教育基本法第 6 条 2 項「教員の・・・その 待遇の適正・・・」が脅かされている

教育基本法第 6 条 2 項「教員の・・・その
待遇の適正・・・」が脅かされている
―教職員賃金をめぐる動向―
国立大学法人法の制定がもたしたもの
幅広い視野と高度の専門的知識を兼ね備えた人材を教育界に誘致するには、
教育基本法6条2項の「教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せら
れなければならない」の精神が尊重されなければならない。しかし、今この理
念と精神が著しく脅かされている。
国立大学法人法の制定によって国立大学が大学法人となり、大学法人に属す
る教職員はすべて非公務員となった。公立学校の教員給与は、国立学校の教員
給与に準拠していたから、このことが公立学校の教員給与に大きな影響を及ぼ
す結果となった。
従来、公立学校の教員の給与は、教育公務員特例法(教特法)により、「公立
学校の教育公務員の給与の種類及びその額は、当分の間、国立学校の教育公務
員の給与の種類及びその額を基準として定めるものとする(第25条の5)と
定められていた。ところが、国立大学の法人化により、国立学校の教育公務員
そのものが存在しなくなったため、教特法25条の5の規定が削除され、国立
学校準拠制が廃止になったわけである。
これにより、教特法は、「公立の小学校等の校長及び教員の給与は、これらの
者の職務と責任の特殊性に基づき条例で定めるものとする」
(第13条)と定め、
公立学校の教員給与を都道府県の主体的決定に委ねることとなった。
まず問題となるのは給与勧告である。国立学校の教員公務員が存在しなくな
ったため、人事院は、毎年行っていた教育職俸給表に関する勧告を廃止した。
これは都道府県の人事委員会が独自に勧告せざるを得ないことを意味した。
しかし、都道府県の人事委員会には、教員給料表作成の経験やノウハウがな
い。このため、全人連は、人事院に対し「給与改定の参考として公立学校教員
に関する給料表を示してほしい」と要望したが、受け入れられなかった。そこ
で、やむを得ず、人事院の薦めもあり、人事院の外郭団体である財団法人日本
人事行政研究所に対し「参考となる教員給料表」の作成を委託したわけである。
全人連は、教員のモデル給料表を「各自治体の主体的な取り組みを支援して
いくために、各自治体が参考とし得るような教育職給料表」であると位置付け
ている。この教育職給料表は、従来の人事院勧告とは異なり、各人事委員会が
給与勧告をする際の「参考資料」にすぎないものとなった。
文部科学省は、国立学校準拠制の廃止に際し、
「引き続き人材確保法第3条の
規定により義務教育諸学校等の教員の給与については一般の公務員に比較して
必要な優遇措置が講じられること」
「現行の教員給与体系の基本は維持されるの
で、公立学校教員の給与については引き続き必要な水準が保たれるよう留意す
ること」(2003年8月25日付「初等中等教育局長通知」)などを都道府県
教委に要請している。新しい教員給与の決定システムの下で、公立学校の教員
給与は今後大きな変化―給与削減というリストラ旋風にさらされることになる。
教職員の給与削減というリストラ旋風
第1に、これは全国人事委員会連合会(会長・内田公三束京都人事委員会委
員長)が作成した、公立高校、中学校、小学校、幼稚園などに勤務する教員の
参考モデル給料表にも現れている。8月の人事院勧告で2005年度の官民格
差を踏まえた改定俸給表と、2006年度以降の給与構造改革に伴う俸給表が
それぞれ提示されたのに合わせ、モデル給料表も2種類となっている。
教員に採用される俸給表は従来、一般行政職に適用する行政職俸給表との均
衡を考慮して作成されてきたことから、モデル給料表の作成に当たっても同様
に行政職俸給表(一)との均衡を考慮したとされている。
2005年度のモデル給料表は、人事院勧告で2005年度の俸給月額の一
律0.3%引き下げ改定が行われたのに合わせて、俸給月額を一律。0.3%
引き下げた。
2006年度以降のモデル給料表も、給与構造改革に沿って作成。同改革で
は、中高齢層が適用を受ける俸給月額を中心に、行政職俸給(一)表の水準を
平均4.8%引き下げるが、均衡を考慮しつつ、モデル給料表でもそれぞれ俸
給月額の引き下げを行った。
引き下げ改定率は、高校教員に適用される旧教育職俸給表相当のモデル給料
表では平均4.9%、小・中学校教員に適用される旧教育職俸給表(三)相当
のモデル給料表では同4.7%などとなった。
また、級や号俸についても給与構造改革と同様に再編を行い、号俸関係では
現行号俸を四分割するとともに、枠外昇級の廃止を踏まえ、3号俸の号俸延長
を行った。
一方、昇格時の号俸決定についても給与構造改革と同様に変更。どの号俸か
らの昇格でもメリットが一定となるように、現在のいわゆる1号俸上位昇格制
度から、職務の級別に一定額を加算した額を基礎として算定する方法に改めた。
第2に、大阪府を始め少なからぬ都道府県では、給料の24ヶ月延伸や府人
事委員会勧告を3年間も無視された挙句に、高校の定時制通信手当や、産業教
育手当、障害児学校の教職員の給料の調整額などが削減ないし、全廃の攻撃を
受け、手当てだけで、年間45億円の削減がこの1,2年でなされようとして
いる。例を挙げれば、大阪府の教職員は、国からも、大阪府からも、二重三重
に痛めつけられ、いまや全国最低の賃金水準に陥っているのである。これも、
知事与党と、大阪府幹部が、関空などのバブル事業に明け暮れた失政の尻拭い
を、府民と教職員が押し付けられていることによる。知事与党と、大阪府幹部
らは、誰一人として責任を取ろうとしていない道義的退廃ぶりである。
第3に、国段階でも、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は10月20
日の会合で、一般の地方公務員に比べて優遇されているとの批判が強い教員の
人件費について、引き下げを求めることで一致した。小・中学校教員の人件費
は、国が半額を義務教育費国庫負担金として補助する仕組みだが、もともと財
務省が、教員の給与水準引き下げで同負担金の圧縮が可能になるとして削減を
狙っていた課題である。東京証券取引所会長でもある西室泰三部会長は会合後
の記者会見で「(教員給与は)優遇し過ぎではないかと改めて問題提起した」と
述べ、11月中にまとめる2006年度予算編成に向けた財政審の意見書に、
教員給与引き下げの必要性を明記する考えを表明。優遇の根拠となっている人
材確保法についても「廃止すべきだ」と語った。財務省に都合のよい方針が出
たというわけだ。
財務省が会合で示した資料によると、教員の基本給は月額平均39万6,7
12円(2004年度実績)で、一般行政職より約11%高い。また、手当の
一種である教職調整額(残業手当に相当)が基本給に組み込まれているため、
退職金や年金支給額も割高となっているという。実態を無視した一方的な資料
提示だと批判が強い。
義務教育費国庫負担問題と教職員給与
中山成彬文部科学相は10月21日の閣議後記者会見で、公立小・中学校教
員の給与を地方公務員よりも優遇する人材確保法の廃止を求める方向で財政制
度等審議会(財務相の諮問機関)が一致したことについて、「優秀な若者に教職
を志してほしいので、給料を担保するのが国の責任だ」と述べ、同法を維持す
る必要性を強調した。財政審は同20日の会合で、教員の方が一般職員よりも
約11%高い点を問題視したが、同相は「比べる平均年齢が違うし、超過勤務
手当のない教員は調整手当が4%支給されており、
(実際の)優位性は4∼5%
にとどまる」とつよく反論した。
さらに、消防職員や警察官の優位性が約20%に上る点も指摘し、
「警察も消
防も大事だが、優秀な人材を確保するために学校の先生もこれぐらいの優位性
は最低限必要だ」と述べた。教職員定数をめぐっては、政府の経済財政諮問会
議で、民間議員から退職者などの自然減を上回る大幅な削減を求める声が出て
いる。中山文科相は「単なる財政論から行うべきではない。
(民間議員の提案は)
いかがなものかと思う」と批判した。
義務教育費国庫負担金廃止問題は、実は教職員給与に深く関連している。
文部科学省は、義務教育費国庫負担金廃止に強く反対し、総額裁量制を導入し
たから、地方の自由度は大幅に広がったと主張し、一部の知事は同調している。
他方、全国知事会は、義務教育費国庫負担金廃止を強く主張し、一般財源化し
ないとめりはりの利いた教職員給与システムを導入できないと頑強に反対して
いる。全国知事会の言い分は、財務省と似て、教職員給与の大幅削減につなが
るものだ。
「明治以来連綿と続いてきた国の基準に準拠することにより公立学校教員の
給与水準の維持向上を図るという政策を、国立大学法人が非公務員型を採用し
たことに便乗して、どさくさ紛れのうちに転換してしまった。地方分権の確立
のためというスローガンだけで、先人の並々ならぬ努力の成果を捨て去ってい
いのだろうか。」という批判が、教育界に広汎に生まれている。
幅広い視野と高度の専門的知識を兼ね備えた人材を教育界に誘致するには、
教育基本法6条2項の「教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せら
れなければならない」の精神が尊重され、維持発展させられなければならない。
公共事業の利権まみれの地方自治体の首長は、教職員の賃金を削って、放漫
財政に使いたいところだろうが、公共政策の企画・立案に当たっては、現行法
の枠組みと教職員制度の正確な分析が欠かせない。
関連する政令、省令、施行通知を考察すると、一つは、各都道府県で国庫負
担対象外教員について、独自に教員給与を負担することを国庫負担制度は禁止
してはいないが、独自の追加的投資が必要なことがどうしても抑制的に働いて
いた。二つ目は、文部科学省の総額裁量制や全国知事会の地方交付税交付金化
の下では、いずれの場合でも給与に関する基準が国庫負担金あるいは地方交付
税交付金の積算基準にすぎなくなるので、その時々の財政事情に左右される可
能性が高くなることである。教職員賃金の未来は暗いといわざるを得ない。
「最近の教育政策論争は、実態の分析を省略したままで、レトリックの駆使
に明け暮れている。正確な分析を欠く空疎な論争を続けていると、財務省の予
算削減の罠にはまる」という警告が、以下の事態からもよくわかる。
新しく就任した小坂憲次文部科学相は11月9日、国・地方税財政の三位一
体改革で焦点となっている義務教育費国庫負担金の削減問題について、
「8千5
百億円という(削減額の)数字が先に示されており、(文科省として)消化しな
ければならない」と語り、削減はやむを得ないとの方針を示した。
これまで文科省は負担金削減を求める全国知事会など地方六団体の提案を拒
んでいた。政府・与党調整が本格化する中での、突然の方針転換に各方面の反
発は必至である。
文科相は記者団に対し、「(削減を)全面否定しても話が前に進まない。外堀
が埋まってきている」と述べ、さらに「調整能力を発揮して、この問題を解決
したい」と語り、削減を前提に落としどころを探る方針を明らかにした。「実態
の分析を省略したままで、レトリックの駆使に明け暮れている。」―財界と小泉
首相への大臣就任御礼の施策展開では、教育の大事があまりに軽視されすぎで
あろう。
競争原理や成果主義の導入と教職員の評価システム
さらに問題を複雑にしているのが、競争原理や成果主義の導入と教職員の評
価システムである。競争と評価によって世の中は改善されるとする米国モデル
が猛威を振るっている。あらゆる分野で客観的評価による成果に連動した賃金
体系の導入の必要性が強調される。
例えば、公立学校教員の給与のうち一律に支給される部分を抑制する代わり
に、能力や実績に応じて支給される部分を増額して、やる気のある教員を優遇
するとか、国立大学法人の役員のボーナスについて業績評価を反映させて人事
の活性化を図るようにするといった事例である。
大阪府の「教職員の評価育成システム」においては、来年度から前年度の総
合評価の結果を翌年度の給与上の措置において反映するとして、職員団体に対
して以下の方針案を提示してきた。
それは、①評価結果 S 及び A についてはプラス反映とし、C 及び D について
はマイナス反映とする。②自己申告票の未提出者等の対応は、給与上の措置と
しては総合評価 C と同等に扱う。さらに未提出を継続した場合は、給与上の措
置としては総合評価 D と同等に扱う、というものであった。
この給与反映のシュミレーションによれば、増額の場合最高 10 万円から最低
2.5 万円、減額の場合は、最高 16.5 万円から、最低 3.3 万円の効果が出るとい
う。府教委によると、15・16 年度の評価結果から言えば、60 から 70%の教員
は、増額の恩恵を受けないのである。
評価しがたいシステムで、評価をして、給与反映までするとなると、この賃
金制度や人事管理システムは、癒しがたい亀裂と不信感、損失を、学校現場に
もたらすことは簡単に予測できる。
従来も、出来高払い制の単純労働や成約高を指標にできる保険の営業職員の
場合には、成果主義が採用されてきた。しかし、民間企業においても、ホワイ
トカラーの働きを客観的に評価することなど不可能である。
極端に出来の悪い者と突出して優秀な者は、周りの人々には分かっている。
そうでない大部分の人たちを無理矢理評価し、その微差を給与に連動させてい
くことは、かえって職場の活力をそぎ、職場に必要な人材育成機能を破壊する。
業績給は、個人間に差を付けること自体が目的になりがちで、
「企業の効率は
人的資源の蓄積にかかっている」ことや「短期的な金銭的報酬だけでなく、長
期的に、職員のキャリア展開の可能性、予測可能性も大きな意味を持つ」こと
を無視するものである。
民間企業経営感覚の導入というスローガンも、学校や大学の教職の専門性を
踏まえ、その実施の場面を限定しなければならない。
民間で失敗し、否定されてきた原理や制度を公務員賃金にも持ち込もうとす
る小泉政権と民間企業の経営者を主体とした各種の審議会などの狂気と知性が
問われよう。(インス.事務局)