中国の人材を育成し、中国の IT 化に貢献する

第6号
わが社の中国戦略(2006 年 3 月発行)
わが社の中国戦略
中国の人材を育成し、中国の IT 化に貢献する
富士通(中国)有限公司
ソフトウェア、プラットフォーム、電子デバイスを事業
の 3 本柱とする富士通。中国ではすでに 19 億元の投資を
行い、グループ総計で 1 万 8000 人の従業員を雇用してい
る。情報化の進む中国で、富士通は何をめざしているの
かを、武田春仁総経理に聞く。
海底ケーブルから始まった中国との絆
武田 春仁氏
富士通と中国とのかかわりは、日中国交回復から 2 年
後の 1974 年に始まった。日中の政府間協議で海底ケーブ
ルの敷設が決まり、中継システムで優れた技術を持つ富士通に声がかかったの
である。改革開放政策がスタートした翌年の 79 年には、富士通製コンピュータ
が天津計算機センターへ納入された。そして、同年 12 月、北京飯店内に富士通
の北京駐在員事務所が開設され、日中間のビジネスに弾みがついたのである。
80 年代に入ると、中国政府は世界銀行からの借款で大型コンピュータを導入
することになり、再び富士通に白羽の矢が立てられた。富士通は国家教育委員
会・農業部所属の 24 大学に当時最新鋭の大型コンピュータを納入したのである。
富士通が中国でその存在感を大きくアピールしたのは、93 年に人民大会堂で
開催した「富士通総合技術展」であった。外国の民間企業が人民大会堂を借り
切ってビジネス展示会を開催するのは前代未聞のことであり、大きな話題とな
ったのである。そして、95 年には富士通(中国)有限公司を設立。98 年には独
資では初めて、研究開発センターを設立したのである。
21 世紀に入って、富士通は 2 つの統括会社を設立した。ハードからソフトま
での情報システム販売を統括する、富士通(中国)信息系統有限公司と、半導
体部品の統括会社富士通微電子(上海)有限公司である。このように富士通は、
中国において直接投資会社 11 社、間接投資会社 28 社を持つグループへと成長
したのである。
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ソフト開発を中心に人材の育成に力を注ぐ
「富士通が中国で一貫して力を注いできたのは、優秀な人材の活用です」と
語るのは、武田春仁総経理である。
「私たちのビジネスは労働集約型ではありません。私たちが指向しているの
は、コンピュータを用いたソリューションビジネスです。そのために一番必要
なソフト開発の人材を確保すること。それが私たちの最大の狙いです」
富士通(中国)のソフト技術者育成は、社内の人材育成に止まらない。89 年
からは中国政府の要請に応じ、中国の情報処理技術者を日本で育成するなど、
中国情報産業の発展に貢献してきた。
最初に手掛けたのは、国家外国専家局の要請によるもので、中国のソフト技
術者を日本の富士通で 1 年間研修させ、最新技術の習得をめざすものであった。
これは 89 年から 99 年まで 10 年間行われ、177 名が参加し大きな成果を収めた。
95 年からは経営幹部を養成するセミナーが、同じく国家外国専家局の要請で
開催された。これは金融や流通などのテーマ別に、専門のコンピュータ技術を
習得するもので、中国および日本で研修が行われ、今日まで累計 200 名以上の
参加者を数えている。
98 年からは開放経済の進展にともない、日中経済セミナーが国家計画与発展
委員会の要請で、また市場経済セミナーが国家行政学院の要請で行われた。
「富士通が育成に関与した人材は、四百数十名におよびます。半数は富士通
グループ内で活躍しており、半数は出身母体である政府機関や大手企業に戻り、
指導的な役割を果たしています。政府部門で活躍している人の中には、すでに
局長や副大臣クラスの人たちが出てきています。富士通が日中の人材交流に役
立ち、しかも中国の発展に貢献できたことを非常に名誉なことだと思っていま
す」と、武田総経理は誇らしげに語る。
日中で成果を分かち合う研究開発活動を推進
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わが社の中国戦略(2006 年 3 月発行)
富士通は 98 年に外資単独で富士通研究開発中心有限公司を設立した。この構
想は 96 年 3 月、富士通経営陣が当時の江沢民国家主席に面会した際、中国にお
ける富士通グループのビジネス発展計画の柱のひとつとして明らかにしたもの
である。
「私たちが合弁ではなく、独資での研究開発センターにこだわったのは、研
究開発が富士通の生命線だからにほかなりません。しかし、だからといって研
究の成果を富士通が独占するつもりはありません。研究開発の多くは科学院を
はじめ、北京大学や精華大学など、優秀な機関との共同研究・委託研究の形で
進め、その成果をお互いが享受できるようにしています。中国の研究者は、研
究の成果が上がったら自分で事業化したいという意欲をもっています。そうし
た彼らの願いにそって、富士通の持つリソース、例えば資本や設備、技術を提
供し、事業化ができる仕組みをつくりあげています」
研究開発の中心分野は通信・情報処理・半導体で、常に 20~30 のプロジェク
トが進行している。内容も基礎研究から事業化をめざした開発まで、幅広い分
野におよんでいる。すでにいくつもの成果が上がっているが、注目されるのは
インターネットの検索システムである。
「これは富士通・北京大学・人民日報が共同で開発に成功したもので、漢字
の検索システムとしては画期的なものです。漢字はアルファベットや日本語に
比べ文字の数が膨大で、検索システムの構築は難しいと言われてきました。そ
れを我々のチームがブレークスルーしたのです。これにより人民日報の膨大な
データ検索が瞬時に行えるようになりました」と、武田総経理はシステムの完
成度の高さに自信を見せる。
1000 名の SE が日中両国の企業を開拓
外国企業が中国に魅力を感じるのは、豊富で良質な労働力市場と、13 億の人
口を背景とした旺盛な消費市場である。当初は生産基地としての中国が注目を
集めたが、21 世紀に入って所得水準が高まり、市場としての中国に世界の視線
が注がれるようになってきた。富士通は B to B のビジネスが主体だが、中国で
生産し、中国で販売する製品の比率が高まってきている。そこで、富士通は 03
年に、中国における IT ビジネスを統括する、富士通(中国)信息系統有限公司
と、半導体の設計・開発から販売までを統括する富士通微電子(上海)有限公
司を設立した。
富士通(中国)信息系統は、それまで分散していたハードとソフトの会社を
統合し、1000 人規模の営業と SE を結集して、日系企業や中国企業に対して、ソ
リューションやサポートの提供を行っている。一方、富士通微電子(上海)は、
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中国における半導体事業を上海の新会社に集約し、設計から販売までを一貫し
て行っている。
「両社の主要ターゲットは、当面、日本国内で取引関係にある日系企業とい
うことになります。当社の強みは、何と言っても長年にわたり人材活用に力を
注いできたことです。例えば信息系統では 1000 名の営業・SE のうち、半数の
500 人は日本語が使えます。これを武器にしっかりと日系企業に食い込んでいま
す。最近では、日系企業も現地調達に力を注いでおり、これからは地元の中国
企業に攻勢をかけようとしています」
中国が WTO に加盟してすでに 5 年がすぎた。
中国での改革開放が進むにつれ、
産業構造が第 1 次産業から第 2 次産業へ、そして第 3 次産業へと移行していこ
うとしている。今後、流通や金融サービスの自由化が進めば、IT 化がいっきに
加速することになるだろう。いつそのときが来てもいいように、富士通は準備
を怠りなく進めている。
継続は力なりの精神で社会貢献を実践
日本企業は自己 PR が下手だといわれる。特に一般消費者との接点が少ない B
to B をフィールドとする企業はその感が強い。かつて武田総経理が秦の始皇帝
陵の近くをクルマで通りかかったとき、大きな看板が目に飛び込んできた。そ
れはアメリカの IT 企業が行った、希望小学校の寄贈を伝える PR 看板だったの
である。
「希望小学校の寄贈は日本企業の多くが行っています。当社も 95 年以来、河
北省、安徽省、吉林省、湖北省、雲南省に計 5 校を寄贈しています。私も昨年、
雲南省の希望小学校を訪れましたが、毎年、富士通の社員が学用品や運動用具
を持って訪れ、子供たちや地元の人々と交友を深めています。 また、内モン
ゴルでの防砂林づくりにも参加しており、植林を 5 年続けています。こうした
活動は続けてこそ意味のあることだと考えています。
善意からの行動は取り立てて宣伝すべきものではないと思っていましたが、
アメリカの IT 企業の看板を見て少し考え方が変わりました。企業イメージを高
めることは、ビジネスに好影響を与えるばかりでなく、優秀な人材確保にも役
立ちます」と武田総経理は語る。
富士通はこれまで中国事業に 19 億元を投資している。グループでの従業員総
数は 1 万 8000 人におよぶ。こうした事業を通じての社会貢献が、何にも増して
富士通の企業イメージ向上に役立っているのである。
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わが社の中国戦略(2006 年 3 月発行)