新規酒造好適米による清酒の品質評価

栃木県産業技術センター 研究報告 No.12(2015)
受託研究
新規酒造好適米による清酒の品質評価
佳宏*
星
松本
健一 *
小坂
忠之*
Quality Evaluation of Sake using New Rice for Sake Brewing
Yoshihiro HOSHI,Kenichi MATSUMOTO and Tadayuki KOSAKA
農 業 試 験 場 で 育 成 し た 栃 木 酒 24 号 ,栃 木 酒 25 号 ,栃 木 酒 27 号 ,栃 木 酒 28 号 の 新 規 酒 造 好
適 米 4 系 統 の 試 験 醸 造 酒 に つ い て ,成 分 分 析 と 官 能 評 価 に よ り 保 存 中 に 経 時 的 に 品 質 評 価 を 行
っ た 。そ の 結 果 ,新 規 酒 造 好 適 米 4 系 統 の 試 験 醸 造 酒 は 着 色 度 ,3-DG は 熟 成 と と も に 増 加 し た
が ,吟 醸 香 成 分 等 の 香 気 成 分 は ほ ぼ 変 わ ら な か っ た 。官 能 評 価 に つ い て は ,熟 成 試 験 開 始 直 後 ,
常 温 保 存 区 3 カ 月 後 の 評 価 は 栃 木 酒 28 号 に よ る 試 験 醸 造 酒 の み 評 価 が 低 か っ た 。 常 温 保 存 区
7 カ 月 後 の 官 能 評 価 に つ い て は ,酒 質 ・熟 度 と も 栃 木 酒 27 号 ,栃 木 酒 28 号 に よ る 試 験 醸 造 酒
の 評 価 が 栃 木 酒 24 号 , 栃 木 酒 25 号 の 試 験 醸 造 酒 と 比 べ 低 か っ た 。
Key Words:新 規 酒 造 好 適 米 , 3-DG, 熟 成 , 官 能 評 価
1
はじめに
木酒 24 号による試験醸造酒を A 酒,栃木酒 25 号によ
近年,地産地消の流れから県産米を用いた酒造りが
る試験醸造酒を B 酒,栃木酒 27 号による試験醸造酒を
増加しており,栃木県オリジナル酒造好適米に対する
C 酒,栃木酒 28 号による試験醸造酒を D 酒とする。
酒造企業の期待も年々高まっている。そのような状況
表1に試料清酒の一般成分を示す。
の中,平成 17 年に「とちぎ酒 14」が奨励(認定)品
表1
種に指定され,県内各地で栽培されるようになった。
試料清酒の一般成分
A酒
しかしながら,とちぎ酒 14 は栽培性を重視して育種・
(栃木酒
選抜されたため,現状の県内酒造企業の大吟醸酒の原
24 号)
料米は主に県外産品種に依存している。
B酒
(栃木
酒
25 号)
C酒
D酒
(栃木酒
(栃木酒
27 号)
28 号)
平成 25 年度に栃木県酒造組合と産業技術センター
酸度
1.8
1.8
1.8
1.7
とで実施した重点共同研究『新規酒造好適米による大
アミノ酸度
0.8
0.9
1.3
1.3
吟醸酒の開発』において,これまでに農業試験場にて
アルコール
17.2
17.3
17.1
17.3
日本酒度
-1.4
-1.8
-2.8
-4.8
酢酸エチル
1.5
1.6
1.7
1.7
2.7
2.7
3.1
3.2
育成試験した新規酒造好適米候補 4 系統(栃木酒 24
(%)
号,栃木酒 25 号,栃木酒 27 号,栃木酒 28 号)につい
ての精米特性・醸造特性を評価した
1)
。
そこで,本研究では,最終的な新規好適米の系統選
(ppm)
定に必要な市場流通時の品質担保のために重要な熟成
カプロン酸
等に関するデータを得るために,新規酒造好適米候補
エチル
4 系統の試験醸造酒の品質評価を行った。
2
2.1
(ppm)
研究の方法
2.2
試料清酒
熟成試験
試料清酒を冷蔵保存区(5℃)と常温保存区(室温)
農業試験場の圃場で栽培された平成 25 年産新品種
に分け,暗所にて 2014 年 5 月から 12 月まで 7 カ月間
候補4系統の栃木酒 24 号,栃木酒 25 号,栃木酒 27
熟成保存し,経時的に成分分析,官能評価を行った。
号,栃木酒 28 号を県内酒造企業にて実地試験醸造した
2.3
精米歩合 50%の純米大吟醸酒 4 種を用いた。以下,栃
*
栃木県産業技術センター
成分分析
常温保存区の試験酒に対して,着色度
食品技術部
- 61 -
2)
,3-DG 3)-5) ,
栃木県産業技術センター 研究報告 No.12(2015)
0.04
香気成分を測定した。分析は国税庁所定分析法に準じ
(
た。
2.4
A酒
吸
A 光
B 度 0.02
S の
差
官能評価
5 月(熟成試験開始直後),8 月(保存 3 カ月後,初
B酒
C酒
)
呑切・交流会),9 月(保存 4 カ月後,栃木県清酒鑑
評会),12 月(保存 7 カ月後)に県内酒造技術者・国
0
税庁酒類鑑定官・当センター職員等により試料清酒に
ついて,きき酒により官能評価を行った。
D酒
0
2
4
6
保存期間(月)
5 月(熟成試験開始直後),8 月(保存 3 カ月後,初
呑切・交流会)の官能評価では,順位法により官能評
図2
8
各清酒の 3-DG 増加量
価を行った。常温保存区の試料清酒について,5 月は
28 人,8 月は 60 人の県内酒造技術者・国税庁酒類鑑定
図3,図4に香気成分分析結果を示す。
官・当センター職員等により酒質を総合的に官能評価
吟醸香の成分(カプロン酸エチル,酢酸イソアミル)
(1 位 4 点,2 位 3 点,3 位 2 点,4 位 1 点)し合計点
等の香気成分は保存中ほとんど変わらなかった。
で評価した。
平成 25 酒造年度県清酒鑑評会(保存 4 ヶ月後)の官
5.0
能評価では,純米吟醸酒が多く出品されている純米酒
カ
プ
p ロ
ン
p
酸
m エ
チ
ル
(
の部に出品酒中に暗番法にて出品し,13 人の審査員に
より他の出品酒と同様に 3 点法(優れるが 1,劣るが 3)
により合計点で評価した。
)
冷蔵保存区と常温保存区の比較については,15 人の
県内酒造技術者と当センター職員により,酒質と熟度
4.0
3.0
2.0
劣るが 5,熟度:若いが 1,過熟が 5)で評価した。
3
3.1
結果及び考察
B酒
C酒
1.0
0.0
の 2 項目について 5 点法の平均点(酒質:優れるが 1,
A酒
D酒
0
図3
新規酒造好適米候補による醸造試験酒の
2
4
6
保存期間(月)
8
カプロン酸エチルの経時変化
2.5
品質評価
(
酢
酸
p イ
p ソ
m ア
ミ
ル
常温保存区の新規酒造好適米候補 4 系統の醸造試験
酒について,経時的に着色度,3-DG,香気分析を行っ
)
た。
図1に着色度,図2に 3-DG,図3にカプロン酸エチ
2.0
1.5
A酒
1.0
B酒
0.5
C酒
D酒
0.0
ル,図4に酢酸イソアミルの分析結果を示す。
0
その結果,新規酒造好適米4系統の醸造試験酒とも
2
4
6
8
保存期間(月)
着色度,3-DG は熟成とともに増加したが,吟醸香成分
等の香気成分はほぼ変わらなかった。
図4
酢酸イソアミルの経時変化
0.05
3.2 きき酒による官能評価
(
A酒
吸 0.03
A 光
B 度
S の
差 0.01
B酒
3.2.1 5月(熟成試験開始直後),8月(保存 3
カ月後,初呑切・交流会時)における官能評価
)
C酒
表2に官能評価官能評価結果を示す。
D酒
その結果,熟成試験開始直後の評価も保存 3 カ月後
の評価も D 酒のみ低い評価となった。
‐0.01
図1
0
2
4
6
8
保存期間(月)
各清酒の着色度増加量
- 62 -
栃木県産業技術センター 研究報告 No.12(2015)
表2
5 月,8 月(初呑切・交流会)における官能評
熟度については冷蔵保存区,常温保存区共に C 酒,D
価結果
酒の評価が A 酒,B 酒と比べ悪かった。
試料名
5月
その結果,A 酒は酒質の変化が小さいこと,C 酒と D
8月
酒は 4 系統の中では熟成が進みやすい可能性が示唆さ
(初呑切・交流会)
れた。
A酒
77
177
B酒
87
164
C酒
77
138
試料清酒名
冷蔵保存
常温保存
D酒
40
121
A酒
2.1
2.2
B酒
2.2
2.5
3.2.2 平成25酒造年度県清酒鑑評会(熟成4カ
C酒
2.4
3.1
月後)における官能評価
D酒
2.7
3.2
表4
官能評価(酒質)結果
表3に平成 25 酒造年度県清酒鑑評会における官能
表5
評価を示す。この結果,純米酒の部では D 酒が最も劣
る評価であった。
官能評価(熟度)結果
試料清酒名
冷蔵保存
常温保存
また,短評では官能評価では甘みやダレに関する指
A酒
2.0
2.8
摘が多かった。これは常温保存区のサンプルであった
B酒
2.2
2.9
ため,冷蔵保存していると考えられる他の出品酒と比
C酒
2.7
3.4
べて,酒質が熟していたためと考えられる。
D酒
3.0
3.1
表3 平成 25 酒造年度県清酒鑑評会における官能評価
4
(純米酒の部)
試料清酒名
点数
農業試験場で育成した栃木酒 24 号,栃木酒 25 号,
短評
栃木酒 27 号,栃木酒 28 号の新規酒造好適米 4 系統に
(3 点
よる醸造試験酒について,成分分析と官能評価により
法)
A酒
B酒
26
25
保存中に経時的に品質評価を行った。
甘,バランス良い,旨み,カ
D酒
24
29
成分分析については,常温保存の新規酒造好適米候
プダレ,カプ老,ダレ,苦,
補 4 系統の醸造試験酒について,着色度,3-DG,香気
甘重
分析を行った。
甘み,旨み,ハリ,キレイ,
カプダレ,甘ダレ
C酒
おわりに
今 後 は 本 結 果 を 参 考 と し ,栃 木 県 酒 造 組 合 に お い
て品種選抜を行うことになる。
甘,ソフト,味良し,バラン
ス良し,甘ダレ,カプ老,重
参考文献
キレイ,甘ダレ,重,カプ老,
1) 星ら:平成 25 年度栃木県産業技術センター研究報
粕臭
告,11,12-14(2014)
2) 注解編集委員会編: “第四回改正国税庁所定分析法
3.2.3 冷蔵保存区と常温保存区の比較
注解 ” 財団法人
表 4,表 5 に保存試験7カ月後に行った冷蔵保存区
日本醸造協会,p28(1993)
3) 岩野ら:日本醸造協会誌,65 巻(1),p.59-62
と常温保存区の比較による官能評価結果を示す。
4) 岩野ら: 日本醸造協会誌,65 巻(1),p.63-65
これらの官能評価の結果,酒質については冷蔵保存
5) 岩野ら: 日本醸造協会誌,74 巻(2),p.141-145
区では D 酒の評価のみ低く,常温保存区では,C 酒,D
酒の評価が A 酒,B 酒と比べ低かった。
- 63 -
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