グローバルヘルス リサーチブリテン

NCGM
2015年 春
グローバルヘルス リサーチブリテン
国立国際医療研究センター 国際医療協力局 (NCGM)
ミャンマーの血液安全の改善と強化
本号の内容
ミャンマーの血
液安全
P1
研究者紹介
P2
ミャンマーにおけ
るHIV 検査精度確
P2
保健システム強化
と主要保健事業
P2
NCGM国際医療協力局の論
文リストは以下からご覧い
ただけます:
http://www.ncgm.go.jp/kyokuhp/research/
results/index.html
緑のバーは感染症関係、赤
は母子保健関係、青は保健
システム強化関係、黄色は
その他の論文抄録
(Pubmed)へのリンクを表示
します。
お問い合わせは、担当村上
まで。
[email protected]
ハイライト
 ミャンマーでは自発的献
血促進、質問票による献
血者選定等が血液安全
に貢献した。
 ミャンマーでは全国的な
外部精度管理がHIV検
査の精度向上に寄与し
た。

輸血、血液製剤の安全(血液安全)は、命を救い、健康
を守るための医療実施において必須のものである。質
が高く安全な血液製剤が 利用可能である ことは、グ
ローバルヘルスの重要な課題の一つと認識されてい
る。国により調整され、適切なシステムに基づく持続的
な血液プログラムが、すべての国で安全で適切な血液
と血液製剤を供給するために必要とされる。
テム強化のバランスが必要。
発表論文と抄録リンク先:
1. Aung T, Nozaki I, Oo NN, Swe KK, Wada K, Yoshihara N. Reducing the risk of HIV transmission through
blood transfusion in the National Blood Center, Myanmar. ISBT Science Series (in press)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/voxs.12173/abstract
NCGMはこれまで、経験や学をとりまとめるためのオペ
レーショナルを含む、ミャンマーの安全血液プログラム
の支援を行ってきている。例示すると、ミャンマーの国
立血液センター(NBC)では、輸血関連感染症のリスク
を低減するため、(1) 自発的な献血の促進、(2) 質問票
を用いた献血者の選定、(3) コンピューター化した献血
者登録システム、(4) 成分献血の促進、などの4つの戦
略的介入を実施してきた。HIV感染予防の観点から、こ
れらの介入のインパクトは、既存のデータを解析するこ
とにより、評価された 1 。これら介入により、自発的なド
ナーが増えるにつれ、献 血者にお ける HIV陽性率 は
2000年の1.02%から、2013年の0.18%に劇的に低減す
ることに成功した。
これに加えて、ミャンマーの安全血液プログラムの進捗
は、update on blood safety in Myanmar2としても報告さ
れている。これは2009年に出版されたミャンマーの輸
血事業の発展の報告3の次報で、我々の知る限り国全
体の血液プログラムのデータをカバーする初めての科
学的報告である。
2. Aung T, Nozaki I, Oo NN, Swe KK, Wada K, Yoshihara N. Update on blood safety in Myanmar. Transfusion
Today (in press)
3. Aung T: Status report of the blood transfusion services
in Myanmar. Asian journal of transfusion science.
2009;3: 22-5.
http://www.ajts.org/article.asp?issn=09736247;year=2009;volume=3;issue=1;spage=22;epage=25;aulast=A
ung
ヤンゴン市内、シュエダゴン・パゴダでの集団献血
これら2つの論文は、質が高く効率的で安全な血液と血
液製剤へのユニバーサルアクセスを確保するため、ま
たドナーとレシピエント安全を確保するため、資源の限
NCGM国際医療協力局の新規研究課題
国立国際医療研究センター(NCGM)は、2つの
総合病院、国際医療協力局、主に基礎研究を
実施する研究所と、国立看護大学校で構成さ
れ て いま す。国 際 医療 協力 局(BIMC)は、日
本 の 政 府 開 発 援 助(ODA)や、世 界 保 健 機 関
(WHO)等の多国間国際機関を通じて、アジア
やアフリカの発展途上国への技術支援を提供
しています。
メコン流域途上国では主要
保健事業強化と、保健シス
られた環境における安全血液の改善と強化の戦
略の重要性を示唆するものである。
BIMCは、平成27年度、以下のような新規の国
際保健研究を開始します。1)ポスト2015開
発アジェンダ採択プロセスと実施体制、2)途
上国の看護人材制度の比較研究、3)途上国に
おける医療安全と質改善、4)効果的な新生児
ケアと栄養介入。
国立国際医療研究センター 国際医療協力局
住所: 〒162-8655 東京都新宿区戸山1-21-1
電話:03-3202-7181, ファクス:03-3205-7860
ホームページ (日本語):
http://www.ncgm.go.jp/kyokuhp/index.html
2015年
春
2ページ
研究者紹介
NCGMの和田耕治、野崎威功真両医師は、ミャン
マーの保健省がよりよい保健政策を行うためのオ
ペレーショナルリサーチを実施する支援を行ってき
ている(P1の特集参照)。以下のインタビューでは、
彼らに研究グループのビジョンと、研究が開いた新
たな視野について語ってもらった。
-どのような経緯でミャンマーでの HIV研究を実施す
ることになったのでしょう?
和田:我々が派遣されたJICAのプロジェクトは、そ
の活動にオペレーショナルリサーチの支援が含ま
れていましたので、カウンターパートの既存データの
分析支援から始めました。10年に渡りプロジェクトが
実施されていましたので、その経験をまとめるには
良いタイミングであったと思います。
入れたれたと感じています。彼らは、公衆衛生上の
介入を実施するための、彼ら自身のエビデンスを
渇望しています。
- ミャンマーで研究して、一番やりがいを感じた点
は?
野崎:実際に現場で実施されている活動を評価す
る研究を支援したが、活動そのものがうまくいってい
たので、如何に説得力をもって報告できるようにす
るかに、注力しました。
和田:研究は、医学の発展、公衆衛生の向上に欠
かせないものです。若い世代にそうした研究活動の
重要性を理解してもらう、良いきっかけになったの
ではないかと思っています。
野崎威功真医師(左) 和田耕治医師(右)
-これらの研究成果のミャンマー国内での反響はい
かがでしたか?
野崎:これまでミャンマーの現場からの報告はあま
り多くなかったので、研究協力者には好意的に受け
ミャンマーにおけるHIV検査の精度を保つ
HIV感染の早期診断は、適切な時期の治療への
アクセスや病気の感染の予防に不可欠である。
迅速診断テストキットの登場は、資源の限られた
開発途上国などの環境でも、HIV診断検査を広げ
ていくことを可能にした。しかしながら、テストの精
度、診断アルゴリズムに基づく結果の解釈には、
不安が残されている。
ミ ャ ン マ ー の 国 立 公 衆 衛 生 検 査 室(NHL)は、
JICAの技術協力プロジェクトの支援を受けつつ、
HIV診断検査の外部検査精度管理(EQAS)のス
キームを導入した。NCGMはこのプロジェクトに専
門家を派遣し、NHLがEQASを効果的に実施する
支援を行ってきた。約10 年にわたって実施した
後、NCGMはNHLがEQASの学びを出版すること
も支援した1 。このスキームは2005年に65検査室
の参加を得て開始されたが、2012年には347検査
室まで拡大された。急速な拡大にもかかわらず、
参加する検査室の報告率は90%以上をキープ
し、間違った結果を報告する検査室の割合も、
2005年には9.2%あったものが、2012年には5.4%に
減少した。
この報告は、国全体として運営される検査精度管
理の効果を示唆するものである。その重要性が
強調されるようになってきているにも関わらず、
我々の知る限りではHIV検査の国家的レベルの
検査精度管理の報告は少ない。
発表論文と抄録リンク先:
1. Kyaw LL, Nozaki I, Wada K, Oo KY, Tin HH, Yoshihara N. Ensuring accurate testing for human
immunodeficiency virus in Myanmar. Bull World
Health Organ 2015; 93: 42-46
外部制度管理に参加している検査室の
実地訪問所見
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4271681/pdf/
BLT.14.138909.pdf
メコン流域途上国における保健システム強化と主要保健事業
保健システム強化は、様々な保健事業の成功と
持続性の要であるが、システム強化と主要保健
事業の関係性は十分概念化されてこなかった。
NCGMは、WHO保健システム研究協力センター
の活動として、ベトナム、ラオス、カンボジアにお
いて、保健システム強化と疾病・対象特異的な主
要保健事業(予防接種、3大感染症対策、母子保
健)の関係性を調査し、レポートをまとめた。
保健システム強化は主要保健事業に以下の点で
貢献していた:(1) セクター計画の策定と予算配
分; (2) 事業間ならびにドナー等関係者間の調
整; (3) 保健セクター共通の機能の管理・運営(人
材育成・管理、物流管理、医療保険等を含む医
療財政・健康社会保障制度の運営・管理)。逆
に、主要保健事業は、(1) 保健システム強化のた
めの資源創出; (2) 地域展開によるサービス・カバ
レッジの確保で保健システムに貢献していた。
保健システム強化が、主要保健事業の持続性を
保証し、さらに非感染症などの新たな課題に対応
する際の課題として、以下3点が挙げられた:(1)
事業間協調に関する明確な戦略とアクション・
ツールの欠如; (2) 統合された保健情報システ
ム、物流システムを維持する国家レベルのキャパ
シティーの欠如; (3) 人的、物的、財政的資源投
入の協調・整合性の欠如。今後は、主要保健事
業の短期的要求と、中長期的な保健システム強
化(特に基盤となる法令、制度などの強化)の必
要性の双方にバランスよく取り組む必要がある。
レポートのダウンロードリンク先:
http://ncgmimcj.ec-net.jp/HP/library/tech_doc/tec08_2015.pdf
主要保健事業が、バラバラなサブシス
テム(上図)でなく、保健システムの強固
な土台の上で持続可能な形で継続する
(下図)必要がある。