「無料で寄付する」"KIFree!"プロジェクト

福澤諭吉記念文明塾
コア・プログラム13期 Dグループ
平成27年7月4日
最終報告書 要旨
「無料で寄付する」“KIFree!”プロジェクト(案)
~その可能性と展望~
1. 序文
我々は、NPO 法人(以下、NPO)への理解・関心の深化と寄付文化の醸成とを同時に実現させ
る仕組みとして、「無料で寄付する」新スキーム“KIFree!”を提案する。本稿は、着想以来、その可
能性と展望について私たちが 3 か月余りを賭して検討した成果をまとめたものである。
“KIFree!”とは「寄付(Kifu)」と「無料(Free)」を掛け合わせた造語である。ユーザーは、Facebook
経由でアクセスできる Web プラットフォーム上で、多様な社会課題の解決に尽力する種々の NPO
法人の活動を知り、考え、そして一切の自己負担を要することなく実際に寄付を「疑似体験」する
(後述)。そこでの小さな経験は、ユーザー各人に、より多様且つ具体的な形で現前して来ている社
会課題を突き付け、自身が生きる社会の中で諸般の構造的暴力に曝されている人々のために尽
力する他人が確かに存在していることを知らしめるであろう。だが、本構想は其処で終わらない、否、
主眼自体、其処には無い。即ち、自ら寄付という行為を「疑似体験」し、それに対する呼応を得るこ
とで、寄付することの喜びと意味を知らしめるとともに、その喜びと意味とを社会で汎く再現・敷衍し
ていくことまでを視野に入れているのである。
我々D グループが目指したのは、社会的潮流を創生し、よりよき未来に貢献することである。言う
に及ばず、財源や人員等の諸課題の存在については、検討の中で私たち最も痛切に感じている
ところである。しかしながら、本構想は時代的要請を満足させ、社会を変える可能性を持つもので
あると確信している。私たちが社会を変えたいのではない。社会が変わらなければならないのであ
る。その意味において、本構想が実現する余地が今の日本社会に残存していることへの期待ととも
に、以下に本構想の展望を記すところである。
2“KIFree!”概要
①財団・基金・私企業からユーザーへの寄付の「権利」の付与
拠出元から新規ユーザー(Facebook 経由で、既存の“KIFree!”ユーザーより招待)
に、たとえば 5,000 円の「寄付権」が付与される。これは厳密に言えば、
「拠出元の金
銭をどこに寄付するかの決定権を与えられる」ということである。
②新規ユーザーによる寄付先の「選択」
「寄付権」を付与された者は、Facebook 経由で外部ページにアクセスすることで、
晴れて新規ユーザーとなる。(登録等は必要ではなく、Facebook 上の個人情報を同期
することに承諾することで、実際に寄付先を選択することが可能となる。この寄付先
の選択にあたってユーザーは、当該ページ(資料 5)のにて 20 から 30 の NPO の活動内
容に触れ、寄付先を選択する。自身と関わりのない団体から与えられた「他人のた
めにしか行使できない寄付の権利」の対象を考える中で、社会課題の多様性と具体性
の双方を知るとともに、関心が惹起されるのである。
③財団・基金・私企業からの寄付金の「拠出」
ユーザーが選択した NPO に、財団・基金・私企業からの寄付金の「拠出」を行う。
④NPO からユーザーへの「お礼」
寄付先として選定された NPO は、ユーザーに対して Facebook 経由で「お礼」を送
付する。それはたとえば子供の笑顔の写真かもしれないし、手書きの手紙を PDF 等の
電子媒体にしたものかもしれない。Facebook という媒介を介した寄付が契機となり、
NPO 側も、ユーザーにアプローチする糸口を得ることとなる。継続的な寄付の依頼や
活動の報告、イベントへの招待等を、日常的に接するデバイスに直接的に送付するこ
とが可能となる。
⑤新規ユーザーへの紹介
「寄付」を疑似体験したユーザーは、Facebook を介して友人を“KIFree!”に招待
する。自ら「寄付」という行為を疑似体験し、それに対する呼応を得ることで、寄付
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することの喜びと意味を知り、そしてまた、その喜びと意味とを再現・敷衍していく。
⑥“KIFree!”ユーザーの拡大
①〜⑤の流れが再現・敷衍され、ユーザー数が加速度的に増加していく。
⑦関心の増大と「自発的」寄付
①〜⑥が重層的に織りなされていく中で、ユーザーたちは社会課題とその解決に向
けた取組への関心が増大し、ひいては自身の資産から(たとえ少額であっても)寄付をす
る心境に至り得る。一度「疑似体験」を通して知った寄付することの喜びと意味が、
人間の社会意識を変えるとともに、その活動の一端を担うに至る、そういったことの
端緒となる可能性を、この KIFree は秘めているのである。
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3.結語
昨年 2014 年、ALS ice bucket challenge1なるキャンペーンが世界中に波及していったこ
とは記憶に新しい。Facebook 社 CEO の Mark Zuckerberg 氏、彼に指名された Microsoft
社元会長 Bill Gates 氏、ひいては 20 名以上の Kennedy 一族が賛同し一斉に氷水を被り、
ひいては米国大統領の Barack Obama 氏も、寄付という形で参加、ALS 協会は 2014 年 7
月 29 日からの 3 週間で 1,330 万ドルの寄付金を集めた。なお、前年同時期の同協会への寄
付額は 3 万 2,000 ドルであった。
我々にあったのは、端的に、自分の財布を見ず知らずの他人のために開く経験に乏しい
のではないかという仮説(そして恐らくに事実であろう)、それだけであった。そして、そう
であるならば、自分の財布を開かなければいい。見ず知らずの他人を、具体的にイメージ
できるようになればいい。
“KIFree!”は、そのような思い付きから始まり、不毛とさえ感
じられる途方も無い議論の末に、一応の構想の体を獲得したものである。
日本社会に生きる人々に、公共心や社会意識が無いとは思えない。その端緒をどのよう
に演出するか、と考えた際、この構想は全体最適に近しい成果を出すものであると、我々
は確信している。本構想の実現過程で生じ得る具体的な障壁など、社会が全体として取り
組むべき課題に比すれば、あまりに瑣末なものであろう。最後に現れるのは、ひとえに人
の意志の問題にほかならないはずである。
本構想は、そのような意志が日本社会に存在していることを無条件に信頼したまま議論
を重ねてしまった、未熟な学徒たちの希望である。そして、そのような学徒が集う場が存
在している日本社会に対してこの種の希望を抱くことに、我々は一抹の疑念をも抱かない、
否、抱きようが無かった。それだけの話なのである。
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筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究を支援するため、バケツに入った氷水を頭からかぶるか、
またはアメリカ ALS 協会(英語版)に寄付をする運動。2014 年にアメリカ合衆国で始まり、
Facebook などの SNS や、Youtube 等を通して社会現象化し、世界的に広まった、参加者の
中には各界の著名人や政治家も含まれており、寄付金の増加や ALS の認知度向上に貢献して
いる。
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