社では、副社長兼 CHO としてインド人のジュネジャレカ
氏が就任。
SCSK 株式会社では、中井戸会長兼 CEO が CHO に就任。
テルモ株式会社では、
松本幸助執行役員が CHO を兼務。
等々。。。
。
従来、自分の健康は自分で責任を持つといった風潮が強かった日本企業にも
大きな潮目の変化が訪れているのかもしれません。これも日本企業における“人材”に対する考えが“人財”
= “資産”として捉える方向にようやく向いてきたからかもしれません。
連載トピックス
マイナンバー制度のスタートに備えて③
企業が個人番号を取り扱う上では、取得、利用・提供、保管・廃棄、安全管理措置を適切に実施する必要が
あります。今回は、個人番号の取得にスポットを当てます。
企業が個人番号を取り扱う上での注意点/取得編
個人番号を取得する際には、利用目的を特定し明示する必要があります
・たとえば、源泉徴収のために取得した個人番号は、源泉徴収に関する事務に必要な限度でのみ利用可能です。
・なお、従業員から個人番号を取得する際に、源泉徴収や雇用保険・健康保険・厚生年金保険の手続きなど、
利用目的を包括的に明示して取得し、利用することは差し支えありません。
注.利用目的を後から追加することはできません。
成りすまし防止のためにも、本人確認を厳格に行う必要があります
・本人確認では、①正しい番号であることの確認(番
号確認)と、②手続を行っている者が番号の正しい
持ち主であることの確認(身元確認)を行うことと
されています。所定のルールに従って行う必要があ
り、原則として、右のように行うこととされていま
す(政府資料)。
・対面だけでなく、郵送、オンライン、電話により個
人番号を取得することができますが、その場合にも、
所定のルールに従った番号確認と身元確認が必要
となります。
・本人確認は、個人番号の提供を受ける都度、行う必
要があります。たとえば、従業員から個人番号を記載した扶養控除等申告書を毎年提出してもらう場合、本
人確認も毎回行う必要があります。ただし、2回目以降の番号確認は、初回に本人確認を行って取得した個
人番号の記録と照合する方法でも構いません。また、身元確認については、雇用関係にあることなどから本
人に相違ないことが明らかに判断できると認めるときは、身元確認のための書類の提示は必要ありません。
疑 問:従業員の扶養家族の個人番号を取得するときは、扶養家族の本人確認も行わなければならないのか?
回 答:扶養家族の本人確認は、各制度の中で扶養家族の個人番号の提供が誰に義務づけられているのかによっ
て異なります。たとえば、扶養控除等申告書については、従業員が、企業に提出することとされている
ため、従業員が、その扶養家族の本人確認を行う必要があります(企業側が、扶養家族の本人確認を行う
必要はありません)。
一方、国民年金の第3号被保険者の届出については、従業員の配偶者本人が企業に対して届出を行う必
要がありますので、企業側が当該配偶者の本人確認を行う必要があります。通常は従業員が配偶者に代わ
って事業主に届出をすることが想定されますが、その場合は、従業員が配偶者の代理人として個人番号を
提供することとなりますので、企業は代理人から個人番号の提供を受ける場合の本人確認を行う必要があ
ります。なお、配偶者から個人番号の提供を受けて本人確認を行う事務を事業者が従業員に委託する方法
も考えられます。
トピックス
長時間労働の削減に向けた取り組み内容を点検しましょう!
全国展開する靴小売店の運営会社が、東京都内の2店舗で従業員に違法な長時間残業をさせた*として、
「東京労働局過重労働撲滅特別対策班(通称「かとく」)」は、労働基準法違反容疑で、同社労務担当取締
役と店舗責任者の2人を東京地検に書類送検しました。
「かとく」はブラック企業対策のため、本年4月、
東京と大阪の両労働局に設置された特別対策班ですが、書類送検は本件が初めてとなりました。
*「かとく」によると、法定労働時間や労使協定で定めた上限を超え、従業員計4人に対し、月約 97~112 時間の
残業をさせた疑い。同社では過去にも長時間の残業が行われ、東京労働局は平成 25 年に是正を勧告したが、改善が
みられなかったとのことです。
厚生労働省では、上記書類送検の少し前に「長時間労働の削減に向けて」というリーフレットを作成し、
公表していたところであり、長時間労働の是正が政府の重要政策であることがうかがえます。以下で、そ
のリーフレットの概要を紹介します。
※リーフレット⇒ http://www.check-roudou.mhlw.go.jp/pdf/chojikanroudou.pdf
「長時間労働の削減に向けて」の概要
「長時間労働の削減に向けて」では、「長時間労働の削減に向けて、あなたの会社の取組内容を、チェック
してみましょう」とした上で、これらの取組をしていない場合のリスクを示しています。
<チェック項目>
□
36協定は限度基準などに適合したものとなっていますか?
□
労働時間を適正に把握していますか?
□
年次有給休暇の取得を促進していますか?
□
産業医や衛生管理者などを選任していますか?
□
衛生委員会などを設置していますか?
□
健康診断や健康診断結果に基づく適切な事後措置などを
実施していますか?
□
長時間にわたる時間外・休日労働を行った労働者に対し
医師による面接指導などを実施していますか?
<上記の取組をしていない場合のリスク>
◆ 労働基準監督署による書類送検
◆ 労働基準監督署による労災認定
◆ 民事訴訟による多額の賠償金の支払請求 〔上図(リーフレットより抜粋)参照〕
☆チェック項目は、労働基準法、労働安全衛生法などが遵守されているか否かを判断するためのものとなっ
ています。その詳細につきましては、気軽にお尋ねください。
お仕事
カレンダー
8月
●一括有期事業開始届の提出(建設業)
8/10
主な対象事業:概算保険料 160 万円未満でかつ請負金額が 1 億 8,000 万円未満の工事
●7
月分の源泉所得税、住民税特別徴収税の納付
●7
月分健康保険料・厚生年金保険料の納付
●個人事業税の納付<第1期>
8/31
●6
月決算法人の確定申告・12 月決算法人の中間申告
●9
月・12 月・翌年 3 月決算法人の消費税の中間申告
●個人事業者の当年分消費税の中間申告
●個人の道府県民税・市町村民税の納付<第
2 期>
◆あとがき◆
最近よく人材育成が大事だという言葉を聞きます。そこで、どういった人材育成を実際やっているのかを聞くと、大方 OJT
で対応しているとの回答が返ってきます。そこで、会社で標準化された OJT の手法や体系があるのかを聞くと、現場の責任
者に任せっきりといったケースが殆んどです。さらには、現場の OJT がちゃんと機能しているのかをチェックする体制もあ
りません。
このような状況でありながら、一方で、部下がなかなか育たないといった不満の声もよく聞きます。
OJT といえば聞こえはいいのですが、実際は現場任せで放りっぱなしというのが実態ではないでしょうか。また、先輩による
指導があったとしても、こういった現場任せの OJT では先生役の先輩の能力が MAX であり、育つレベルもバラバラになり
かねません。
「昔は上手くいってたのに」という声もよく聞きます。では、なぜ現場の OJT では人が育たなくなったのでしょうか?
《かつて》
・いまより時間的余裕があったことから、
「教育的瞬間」に居合わせることが多かった。
・密接で面倒見の良い人間関係が存在した。
・先輩社員が勝手にロールモデルを担ってくれていた。
《現 在》
・職場が多忙化し、マネジャーの時間がどんどんなくなり、部下の育成に手が回らなくなってきた。
・忙しくなったとはいえ成果は出さなければいけないため、出来る部下に優先して仕事を振っていく。
・仕事が出来る部下はますます成長するが、振られない部下はいつまでたっても成長しない。(二極化)
業務達成のために出来る人に仕事を振るのは簡単でアウトプットも安心です。しかし、出来る否か分からない人に仕事を振る
と指揮・監督等にも手間がかかるうえ、アウトプットも不安です。こういった背景が多くの企業にあるようです。
人材を育成する仕組を会社として体系的に設定したいとお望みであれば、是非、ご相談ください。