厳格対位法 厳格対位法では、与えられた定旋律に対して、対位旋律(あるいは対旋律)をつけてい く。対位旋律の声部数や形式の違い(使う音符の長さ、リズム等)によって第一種から第 五種の区別がなされている。 定旋律はグレゴリオ聖歌等の旋律集から取る。(自由作曲においては定旋律も自分で作 曲するが、パレストリーナの対位法を範とする厳格対位法では、古典に拠ることになって いる。)定旋律には次のような特徴がある。 【定旋律の特徴】 ① 全音符だけで書かれる。 ② 旋律の主音で始まり、主音で終わる。 ③ 最後の主音は、下行順次進行による。 ④ 長さは10~20小節程度である。 ⑤ 音域は1オクターヴ程度である。 定旋律に対する対位旋律は、2/2 拍子を基本とする。すなわち一小節に二拍であり、こ の二拍を強拍、弱拍(あるいは裏拍)と称する。 厳格対位法で協和音と呼ぶのは、同度、三度、五度、六度、八度である。(当然、これ らの複音程も含む。)また、三声部以上では和音が出て来るが、和音とは三和音のことで あり、付加七などの四和音は含まない。注意すべきは、同じ三和音でも、第二転回形は不 協和音とみなすことである。(これは、第二転回形 1-4-6 に含まれる四度の音程を厳格対 位法では不協和音と見做すからである。) 厳格対位法は純粋対位法とも呼び、教会旋法による声楽的な対位法を基本とする。ただ し、フックス、マルティーニ、マールプルクなどのバロック期の大家達も、パレストリー ナの音楽を再現することを目的に厳格対位法を推奨したのではなく、当時の最先端であっ たバロック音楽を書くための基礎として厳格対位法を用いたのである。このため、厳格対 位法を古臭い音楽の手法として軽視することなく、より進んだ書法を習得するための素養 と考えて十分に取り組んだ方が良い。(その意味で、各種の教会旋法を軽視し、長調と短 調の二旋法だけを取り上げる教授法には異議がある1。) また、対位法の目的は究極的にはフーガを書くことにあると言って良い。厳密な意味で フーガの形式になっていなくとも、ルネサンス音楽だけでなくバロック音楽においてさえ、 フーガ的な要素というものが音楽においては必須なのである。その意味では、第一種や第 二種といった対位法の区分は完全に教習のためだけのものであって、全てフーガを書ける ようになるための階梯だと考えて良い。上にあげた五種の対位法(特に第一種~第四種) はあくまで、その技法だけで実践的な曲を書くためのものではないということを理解して おく必要がある。 1 17世紀、18世紀の自由対位法(和声的対位法、調性的対位法)では、声楽曲だけでなく器楽曲も受 分視野に入っていたが、旋法は長調と短調の二種に限定されていた。ケルビーニなどはこちらの例であ る。
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