15.1.9 線維筋痛症

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1979年、国際疼痛学会において「痛み」をスライドのような定義がなされました。難
しい表現ですが、簡単に言うと「身体に損傷をもたらすような不快な感覚」というこ
とです。痛みは不快な感覚ですが、危険から身を守るための警告信号でもありま
す。
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疼痛は,ケガややけど,突然の病気などによって起こる「急性疼痛」と,原因の治
療を行っても何ヵ月も痛みが続いたり再発したりする「慢性疼痛」の2つに大別され
ます。
「急性疼痛」はからだを守る反応の1つで,重要な役割を持っています。脳が「痛
い」と認識することによって,病気やケガで傷ついた部分を一時的に安静にさせる
働きがあります。
一方の「慢性疼痛」は,痛みの原因が治っても痛み続ける,あるいは原因が治りに
くいために痛み続ける状態です。痛みの存在自体が病気となって,日常生活にも
支障が出るようになります。
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痛みは、原因によって「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「非器質的(心因性)
疼痛」の3つのタイプに分けられます。 傷害受容性疼痛とは、骨折やケガで、体の組織が損傷を受けたときに起こる痛み
です。関節リウマチなどのリウマチ性疾患もこれに属します。人体に苦痛を与えま
すが、身体の異常が発生したときに警告信号を発する役割も担っています。 神経障害性疼痛とは、中枢あるいは末梢神経の神経組織そのものに障害が起き
たときに生じる痛みです。帯状疱疹後の神経痛、三叉神経痛、坐骨神経痛などが
あります。日常生活ではあまり経験しないヒリヒリ、チクチク、灼けつくような灼熱感
です。 非器質的(心因性)疼痛とは、痛みの原因になる疾患が見つからないもので、過去
に何らかの肉体的な外傷や負荷を受けた経験がある上に、心理社会的ストレス、
筋肉の過緊張、撃縮が起こった場合に起こるといわれています。神経伝達物質(カ
テコールアミン、サブスタンスP・・)の異常が契機となり、さらに内分泌系や免疫系
も関与して痛みが増強すると考えられています。
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痛みとなる刺激は、皮膚などの末梢神経にある受容器で感知します。感
知した痛みのシグナルは、脊髄後角と呼ばれる部分に伝えられます。
シグナルは 脊髄後角からさらに脳続に向かっていく神経(脊髄視床路)に伝えられて
最終的に脳に届きます。脳で痛みを感知すると、今度は脳から脊髄後
角に向 かっている下降性疼痛抑制系神経が働いて、痛みを抑えようとします。こ
のように、脊髄後角では車のアクセルとブレーキの関係の用意、「痛
みをおこす刺 激」と「痛みを抑える刺激」を調整しています。線維筋痛症は「この調整が
うまく働かなくて、痛みをおこす刺激がより強くなっている状態ではない
か」と考えら れています。
線維筋痛症患者さんの脳の機能MRI検査では、健常者に比べて弱い疼痛刺激で
も脳の一部に過剰に反応する部位が認められます。
維筋痛症は原因が不明なので、決め手となる診断手段はありません。医師の診察
や血液検査はもちろん、CTや一般的なMRI検査などでも異常を発見できません。し
たがって、痛みをおこす原因となる病気が見当たらず、3カ月以上続く上半身・下半
身を含めた左右対称の広範囲の痛み(慢性癖痛)があり、痛み以外の自覚症状
(疲労感や起床時の不快感、思考や記憶力の障害、頭痛、うつ症状、下腹部痛な
ど)をどれだけともなっているかによって診断します。
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米国リウマチ学会1990年線維筋痛症の分類基準 3か月以上続く上半身、下半身を含めた対称性の広範囲の疼痛と上記1
8ヵ所の圧痛点の内11カ所以上に圧痛がある場合に線維筋痛症と分類し
ます。 しかし、この分類基準の欠点としては、線維筋痛症が機能性身体症候群
のひとつであるにも関わらず、疼痛と圧痛のみの項目であり、多彩な随伴
症状の存在を考慮してないことがあげられます。
1990年の分類基準の問題点を改善すべく米国リウマチ学会が2010年に線維筋痛
症の臨床基準として予備診断基準(2010)を提案した 。さらに、より簡略化されたものが米国リウマチ学会2010改定基準(2011)として提
案されました。 この基準では、線維筋痛症に重要な自覚症状として、慢性疼痛の拡大度、ならび
に疼痛以外の自覚症状として疲労感、起床時の不快感、認知症状、あるいは頭痛、
うつ症状、下腹部クランプを取り入れ、総計31点となります。このスコアが13以上
あれば線維筋痛症と診断できるとしています。 9
線維筋痛症患者さんの発症年齢 線維筋痛症は中年女性に多く発症しますが、若年者(小児)に発症することも稀で
はありません
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線維筋痛症は原因不明の全身の疼痛を主症状とし、不眠やうつ症状などの精神
神経症状、過敏性腸症候群、逆流性食道炎、過活動性膀胱炎などの自律神経症
状を随伴する疾患です。発症年齢は30~50代の女性に多く発症しますが、小児に
も発症します。厚労省の疫学調査では本邦人口の1.7%、約200万人が罹患してお
り、欧米の約2%と大差なく、関節リウマチ患者より多くの方が罹患されています。 このようにかなりの数の患者さんがいるにもかかわらず、客観的な診断マーカー
が欠如しており、他人には理解しがたい症状のため、治療する医師への理解は乏
しく「医師が診療を避けている」状況があります。また、離婚、失業、家事労働困難
な患者さんが多く、小児例では不登校の原因にもなっています。また、疼痛という
自覚症状のみであるため、障害年金や生活保護などの社会保障も受けられる難
い実態もあります。
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線維筋痛症の治療方法 線維筋痛症は原因不明の疾患であるため、残念ながら根治療法はありません。痛
みを起す神経の興奮を抑えたり、痛みを抑える神経の働きを強めたりする薬剤を
使用します。主には抗痙攣薬、常習性の少ない麻薬系薬、抗うつ薬、抗パーキン
ソン薬、睡眠導入剤、抗痙攣薬などを症状に合わせて使用します。線維筋痛症の
治療目的、こういった薬剤を使用するのであって、「てんかん」や「うつ病」を治療す
るのではありません。 また、鍼灸療法、マッサージ、リラクゼーション、ヨガ、気功などを含めた各種代替・
補完医療も行われています。このなかで、科学的に有効性が確認されているのは
認知行動療法と有酸素運動療法です。 12
線維筋痛症の病型分類と治療法 筋緊張亢進型は比較的若い年齢層に発症する場合にみられ、かなり激しい痛み
を伴います。ガバベンチンを中心に治療を行います。筋付着部炎型は外傷やリウ
マチ性疾患が原因で発症しアキレス腱や胸鎖関節や膝の腱の付着部に疼痛を認
めます。非ステロイド系抗炎症薬や抗リウマチ剤であるスルファピリジンなどの投
与が効果的です。うつ型は心因的要因から線維筋痛症を発症します。抗うつ薬や
抗不安剤を投与します。 しかし、これらの型は重複するのが一般的で、3型を組み合わせて治療されるの
が普通です。
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主な鎮痛剤が作用する部位をお示しております。 解熱鎮痛剤である非ステロイド性抗リウマチ薬は痛みの受容器のある部位の損傷
による痛み(侵害受容性疼痛)に効果を発揮します。線維筋痛症による痛みは侵
害受容性疼痛でありませんから、一般的には効果が乏しいのです。 プレガバリンは痛みを伝達する神経のシナプス部位に働き、興奮を鎮めることによ
り痛みを抑えます。オピオイドや抗うつ剤もこの部位に働きますが、同時に脳の部
位でも痛みを抑制します。
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プレガバリン(リリカ®)の特徴をお示しします。
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プレガバリン(リリカ®)は容量依存性に疼痛スコアを改善させます。
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プレガバリン(リリカ®)は同時に、睡眠の質を改善させます。
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線維筋痛症は、何らかの原因で生じた痛みが慢性化し、疼痛を伝える神経が広範
囲に興奮しだし、発症します。早期にしっかりと治療すれば改善しますが、その時
期を逃すと激しい痛み(アロディニア)がおこり手が付けられなくなります。早期発
見・早期治療が重要です。
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