人事、研修制度の見直し-民で能力が発揮できる公務員

【パラダイム】
行政の役割変化とオンブズマン制度
北海道大学大学院教授 宮脇 淳
オンブズマン制度は、すでに40以上の国々で導入されている制度であり、その起源は
19世紀初頭のスウェーデンに求めることができる。本来は、「権限を与えられた議会の代
理人」の意味であり、行政機関が法律を遵守して仕事を行っているかを監視することで議
会に代わって市民の権利や利益を守る機能を担う制度としてスタートしている。日本でも
川崎市をはじめとしたいくつかの地方自治体で具体的に導入されている。オンブズマンの
機能としては、一般的に①苦情処理機能(市民の行政に対する苦情を敏速に処理し、市民
の権利や利益を守る機能)、②行政改善機能(苦情の原因となる行政の制度を改善するため
の提言を行う機能)、③行政監視機能(行政全般を監視し、公正中立な立場から改善を求め
る機能)を上げることができる。
戦後におけるオンブズマン制度の世界的拡大の背景には、福祉国家の台頭がある。行政
が国民生活や企業活動のさまざまな側面に関与しその影響力が強まるに至り、住民の権利
や利益を守る制度が求められてきたのである。しかし、今日、これまでの拡大方向と異な
り行政の役割を見直しその関与を限定化あるいは効率化しようとする「小さい政府」、「ポ
スト福祉国家」を模索する傾向が強まる段階を迎え、そこでのオンブズマンの機能を再考
していくことが必要となる。福祉国家においてオンブズマンが求められた要因としては、
①行政の役割が拡大し国民生活等との関わりが強まるにつれ、行政サービスの対象から漏
れてしまう住民など不公平が生じないように監視する必要があったこと、②行政サービス
の提供が行政本意(ルールドライブ型)となり住民のニーズと乖離する傾向が進むことに
対して、住民の視点から行政サービスのあり方を考えていく必要性が高まったこと、③行
政組織の硬直化に伴い不祥事が生じやすい体質となったこと、などが上げられる。このた
め、オンブズマン制度では、まず市民の権利・利益を救済する「苦情処理機能」が重視さ
れることになる。ポスト福祉国家、行政機能の絞り込みが求められる時代となり、これま
で提供してきた行政サービスの廃止も含めた見直しが不可欠な課題となっている。こうし
た課題の高まりは、オンブズマンにおける三つの基本的機能相互間の関係を難しくする。
たとえば、行政サービスの効率化や縮減などの取り組みは、これまでサービスを受けてき
た住民にとっては苦情となり、一方では行政改善の取り組みとなる。このため、苦情処理
機能と行政改善あるいは行政監視機能が緊張関係を強める。また、オンブズマンによる個
人の権利保護と行政運営の透明性確保の取り組みも同様の関係にあるといえる。仮に、こ
うした緊張関係の高まりに対して、オンブズマンの位置づけ(日本では法律上困難とされ
る議会オンブズマンの形態を含め)や役割を明確化できないとすれば制度は形骸化の危機
に直面する。行政の役割の変化と共にオンブズマン制度についても、如何なるサービスを
住民に提供するのか、その問いかけが改めて必要となる。
ポスト福祉国家の一つの理念型として「市民国家」の姿がある。これまでの福祉国家に
おける行政と市民の縦の関係ではなく、市民の自立と共に行政が地域の一員として市民と
並列的な関係に立つパートナーシップ型の姿である。従来導入されてきたオンブズマン制
度を地方自治の基本システムとしてより高い次元に引き上げて行くには、行政の役割とそ
こでの市民との関係は何かを追求し、フォローアップしていくことが常に必要となる。
「PHP 政策研究レポート」(Vol.3 No.43)2000 年 9 月
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