だ だ - 福岡市医師会成人病センター

福岡市医報 第 56 巻 第5号(2015年9月)
Fukuoka City Medical Association Hospital
成
人病 センタ
福岡市医師会成人病センター ーだ
TEL(092)
831-1211 FAX(092)
845-7606
URL http://www.fma-hp.or.jp
第
より
31 号
1
20 5
9
月
1
日
が今後も緊張をもって診療にあたりたいと考
九十九折りの道
えます。
本年度も順調に診療実績は上昇しています
福岡市医師会成人病センター
院長 壁 村 哲 平
が病院運営は非常に大変です。薬価や物品購
入費の削減、ペーパレス化の取り組み、物品
皆様、いつも大変お世話
管理やSPD導入も積極的に検討していますが、
になっています。今年の夏
これらの取り組みも一部の職員の課題ではな
は如何お過ごしでしたか。成人病センター勤
く職員一人ひとりのコスト意識を高めること
務して初めてお盆の週に有給休暇を頂きま
が診療姿勢同様に重要と考えます。全てのも
した。うだるような暑さの中での日中の行動
のが対象であり必要な支出であるか、代用は
は大変でありますが、南風であるため黄砂や
ないのかの検討を促しています。電子カルテ
PM2.5も問題なく、高い空と入道雲、額を流
化はカルテ庫の他目的利用が可能と思ってい
れる汗に地面に自分の濃い影を見たのも久し
たのですが、現時点での運用では必要な書類
ぶりのことでした。遠方で学生生活を行って
が各個人フォルダに生じ、毎日少しずつカル
いる愚息の帰郷もあり、ペーパードライバー
テ庫の棚を占領することとなり、逆にカルテ
の彼らの運転練習につきあい、唐津・白糸の
庫スペース不足の危惧さえ覚えます。職員の
滝、秋月・八丁峠・英彦山、故郷の日田・上
高い医療職としての自覚に加え、病院の経済
津江町、海の中道・志賀島と助手席で周りま
的環境を意識する取り組みは、狭く曲がりく
した。冷や冷やしながら助手席より運転の癖
ねった道を職員と共に安全に目的に向かって
や危険性を指摘し数時間付き合うことは指導
進む姿と重なります。今後ともご指導宜しく
する側も大変ですが指導を受ける立場も同様
御願いいたします。残暑厳しくもあり変動の
に大変であったようです。八丁峠を往復しま
大きな今日ですが皆様のご健勝をお祈り申し
したが復路はギブアップで交代することもあ
あげます。
りました。こうした休日の過ごし方もあるの
だと思っているところです。
休暇中の今年の盆診療を例年通りご利用い
ただき感謝いたします。院長自ら先頭に立っ
て働くことの意味合いも職員各人の意識の高
まりによりやや薄れてきた様に感じられます
─1─
福岡市医報 第 56 巻 第5号(2015年9月)
クローズアップ
シリーズ・嚥下 誤嚥性肺炎について
福岡市医師会成人病センター 診療統括部長 小 池 城 司
厚生労働省は去る7月20日に平成26年分の簡
炎のほとんどが高齢者であるとともに、肺炎と
易生命表の概況を発表した。それによると日本
比較して治療に難渋する場合が多い状況であっ
人の平均寿命は男性が80.50歳、女性が86.83歳
た。
となり、女性は世界第1位、男性はアイスラン
誤嚥性肺炎が発症する理由としては、①口腔
ドに続いてシンガポールとスイスに並んでの世
や咽頭内容物による誤嚥(嚥下機能の低下)と
界第2位である。平均寿命は延びることは喜ば
②胃逆流物(嘔吐などで)による誤嚥が挙げら
しい反面、健康面で望ましくない状況に直面し
れる。これは老化や脳血管疾患による嚥下反射
ている現実がある。悪性新生物や生活習慣病は
や咳反射の低下によって生じる。したがってこ
もちろん、ロコモティブシンドローム、サルコ
のような嚥下機能低下の高リスク者には十分な
ペニア、フレイル等多くの課題が列挙できる。
注意が必要となる。
今回より数回にわたりその中で年齢ともに低下
誤嚥性肺炎の症状としては、肺炎の一般的な
する嚥下機能について焦点を当てて、様々な角
発熱、咳、喀痰等の症状を訴えないことが多く、
度から嚥下に関連するテーマについてまとめて
なんとなく元気がないとか、単なる倦怠感を訴
いく予定である。
えるのみであることもある。そのために誤嚥性
第1回の今回は誤嚥性肺炎について簡単にま
肺炎の発症に気が付くのが遅れ、状態が悪化し
とめてみたい。日本人の死因は長年、第1位・
てからの治療ということになり、治療に難渋す
悪性新生物、第2位・心疾患、第3位・脳血管
るということにつながっていく。そのような状
疾患であったが、平成23年にそれまで第4位で
況にならないためには、食事中のむせ、喉がゴ
あった肺炎が脳血管疾患と入れ替わり第3位と
ロゴロ鳴っている、唾液がうまく飲み込めない、
なり、現在に至っている。厚生労働省人口動態
食事に時間がかかる、喀痰がきたないといった
統計から肺炎で死亡する人の94%は75歳以上で
サインに迅速に気が付き、早期に誤嚥性肺炎の
あり、高齢化によって肺炎の死亡順位が上がる
診断・治療することが望まれる。さらには一度
ことにつながっている。日本呼吸器学会による
誤嚥性肺炎を起こした者は、再発を繰り返しや
と高齢者の肺炎の70%以上に誤嚥が関係してい
すいということも忘れないことが重要である。
ると言われており、高齢者の肺炎が単なる感染
今後は、嚥下機能評価や嚥下機能トレーニン
症ではないということである。当院では平成
グといった誤嚥性肺炎を予防する点についてそ
25年度に肺炎で入院した患者総数172人中29人
れぞれの専門の立場からまとめてもらう予定で
(16.9%)が誤嚥性肺炎であったが、平成26年度
ある。今回の嚥下に関する一連のシリーズが先
は患者総数241人中56人(23.2%)と実数および
生方の診療一助となれば幸いである。
割合ともに増加傾向であった。さらに誤嚥性肺
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福岡市医報 第 56 巻 第5号(2015年9月)
ミニレポート
第5回祖原メディカルネットフォーラム
福岡市医師会成人病センター 副院長 勝 田 洋 輔
症例ディスカッションを中心とした祖原メ
らレジメに沿って症例提示を行い、ディスカッ
ディカルネットフォーラムも5回目を迎えまし
ションを通じて心臓CT、心臓MRIおよび冠動
た。毎回、テーマはできるだけ日常臨床に即し
脈OCTなどの新しいモダリティから明らかに
たものを選んでおり、今回のテーマは「胸痛を
なる純粋中隔梗塞や薬物溶出ステントの超遅発
再考する」としました。循環器診療における診
性血栓塞栓症などの病態について理解を深めま
断技術は、この10年で長足の進歩を遂げました。
した。続いて、國木医師から「MRIのすすめ」
そこで、新しい診断技術を通じて胸痛に隠れた
の演題名で簡単なMRI検査の撮影方法や利用方
病態を改めて考察することを目的とし、今回の
法の解説があり、最後に地域連携室からは、会
フォーラムを企画いたしました。これに伴い、
員の先生方からご紹介いただいた患者さんの動
好評を博しているフォーラム開催前のエコーハ
向について報告させていただきました。結果的
ンズオンは「心窩部痛を診る」として、心窩部
に、今回も70名を超える方の参加をいただき、
痛の原因となりえる胃・胆嚢・膵臓・虫垂等の
その後の情報交換会も多いに盛り上がりました。
疾患、心疾患・大動脈疾患についてエコー実技
次回は、糖尿病をテーマに、新たなアプローチ
を学びました。フォーラムは齋藤医師から「冠
で企画をしたいと考えています。次回も是非ご
攣縮性狭心症をコントロールする」の題名で
期待ください。
ショートレクチャーを行ったあと、権藤医師か
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福岡市医報 第 56 巻 第5号(2015年9月)
第47回 九州地区医師会立共同利用施設連絡協議会を終えて
福岡市医師会成人病センター 薬剤科 主任 長 岡 麻 由
7月11日(土)
、12日(日)
、ホテルニュー長
与の患者には簡易懸濁法の導入、服用回数が多
崎にて、第47回九州地区医師会立共同利用施設
く服用困難である患者には服用回数を減らせな
連絡協議会が開催されました。第一分科会では
いか医師へ相談等、<薬の安全性>としては腎
自施設での新たな取り組み、それに対する意見
機能障害患者への腎機能に応じた薬剤投与量の
交換が行われ、当院から薬剤科の取り組みとし
調節、経腸栄養剤の速度が速く下痢する患者に
て「フレイル患者に対する薬剤師の介入及び家
は投与速度の見直し等、<薬の有効性>につい
族指導の効果」について発表させて頂きまし
てはアルギン酸Na服用後の栄養剤と薬の投与
た。当院では平成22年より心臓リハビリテー
間隔について看護師に介助依頼等がありました。
ション開始後、チーム医療を実践し患者教育に
一方、薬剤師から家族への介入では、<飲み忘
力を注ぎ再発予防に取り組んでいますが、患者
れ防止のための工夫>として一包化し分包品に
の高齢化と共にフレイル患者も増加していま
日付を印字、<安全性のための工夫>としては
す。フレイル患者への薬剤指導は通常行われて
インスリンの種類変更時にインスリンの特性を
いないことが多いですが、当院では心臓リハビ
説明し低血糖への注意喚起、心不全でトルバプ
リテーション対象患者については100%薬剤指
タン開始の患者には口渇の訴えができるかを確
導を行い取り組んでいましたので、平成24年7
認し、飲水の指導、<有効性のための指導>と
月から平成25年12月の18 ヶ月間、循環器病棟
して食品との影響のある薬を服用中の患者には
に2回以上入院歴のあるフレイル患者18名につ
相互作用について、貼付剤を無意識にはがした
いて、具体的な介入内容・服薬アドヒアランス
り不適切な部位に貼付されていた患者には適正
の変化について検討しました。フレイルの患者
使用のための説明を行いました。フレイル患者
背景は、高齢、腎機能が悪い、入院期間が長い、
の服薬アドヒアランスを点数化し評価した結果、
入院時服用薬剤数が多い、半数は心不全患者と
入院2回目での調査において服薬アドヒアラン
いう結果でした。薬剤師から医療職への介入で
スは94.4%で維持・向上でき、非フレイル患者
は、<飲みやすさの工夫>として胃瘻や経鼻投
と同等でした。非フレイル患者の中には服薬ア
ドヒアランス悪化が1割程存在しており今後の
課題ではありますが、フレイル患者の薬剤指導
は全例家族を含めての指導であった為、家族の
存在は服薬アドヒアランスの維持・向上に必要
不可欠ではないかと思われました。発表後は医
師からの質問や薬剤師からの反響も大きく、こ
れからの高齢化社会を見据えた薬剤指導のあり
かた、チーム医療の重要性を再認識させられま
した。
─4─