「子ども・子育て支援新制度と自治体行政の課題」 [PDF:365KB]

平成26年 10 月 10 日
江津市議会議長
藤田 厚 様
江津市議会議員: 森川 よしひで
議員個人研修会報告書
☆テーマ
「子ども・子育て支援新制度と自治体行政の課題」
☆選択理由
今回の研修会最大の注目点は、子ども・子育て行政の方向性と内容性が本当に将来の国を
つくる人材育成として、制度としても、財源の在り方としても、保護者の願いとしても、江
津市行政の責任の在り方としても、ふさわしい在り方となっているのかどうか。
☆研修内容
1.子ども・子育て支援新制度の枠組み、政省令の概要、条例提案状況
2.新制度の給付と財源、公定価格、施設の種類・移行問題
3.保育の利用 認定と利用調整、保育料の徴収
4.市町村・地方議会の課題―事業計画と認可・確認の基準
☆今後に活かす課題と感想
★新しい子育て制度について
2015 年 4 月からの改正は、戦後初めての大きな「改革」であり、このモデルは介護保険制
度と言われています。最大の特徴は、これまでの市町村の責任によって保育を提供する現物
給付の制度を改め、
利用者と事業者の直接契約を基点にする現金給付へのしくみへ変更です。
この点については、一般質問でも、委員会審議の中でも取り上げて、保育施設への入所基
準の問題や同じ認定を受けても、入所する施設によって受けられる保育の内容について違い
はないのかなど質しました。施設によって保育のあり方が違うことはあってはならないとい
う答弁を確認しました。
保育所と幼稚園の運営の変更についても、保育所・幼稚園の施設数が減ることはないが、
基本的には民間経営を原則すると強調しましたので、市の責任は後退すると感じました。
★財源に在り方について
この新しい制度は、来年 10 月に消費税が 10%に上がる増税分から毎年 7000 億円が新たに
子育て支援の充実に投入されることを前提に組み立てられているので不明確なものが数多く
あります。保育料・利用料の値上げはあるのか。保育料以外に保護者負担が発生するのか。
保育所と幼稚園では公定単価加算が異なっていますが、保育料・利用料に影響が懸念され
ていますが、そもそも、国が定める公定単価は来年 10 月の消費税増税を前提にしています。
なにより、子育て支援制度のための消費税増税をしたのでは、子育て家庭をより苦しめるこ
とのなるのではないでしょうか。
★保護者の願いについて
一番の眼目は、入所待ち児童の解消ができるのかどうかという点です。これには保育士の
確保が重要なポイントとなりますが、確保できていない大きな要因は、非正規雇用の保育士
の待遇の悪さにあるのは現実を見れば明らかではないでしょうか。
私は、一般質問でも保育士の待遇改善と保育士の正規雇用比率を数値目標として設定など
をしてはどうかなどの提案も行いましたが、江津市としては数値目標を設定する考えはない
し、各私立保育所の判断と答弁しました。
実際に、保育士の資格を持ちながら非正規雇用を嫌い、保育士以外の職に就いている人が
市内にも存在します。この点が改善されない限り、保育士の確保は難しいままとなります。
江津市独自の取り組みで、
保育士の雇用条件を改善することが必要ではないかと思いました。
★江津市政の責任について
この新制度の内容、改正点等を保護者・保育者・教育関係者等への周知、徹底の問題は行
政の責任で行うことになりますが、来年の 4 月にスムーズな移行を実現するにはいくつかの
問題点と課題があると感じました。1 つは、入所の受け付けを行う際の保護者への説明と申
請書の記載等が一回で済まずに数回にわたるのではないか。2つに、教育関係者・幼稚園・
保育所関係者や経営者などへの説明は、多くの協議と意見交換が必要となりますが、複雑な
制度の徹底が進むのか心配されます。3つに、認定作業を行う江津市の人員体制はどうかと
いう問題です。具体的には保護者の就労・就学状況、妊娠、出産、保護者の疾病や障害、同
居者の介護や看護の状況、災害復旧事業に従事しているか、虐待やDVのおそれ、求職活動
中など多岐にわたり調査、必要性について判定されます。今の人員では対応できるのか懸念
されます。
日 時 2014.8.18(月)9時 30 分から 17 時まで
場 所 兵庫県県民会館
講 師 逆井直紀・村山祐一・田村和之・藤井伸生
2014年11月20日
子ども子育て支援新制度についての個人研修の報告
多田 伸治
8月18日に神戸市で行われた地方議員セミナー「子ども・子育て支援新制
度と自治体行政の課題」に参加しましたので、報告いたします。
「子ども子育て支援新制度」により、国が保育などの制度を変更したことに
ともない、地方自治体でも来年4月から保育所や幼稚園の運用変更が必要にな
ります。
ただ、その際に保育料や保育の質など、従来のサービスよりも後退すること
が懸念されており、セミナーではそうならないよう、どのような取り組みが自
治体・地方議会に求められているかを重点的に研修しました。
江津市では9月定例会において、
「子ども子育て支援新制度」に基づく条例制
定および改定が提案されましたが、少子化が進む江津市として、保育所・幼稚
園での安全・安心を維持することは非常に重要となるため、現状の保育水準の
維持を主眼に、セミナーでの研修に基づいて審議および討論に臨みました。
☆9月9日に行われた建設厚生委員会での質疑
多田 条例案では保育施設は「正当な理由」があれば利用を拒めることになる
が、なにをもって「正当」とするのか。
市執行部
規定はない。通常一般的な理由と考える。保護者からの申し立てが
あれば、その都度検討する。
多田 保育の質の向上のために、施設の判断で教育などを行い、その費用を保
護者に求めることができるとある。費用を負担できる場合と負担できない場合
とで子どもが分けられるのか。
市執行部 実費徴収への補足給付を策定中の計画に盛り込むことを協議中。
多田 保育時間は保護者の状況次第で最大 11 時間となる。負担が増える保育士
の人員への対応ができるのか。
市執行部 現状と同様、ローテーションで対応する。公定単価(国や自治体が
支出する経費)が人員加配の可能な設定にされており、人員増にも対応できる。
多田 条例案では施設での保育の向上が謳われているが、それには市からの予
算付けが必要となる。市では最低限現状と同程度の保育への予算が確保できる
のか。
市執行部 必要な予算は確保していきたい。
多田 新規に設定される小規模保育事業所や家庭的保育事業所などでは、保育
士資格がなくても保育が可能となる。条例案では保育の向上を謳っているのに、
現状より後退するのではないか。
市執行部 従うべき国の基準に沿って設定している。保育を受けられる機会は
増えることになる。
多田 2013年での保育施設の死亡事故は、認可保育所に比べ無認可保育所
ではるかに多く発生している。保育士の配置が必要ではないか。
市執行部 新たな施設については、行政が許認可権限を持ち運営の基準を定め
て、現地調査もして適正な事業所か判定するので、これまでとは状況が異なる。
多田 小規模保育事業所や家庭的保育事業所などはあくまで「保育所」ではな
い。今後このような施設が市内にでき、そこへ入所したとしても「保育所」へ
の入所を求める資格・権利を保持できるのか。
市執行部 保護者のニーズに応える。希望があれば保育所へ入れるよう協議す
る。
市執行部の説明では、保育施設が増えれば保育を受ける機会が増えるとのこ
とでしたが、保育施設での安全性が損なわれれば、機会が増えても意味はあり
ません。また、保育料・運営の要綱・国からの支出など、重要にも関わらず未
確定の部分が多いことも問題となります。以上の理由から「議案第45号・江
津市特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準を定める
条例の制定について」と「議案第 46 号・江津市家庭的保育事業等の設備及び運
営に関する基準を定める条例の制定について」に反対しました。
以下はその際の討論原稿です。
☆議案第 45 号 江津市特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営
に関する基準を定める条例の制定について
日本共産党江津市議会議員団の多田伸治です。議案第 45 号「江津市特
定教育・保育施設及び特定地域型保育事業の運営に関する基準を定める条
例の制定について」への反対討論を行ないます。
この条例案は保育所や幼稚園の運営について定めるものですが、日本共
産党江津市議団では森川議員の一般質問を下敷きに建設厚生委員会での
審査の結果、反対することとしました。
まずその一つ目の理由は、多くの点で不明瞭な内容となっていることで
す。
 新制度での保育料について問うと「現行の保育料より高くならないよ
う設定『したい』」。
 条例案で、保育施設に「正当な理由」があれば利用を拒めるとされて
いることについて、なにをもって「正当」とするのかを問うと「保護
者からの申し立てがあれば、『その都度検討する』」。
 条例案にある、保育施設の判断で行う教育にかかる保育料以外の保護
者負担について問うと「新たな制度で負担への補助を策定中の計画で
『検討したい』」。
 条例案では、保育施設での保育の向上を謳っているが、そのためには
最低限でも現状と同程度の市からの予算を確保できるのかを問うと
「必要な予算は確保『していきたい』」。
予算は仕方がないにしても、条例として成立すれば、来年の春からの運
用が、そして保護者への説明は今年の 11 月には始まるというにも関わら
ず、不確定の要素が多すぎます。
次に二つ目の理由として、保育にあたる人員の確保に不安がある点です。
森川市議からの「入所待ち児童解消に向けての保育士の確保に新制度で対
応できるのか」との問いには「潜在保育士の発掘や新規就労者の確保に努
力する」との答弁がありましたが、現状でも保育士が不足しているのにな
ぜ人員の確保ができるということになるのでしょうか。
また、委員会での質疑で「最大 11 時間となる保育時間に対応できるの
かと」の問いには「現状と同様のローテーションで対応する」と答弁され
ています。しかし、保育士も労働者です。8時間労働が基本です。単純計
算で3時間は余ると言うのにローテーションがまわるでしょうか。現状で
も保育士さんたちの献身でなんとかなっているのですから、さらに厳しさ
は増すでしょう。そこが解決できないままでは、大きな問題を抱えこむこ
とになります。
余談として、保育士不足を打開するためには保育士の非正規から正規雇
用への切り替えが可能な予算措置をはじめ、保育士の待遇改善が必須とな
ることを申し添えておきます。
最後に三つ目の理由として、十分な審査が行われていないという点です。
この条例案を審査した建設厚生委員会では、質疑の最中に田中直文市議
から「十分な審査が行われた」と、質疑の打ち切りを求める動議が出され、
採決が行われてしましました。
しかし、議案への質疑は 30 分にも満たず、その質疑も7人いる市議の
うち、私以外では島田市議からわずか一回あっただけです。
さらなる問題は、この動議が議会事務局から田中市議へ渡された「動議
を促すメモ」に起因する点です。委員会審査終了後、「どういう認識で事
務局がメモを渡したのか」と問いましたが、議会事務局長は「メモのある
なしは問題ではなく、田中市議の判断」と開き直りました。田中市議も「自
身の判断」としましたが、条例案を熟知しているのかと聞くと「そうでは
ないが、10 数回の質疑をしており、もう十分だと判断した」と述べてい
ます。
しかし、十分な審査がおこなわれていないことは、先程の建設厚生委員
会からの委員長報告への質疑でも明らかです。十分な質疑もないまま審査
が打ち切られる。議会事務局が議員の行動を左右して議会での審査に影響
を及ぼす。このようなことは絶対に議会であってはならないことです。
市議会議員として十分な審査が行われていないものに賛成はできませ
ん。これが三つ目の理由です。
条例案の不明瞭な点や人員確保の問題について、私としても多くの責任
は市ではなく国にあると理解しています。市執行部・職員のみなさんも国
から与えられた条件の中で、なんとか良いものをつくろうと努力されてい
ると思います。しかし、少子化に悩む自治体として、そして、子どもや子
育て世帯を応援する責任がある自治体として、十分な条例案となっていな
いことも事実です。
以上のことから、この条例案に反対させていただきます。
☆議案第 46 号 江津市家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準を定
める条例の制定について
日本共産党江津市議会議員団の多田伸治です。議案第 46 号「江津市家
庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準を定める条例の制定につい
て」への反対討論を行ないます。
この条例案では、現状では市内にない「小規模保育事業所」や「家庭的
保育事業所」が今後できた場合に、どのように運営するかの基準を定めて
います。そして条文では保育の質の向上を謳っています。しかし、これら
の事業所での保育は、そのほとんどで保育士資格のない保育従事者または
保育者が行えることとなっています。
ふつう、質の向上を謳うならば、最低の基準は現時点での保育とするべ
きです。そしてその基準であれば保育士なしの保育施設など到底考えられ
ません。
建設厚生委員会の審査では、国の基準に従ったものとの答弁がありまし
たが、札幌・盛岡・名古屋・福岡など、全国には保育士による保育を義務
付けている自治体もあります。保育の質を最低限維持しています。
最低限現状維持にこだわることには理由があります。厚生労働省の発表
によると、2013年における保育所での死亡事故は、認可保育所での4
件に対し、認可外保育施設では 15 件にも及んでいます。単純計算では3.
75 倍となりますが、認可保育所の利用児童数が221万9581人であ
るのに対し、認可外保育施設の利用児童数は 18 万4959人とわずか 12
分の1であることを計算に入れると、死亡事故発生率は 45 倍にまで跳ね
上がります。この議案第 46 号で決めようとしているのは、まさにこの認
可外保育施設をそのままに、市が責任を持たなければならない保育行政へ
取り込むことになるためです。
では、実際にどんな危険があるのか。
今年3月には埼玉県で無資格のベビーシッターに預けた子どもが亡く
なる事件が起きていることは記憶に新しいと思います。また、過去には認
可外保育所で昼寝の際に折り重なって下になった子どもがなくなるとい
うような事故も起きています。普通に考えて、市民のみなさんが自分のお
子さんあるいはお孫さんを、保育を受ける機会が増えたからと、危険が 45
倍にも増大する保育事業所に預けたいと思うでしょうか。答えは自明です。
そのような危険性を排除できない事業所を市の条例で認めるべきでは
ありません。市が行政として行うべき保育では、少なくとも現状を下回る
ことなく、保育を必要としている子どもへの行政としての責任を果たし、
子どもたちの安全を守るべきです。
以上の理由から議案 46 号は廃案にすべきであるということを申し述べ
て反対討論とさせていただきます。
セミナーでの研修により、質疑・討論など充実したものとなりました。今後
もこの質疑で不明瞭であった点などを改めて追求し、江津市での子育て支援を
より充実したものとできるよう、論戦を続けていく必要があると考えます。