2014 年度 本州太平洋サケ 4 年魚の回帰状況 (最終報:2 月 28 日現在) 独立行政法人水産総合研究センター 東北区水産研究所 沿岸漁業資源研究センター ・2 月 28 日現在までの本州太平洋側の地域のサケ来遊数は前年並みであるが、平年を下回 り、河川捕獲数は前年、平年ともに下回った ・津波による被害を直接受けたふ化場を有する河川において、4 年魚の減少が顕著であり、 震災の影響が顕在化した ・2015 年度は、岩手県、宮城県を中心に 4 年魚、5 年魚の来遊数が少なくなる可能性が考 えられるので、引き続き回帰動向を注視する必要がある 1.サケ来遊概況 2 月 28 日現在の本州太平洋(竜飛岬から東の青森県~茨城県)側の地域におけるサケ来 遊数(沿岸漁獲数と河川捕獲数の合計)は 852 万尾(前年同期:95%)と前年並みですが、 平年同期(1989~2013 年の平均値、1,468 万尾)との比較では 58%という状況です(図 1) 。 河川捕獲数は 82 万尾(前年同期:89%)と前年を下回っており、平年同期(136 万尾)と の比較では 60%となりました。 3,500 3,000 2,500 (万尾) 2,000 1,500 1,000 500 0 河川捕獲 沿岸漁獲 図 1.8 月 1 日~翌 2 月 28 日までの本州太平洋側におけるサケ来遊数(累計値) .2014 年度は速報値. 2.4 年魚の来遊状況および河川捕獲状況 前項の本州太平洋側のサケ来遊数について、年齢別に示したものが図 2 です。これをみ ると 2014 年度は 4 年魚(2010 年級群:東日本大震災の年に飼育されていた群)よりも 5 年魚の来遊数が多かったことが分かります。 3500 2年魚 3年魚 4年魚 5年魚 6年魚 7年魚 3000 (万尾) 2500 2000 1500 1000 500 0 年度 図 2. 2 月末時点のサケ年齢別来遊数(本州太平洋) 年級群(生まれ年)別の来遊数でみると、4 年魚までの回帰で見た場合、震災年級である 2010 年級群は、 資源が低水準となった 1995 年級以降で最も低い水準となっています (図 3) 。 1800 2年魚 3年魚 4年魚 5年魚 6年魚 7年魚 1600 1400 (万尾) 1200 1000 800 600 400 200 0 年級(生まれ年) 図 3. 2 月末時点のサケ年級群(生まれ年)別来遊数(本州太平洋) また、北海道太平洋側~本州太平洋側の主要河川における 4 年魚の河川捕獲数(図 4)を みると、全体的に 4 年魚の河川捕獲数は少ないものの、岩手県の安家川、田老川、津軽石 川、片岸川、盛川、宮城県の気仙沼大川、北上川において、2006 年度以降で最も少なくな っています。 (千尾) 20 1 新井田川 100 4 安家川 40 10 50 20 0 200 0 100 0 40 2 奥入瀬川 5 田老川 100 50 20 0 100 0 200 0 100 3 川内川 6 津軽石川 50 100 50 0 0 100 0 100 7 織笠川 50 50 0 0 8 片岸川 9 盛川 10 気仙沼大川 11 北上川 年度 図 4. 調査河川における 4 年魚の河川捕獲数.バーは 95%信頼区間. は 2006 年度以降最も少なかった河川. なお、ふ化場への直接的な震災の影響はなかった北海道太平洋側の地域においても 2014 年度の 4 年魚が減少していることが報告されています(北海道区水産研究所 HP さけます 来遊状況第 7 報 サケ年齢構成と体サイズ: http://salmon.fra.affrc.go.jp/zousyoku/H26salmon/h26salmon.htm#comment) 。 そこで、北海道太平洋側~本州太平洋側の各機関の調査河川(図 5)における、4 年魚の 旬別出現数のパターンを 3 年魚及び 5 年魚と比較すると、 岩手県の安家川で 11 月上旬以降、 田老川で 11 月下旬以降、 津軽石川および盛川で 11 月中旬以降、片岸川では 10 月下旬以降、 宮城県の気仙沼大川では 11 月中旬以降に 4 年魚の出現数が極端に低下しており、3 年魚お よび 5 年魚とは異なるパターンを示しました(図 6) 。一方、北海道太平洋側では、いずれ の河川においても、こうしたパターンは見られませんでした(図 7) 。 12 13 14 15 16 17 24 23 22 18 21 25 20 19 26 27 1 川内川 2 奥入瀬川 3 新井田川 4 安家川 5 田老川 6 津軽石川 7 織笠川 8 片岸川 9 盛川 10 気仙沼大川 11 北上川 図 5. 調査河川(1~11:青森県、岩手県、宮城県、東北区水産研究所が調査を実施する河川、12~27: 北海道、北海道区水産研究所が調査を実施する河川) 4年魚 3年魚 4 4 1 川内川 2 2 0 0 6 4 (千尾) 青森県 1.5 2 奥入瀬川 1 2 0.5 0 0 5 4 3 2 1 0 20 3 新井田川 5年魚 岩手県 宮城県 6 4 安家川 10 気仙沼大川 4 2 0 8 5 田老川 11 北上川 6 4 2 0 6 津軽石川 上中下上中下上中下上中下上中下 9月 10月 10 0 上中下上中下上中下上中下上中下 9月 10月 11月 12月 1月 3 2 7 織笠川 1 0 10 8 片岸川 5 0 4 3 9 盛川 2 1 0 上中下上中下上中下上中下上中下 9月 10月 11月 12月 1月 旬 図 6. 2014 年度の本州太平洋側河川における年齢別旬別出現数 11月 12月 1月 3年魚 北海道 根室海区 1 30 16 釧路川 20 0.5 10 1.5 0 0 0 1.5 40 0 10 8 6 4 2 0 14 当幌川 4 2 0 8 18 広尾川 1 0 0 10 6 上中下上中下上中下上中下上中下 9月 10月 11月 12月 21 静内川 0 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 22 錦多峰川 0 上中下上中下上中下上中下上中下 8月 9月 10月 11月 5 4 3 2 1 0 12月 25 鳥崎川 26 茂辺地川 2 1 2 4 0 2 4 0 2 24 遊楽部川 1 5 8月 15 西別川 6 20 日高幌別川 0.5 20 0 4 2 60 17 十勝川 6 0.5 0 13 標津川 19 歌別川 1 10 5 (千尾) 北海道 えりも以西海区 北海道 えりも以東海区 12 伊茶仁川 6 5年魚 4年魚 23 敷生川 27 知内川 上中下上中下上中下上中下上中下 8月 9月 10月 11月 12月 上中下上中下上中下上中下上中下 8月 9月 10月 11月 12月 旬 図 7. 2014 年度の北海道太平洋側河川における年齢別旬別出現数 また、図 5 に示した河川における 4 年魚の旬別出現割合(各旬の 4 年魚捕獲数÷各旬の 2 ~7 年魚の合計捕獲数×100(%) )のパターンの類似性を明らかにするためクラスター分析 を行ったところ、4 年魚の出現割合がある時期から極端に減少した津軽石川、安家川、田老 川、片岸川、盛川、気仙沼大川が同一のクラスターを形成し、極めて類似性が高いことが 明らかとなりました(図 8) 。このクラスターは、津波による被害を直接受けたふ化場とよ く対応しており(表) 、ふ化場の被災の影響を色濃く反映しています。なお、気仙沼大川ふ 化場は、津波の被害を直接受けていませんが、停電による緊急放流を実施した際に、湾口 エリアでは重油が流出し、洋上火災があったことから、稚魚の生残に影響を及ぼした可能 性が考えられます。 図 8. 旬別の 4 年魚出現割合パターンのクラスター分析(Ward 法による)結果(樹状図) 表. 各調査河川におけるふ化場の被災状況.★は、津波による被害を直接受けたふ化場を有する河川. 以上のことから、2014 年度は、北海道太平洋側も含めて 4 年魚の減少が認められている とともに、本州太平洋側(特に河口付近に多くのふ化場を有する岩手県)において震災の 影響による 4 年魚の減少が顕在化したと言えます。 また、通常では 4 年魚と 5 年魚の回帰数には正の相関関係が認められますが、近年は 5 年魚での回帰割合が高い傾向にあり(図 9)、震災の影響も含めてより一層、増殖事業の計 画に必要な回帰数の予測が難しくなりつつあります。 今後、震災の影響を評価するとともに北海道太平洋側を含めた回帰数の減少要因を明ら かにすることが必要なため、水産総合研究センターでは、 2015 年度も関係各県と連携して、 回帰調査を継続し、回帰状況の評価と、評価結果の定期的な公表を行うこととしています。 50 45 40 割合(%) 35 30 25 20 15 10 5 0 年級(生まれ年) 図 9. 来遊数に占める 5 年魚の割合の推移(本州太平洋) .2014 年度に回帰した 5 年魚は 2009 年級群.
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