平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ 論文題目 一般用医薬品における副作用報告事例の解析 The analysis of reported cases of adverse reactions in the over the counter drugs 臨床薬学研究室 4 年 09P137 工藤範子 (指導教員:齊藤幹央) 要旨 近年の生活習慣病患者の増加や高齢化などにより、一般用医薬品(over the counter drugs;OTC 薬)を利用するセルフメディケーションの考え方がみられるようになっ た。また、スイッチ OTC 薬なども年々増加し、広範囲において OTC 薬の使用度も 増加傾向にある。しかし、OTC 薬による副作用が近年多く報告されつつある。その ため、今回 OTC 薬による副作用について論文報告されている症例を収集し、調査解 析を試みた。その結果、OTC 薬による有害症状としては、皮膚障害が約 71%と最も 多かった。性差は認めなかったが、年齢別で副作用を発症した患者の約 8 割が 65 歳 未満であった。有害症状の原因となった OTC 薬は、総合感冒薬が全体の約 3 分の 1 を占め、そのうちパブロン®が 21%と最も多かった。他疾患を有する既往患者は 24%、 無い患者が 76%を占め、他の既存疾患の有無は加齢と相関することが示唆された。ア レルギー歴を有する患者は 14%、無い患者が 86%を占めた。このことから、アレル ギー歴が無い患者においても、副作用が発現する可能性は十分にあると言えることが 分かった。 潜伏期間に関しては、3 日以内であった症例が約 7 割を占め、そのうち 5 割の症例 が 1 日以内であった。また、今回調査解析した症例における診断試験として施行され た薬剤アレルギー同定試験を行った 94%が陽性反応を示したことから、OTC 薬によ る有害症状の原因は、アレルギー機序により誘発される可能性が高いことが示唆され た。 したがって、予測困難なアレルギー性副作用の防止のため、OTC 薬の場合も副作 用に関する情報を販売時に十分説明することが重要であると考えられる。 キーワード 1.一般用医薬品(OTC 薬) 2.有害症状 3.総合感冒薬 4.皮膚障害 5.性差 6.年齢 7.既存疾患 8.アレルギー歴 9.アレルギー反応 1. 緒言 近年、生活習慣病患者の増加や高齢化などにより、疾病構造が変化してきている。 そのような背景から、自分自身の健康に高い関心を持つ人が増え、手軽に入手しやす い一般用医薬品(over the counter drugs, 以下 OTC 薬と略す)を利用するセルフメ ディケーションの考え方がみられるようになった。スイッチ OTC 薬なども年々増加 し、広範囲において OTC 薬の使用度も増加傾向にある。 しかし、 OTC 薬による副作用が、厚生労働省では 2007 年度から 2011 年度まで 1220 例報告されている(Table.1)1)。また、OTC 薬における副作用の詳細な実態や発症 メカニズムなどはあまり把握されていないのが現状である。 Table.1 薬効群別副作用症例数の状況 1) OTC 薬は、①医療用医薬品と異なり、服用者に余程重症な副作用が生じなければ、 医療機関を受診する可能性は低く、副作用の頻度や何が原因薬だったか等のデータが 取れない。②医療用医薬品に比べ配合成分が多い製品が大半であり、原因薬(成分) における副作用との因果関係がわかりにくい。③薬局やドラッグストアなどで OTC 薬を購入する際、必要な情報の詳細な説明を行うこと、他の既存疾患の有無や既往歴 について質問するなど、重篤な副作用を未然に回避するための販売環境が十分整って いない。これら上記 3 つの大きな問題点が考えられる。そこで、本研究では OTC 薬 による副作用について、論文報告されている症例を収集し、解析を試みた。 2. 方法 (1)文献調査 1983 年から 2011 年までに OTC 薬による副作用に関連する文献を医学中央雑誌 (医中誌 Web Ver.5)より、 「一般用医薬品」と「副作用」、 「有害作用」、 「有害」、 「OTC」 と「副作用」、「有害作用」、「有害」、「一般薬」と「副作用」、「有害作用」、「有害」、 「市販薬」と「副作用」、「有害作用」、「有害」をキーワードに検索抽出した。 1 (2)調査項目 OTC 薬による副作用報告において以下の項目について調査解析した。 1)薬効分類 有害症状の原因となった OTC 薬の薬効分類、商品名および成分名を調査した。 2)患者背景 性別、年齢(65 歳未満および 65 歳以上の 2 群に分類)、治療対象疾患および既往 歴、現病歴、アレルギー歴、併用薬について調査解析した。 3)有害症状 OTC 薬に起因する有害症状の種類について調査解析した。 4)症状発現までの期間 OTC 薬を服用してから症状発現までの期間を調査解析した。 5)診断方法 有害症状の確定診断に至った臨床経過、臨床検査所見に関して、経時的な OTC 薬 の服用と有害症状発現までの臨床経過により診断されたケース、臨床経過に加え薬剤 リンパ球刺激試験(Drug-induced lymphocyte stimulation test, 以下 DLST と略す) で陽性反応を示したケース、貼付試験(パッチテスト)で陽性反応を示したケース、 白血球遊走試験(Leukocyte migration test, 以下 LMT と略す)で陽性反応を示し たケース、その他の検査による診断の 5 つに分類し、調査解析した。 6)治療方法 有害症状に対する治療方法について調査解析した。 3. 結果 OTC 薬による副作用に関連する文献報告は、1983 年から 2011 年までに 63 症例 報告されていた。以下に 63 症例全例の調査解析結果を示す。 1)薬効分類 本調査で得られた 63 例の有害症状の原因となった OTC 薬を、薬効分類別にみる と、総合感冒薬が 21 例(33.3%)、解熱鎮痛消炎剤が 18 例(28.6%)、外用剤(乾燥性皮 膚治療薬や抗真菌薬、冷却スプレーなど)が 12 例(19%)、漢方製剤が 7 例(11.1%)、 鎮咳去痰薬が 1 例(1.6%)、その他(消毒剤など)が 6 例(9.5%)であった。なお、スイ ッチ OTC 薬は無く、一部は 1 症例に複数の OTC 薬が関与していた。 また、有害症状の原因となった OTC 薬を成分別にみると、生薬(茴香、縮砂、柴 胡、黄芩、桂皮、乾姜、牛黄、甘草、地竜)が 5 例(7.9%)、アリルイソプロピルアセ チル尿素、塩酸ジブカインがそれぞれ 4 例(6.3%)、エフェドリン(塩酸メチルエフェ ドリン、プソイドエフェドリン塩酸塩)、イブプロフェン、がそれぞれ 3 例(4.8%)、 塩化リゾチーム、臭化水素酸デキストロメトルファン、ブフェキサマク、エテンザミ ド、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸フェニレフリン、クロタミトン、塩酸リド 2 カインがそれぞれ 2 例(3.2%)、ブロムワレリル尿素、ポピドンヨード、イソプロピル アンチピリン、アセトアミノフェン、硝酸ミコナゾール、ホモスルファミン、グリチ ルレチン酸と酢酸トコフェロール、アセチルサリチル酸と無水カフェインがそれぞれ 1 例(1.6%)、不明が 21 例(33.3%)であった。なお、一部は 1 症例に複数の成分が関与 していた。 2)患者背景 性別は、男性が 34 例(54%)、女性が 29 例(46%)で、症例患者の平均年齢は 44.1± 19.4 歳(mean±SD)であった。発症年齢を年代別にみると、0 歳~20 歳未満が 6 例(9.5%)、 20 歳以上 40 歳未満が 22 例(34.9%)、40 歳以上 60 歳未満が 19 例(30.2%)、 60 歳以上 80 歳未満が 15 例(23.8%)、80 歳以上が 1 例(1.6%)であり、結果的に 65 歳 未満が 53 例(84.1%)で、65 歳以上が 10 例(15.9%)であった。 治療対象疾患は感冒や発熱、咳嗽が 24 例(38.1%)、アトピー性皮膚炎や皮膚の乾燥 などが 11 例(17.5%)、頭痛や腹痛などが 8 例(12.7%)、鼻炎が 3 例(4.8%)、その他が 12 例(19.0%)、不明が 5 例(7.9%)であった。 既往歴を有する患者は 15 例(23.8%)、無い患者は 48 例(76.2%)であった。現病歴を 有する患者は 5 例(7.9%)、無い患者は 58 例(92.1%)であった。アレルギー歴を有する 患者は 9 例(14.3%)、無い患者は 54 例(85.7%)であった。併用薬のある患者は 9 例 (14.3%)、無い患者は 54 例(85.7%)であった。 3)有害症状 本調査で得られた 63 例の有害症状は、皮膚障害が 45 例(71.4%)、肝障害が 5 例 (7.9%)、肺障害が 5 例(7.9%)、アナフィラキシー、即時型アレルギー(全身のしびれ 感、呼吸困難、呼吸困難による意識消失、めまい、全身倦怠感、顔面浮腫など)が 3 例(4.8%)、その他(横紋筋融解症、悪性症候群など)が 5 例(7.9%)であった。 また、OTC 薬による有害症状の性別発症頻度を Table.2 に、OTC 薬による有害症 状の年齢別発症頻度を Table.3 に示した。 Table.2 OTC 薬による有害症状の性別発症頻度 3 Table.3 OTC 薬による有害症状の年齢別発症頻度 4)症状発現までの期間 本調査で得られた 63 例の有害症状において、症状発現までの期間が明らかな症例 は 31 例であった。この 31 例における OTC 薬服用から有害症状発現までの期間、す なわち潜伏期間を Fig.1 に示した。 25 20 日 数 15 10 5 0 3日以内 Fig. 1 4日~14日 15日以上 OTC 薬服用から有害症状発現までの期間 潜伏期間が 3 日以内であった 22 例中 11 例が 1 日以内に発現していた。 5)診断方法 有害症状が報告された 63 例の診断方法は、臨床経過からのみ診断されたケースが 12 例(19.0%)、臨床経過に加え DLST を施行したケースが 14 例(14 例中 11 例が陽 性反応を示した)(22.2%)、パッチテストを施行したケースが 28 例(28 例中 23 例が 陽性反応を示した)(44.4%)、LMT を施行したケースが 7 例(7 例中 7 例が陽性反応 を示した)(11.1%)、その他の検査(プリックテスト、内服誘発試験、皮膚生検など) を施行したケースが 14 例(14 例中 13 例が陽性反応を示した)(22.2%)であった。な お、一部の検査は 1 症例で重複していた。 6)治療方法 皮膚障害では、ステロイド投与や抗ヒスタミン剤、抗菌薬等の投与が 23 例(51.1%) 4 で、そのうち 3 例は改善しなかった。服用中止のみが 1 例(2.2%)、その他(ステロイ ド投与に加え輸液療法、血漿交換療法、高カロリー経静脈栄養、眼球角結膜の偽膜除 去など)が 4 例(8.9%)、不明が 17 例(37.8%)であった。 肝障害では、服用を中止しウルソデオキシコール酸の投与が 1 例(20%)、新鮮凍結 血漿(FFP)投与、腹水穿刺、利尿薬・アルブミンの投与が 1 例(20%)、不明が 3 例 (60%)であった。 肺障害では、服用を中止しステロイドの投与が 2 例(40%)、不明が 3 例(60%)であ った。 アナフィラキシー、即時型アレルギー(全身のしびれ感、呼吸困難、呼吸困難によ る意識消失、めまい、全身倦怠感、顔面浮腫など)では、エピネフリン及びステロイ ド静脈内投与が 1 例(33.3%)、不明が 2 例(66.7%)であった。 その他(横紋筋融解症、悪性症候群など)では、ステロイドや抗生剤、ダントロレ ンナトリウム製剤等の投与が 2 例(40%)、服用中止のみが 3 例(60%)であった。 4. 考察 1)起因薬剤と発症患者の傾向 有害症状の原因となった OTC 薬は、総合感冒薬が全体の 3 分の 1 を占め、最も多 かった。そのうち、原因薬剤が明確な商品として、パブロン®(種々のパブロン®シリ ーズ(主にイブプロフェン,アセトアミノフェン,塩化リゾチームを含む)を示す; 大正製薬株式会社)が 21%と最も多いことが分かった。パブロン®が最も多い理由と して、服用者の絶対数の多さが第一に考えられる。大手通信販売商社による OTC 薬 の風邪薬売れ筋商品ランキング(http://shopping.yahoo.co.jp/ranking/205)による と、OTC 薬 35 個中 8 個がパブロン®であり、1 番多くランクインしている。すなわ ち、パブロン®の服用者数が多いため、それに伴い副作用の発現数、報告数が多いの ではないかと考えられる。したがって、パブロン®そのものが、特異的に有害作用の 発現率が高いとは言い難く、今後さらに詳細な検討が必要であると考える。 また、発症患者における性差はなかったが、年齢別をみると、65 歳未満が 84%と 圧倒的に多いことが分かった。理由として、勤労者は仕事等により休みをとり難い環 境から医療機関にかかる時間を確保しにくく、OTC 薬に依存する傾向にあるためで はないかと考えられる。一方、65 歳以上の高齢者の多くは勤労者に比べ医療機関に かかっており、処方薬を使用するため、OTC 薬を使う頻度が低いことに起因すると 考えられる。 治療対象となった原疾患は、感冒症状が最も多く 38%を占めた。これは、総合感 冒薬の売り上げ(使用頻度)が高いことに反映した結果が理由として考えられる。 既往歴を有する患者は 24%で、無い患者が 76%を占めた。既往歴のある患者は比 較的高齢者が多く、既往歴の有無は加齢に相関することに起因し、併用薬の有無に関 しても同様のことが言えると考えられる。 5 アレルギー歴を有する患者は 14%、無い患者が 86%を占めた。この結果から、ア レルギー歴が無い患者においても、副作用の防止のために十分注意説明を行う必要が あることが示唆される。 2)有害症状とその発現機序 OTC 薬により発現した有害症状をみると、皮膚障害(薬疹)が 71%と圧倒的に多 く、肺障害および肝障害は 8%であることが示された。性差での解析で差はみられな かったが、年齢別にみると 65 歳未満が 76%を占めていることが分かった。また、潜 伏期間をみると、3 日以内であった症例が 71%で圧倒的に多く、さらにそのうち 50% の症例が 1 日以内に発現していた。診断方法、治療方法をみると、アレルギーに対す る診断や治療がほとんどであることが示された。 したがって、有害症状の大半がアレルギー反応に起因する薬疹で占められたこと、 さらに常用量の服用による短期間での発現経過(免疫学機序に基づく感作特異性 T 細胞に対する薬剤抗原起因性アレルギー反応)や様々な薬剤アレルギー同定試験法に 基づく診断確定の結果から、OTC 薬による有害症状の大半は、アレルギー機序によ り誘発される可能性が高いことが示唆された。有害症状発症者の多くは、65 歳未満 の若年者に多い結果から、使用頻度に依存することが推察される。 3)総括 近年では、薬局やドラッグストアに限らず、コンビニエンスストアなどでも容易に 第二類および第三類における OTC 薬の入手が可能である。さらに、2013 年 1 月に、 ネット販売における規制緩和につながる最高裁判決などが下ったこともあり、今後さ らなる需要が見込まれる。OTC 薬を使用したことにより発現した副作用は、この 5 年間で厚生労働省に報告されているだけでも 1200 例以上に達している。報告されて いるケースはあくまでごく一部に過ぎない。OTC 薬の副作用については社会的認知 度が低いが、本研究解析からも重篤な副作用を引き起こす例は少なくない。誰もが手 軽に買える薬なら安全というわけではないという事実を、それぞれが知っておく必要 があると考えられる。本研究から、発現機序がアレルギー反応に起因することから、 突如、誰もが発現する可能性を有するリスクを予め十分に説明し、販売提供すること が重要であると考える。 謝辞 本論文の作成にあたり、テーマ選定から論文の執筆に至るまで指導教員の新潟薬科 大学薬学部・臨床薬学研究室助教の齊藤幹央先生から、丁寧かつ熱心にご指導してい ただきました。ここに感謝の意を表します。また、ご指導していただきました臨床薬 剤学研究室教授・河野健治先生ならびに臨床薬学研究室教授・影向範昭先生、朝倉俊 成先生、坂爪重明先生、河田登美枝先生、青木定夫先生、助教・阿部学先生、助手・ 6 影山美穂先生に心から感謝いたします。 参考文献 1. 厚生労働省:医薬品医療機器安全性情報 1.一般用医薬品による重篤な副作用について(2012) 2. 藤田豪紀, 大島収, 野村研一郎:市販「のどぬーるスプレー」による喉頭化学熱傷の一例 ア レルギーの臨床(0285-6379)27 巻 5 号 Page393-395(2007) 3. 田口芳治, 高嶋修太郎, 田中耕太郎, 堀江幸男:ナロンエースの長期服用による慢性ブロムワ レリル尿素中毒の 1 例 4. 臨床神経学(0009-918X)51 巻 6 号 Page447(2011) 佐山重敏:市販の風邪薬が原因と考えられた中毒性表皮壊死症の 1 例 西日本皮膚科 (0386-9784)66 巻 2 号 Page198-199(2004) 5. 大湖健太郎, 伊東涼子, 池滝知, 増子淳次郎, 辻本友高, 長谷川和佳子, 伊藤明子, 山本洋子: 市販の外用剤による接触皮膚炎の 1 例 日本皮膚科学会雑誌(0021-499X)114 巻 5 号 Page998(2004) 6. 長井泰樹, 江畑俊哉, 堀香織, 松下哲也, 森本晉, 森本照子:市販感冒薬による即時型アレルギ ーの 2 例 7. 日本皮膚科学会雑誌(0021-499X)112 巻 10 号 Page1385(2002) 高木俊輔, 熱田英範, 大島一成, 車地暁生, 西川徹:頭痛薬「ナロン」依存症を合併した身体 表現性障害の 1 症例 8. 精神神経学雑誌(0033-2658)108 巻 10 号 Page1109-1110(2006) 土井理左, 橋本洋子, 河合修三, 堀尾武:イソプロピルアンチピリンによる固定薬疹の 1 例 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