REPORTSOFThegroupforstudyofmiura-peninsulaNature-historyNo.17 葉山町長柄におけるヤマアカガエル(Ranaornativentris)の谷戸田での産卵状況 StudyofabundanceofFrogRanaornativentrisinHayama 金田正人* はじめに 早春,三浦半島の谷戸ではカエルたちの鳴き声が聞こえ,水田中にはたくさんの ゼリー状のカエルの卵が観察できる.しかし,こうしたカエルの生息に適した谷戸 は開発などによって三浦半島内でも激減している.本調査では,市民グループ「こ さく」で復田に取り組んでいる三浦郡葉山町長柄大山の谷戸(鬼ヶ作谷戸)におけ るヤマアカガエル(Ranaornativentris)の卵塊数をカウントし,減少しつつある カエルの生息状況の把握に努めた. 調査地の概要 調査地(北緯 35 16 50” 東経 139 36 0 )は,逗子市・葉山町の境界とな る丘陵部を流れる森戸川の形成する谷戸内部にあり,阿部倉山(標高 155m) ・二子 山(下) (標高 208m)の鞍部を源頭とする森戸川の枝沢によってできた谷戸である. 谷戸は,コナラ・オオシマザクラからなる雑木林,スギの植林,ウメ畑,畑および 水田と休耕による荒廃湿地によって構成されている.水田(約 300m2)は,1993 年に一度休耕したが,’94 年以降は市民グループ,「こさく」によって復田,耕作 が継続されている. (*葉山町長柄 1182-3) 8 REPORTSOFThegroupforstudyofmiura-peninsulaNature-historyNo.1 調査方法 調査は,1996 年1月 15 日 6月 30 日,1997 年1月 15 日 4月 30 日に実施し た. 期間中の奇数日に調査地内を踏査, 目視によって確認できるヤマアカガエル (Rana ornativentris)卵塊を採取し,卵塊数および調査日の天候などを記録した.ヤマ アカガエルの卵塊は,胚を含め透明なゼリー状の 1.5 2.4mm の卵の粒が 1,000 1900 個集まって塊状となって産卵される(1989,松井) .この雌1個体より産卵さ れる卵塊を今回,便宜的に1卵塊として数えた.卵塊は,産卵直後は直径5cm 程 度だが水分を吸収して膨張する.また,数日を経ると複数個体より産卵された卵塊 同士が癒着してしまうために,調査を一日置きに(ピーク時には毎日)実施するこ とで,カウント漏れを少なくするよう努めた.また,卵塊がなんらかの原因(雨に 流される,鳥などに被食されるなど)によって細分され複数個の卵塊となってしま う可能性も考えられ,その際の重複カウントについては,今回の調査では無視して しまった.今後,こうした原因による調査の誤差を減らすための方法を検討する必 要があると考える. 調査結果と考察 1. 産卵数と生息個体数の推定 今回の調査でカウントされた総卵塊数は,1996 年は589卵塊,1997 年は42 7卵塊であった. この結果から調査地のヤマアカガエルのメスの成体の個体数は 500 頭程度である と推定される.繁殖個体の性比は明らかではないが,ほぼ1:1に近いとするとお よそ 1000 個体程度生息していると推定できる.非常に荒い推定値ではあるが,お およその目安にはなると思われる.当地での個体群における個体数の年次変化や変 動幅は今回の明らかにならないため, 調査を継続し細かく分析していく必要がある. REPORTSOFThegroupforstudyofmiura-peninsulaNature-historyNo.1 9 2. 産卵池環境について 調査地内で産卵された水域を環境特性によって5つに分けた(表1) . それぞれの水域における確認卵塊数の内訳を表2に示した. 卵塊は,1996 年,1997 年ともすべて P1 P4の水域内に産卵され,P5では産 卵されなかった.P5が他の地点と最も異なる点として,本種の産卵期にあたる調 査期間中でも晴天が続くと干上がったことがあげられる.産卵時だけではなく,早 春から夏にかけ水域が確保されていることを,ヤマアカガエルの産卵池を選出する 際の要素として重要である可能性もある.しかし,P1周辺の畦上など水域外での 産卵も観察されていたため,水域と本種の産卵の条件については更に調査分析して いく必要がある. もっとも多くの産卵が観察されたのは,1996 年,1997 年とも P1;休耕地に設 けられた水たまりであった.P1は,1989 年より休耕地となっている休耕田である. 水域は深さ 10cm 程度で 1m 1m くらいの広さが産卵期間中は常に確保されていた. P3 P5に較べて,谷戸の斜面林から比較的,距離があり(3 10m 位) ,明るい. 1997 年は,P2;水田での確認卵塊数が 1996 年の3倍近くになっているが,産卵 期と水田に水がひかれる時期に関係していると考えられた. 表1 環境概要による調査地の区分 環境区分 水域 P1 休耕田(1990年以降) 約1 1m P2 水田 − P3 休耕地(1989年以前) 約1 1m P4 休耕地(1989年以前) 約4 P5 休耕地(1989年以前) 約0.5 植生 斜面からの距離 日照 セリ・タネツケバナ 中 明 イネ 中 明 近 やや明 アズマネザサ 近 やや明 アオキ 近 暗 4 セリ・アズマネザサ 2m 1m 3. 産卵時期について 1996 年は,1/15 より調査を開始したが,2/13 に成体1個体,2/15 に1卵塊がそ れぞれ初認であった.産卵は,4/1 まで断続的に行なわれ,3/1 3/3・3/16 3/18 の2回の産卵ピークが観察できた. 調査を開始した1/15 1/20は雨天が続き,調査地に水域が確保された.その後気 温が落ち込み水域は結氷,2/17には降雪した.一時的に気候が緩み雨天となっ た2/13に初めて成体が観察され,翌2/14には6個体が観察できた(22:00 23:00, 気温12℃) .午前中大雨となった3/1の17:00 18:30には「カエル合戦が,P1に 10 REPORTSOFThegroupforstudyofmiura-peninsulaNature-historyNo.1 おいて観察できた.100 番以上の成体が水域に集まり,鳴き交わしながら次々に抱 接するのが観察できた.はじめに主に雄が水域内・周辺にあつまっており,約 30 分後に雌が集合し始めた.産卵の終認日となったのは 4/3 であった.この頃には2 月中に産卵されていた卵は孵化しており,体長約 3cm ほどに成長している.その後, 6/29 まで調査を継続したが,産卵は観察できていない. 1997 年も調査は 1/15 より開始した.調査開始時に既に1卵塊が産みつけられて いた.胚の成長から産卵後4 5日経過していると思われた.1997 年の産卵の終 認は 4/2 であった. やはり2回の産卵ピークが観察され, 1997 年は 2/17・3/15 3/16 の 2 回であった. 1/15 /20 は晴天が続いた.1/21 に午後から少し雨が降った.調査を開始して初 めてまとまった雨が降ったのは 1/24 である.翌 1/25,雨は雪になったが,1卵塊 が観察された.最初の産卵ピークが観察された 2/17 は前日の午後からまとまった 雨が降った.2度目の産卵ピークとなった 3/15 も 3/14 から大雨になっている. 以上の結果より,ヤマアカガエルの産卵には2回の産卵ピークがあること,産卵 は降雨量に関係することの 2 点が示唆されている.産卵時期の決定にはその他の条 件(地温・気温など)も関係してくるものと考えられ,今後注意して観察したい. なお,潮が関係あるのでは? という推察が調査協力者より得られたが,1996 年 および 1997 年の調査では潮と産卵時期についての関係は認められなかった. まとめ 今回の調査により,ヤマアカガエルの産卵には早春から初夏にかけ谷戸内に水域 が確保されている事が重要であると考えられる. また,本種の産卵には2回の産卵ピークがあること,降雨量と産卵は関係がある ことなども推察できた.ただし,個体数の変動の状況や,産卵水域の条件 他地域における産卵状況との比較など当地におけるヤマアカガエルの産卵状況の把 握には多くの課題が残されており,継続的に調査を実施し精度の高い観察を行なう 必要がある. 末筆になるが,調査に協力して下さった「こさく」のメンバー,調査に助言を下 さった鈴木茂也氏に感謝の意を表する. 参考文献 松井正文,1989,日本変える図鑑,pp76-79,文一総合出版,東京 REPORTSOFThegroupforstudyofmiura-peninsulaNature-historyNo.1 11 表2 各調査区において観察できた卵塊数 調査日 1.15 1.25 2.15 2.16 2.17 2.18 2.19 2.20 2.21 2.22 2.23 2.24 2.25 2.26 2.27 2.28 2.29 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7 3.8 3.9 3.10 3.11 3.12 3.13 3.14 3.15 3.16 3.17 3.18 3.19 3.20 3.21 3.22 3.23 3.24 3.25 3.26 3.27 3.28 3.29 3.30 3.31 4.1 4.2 4.3 4.4 P1 1996 P2 1997 1996 P3 1997 1996 P4 1997 1996 P5 1997 1996 小計 1997 1996 1 1 1 1 2 200 2 1 201 1 1 7 20 339 2 1 13 3 1 7 6 13 1 6 1 39 342 1 8 1 1 1 4 1 108 26 9 14 85 30 1997 143 2 4 10 6 3 16 2 97 43 1 1 16 17 2 1 1 2 35 2 3 26 17 1 5 1 20 4 1 4 35 5 1 2 1 4.5 合計 509 347 20 62 38 17 22 1 0 0 589 427
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