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認定の一時停止に関わる一考察
主任研究員
下口
信男
1.はじめに
公益財団法人防衛基盤整備協会(BSK)システム審査センター(以下「システ
ム審査センター」と呼称する。)は、品質マネジメントシステム(QMS)、航
空宇宙防衛品質マネジメントシステム(AQMS)、環境マネジメントシステム
(EMS)及び情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の認証機
関として活動している。
今年2015年は、QMSとEMSの次期規格改正版発行の年である。この
次期規格には、
「リスク及び機会への取組み」が要求事項として明確になり、リ
スクベースのアプローチという手法が強調されている。
同じようにシステム審査センターの認証業務においても、リスクマネジメン
トが重要なことは言うまでもない。今回、認定機関から認定の一時停止と判定
された場合(以下「一時停止」と呼称する。)を認証機関としてのリスクの一つ
として想定し、
「一時停止」の期間にシステム審査センターとして何を行うべき
かを検討してみた。万一「一時停止」の危機が発生したときに何をすればその
影響を最小化できるのか、また危機からの早期回復のためには、システム審査
センターの各部が何を行うべきかという考察である。
2.危機として「一時停止」の想定
QMS、AQMS及びEMSについての認定機関は、公益財団法人 日本適合
性認定協会(JAB)である。引用文書(2)JAB MS200:2015 によると、
「一時停止」と
なる事項に該当する要件は、表1に示すa)~g)項があり、想定されるケー
スとその発生頻度を検討してみた。検討の結果及び JAB が認証機関を一時停止
とした最近の事例からも分かるように a) 認定の要求事項を継続的に満たさな
かった場合の「一時停止」が一番発生の頻度が大きい。従って想定ケースとし
ては、毎年受審している認定審査で指摘された不適合の修正・是正処置回答な
どに不備があり、認定の更新又は継続ができず「一時停止」となった場合を想
定した。また認証組織数の一番多いAQMSでの不適合に対する修正・是正処
置回答に関連した「一時停止」と想定する。
備考:JAB が認証機関を一時停止とした最近の事例
第 109 回マネジメントシステム認定委員会報告(2015 年 5 月 22 日開催)
認定が一時停止されたマネジメントシステム認証機関:株式会社N機構
一時停止の理由:JAB MS200 の 15.2.1 a) 認定の要求事項を継続的に満た
1
さなかった場合
に該当
表1「一時停止」となる該当要件、想定されるケース、発生頻度等の検討
一時停止となる該当要件
(JAB MS200:2015)
想定されるケース
発生頻度等
の検討
a) 認定の要求事項を継続的に 認定審査での不適合に対する
満たさなかった場合
修正・是正処置回答に不備等
△
b) 認定委員会が別に指示する BSK 受審担当者の病欠等によ
×
場合を除き、認定の継続の確認 り認定機関 JAB と調整した日 職員の健康管
が、11.14.2 に定める期限から 3 程で 3 か月以上認定審査が受 理状況より
か月以内に行われなかった場合 審できない等
c) 認定の規則を遵守しなかっ JAB 認定シンボルの意図的に
た場合
不適切な使用等
d) 本協会(JAB)との契約の不履 認定に係る料金の未払い等
行があった場合
×
備考参照
×
財務状況より
e) 適合性評価機関を認定する BSK 組織内で認証業務のコン
×
ために用いられる基準を用いて サルティング活動等
コンサルティ
適合性評価サービスを提供して
いる場合
ング活動は実
施していない
f) 機関の提供するマネジメン 審査で審査員の言動・行動に
×
トシステム認証の信頼性を著し より明確な法令違反と認めら 審査員教育、
く損なう事実があった場合
れる事件、事態になる等
審査員の資質
より
g) 機関から書面で依頼があり、 BSK からの自発的な申告によ
×
認定委員会において認められた る一時停止
想定範囲外
場合
△:発生頻度は起こりうる程度
×:発生頻度は極めて小さい
備考:2012 年認定審査で認証組織の JAB 認定シンボル旧版使用に対して指摘を
受けたが、適切な修正是正処置活動を行っており、
「一時停止」の対象と
なるような意図的に不適切な使用となる事態の発生頻度は極めて小さい
と判断した。
3.認定の「一時停止」期間に行うべき活動内容
システム審査センターとして認定の「一時停止」期間に行うべきことを、以
下に時系列的にまとめてみた。
2
3.1 「一時停止」解除に向けての活動(システム審査部担当)
認定審査員が容認できる不適合の修正・是正処置の回答を作成し、認定機
関(JAB)の認定委員会で一時停止解除の決定を受けること。
期間的には、1~2ヶ月と予測する。
3.2 BSKウエブサイト及び広告物(審査業務部業務第 1 課及び営業担当)
認定の地位に言及しているBSKのウエブサイトの内容を修正し、広告物
(パンフレット)の使用を停止する。
3.3 OASISデータベースでの認証機関情報の更新
システム審査センターが「一時停止」となったことを、OASIS(注1)
データベースの認証機関情報の更新として、暦日 14 日以内に行う。
[SJAC9104-1 8.7]
(注1)Online Aerospace Supplier Information System
3.4 認証組織への通知 (審査業務部業務第1課担当)
一時停止に関与するマネジメントシステムの認証組織及び申請中の組織
のすべてに、システム審査センターが「一時停止」の状態になったことと
組織に対する影響(注2)を、「一時停止」を受けた日から暦日 15 日以内に、
通知する。
(注2)組織に影響する内容など
(1)新規の認証又は認証移転を申請中の組織に対しては、
「一時停止」期間
は申請を保留すること。
また初回審査の第1段階審査及び認証移転に関わる活動は、「一時停
止」期間は実施せず延期すること。
(2)認証組織に対する審査活動は、通常通り実施すること。
(2.1)サーベイランス審査で認証書の発行を伴わない認証維持となる組
織については、特に何の影響もないこと。但し、拡大等の認証書発行
を伴う変更審査については、「一時停止」期間に通常審査と併せて実
施しないこと。
(2.2)「一時停止」期間に、認証書を発行する再認証審査については、
制限(JAB 認定シンボルなし)があること。
3.5 営業活動 (審査業務部及びシステム審査部の営業部門)
「一時停止」期間は、すべての営業活動を停止すること。営業活動の再
開は、「一時停止」解除後とする。
3
3.6 「一時停止」期間中の認証書の発行
「一時停止」期間中、組織への(新規又は再認証の)認証の発行に関する
条件及び管理方法を定め、認定機関(JAB)から文書化した合意を得る。こ
れにより「一時停止」期間中は認定シンボルのない認証書を発行し、「一
時停止」解除後に、認定シンボル付きの認証書を発行する。
3.7
「一時停止」解除後の活動
事後処置として、
「一時停止」が解除されたことのOASISデータベー
スの情報更新、認証組織への通知、認定機関への必要な報告(注3)を行う。
(注3)「一時停止」期間に実施した各組織の審査、認証に係る決定など
4.「一時停止」による審査活動及び営業活動等に与える影響
4.1 審査活動
「一時停止」に関わる是正処置を遵守し、審査活動を行うことは必須であ
るが、これは審査員教育で是正処置を徹底することで達成できると判断する。
また認証書の発行を伴わないサーベイランス審査には、特に影響はないの
で審査活動の 2/3、約 60%は何の影響もなく審査活動ができる。
審査活動で影響するのは、次のものである。
(1)延期する審査活動
拡大等により認証範囲が変更となる変更審査、初回審査の第1段階審査
及び認証移転である。延期されたこれらの審査活動は、
「一時停止」解除
後に遅れを挽回する。
(2)一時停止の期間に再認証審査で発行する認証書は、認定シンボルを使用
できないので、「一時停止」解除後に認定シンボル付きの認証書を再発行
する。
4.2 営業活動
「一時停止」期間中は、営業活動を停止するので、新規認証取得希望の組
織と契約ができず新規顧客の希望に対応できない。このため一部の新規顧客
は、他の認証機関に替わるようなこともあると予想する。従って新規顧客と
の契約に対する影響は大きいので、「一時停止」解除後に再開する営業活動
においては、失われた期間を挽回すべく鋭意努力をする必要がある。
5.おわりに
認証機関として、
「一時停止」になった場合の活動内容や審査活動及び営業活
4
動等に与える影響について整理し考察した。認証機関としては、
「一時停止」に
到らないように常日頃から留意する必要があることは勿論であるが、本レポー
トの考察が危機管理の一助になれば幸いである。
6.引用文書 「一時停止」に関わる関連規定等からの抜粋
(1)JIS Q 17000:2005(ISO/IEC 17000:2004)適合性評価-用語及び一般原則
6. サーベイランスに関する適合性評価の用語
6.2 一時停止(suspension)証明の適用範囲の全部又は一部について、適合の表明を一時的に
無効にすること。
(2)JAB MS200:2015 マネジメントシステム認証機関の認定の手順
第 19 版:2015 年 6 月 12 日
15.2.1 認定の一時停止に関する処置
認定された機関が、次のいずれかの事項に該当し、認定範囲の全部又は一部について一時停止と
なった場合には、本協会は機関に対して指定した期間内にそれらを解決するための具体的処置を
講ずることを求めるとともに、その事実を公表する。
a) 認定の要求事項を継続的に満たさなかった場合
b) 認定委員会が別に指示する場合を除き、認定の継続の確認が、11.14.2 に定める期限から 3
か月以内に行われなかった場合
c) 認定の規則を遵守しなかった場合
d) 本協会との契約の不履行があった場合
e) 適合性評価機関を認定するために用いられる基準を用いて適合性評価サービスを提供してい
る場合
f) 機関の提供するマネジメントシステム認証の信頼性を著しく損なう事実があった場合
g) 機関から書面で依頼があり、認定委員会において認められた場合
15.3 認定の一時停止、取消し及び認定範囲の縮小に伴う認定証の扱い
認定の一時停止、取消し及び認定範囲の縮小に伴う認定証の扱いは、JAB N410 に
よる。
15.4 認定の一時停止、取消し及び認定範囲の縮小に伴う機関の行った認証の扱い
15.4.1 機関は、認定の一時停止、認定の取消し、又は認定範囲の縮小に伴い、現に発行してい
る認定された認証文書及び認証組織に対して正当かつ公平な説明、その他の必要な対応を行い、
市場への影響を最小限にするとともに、この対応の計画及び結果を本協会に文書で報告すること
とする。
15.4.2 認定の一時停止、取消し及び認定範囲の縮小に伴い、機関が行う本協会の認定シンボル
付き認証文書の扱いは、JAB N410 による。
15.5 認定の一時停止中に行われている認定審査等の扱い
認定委員会は、認定の一時停止の決定にあたり、一時停止となった要因を踏まえて、当該機関に
対する実施中の認定審査の中断の要否、及び新たに審査計画に入る認定審査の延期の要否を判断
する。本協会は、その結果を当該機関に通知する。なお、中断した認定審査は、原則として認定
の一時停止の解除後に再開することとする。また、認定の一時停止期間中は、一時停止となった
要因によっては、本協会は当該機関からの拡大審査の申請を受理しないことがある。
15.7 認定の一時停止の解除
15.7.1 認定の一時停止となった機関は、その要因の除去が確認された後、認定の一時停止が解
除される。
5
15.7.2 認定の一時停止解除に伴う認証の扱い
認定の一時停止が解除された機関は、その対象となる認定範囲に係り、一時停止解除前に行った
各組織の審査、認証に係る決定などの認証プロセスについて、一時停止となった原因の影響を確
認し、必要な処置をとるものとする。
(3)JAB MS201:2014 マネジメントシステム認証機関の認定の補足手順
-航空宇宙品質マネジメントシステム- 第 5 版:2014 年 11 月 20 日
15.認定の一時停止、取消し又は認定範囲の縮小
d) 認定の一時停止に伴う機関の処置
機関が、認定の一時停止を受けた場合、機関は、次の事項を確実にしなければならない。
【SJAC9104-1 の 5.3.7 e)】
1) 既存の及び申請中の組織のすべてに、一時停止の状態になったことと組織に影響を及ぼし得
るいかなる結果も、機関が一時停止を受けた日から暦日 15 日以内に、通知する。
2) 要求されているサーベイランス及び再認証審査を継続して実施する。
3) 初回認証のための第 1 段階審査は実施しない。
4) 認証範囲の拡大は実施しない。
5) JIS Q 9100 認証の他の機関からの移転は受け入れない。
6) 認証の信頼性を確実にするために、一時停止期間中、いかなる組織への(新規又は再認証の)
認証の発行に関する条件及び管理方法を定め、本協会から文書化した合意を得る。
7) 本協会及び/又は JRMC の要請に応じ、一時停止期間中に発行した(新規又は再認証の)認
証すべての文書化されたリストを、本協会及び/又は JRMC に提供する。
8) 該当する場合、一時停止により、本協会が他に課す条件を忠実に守る。
(4)JAB N410:2015
認定シンボル使用規則
第 15 版:2015 年 5 月 1 日
7.認定の一時停止、取消し及び認定範囲の縮小
7.1 認定の一時停止
機関は、どのように決定されようと認定の一時停止があった場合、当該一時停止期間中において、
認定の地位に言及しているすべての機関の広告物の使用を停止しなければならない。
8.2.3 認定の一時停止に伴う認定証の使用
認定の一時停止によって、認定範囲の全部又は一部について、認定が一時的に無効となった場合
には、機関は、当該認定範囲に係る認定が有効であると誤解を招く方法で認定証を使用してはな
らない。
(5)JAB のウエブサイト「よくあるご質問」:
自組織(自企業)が登録をうけている認証機関が認定の一時停止や取消しになった場合、どう対応
すればよいですか
認証機関が認定の一時停止となった場合であっても、当該認証機関から発行されている本協会の
認定シンボル付き登録証は有効です。
ただし、一時停止になっている期間中に当該認証機関が初回認証又は認証の拡大に関する決定を
行ったものについては、本協会の認定シンボルのない登録証の発行をうけることになります。こ
の場合は一時停止が解除された後に、必要な手続きを経て、本協会の認定シンボル付き登録証に
変更することができます。
認証機関が認定の取消しとなった場合には、当該認証機関から発行されている本協会の認定シン
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ボル付き登録証はすべて回収されることになります。当該認証機関において登録を維持したいと
いう場合は、本協会の認定シンボルのない登録証の発行をうけることになります。本協会の認定
シンボル付き登録証を求められる場合は、本協会から認定されている他の認証機関に登録を移転
する必要があります。登録の移転手続きに関しましては、ご登録の認証機関及び移転を予定して
いる認証機関に詳細をご確認下さい。
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