尾崎紀夫 〝

精神医学 43巻
e3号
2001年
3月
精神科医のための卒後初期研修 医学教育改革の中で
し
ち
の
尾 崎紀 夫
`
し
・精神医学卒前医学教育改革 の方向性
臨床実習全体 の 70%に あた る部分 を全 医学生 が学 ぶ
医(
近年,生 命科学 は飛躍的進歩 を遂 げてお り,医 師
に とって習得す べ きbiologicalな
知識 は増大 す る一
べ き 「コ ア 臨 床 実 習」 と し,内 科 系 「内 科」「
小児
よ1
産 婦人科」 の 5科 目
外科」「
精神科」,外 科系 「
科」「
が それ にあた る として い る。 この よ うに卒前医学教
救1
育 にお い て,精 神科 は今 までの minor科 目か ら,ア
前:
は1
方で あ る。他方,bio10gicalな知 識 と psycho―
social
な視点 を融合 させた 医療 の実践 が 求 め られ てお り,
それ を受 けて卒前 0卒 後 医学教育 をい か にす べ きか
とい う議論 が活発 にな されて い る。卒前医学教育 に
関 して は,医 師 国家試験 出題 基 準 0平 成 13年 版 (以
メ リカなみに major科 日 として認知 されたので ある。
卒前教育 におい て,「あ らゆる医学生 が 身 につ ける
べ き必須 の知識 ・技能 ・態度」 として精神 科 が 重 要
的'
む
研イ
下国試基準 と略)が厚生省 によって公表 され,文 部省
は医学教 育 モ デ ル 0コ ア ・カ リキ ュ ラム (以下 モ デ
視 され始 めた点 は,精 神医学講座担 当者 として こん
ea〔
な に うれ しい こ とはな い。 ところが,「精 神 科 医」
育ヒ」
ル ・コア 0カ リキ ュラム と略)を発表 した。
国試基準 にお い て は 「コ ミュニ ケ ー シ ョン能 力 や
が,「あ らゆる臨床医が 身 につ けてお くべ き必須 の知
識 0技 能 0態 度 を身 につ けて い るか」 とい う点 に関
は「
行動科学的 な領域 を含 む臨床能力 を問 う問題 を充実
させ る」 との方向性 が打 ち出 され,「患者 ・障害者 の
して は,は なはだ疑間 で あ る。精神科病棟 で 患 者 の
医:
呼吸 が止 まった ら,「医者 を呼 べ」 と大騒 ぎになる と
い う,笑 うに笑 えない話 を聞 いた こ とが ある。従 来,
mo
持 つ心理 ・社会 的問題」 や 「
医療面接 にお け る面接
者 の態度」 とい った項 目が 国試 の必須 出題事項 とな
る予定 で あ る。 これ らは医療全般 にかかわ る もので
精神科医 は臨床医 として 当然習 得 せね ばな らぬ基本
技術 を身 につ けな い まま,臨 床 を行 う こ とはなか っ
とt
間[
あ るが,精 神医学 との 関連 が 深 く,教 育面 で精神 科
が イ ニ シアチ プ を とる ことが期待 されて い る。 さ ら
た ろうか。 す べ ての臨床 医 に とって必要 な基 本技術
精ネ
として,救 命救 急 の ABCと
つ
に,国 試 基 準 にお い て 精 神 科 その ものが 従 来 の 精
神 ・神経 ・運動器疾患 グ ル ー プか ら離 れ て,精 神 ・
す る基 礎 的対応 が挙 げ られ よ う。 その知 識 に関 して
とヽ
修│
心身医学的疾患 として独立 し,精 神科独 自の 出題割
は,卒 前教育 にお いて あ る程度習得可能 と思われ る
が,技 術 的 な こ と,例 えば血 管確保,気 道確保 とい
合 が増 えて お り,全 体 として精神 科関連 の 国試 出題
った ことは,診 療参加型実習 の拡充 に よって従来 に
フ
範囲 はかな り拡大す るもの と予想 され る。
一 方,モ デ ル ・コア ・カ リキ ュ ラ ム の意 図 す る と
比 べ る と卒前教育 にお い て習得 され る範 囲 が拡大 さ
本
れ る とは言 え,実 際の臨床現場 で役立 つ もの とは思
教E
ころは,「教育内容 が多様化 す る一 方 で,全 ての学生
が履修 す べ き必須 の教育 内容 を精選 して コア ・カ リ
われ な い。 したが つて これ らの技術 は ど うして も卒
199
キ ュ ラム を作成 す るための試案 を提 示 した」 もので
あ り,「医師 ・患者関係 を中心 とした コ ミュニ ケ ー シ
cOmmon diseasesに 関
後教育 で身 につ けざるをえない。
・卒後臨床研修必修化 の動向
●オ
を老
厚生省 は卒後臨 床研修 を必 修化 し,い わ ゆる ス ー
パ ー ロー テー トを行 う こ とを 目指 し審議 中 である。
局甫
学に
て特筆 す べ き点 は,臨 床実習 にお いて も精神科 が 今
その狙 い は,プ ライマ リー ケア と全人 的医療 の実践
で あ り,ま さに卒前教育 の改革理念 と同 じ方向性 で
一
あ り,実 施 されれば卒前 ・卒後医学教育 の 貫性 と
い う点で も意味 あるもの とな ろう。 と こ ろが,卒 後
まで にな く重視 されて い る ことであ る。す なわ ち,
臨床研修 の運営 に重要 な意味 を持 つ経済的保 障 に関
ョン能力」 を身 につ け,あ らゆる疾患 の診療 にお い
て 「
Bio―
sOcial」
な視点 を持 つ ことが必要 で
psychO―
ある こ とが 強調 されて い る点 は,国 試基準 と同様 で
ある。 さ らに,モ デ ル ・コア ・カ リキ ュ ラ ム にお い
%。
ぎ4
行三
て,
こと
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ち こめて い るのが 現状 で あ る と聞 き及 んでお り,こ
管理がで きるようになる」 とい う理 由, 反 対意見 は
「
精神科医 としてのアイデ ンティティーが損 なわれ
の ままで はせ っか くの医学教育改革 も卒後教育 に関
る」 との理 由 によるものが大半 で あった とされてい
しては指針 を欠 いた ままにな りそ うである。
る。
して大蔵省 が難色 を示 し,実 現 に関 して は暗雲 が立
私 の意見 として は,少 な くとも卒後 2年 間 に臨床
入局 前 に大学外 の総合病院 で ロー テ ー ト研修 を行
ミ
医 の基 礎技能 として,communicationの 実践能力 お
う こ とが,精 神科 に限 らず全 科 で常識化 して い る名
見
よび bio―
sOcialな視点 を持 つ こ とに加 えて,
psychO―
古屋大学 の研修制度 の もとで私 自身 が 2年 間 の研修
ヨ
救命救急 の ABCと
次
的対応 を習得す る こ とが必須 で あ る と考 えて い る。
を行 い,現 在在職 す る藤 田保健衛 生大 学 も大 学 内 で
2年 間 ロー テー ト研修 を実施 してお り,「 ロー テー ト
ア
前者 は精神科 医 を 目指す もの に とって,初 期研修 中
o る
は もとよ り生涯 をか けて研鑽 す べ きもので あ ろう。
common diseasesに 関す る基 礎
要
む しろ,精 神科医 にな る こ とのな い臨床 医 こそ初期
研修期間中 に精神科 をロー テー トして,common dis―
も
easesと しての精神疾患 へ の対応 とともに この ような
研修 が 当 た り前」 と思 って い ただ けに,こ の 「ワー
キ ング ・グル ー プ報告」 を聞 いて非常 に驚 いた。「
臨
ー
ン
床医 としてのアイデ テ ィテ ィ 」 を得 るた めに必
要 な ロー テー ト研修 を行 わず,「精神科医 としてのア
イデ ンテ ィテ ィー」 が 確立 され るで あ ろ うか。 自分
︱
の患者 を救命 す る必要性 が 生 じた時 に,し か るべ き
咽
渇
能力 をぜ ひ身 につ けて もらい た い。 この点 に関 して
はすでに他誌 で私見 を述 べ てい る1)。
対応 が取 れ な い で,臨 床精神 科医 であ る と言 えるの
さて,問 題 は精神科医 にな る ことを 目指 して い る
であろうか。私 は,研 修 を終 えてか らも総合病 院精
つ
医師 が,初 期研修 にお い て救命救 急 の ABCと
と
mon diseasesに関す る基礎 的対応 を習 得 して い るか
き, 本
とい う点 で あ る。卒後研修 が必 修化 す る と,研 修期
間中 は何科 に属 す とい うわ けで はな く全員 が ロー テ
つ 前
ー ト研修 を行 い,身 体管理 の基礎が身 につ くはず で,
com‐
神科 での勤務 が 主 で,時 間外救急 にお い て 内科系医
師 として働 くことや,リ エ ゾ ン コ ンサ ル テ ー シ ョン
の現場 で身体疾患 を併発 して い る患者 を診療 す る こ
とが 多 く,初 期研修 で経験 した こ とが 役 に立 って い
る ことを痛感 した こ とが しば しばあ る。一 方,単 科
て
とい う可能性 が 出 て きた と聞 き,精 神科医 の初期研
疾患 へ の対応 を精神科 医 自身 が行 わね ばな らな い機
る
修 について考 えてみる こ とにした。
・精神科 医 を目指 す研修 医 に対 す る初 期研修 の あ り
会 が 多 くな るはずであ る。 したが って,総 合病 院 で
ハ
調
って い た。 ところが,こ の制度 その ものが 頓挫 す る
精神病院 で勤務 す る と,身 近 に コ ンサ ル トす る身体
疾患 の専門家 が い な いた め,救 命救急 や一 般 的身体
精神科医 を 目指 す研修 医 に とって も良 い こ とだ と思
に
方
あ ろうが,単 科精神病 院 で あろ うが,精 神科 医 に と
って身体疾患 へ の基 本 的対応 が重 要 で あ る ことに変
さ
思
卒
横浜市 立大 学 ・小阪憲司教授 が,全 国 の精神 医学
教室主任教授 に対 してア ンケ ー ト調査 を実施 され,
わ りが ない はず で ある。
1999年の精神医学講座担当者会議 で発表 された,「 ロ
ー テ ー ト研修 に関す る ワー キ ング 0グ ル ー プ報 告」
化 が行 われず,現 行 どお り初期研修 に対 す る指針 が
を参 考 に してみ よ う。 この報告 に よる と,精 神科入
局 前 に ロー テ ー ト研 修 を行 って い るの はわ ず か 10
前述 した よ うに,何 らかの理 由で卒後研修 の必修
な い まま臨床 医 とな る状態 が続 くので あれ ば,精 神
科医 になる研修 医 が 身体疾 患 へ の対応 を身 に つ ける
機 会 をぜひ とも初期研修 にお いて確保 して い ただ く
,践 で と 産 調
%。 入局後 に他科 の ロー テ ー ト研修 を行 って い る大
学 は約半数 だが,他 科 の ロー テ ー トは 3∼6か 月 にす
よう関係各位 の皆様 にご配慮 をお願 い 申 し上 げた い。
ぎな い ところが ほ とん どで,全 くロー テ ー ト研修 を
尾崎紀夫 :精神医学 は精神科医にならない研修医にとっ
ても重要なのだろうか。 レジデ ン ト・ノー ト2:105-108,
2000
(藤田保健衛生大学医学部精神医学教室)
行 って い な い大 学 も約 24%あ る との こ とだ。 そ し
て,精 神科入局前 に 2年 間 の ロー テ ー ト研修 を行 う
ことに対 して,賛 否 は相半 ば し,賛 成意見 は 「
身体
︼