局所耕うん法におけるマクロポアと密集根群が与える浸潤および蒸発散量の影響 Effect of Macro-pores and High Root Density on Infiltration and Evapotranspiration on the Stop Drilling Method 丸山佳太 1・徳本家康 2・藤巻晴行 3 1 佐賀大学農学研究科・2 佐賀大学農学部・3 鳥取大学 乾燥地研究センター 要旨(Abstract) 本研究では,不耕起栽培法として知られる局所耕うん栽培に点滴灌漑を適用することで,灌漑 後の浸潤と蒸発散量の水収支変化を観察および水分移動解析を行った.局所耕うんによって形成 したマクロポア内への根の伸長が確認された.根の伸長に伴うマクロポア周囲への選択的な水流 が観察されが,実測値に基づく水分移動解析では選択流を表現できなかった. キーワード:局所耕うん法 マクロポア 根の吸水 選択流 Key words: The spot drilling method Macro-pore Root uptake Preferential flow 1.はじめに 局所耕うん法は,ドリルを用いて不耕起農地に鉛直方向のマクロポアを形成させ,マクロ ポアへ播種または苗移植を行う新たな耕うん法である(田島ら,2000).これは,乾燥地農業 における全耕起栽培の土壌劣化(たとえば,過剰な耕起による風食や土壌浸食)を低減させる と考えられる.局所耕うん法のその他の長所には,礫が存在する土壌硬度の高い農地におけ る耕作を可能にし,局所的に密集した根分布は点滴灌漑によって水利用効果を高める可能性 がある.しかし,マクロポア内の根の伸長に伴う土壌水分の吸水・保水の増収効果について 不明な点が多く,水利用効果を高めるにはマクロポア内外の水分移動の把握が必要である. 本研究では,局所耕うん栽培に点滴灌漑を適用して,マクロポア内における根の伸長過程および 灌漑後の水収支における浸潤と蒸発散量の変化を観察するための室内栽培実験を行った. 2.材料と方法 篩いにかけた佐賀大学農学部の圃場の土を使用し,供試植物にはチンゲン菜を用いた.平 板アクリルカラム(高さ 51 cm,幅 41 cm,厚さ 3.2 cm,容積 2039 cm3)に風乾させた供試土 を均一に充填し,下端から毛管飽和後に重力排水 させた.その初期条件の下,電動ドリルで深さ約 30 cm,幅約 1 cm のマクロポアを 2 か所形成させ て,苗植えした供試植物をマクロポア上部へ移植 した(図 1),根の吸水量を把握するために,マク ロポアの両端にて土壌の吸引圧を計 8 か所(図 1, ①~⑧)で測定し,土壌水分量を TDR プローブで計 測した.カラム下端では,水収支変化を明らかに するために,ロードセルによる重力計測を行った. チンゲン菜の生育条件は,室内温度 22℃一定とし, 給水方法に点滴自動灌漑(1 日 1 回)を利用し,肥料に は液肥を用いた.太陽光の代わりに植物育成用蛍光灯を使用し,照明の点灯時間は午前 6 時 から午後 6 時とした. チンゲン菜の根の伸長過程を記録するためにデジタルカメラで 2 日 ~4 日おきに撮影した.実験終了後,カラムを解体してチンゲン菜の根の分布を観察した. また,観察した実験条件に基づく水分移動解析(Hydrus 2D)により,マクロポア周囲の水分移 動について考察した. 3.室内実験結果 栽培実験開始後,マクロポア内への根の伸長が 確認された.図 2 には,苗移植から実験終了まで の 37 日間における重量変化より求めた潅水量, 蒸発散量及び体積含水率( θ 0-7.5cm)の経時変化を 示す.チンゲン菜の生育段階に伴い,潅水量を増 加させると(図 2-a),蒸発散量の増加(図 2-b), およびθ0-7.5cm は減少が生じた(図 2-c). これらは, マクロポア内外に発達した根の吸水によって生 じたと推察される.栽培期間中,灌漑後のマクロ ポア周囲への選択流が観察され,マクロポア壁面 や根を伝った水流れが生じた(図 3).実験終了後, 土壌に沿ってマクロポア内を下端まで伸長した 根が確認され,その根はカラムの下端まで達した. しかし,土中に伸長した根は深さ 0 cm から 15 cm に多く分布し,カラム下端まで伸長する根は少な かった. 4.数値実験結果 Hydrus 2D を用いて,上端境界条件に潅水量および 可能蒸発量(2.6 mm)を与えた制限的な条件下(局 所耕うん法の根分布による吸水項を除く)で,マク ロポア周囲における水分移動に着目した数値実験を 行った.下端境界条件およびマクロポアの境界条件 には浸出面を設定した.数値実験では,可能蒸発量 による水損失以外は土中へ貯留され,ほぼ h= -50 cm 前後で吸引圧が推移する結果となった(図 4) .これ は,間断灌漑によって生じる吸引圧の日変化およびマ クロポア周囲への選択的な水流れも表現できないこと を示唆した. 5.引用文献 田島淳・加藤雅義・樹野淳也(2000)、カバークロップを用 いた被覆栽培のための定植器具の開発に関する研究、農 作業研究、35(4):223-228
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