学生の保育計画力の育成に関する一考察 ― 教育課程総論と幼稚園教育

学生の保育計画力の育成に関する一考察
― 教育課程総論と幼稚園教育実習との関連を通して ―
A Study on Developing Students’ Faculty of Practical Teaching Children:
Through Relevancy between General Curriculum and Student Teaching at a Kindergarten
間井谷 容 代
Hiroyo MAITANI
Ⅰ はじめに
幼稚園及び保育所では幼児教育要領及び保育所保育指針にそれぞれ示されている発達年齢を理解
した上で保育計画を立て、実践を行っていくことが大変重要である。
保育者養成校では、保育の基本としての計画性及び実践力等が身に付くように指導を行い、資質
の高い保育者を養成している。そのためには、保育者を目指す学生には、将来の保育現場において
実践を行う上で基本となる幼稚園教育要領と保育所保育指針の理解が必要である。そしてそれは、
「生きる力の基礎」を作ることの学びであると考えられる。保育者養成に携わる教員は、この基礎
を学生に確実に伝えていくことが大事である。
そこで、本研究は保育計画に関する授業である教育課程総論と、同科目での学習内容の実践的教
科である教育実習A及び教育実習Bの授業を考察することにより、今後の授業運営及び学生指導に
役立たせることを主な目的として行った。
Ⅱ 授業内容及び方法
1.教育課程総論
教育課程総論の講義内容は幼稚園教育要領や保育所保育指針を基に、教育課程・保育計画の意義
や変遷、さらに具体的な指導計画の作成について学習する。授業は幼稚園教育の歴史・教育法・幼
稚園教育要領等を中心に行い、教育の基本となる「生きる力の基礎」を土台として進めている。
本校では幼稚園教育実習を2回生の6月と11月に各2週間行っており、実習日誌の内容に基づき、
指導計画の作成を行っている。指導案については具体的に実践できるように教育実習Aの授業と併
行して進め、PDCA(Plan 計画、Do 実行、Check 評価、Act 改善)サイクルによる確認を行っ
ている。内容として保育内容を具体化した上で、季節のことを考え、ねらい・内容・環境構成・援
助方法・幼児の姿・考察等の書き方について学生自身で作成できるように指導している。
6月の実習前は、子どもとの関わりをイメージして計画を立てやすくするために、また学生の実
習に対する意識が少しでも高められるように、教育実習Aの授業時に本学院付属幼稚園で子どもと
関わる機会を設定している。尚、計画の立案については「子どもが楽しめる内容」、「自分の負担に
ならない内容」などの点を考慮して検討するよう、授業時に指導している。
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2.教育実習A・教育実習B
教育実習関係の授業科目は、学内で行う実習事前事後指導である教育実習Aと学外幼稚園で行う
教育実習Bで構成されている。
(1)教育実習Aの指導の内容について次に記す。
①子どもの年齢・発達過程
幼稚園の年齢は3歳・4歳・5歳の年齢が対象である。最近、実習園ではこども園に向けて
の計画が施行されている為、満2歳児からの保育を行われている園が多くなってきている。こ
のことより、1歳児~5歳児の幼児理解ができるように、発達段階を知り、それに応じて関わ
りについて具体的な例をあげ、例えば触れ合い遊びや手遊び等を臨機応変に対応できるように、
関わり方についてグループワークを取り入れながら考えるように進め、学生間の意見交流をも
たせている。
②遊び
「遊び=楽しい」という表現になりがちであるが、保育の場でいう遊びは学びである。年齢
に応じてどのような活動が楽しいのかを考えることが必要である。例えば1~2歳児の場合は
スキンシップが多く必要である。言葉が話せない分たくさんの関わりをもつことが遊びへと繋
がる。3歳児は少し指先を使って活動ができ、友達への興味もでてきている。スキンシップを
取り入れながら小グループでの遊びが可能になってくる。4~5歳児にもなると、集団遊びが
可能になる。これだけ発達段階によって遊びでの保育者の関わりは変わってくる。このことを
理解しながら、触れ合い遊び・手遊び・ゲーム遊び等を考える必要性がある。また、遊びを考
える時、この活動をした場合のイメージトレーニングをしておくことが大事である。なぜなら、
それが実践に結び付くからである。
③記録
ただ実習であったことを書くのではなく、「なぜその援助が今必要なのか」を考えて記録す
ることが大切である。学生が「担当の先生がなぜこの活動をし、そのような援助をするのか」
と疑問がもてるようになることが望まれる。
記録の取り方においては本学院付属幼稚園において実習を実際に体験し記録させている。ただ
これも授業の1コマだけに過ぎないため、十分とまでには至らない。学外実習中の記録の記入
は概ね各園の指導でお願いしているため、学生にとって少し困惑することがある。それは事後
指導のアンケート回答に「子どもにとって必要な配慮事項を記入すること・・・と指摘された」
と記されていることからもわかる。事象のみを記入することが多く、
「~に気を付け配慮する」、
「~ができるように援助する」などの記入ができていない事が多い。当該箇所について園から
は語尾の表現を変えて記入するように指導されている。例年6月の実習に関して前述と同様の
指摘を受けることが多いことから、過年度における指摘点については予め当該年度の学生に伝
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え事前事後指導に役立たせていきたい。
④指導案作成
観察実習を通して、今、子どもたちに何を伝えたいか、季節等を含めて考えることを進めて
いる。しかし、学生にとってこの場面は特に「失敗をしたくない」という思いから、自分中心
に保育内容を検討することが多い。これは毎年同じ傾向である。実習後のアンケート項目にあ
る園の先生から受けた指導項目と内容を見ると、「言葉がけは子どもの年齢に応じた言葉がけ
をするように・・・」、「子どもにとって必要なねらい・内容を記入するように・・・」等との
記述が多く見られた。実習中はただ認められたくて、必死で指導案を立て取り組んだのであろ
うと感じるが、いい結果とならなかったようである。それは、学生たちの考えが目の前の幼児
の実態を二の次としてしまったことが原因である。
現場での保育者はクラスの幼児の姿を見て、「保育でこのように成長してほしい」という願い
から指導案を作成する。現場職員までにはなれないが、それに近い気持ちをもって指導案を立
てることが望ましいのである。実習生だけに難しい要求でもあるが、折角試して学ぶことがで
きる時なので、担当教員に相談しながら保育内容を考え失敗を恐れず挑むよう学生たちには今
後も指導していきたい。
⑤教材研究
授業では季節を考えそれに適した物、例えばエプロンシアターや布絵本、ペープサート、人
形等の制作を課しており、学生たちには各自制作物を実習に持っていくように指導している。
実習時に活用する点から、学生にとって制作に相当の力が込められている。しかし、制作の苦
手な学生もおり、中には制作に対する意欲が持てないこともあり、その際に制作意欲がもてる
ような手掛かりを学生に与えている。取り掛かりが遅くとも、やる気一つで実習は変わるもの
である。「制作=実習」という気持ちを常にもたせている。
制作は実習に向けての第一歩として取り組むように指導しているため、この教材研究について
は、学生たちの工夫する点が多く見受けられることから実習評価に繋がってきている。このよ
うなことも踏まえて、この指導は今後も続けていく予定である。
概ね①~⑤の項目を中心として、実習前に「教育課程総論」の授業と組合せながら教育実習
の授業を行っている。また、付属幼稚園へ実習体験として保育に入り、実際に子どもたちと触
れ、援助・遊び等を学んでいる。そこでは手遊び・絵本・紙芝居等を行っており、実習前のこ
の経験はとても有用である。
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写真1
写真2
※写真1・2・3は教材研究として制作した作品であ
る。
写真1はカレーライスの手遊びを手袋シアターと
して制作している。
写真2はお弁当バスのうたに合わせて演じられる
ように、ミトンの形で制作している。
写真3はマイケル・グレイニエツの「お月さまっ
てどんなあじ?」と絵本を基にエプロンシアターと
して、制作したものである。
写真3
(2)幼稚園実習
実習先の幼稚園からいただく多くの指導や助言は学生の考えを改めるきっかけとなっている。実
際のところ子どもは理論と違い、どれだけイメージしていても想像もつかないような動きがある。
それだけに、保育の中でのかかわりは大変難しい。
保育現場における子どもとの関わりは授業時に学んだテキスト等での学びで、その通りにはでき
ないことがあるということに実習を経験して気づいたようである。学外実習中はその都度担当教員
より指導を受けることができるので、同時に担当教員の思いも知ることができ、学生にとっていい
学びとなっている。学外実習の経験が学内の授業での学びと結びつく、あるいは結びつけることに
つながる。また、発達段階も具体的に実践を通して知ることで活動での援助方法も理解できると考
えられる。これこそが学生にとって本当の実りある実習であろう。
しかし実習といえども「命」と関わる仕事である。このことを自覚して行わなければならない。
実習生は、子どもの前に立つと「一人の先生」である。それだけに責任は大きい。命を預かる現場
に実習生として入る訳であるから、厳しい眼差しがあって当然である。学生も命を預かる先生とし
て自覚を持って、実習に臨まなければならないのである。そして、現場職員としてどのように子ど
もとかかわるのかを学び、実践していくことが大事である。
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3.実習後の学生に対するアンケート
実習終了後2回生58名の学生を対象にして、実習先からの指摘事項についてアンケートを行った。
調査内容は表1の8項目(石川清明:2007)である。調査結果を表1に示す。
実習記録・指導案について指導を受けた項目
項 目
①援助・言葉がけ
人 数
割 合
30 名
52%
6名
10%
③環境構成
16 名
28%
④幼児の活動
13 名
22%
⑤ねらい
21 名
36%
⑥内容
16 名
28%
⑦誤字脱字
19 名
33%
8名
14%
②設定保育の時間配分
⑧その他
表をみると明らかに学生の苦手なところは「援助・言葉がけ」であり、半数以上の学生が実習先
で指導を受けている。具体的には「遊びの流れに添った言葉がけを考えるように」、「活動する時、
子どもが考えて行動できるように」、「子どもにとって必要な援助を考えて」等の指導を受けたよう
である。これだけの指導を受けると「言葉がけ・援助」をすることに戸惑いを感じ、自然と子ども
に声をかけることが困難になったのであろう。また、反対に保育者の言葉がけ・援助に神経を集中
して耳を傾けることもできたのであろうと感じる。言葉・援助は子どもの気持ちを左右するところ
がある。学生にはこの重要性を感じ臨んでもらいたいところである。
続いて「ねらい」項目の割合が高い。これは現場職員でも難しいことから学生にとっては大変な
課題である。学生の記録を通して感じることは、一日の流れにあるすべての活動にかかわるねらい
として掲げようとするため、「心情・意欲・態度」を気にかけず記入している状況があった。ポイ
ントを忘れて活動ばかりを考えていた結果であろう。保育の基本が抜けてしまったことが残念であ
る。
次いで多かったのが「誤字・脱字」であり、教科担当者としては大変残念である。実習記録とい
えども大事な書類である。それを「間違った」では許されない。漢字の意味や記入する言葉の意味
を理解した上で記録をするように再度指導を入れている。後期はこのような基本的な間違いはない
ようにさせたい。最近は携帯で漢字を調べることができるなど手軽さに頼りがちであるが、当て字
のように表記されることもあり間違いも起こり得る。記入の際には、辞書を活用するように促して
いきたい。
少ない割合ではあるが「その他」では、「保育者の保育の思いを聞いたこと」、「保育の考察・反
省の書き方」、「実習記録の最初の欄にある『子どもの姿』の記入の仕方等を丁寧に指導を受けた」
等の回答が見られた。特に「保育者の思い」、「子どもの姿」については学生が実習するにあたり、
心強くなる指導である。不安な学生の気持ちを理解していただいていることを養成校の教員として
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嬉しく感じるところだ。
実習先で、具体的に実践に有用な指導や助言を受けていることがアンケートよりわかった。今回、
このアンケートにより学生自身が実習を振り返ると共に反省も行うことができた。
振り返りの反省の中で、「事前準備をして、子どもとのかかわりのイメージトレーニングをした
上で、練習を重ねて実習に臨んだが、自分の思うように出来ないことがたくさんあった」という声
を多くの学生から聞くことができた。そこで「臨機応変な対応」が必要であることに気づくことが
でき、その上で具体的な例を学生からの意見を取り上げ指導をしている。「臨機応変な対応」とは
言葉通りその場での状況に応じた行動をすることである。つまり、子どもの様子はその時々に変わ
るものである。その時に応じた対応の仕方が現場で求められている。しかし、突然起こるため、学
生は対応に困ることが多い。その時は「子どもの気持ちを考えてみよう」「子どもの気持ちに立っ
てみよう」と学生に伝え、
「指導」を前提に置かず、子ども側に立場を変えることで、対応がスムー
ズにできるようになることを指導している。簡単なことであるが、学生は頭で理解しても実践まで
には至らないようである。一度経験すると自信がつき、できるようになっていくものである。この
ような対応をできるようになることが、一番大事であると言える。
このことを基に子ども一人一人を1クラスで指導していくのは、とても困難なことである。しか
し保育者になる学生にとってはこのことを理解した上で「生きる力の基礎」を育てられるように努
めていくことが大切である。それだけに、「臨機応変な対応」が求められるのである。現場の教員
でも難しいことであるが故に学生にとって大きな課題である。将に理論と実践の交わりであるだけ
に、理解し難いところでもある。
保育は授業の「教育課程総論」と「教育実習」の結びつきにより成り立つものであることが学生
の中で少し結びつき理解できたようだ。
今回の振り返りを通して、後期の実習では学生の中で理論と実践がより結びつき、今後の課題も
見出してくれることを期待している。
4.まとめと考察
学生にとり、理論と実習を結びつけるのは大変難しい。例えば自由遊びを考えた場合、子どもた
ちは自由に自分をだして主体的に活動していくものである。その活動の中には五領域が含まれてい
ることを保育者は理解しておかなければならない。「友達と遊ぶ(人間関係)」、「小動物・自然に触
れる(環境)」、「人に思いを伝える(言葉)」、「遊びを自分なりに考え進める(表現)」、「活動的に
身体を動かす(健康)」とたくさんの子どもの姿が見られる。そこにタイムリーな、保育者の言葉
の援助や環境構成によりそれぞれの遊びが大きく広がるものである。この繋がりを理解することが
大切である。実践を頭で理解していても、実際に実践することは難しいものである。今、学生がで
きるのは実習で一日一日を大事にしながら経験を積み重ねて学ぶことである。回数を重ねることに
より、子どもへの関わりと学生の課題である「臨機応変な対応」が身に付くものであると考える。
記録に関しては、授業で何度か練習を重ねたが、保育の流れを知った上で記入しない限り記録の
記入は出来ないものである。そのことを理解しておかないと、記録が書けないという結果に至る。
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学生の記録状況をみると、援助・配慮のところで実習先からの指導がある。記入する際の表現方法
が指導者主体の保育内容なっているということである。つまり子どもが主体とした文章表現で記録
をしなければならないということである。指導案も同様である。つまり幼児教育は子ども主体の保
育でなければならない。如何に子どもの姿を見て成長に何が必要か考えていかなければならないも
のである。答えが常に未知であるため、幼児教育は探求心を持って追い求めなければならないと思
われる。そこには楽しさもあり、難しさもある。日々、子どもと向き合いながら「ワクワク感」を
持って子どもとかかわらなければならない。即ち「共感をする」ということが大事であるのである。
学生はよく幼稚園教育は「教育」という表現をする。学生たちが普段学校で学ぶように、子どもた
ちも幼稚園で学んでいる「『遊び』は『学び』である」と指導書は謳っていることもあり、学生た
ちの考えを一層そうさせているのであろう。
保育はこれから生きていく上での人格形成の土台であり、まさに集団生活のスタートラインであ
る。そこで、保育者となる学生たちに、「子どもはどのようにしたら、頑張ろうとするのか」、「笑
顔になるのか」、「自信をもつのか」について考えることをこれからも促進するように努めたい。
引用文献
1)石川清明(2007):「教育実習における指導計画案の立案指導について(₄)」―幼稚園におけ
る指導―(國學院大學幼児教育専門学校)日本保育学会第61回大会発表論文集、231
2)齊藤多江子(2007):「保育課程総論」の授業のあり方について考える―週案作成の試みから―
(聖セシリア女子短期大学) 日本保育学会第60回大会発表論文集、834-835
3)碓井幸子(2013):実習における指導案立案の手立てとなる教材研究(清泉女学院短期大学)
全国保育士養成協議会第52回研究大会、244-245
4)文部科学省(2008年10月):幼稚園教育要領解説
参考文献
1)松山由美子(2008):「保育者養成における保育案作成と実践力の育成」(四天王寺大学 短期
大学部)日本保育学会第61回大会発表論文集、513
2)松山由美子(2009):「保育者における学生の学びの過程と成果」―「保育実践力」育成のため
のカリキュラムの構成と評価をとおして―(四天王寺大学 短期大学部)日本保育学会第62回
大会発表論文集、271
3)田甫綾乃 須永美紀(2009):「教育実習入門期における実習園と養成校との連携」―実習日誌
の記述を通して―(國學院大學幼児教育専門学校)
4)藤塚岳子(2013):「教育実習事前事後指導」の手がかりを探る―学生の学びと課題を分析し
て―(東海学園大学)
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