ヒトFollicle agingに関する細胞骨格の視点よりの知見 秋田大学大学院医学系研究科産婦人科学講座 白澤弘光 館山奈江 佐藤恵美子 金森恭子 熊澤由紀代 熊谷仁 森耕太郎 寺田幸弘 ヒトARTの妊娠率、生産率は女性の年齢が37歳前後から急激に低下し、それは男性側の年齢は大きく関 与せず「卵子の加齢による質の低下」である事が臨床的事実として知られている。卵子の加齢を検討する 際、排卵前の変化と排卵後の変化を考慮する必要がある。前者は個体加齢による卵子の質の低下(follicle ageing)でありそれらに対する知見を集積する事は、今後の生殖医療の方向性を考える上で必須である。 Follicle ageingには、卵巣自体の加齢性変化、それに伴う様々な環境変化が卵子に与える影響、長期間に 渡りresting phaseにあった卵子が減数分裂を開始する際の加齢による変化など、関与する事象が多く存在 する。その中でミトコンドリアの個体加齢による機能変化は卵子成熟や受精過程など、様々な段階でfollicle ageingに密に関与しているとする報告が多い。加齢によるミトコンドリアDNAの変異は、染色体の配列異 常、紡錘体形態異常、極体放出異常などに関与すると推測されている。また、活性酸素種による酸化障害 も、ミトコンドリア代謝系の加齢性変化や細胞膜の弾性や可塑性に影響を与えていると考えられている。 加齢に伴う卵子の形態学的変化としては、紡錘体変形、細胞質変化、fragmentationの増加などがヒトや マウスで報告されている。またfollicle ageingが臨床において重要となるのは、高齢女性における妊娠率 の低下であるが、その原因の一つとして染色体異数性(aneuploidy)の増加がある。減数分裂における、sister chromatidsの分離過程の様々なエラーがaneuploidyの原因となる。細胞骨格を構成する紡錘体、微小管は、 sister chromatidsの分離において、染色体セントロメア上のキネトコアへ結合し、チェックポイントとし て機能している。MAD2は紡錘体チェックポイント蛋白として知られており、またSMCbeta1のようなコ ヒーシン蛋白は、減数分裂における染色体架橋の切断過程で重要である。MAD2やSMCbeta1の遺伝子産 物は、ヒトやマウスの胚において加齢に伴い減少する事が示されており、follicle ageingに関与していると 考えられている。細胞骨格系は生命現象の現場の状況、つまり結果でありその観察と解析はfollicle aging の本質をとらえるための重要な端緒になりうる。 加齢による卵子の質の変化を評価する際、その形成過程の様々な段階での検討を要する。またヒトと他 の種による差も考慮する必要がある。ヒト加齢女性をシミュレートした動物モデルの作成は困難で、生殖 可能な様々な年齢から得たヒト卵子をマテリアルとして用い検討する必要があるが、多くのヒト卵子を研 究目的に採取する事は現状では困難である。我々は子宮体癌手術時の摘出卵巣から未成熟卵子を採取し、 体外成熟培養にて成熟卵子に導くシステムを確立した。これにより、様々な生殖年齢層から実験に用いる 事が可能なヒト卵子を得る事ができる。現在このシステムを用い様々な年齢の卵子の未成熟期から成熟期 までの形態学的、機能的変化を検討している。 本講演ではヒト Follicle aging に関する細胞骨格の視点より得られた知見をレビューし、最近我々が得た結 果の一部を報告する。
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