Copyright Ⓒ 2015 JSPE O08 エンドミル加工シミュレータを用いた 周波数帯域別位置-力ハイブリッド制御のびびり振動抑制に関する研究 慶應義塾大学 ○門田崇志 ◎柿沼康弘 要旨 工作機械による加工において発生するびびり振動は,加工精度と工具寿命に悪影響を与える.びびり振動を能動的に抑制する技術とし て,びびり周波数の帯域に限定的に力制御を与える周波数帯域別位置-力ハイブリッド制御を提案してきた.本研究では,その効果を理 論的に検討し,実機上での実現可能性を考察するために時間領域のエンドミル加工シミュレーションを開発し,側面加工後の加工面の表 面粗さに基づいて提案手法を評価した. 1,緒論 工作機械による加工中に生じる問題としてびびり振動が挙げ られる.びびり振動とは工具と被削材の間で発生する振動であり, 加工精度劣化や工具寿命短縮につながる.これまで,主軸回転数 に対する安定限界切込量を示した安定限界線図を基に,安定加工 可能な切削条件を選択する方法や,主軸回転速度を周期的に変化 させる方法などが提案されてきたが[1],比切削抵抗などのパラメ ータ同定が困難なこと,また,主軸回転速度や切込量などの切削 条件が制限されることなどの問題がある.本研究では,帯域分離 型位置-力ハイブリッド制御を提案し,びびり振動の原因の一つ である再生効果を抑制し安定加工を実現することを目的とする. 位置制御によってステージを高精度に位置決めすることで加工 精度を高く保てるようにしながらも,同時に力制御によって切削 力の変動を抑制する.また,実機作成前に提案手法の実現可能性 を評価するために,再生効果を再現した時間領域エンドミル加工 シミュレータを構築した.シミュレータ作成の利点として,実装 にコストがかからないことや検証時間の短縮などが挙げられる. シミュレーションを実行後,加工面のびびり跡の観察及び,算術 平均粗さ(Ra 値)の算出により,提案手法を検証した. 2,びびり振動抑制の原理 びびり振動の原因の一つである再生効果が挙げられる.工具が 被削材に対して振動することによって加工面に凹凸が生じ,切削 を行う過程で一刃前の加工面の凹凸と現在の工具振動変位に相 差が生じて切取厚さが変化する.切削力は切取厚さに比例して大 きくなるため,切削力変動によって工具振動が励起され加工面に 新たな凹凸を残す.このプロセスが繰り返されることを再生効果 と呼び,びびり振動が拡大する要因となる.つまり,工具振動に 対して被削材との相対距離が一定となるようにステージの位置 応答値を追従させることができれば,切取厚さの変化による切削 力の変動は抑えられると考えられる. Position controller BSF Disturbance observer BPF Force controller Cutting force observer 図 1 ハイブリッド制御系 4,エンドミル加工シミュレーション 理論検証のために,2 枚刃のエンドミル工具による側面加工シ ミュレーションの構築を考えた.その実装方法としては,図 2(a) に示すとおり,加工表面のプロファイルを残し,切削を行ってい る場合は線形補間によって切取厚さを求めて比切削抵抗を乗じ ることで切削力を算出する.その後,求めた切削力を x-y 方向へ 分解し,それぞれの振動モードへ作用させる.そして,切削され た箇所の表面プロファイルを更新することによってエンドミル 加工を再現した.また,エンドミル工具にはねじれが存在するた め,(a)の二次元の表面プロファイルにおいて工具回転角度を少 しずつずらして複数重ねることで(b)のように 3 次元のシミュレ ーションを作成し,ねじれを再現した.シミュレーション実行後, (b)に示す被削材においてz = 0.03[m]平面の加工面の Ra 値を評 価する.しかしながら,二次元平面の表面プロファイルをこのよ うに複数重ねることで,各層ごとの表面プロファイルや工具刃先 位置情報など演算に必要となる要素数が膨大になり,演算時間に 時間を要する.そこで本研究では GPU(Graphics Processing Unit) による並列計算を利用し,演算時間の短縮した. 第22回「精密工学会 学生会員卒業研究発表講演会論文集」 - 49 - 被削材送り方向 被削材 被削材 0.06 工具 中心軸 Z座標[mm] 3,制御系の構成 提案するハイブリッド制御系(図 1)には,外乱オブザーバと切 削力オブザーバを適用している.切削力オブザーバで推定された 切削力を力制御コントローラにフィードバックし生成された力 指令値と,フィードフォワード+PP 制御による位置制御系で生成 された指令値を,それぞれ帯域制限型フィルタを用いて周波数帯 域別に分離する.そして指令値を加速度次元で足し合わせること で,位置と力の同時指令制御を実現する.具体的には,力制御側 に帯域透過フィルタ(BPF)を用いてびびり周波数近傍のみに力制 御を行い,それ以外の帯域に位置制御を実現するために位置制御 側には帯域阻止フィルタ(BSF)を用いた. 0 -10-5 8 10 加工面 6 4 8.00 0 0.005 4.00 10 2 表面プロファイル (a) 表面プロファイル (b)切削後の被削材 図 2 エンドミル加工シミュレーション Copyright Ⓒ 2015 JSPE O08 -1000 -1500 -2000 0.4000 0.8000 1.200 時間[s] (a) 切削力 (b) FFT 解析結果 工具振動変位-ステージ位置応答値 ステージ位置応答値 工具振動変位 15.0 10.0 5.00 0.00 -5.00 -10.0 -15.0 -20.0 -25.0 1.20 1.21 [m] 振動変位× [m] 振動変位× 1.21 1.22 1.23 時間[s] 1.24 1.25 図 4 工具振動変位とその位置応答値(位置制御系) y びびり振動による 斜めの縞模様 5.15 1.22 1.23 時間[s] y 4.95 0.00 4.00 x座標[mm] 5.15 0.04 0.02 0.06 5.05 4.95 4.85 0.00 8.00 0.00 0.01 x x座標[m] (a) 加工表面(x-y 平面) 被削材送り方向 被削材送り方向 y座標[mm] 5.05 1.24 1.25 図 7 工具振動変位と位置応答値(ハイブリッド制御) 0.06 y座標[m] y座標[mm] (b) FFT 解析結果 図 6 切削力およびその周波数成分(ハイブリッド制御系) 工具振動変位-ステージ位置応答値 工具振動変位 ステージ位置応答値 4.85 1.600 (a) 切削力 図 3 切削力およびその周波数成分(位置制御系) 15.0 10.0 5.00 0.00 -5.00 -10.0 -15.0 -20.0 -25.0 1.20 3.50 3.00 2.50 266[Hz] 2.00 1.50 1.00 0.500 0.00 0.00 200 400 600 800 1000 周波数[Hz] y座標[m] -2500 0.000 切削力[N] -500.0 振幅スペクトル×107 3.50 0.000 3.00 -500.0 2.50 290[Hz] -1000 2.00 -1500 1.50 -2000 1.00 0.500 -2500 0.00 -3000 0.00 200 400 600 800 1000 0.0000 0.4000 0.8000 1.200 1.600 周波数[Hz] 時間[s] 振幅スペクトル×107 Y方向切削力[N] 0.000 0.00 4.00 x座標[mm] (a) 加工表面(x-y 平面) (b) 加工表面(x-z 平面) 8.00 0.04 0.02 0.00 0.00 0.01 x x座標[m] (b) 加工表面(x-z 平面) 図 8 加工表面(ハイブリッド制御系) 図 5 切削力およびその周波数成分 5,制御系の導入 本提案手法の効果を評価するためにフィードフォワードと P-P コントローラ用いて,外乱オブザーバを付加した位置制御系をス テージ制御系に適用した.工具振動に対してステージの位置応答 値が追従し,工具とステージの相対距離を一定にし,切取厚さの 変動を抑えられることを確認するため,図 3 に y 方向の切削力と 1.0[s]から 65536 サンプルの高速フーリエ変換(FFT)解析をした結 果を示す.また,工具振動変位と位置応答値,およびその差を図 4 に示し,z = 0.03[m]平面における被削材の加工表面の様子を図 5 に示す.なお,主軸回転数は3000[𝑚𝑖𝑛−1 ],切込量は半径方向 0.00125[m],軸方向0.06[m]とする.また工具直径は0.01[m]であ る.位置制御系のみを用いた場合ではステージの位置応答値が 0 指令に追従し,工具振動に対する追従は見られない.さらに加工 表面には自励びびり振動の特徴である斜めの縞模様を確認でき る.このとき2𝑚𝑚 < 𝑥 < 5𝑚𝑚においての Ra 値は8.41𝜇𝑚であっ た.そして,ハイブリッド制御系を適用した場合の結果を同様に 図 6,図 7,図 8 に示す.提案手法では位置制御のみを用いた場 合と比較して,びびり周波数である290[Hz]の周波数成分を低減 できているが,新たに266[Hz]で振動していることが分かる.一 方で,位置応答に関しては,工具の振動に対してステージを追従 させるような応答が見られ,びびり跡に関しても斜めの模様がわ ずかに見られるだけである.Ra 値も 2.29𝜇𝑚となり大幅に小さく できている.以上のことから,提案手法によってびびり振動自体 は低減することはできていないが,加工面品位を向上できること が確認できた.今後,新たに生じているびびり振動について抑制 方法を考察すべきである. 5,結論 再生効果を再現したエンドミル加工シミュレータを作成した. ハイブリッド制御を適用させることで,びびり振動が生じる周波 数での切削力変動を抑制することができた.さらに,加工面の斜 めの縞模様の有無および算術平均粗さから,提案するハイブリッ ド制御をステージ駆動制御系に適用し,工具振動に対してステー ジを追従させることで,びびり振動の影響を低減できることが確 認できた.今後提案手法について,多様な加工条件への適用可能 性や,実機実験による有用性を確認する必要がある. 6,参考文献 [1] Y. Altintas,E. Budak:”Analytical Prediction of Stability Lobes in Milling” Annals of the CIRP, Vol.44, No.1, (1995), pp. 357-362 [2]大西公平:”外乱オブザーバによるロバスト・モーションコ ントロール”,日本ロボット学会誌,Vol.11,(1993) ,pp. 486-493 [3]鈴木教和:”切削加工におけるびびり振動(前編)” 精密工学会誌 Vol.76,No.3, ( 2010), pp. 280-284 第22回「精密工学会 学生会員卒業研究発表講演会論文集」 - 50 -
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