PART―1 - 日本建設情報総合センター

インフラ管理におけるイノベーションと
モバイル機器の可能性
東京大学大学院情報学環 特任教授
石川 雄章
ISHIKAWA Yusho
1
2
はじめに
戦略的イノベーション
創造プログラム
インフラ管理におけるイノベーションに向けた取
我が国全体の科学技術を俯瞰し、各省より一段高
り組みが進んでいる。その背景には、平成24年12
い立場から、総合的・基本的な科学技術政策の企画
月に発生したトンネル事故以来、インフラの老朽化
立案及び総合調整を行うため、内閣総理大臣を議長
が社会的な課題として顕在化するなかで、従来の方
とする「総合科学技術・イノベーション会議」が平
法では増大する老朽インフラに十分な対応ができな
成26年5月に設立(総合科学技術会議が名称変更)
いというインフラ管理者の危機感がある。こうした
された。また同じ時期に、科学技術イノベーション
状況認識の下、例えば道路分野では、「今すぐ本格
の実現を目的として「戦略的イノベーション創造プ
的なメンテナンスに舵を切り、産学官の予算・人
ログラム」(以下「SIP」という)が創設され、同
材・技術のリソースのすべてを投入する総力戦の体
会議が府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメ
制を構築すべき」との建議 を受けて、道路の老朽
ントに主導的な役割を果たすこととなった3)。
化対策としてメンテナンスサイクルの確定やメンテ
SIPの対象課題は、革新的燃焼技術、次世代パワーエ
ナンスサイクルを回す仕組みの構築など、道路管理
レクトロニクス、革新的構造材料、エネルギーキャリア
1)
における“イノベーション”が進みつつある。
(水素社会)
、次世代海洋資源調査技術、自動走行(自
本稿では、イノベーションの構成要素 -①新し
動運転)システム、インフラ維持管理・更新・マネジメ
い品質の財貨の生産、②新しい生産方法の導入、③
ント技術、レジリエントな防災・減災機能の強化、次世
新しい販路・市場の開拓、④原料の新しい供給源の
代農林水産業創造技術、革新的設計生産技術の10課
2)
獲得、⑤新しい組織の実現-に照らして、研究開発
題であり、このうち、インフラ管理に関連する課題は、
によって“新しい維持管理技術の生産”を促進する
インフラ維持管理・更新・マネジメント技術、レジリエ
「戦略的イノベーション創造プログラム」、社会イ
ントな防災・減災機能の強化である(表−1)。
ンフラ分野のイノベーションを推進する“新しい組
表−1 インフラ管理に関連する対象課題の概要
織を実現”する「モニタリングシステム技術研究組
合」、現場での実証を通じて“新しい点検・診断方
法の導入”を試みる「東北インフラ・イノベーショ
ン・コンソーシアム」の活動を紹介し、インフラ管
理におけるノベーションとモバイル機器の可能性に
ついて述べる。
対象課題
研究開発計画の基本的事項
予算
インフラ高齢化による重大事故リスクの顕
インフラ維
在化・維持費用の不足が懸念される中、予
持管理・更
34.5
防保全による維持管理水準の向上を低コス
新・マネジ
億円
トで実現。併せて、継続的な維持管理市場
メント技術
を創造するとともに、海外展開を推進。
レジリエン
ト な 防 災・
減災機能の
強化
大地震・津波、豪雨・竜巻等の自然災害に
備え、官民挙げて災害情報をリアルタイム 24.5
で共有する仕組みを構築、予防力の向上と 億円
対応力の強化を実現。
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これまでのインフラ管理における公的な研究開
計測手法や非破壊検査方法等を開発する(表−2)。
発を振り返ると、これほど多額の研究開発予算が
(3)情報・通信技術の研究開発では、今後インフ
府省の枠や旧来の分野の枠を超えて戦略的に投じ
ラ管理での利用が期待される各種センサを想定し
られたことはなく、また、インフラ分野以外の専
たセンシングデータを収集し統合的に解析する技
門領域と密接に連携して研究開発を行ったことも
術、インフラ管理で取り扱う画像、テキスト等の
稀であり、SIPの仕組みは画期的なことといえるだ
多種多様なデータを適切に処理・蓄積・解析・応
ろう。
用するためのクレンジング技術、データベース技
このうち、インフラ維持管理・更新・マネジメ
術等を開発する(表−3)。
4)
ント技術の研究開発計画 では、有望と思われる技
これらを見ると、他の分野で普及している先端
術シーズに着目した5つの研究開発項目-(1)点
的な技術や既に一部で実証が進みつつある技術を
検・モニタリング・診断技術の研究開発、(2)構
インフラ管理分野に活かすことによって、早期に
造材料・劣化機構・補修・補強技術の研究開発、
実践的な効果が表れる研究成果を期待して、技術
(3) 情 報・ 通 信 技 術 の 研 究 開 発、(4) ロ ボ ッ ト
シーズに着目した研究開発課題を採択したことが
技術の研究開発、(5)アセットマネジメント技術-
を設定し、藤野陽三プログラムディレクターのもと
文部科学省、経済産業省、国土交通省等が分担連
携し、独立行政法人科学技術振興機構(JST)及び
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の
マネジメント力を活かして研究開発を進める体制
となっている(図−1)。
うかがえる。
表−2 (1)点検・モニタリング・診断技術の研究開発
研究開発課題
対象物
異分野融合によるイノベーティブメンテナンス 橋梁・コンク
技術の開発
リート構造物
レーザー超音波可視化探傷技術を利用した鋼橋
橋梁(鋼)
の劣化診断技術の開発
インフラ劣化評価と保全計画のための高感度磁
橋梁
気非破壊検査
レーザーを活用した高性能・非破壊劣化インフ トンネル・橋
ラ診断技術の研究開発
梁
高速走行型非接触レーダーによるトンネル覆工
の内部欠陥点検技術と統合型診断システムの開 トンネル
発
高感度近赤外分光を用いたインフラの遠隔診断 コンクリート
技術の研究開発
構造物
学習型打音解析技術の研究開発
-
表−3 (3)情報・通信技術の研究開発
研究開発課題
開発する技術
インフラ予防保全のための大規模セン センシングデータの多
サ情報統合に基づく路面・橋梁スクリ 量収集技術、統合的デ
ーニング技術の研究開発と社会実装
ータ管理・分析技術
図−1 研 究開発の実施体制(出典:インフラ維持管理・更新・
マネジメント技術の研究開発計画)
このうちモバイル機器、ICTに関連がある(1)
点検・モニタリング・診断技術の研究開発、(3)
情報・通信技術の研究開発、で採択された研究開
発の内容を見てみよう 。
5)
(1)点検・モニタリング・診断技術の研究開発で
社会インフラ(地下構造物)のセンシ
ングデータ収集・伝送技術及び処理技 データ収集・処理技術
術の研究開発
インフラセンシングデータの統合的デ データ解析・可視化シ
ータマネジメント基盤の研究開発
ステム技術
高度なインフラ・マネジメントを実現 データの加工技術と膨
する多種多様なデータの処理・蓄積・ 大なデータを一元的に
解析・応用技術の開発
管理するデータベース
インフラ維持管理・更新に関する多種 社会インフラ構造物と
多様なデータの蓄積・管理・活用技術 時間・空間的に対応付
の研究開発
けるインデックス技術
は、橋梁・コンクリート構造物、トンネル等を対象
これらの技術シーズに着目した研究開発とは別
に、赤外線、レーザー、高感度磁気等を用いた新しい
に、SIPの一環として、国土交通省によって現場で
6
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Part 1 特別寄稿
の実証を中心とした研究開発も行われている。国
土交通省では、平成25年10月に設置した社会イン
フラモニタリング技術活用推進検討委員会がヒア
リング等を通じてとりまとめた橋梁、法面・斜
んでいる7)。
3
モニタリングシステム
技術研究組合
面、河川堤防、海洋沿岸、空港施設の各分野の管
平成26年10月22日に、独立行政法人土木研究
理者ニーズ をもとに、「社会インフラへのモニタ
所、高速道路会社、建設会社、建設コンサルタン
リング技術の活用推進に関する技術研究開発」を
ト、情報通信関連企業、測量・計測企業など幅広い
公募した。公募では、橋梁、のり面・斜面、河川
分野の14者により、モニタリングシステム技術研究
の3分野を対象に、①適切な点検・診断等を実現
組合(以下「技術研究組合」という)が設立された。
するための具体的な事象を把握するに当たっての
この技術研究組合は、社会インフラの損傷・劣化の
課題を解決するための技術で特にニーズが高いも
状態監視を維持管理業務に活用するため、センサや
6)
の、②現状において十分に対応できていないが点
通信・データ解析技術等を活用したモニタリングシ
検・診断等をより高度化・効率化するために実現
ステムの社会インフラ分野への実用化導入を図るこ
することが期待される技術について、10テーマを
とを目的として、モニタリングシステムの技術開発
設定している(表−4)。
に関する試験研究を行う非営利共益法人である。
本稿では詳述しないが、採択結果を見てみる
これまでにも、数多くの企業や研究機関において
と、橋梁分野の「ALB(航空レーザ測深機)による
センサや通信・データ解析技術等を活用したモニタ
洗掘状況の把握」、のり面・斜面分野の「傾斜セン
リングシステムの研究開発が行われてきた。しか
サ付き打込み式水位計による表層崩壊の予測・検知
し、その多くはセンサやシステム等単体の技術開発
方法の実証試験」、河川堤防分野の「大型除草機械
であり、インフラ管理の実務で必要とされる複合的
によるモグラ(小動物)穴の面的検出システム」
な要求を満たすものではなかったため、一部の現場
等、それぞれの分野でインフラ管理者の課題や
での試験的な導入に止まっている。
ニーズをとらえた実践的で独創性に富んだ提案が並
こうした新しい技術を現場に導入するためには、
実務上求められる安全性・耐久性・経済性等の性能
表−4 技術研究開発の10テーマ
分野
テーマ
下部工基礎の洗掘状況把握のためのモニタリン
グシステムの現場実証
橋梁
コンクリート橋における支承部および桁端部等
の劣化状況把握のためのモニタリングシステム
の現場実証
今回設立された技術研究組合は、モニタリングシ
のり面・斜面の安定性評価に係るモニタリング
システムの現場実証
堤体等の外観の変状の把握に係るモニタリング
システムの現場実証
漏水、侵食等の出水時における変状発生の把握
に係るモニタリングシステムの現場実証
維持管理の高度化・効率化に係るモニタリング
システムの現場実証
全分野
善する、といったPDCAを回すことが必要となるた
め、個々の企業でそれらすべてを行うことは難し
維持管理の高度化・効率化に係るモニタリング
システムの現場実証
河川
堤防
開発された技術やサービスを現場で検証、評価し改
鋼橋における支承部および桁端部等の劣化状況
把握のためのモニタリングシステムの現場実証
床版ひびわれの劣化状況把握のためのモニタリ
ングシステムの現場実証
のり面
・斜面
を明らかにし、それらを充足する仕様を定義して、
モニタリング技術を社会インフラの維持管理業
務へ適用するための技術的検証
い。
ステムに関係する複数のインフラ管理者と技術・製
品を提供する幅広い分野の企業が参加しており、新
しい技術を現場に導入しイノベーションを推進する
「新しい組織」として大いに期待できる。
技術研究組合の具体的な活動の一つに、前述の国
土交通省の技術研究開発予算を利用した「モニタリ
ング技術の活用による維持管理業務の高度化・効率
化」の研究開発がある。この研究開発では、点検か
ら補修・補強にいたるまでの維持管理サイクルを高
度化・効率化するため、インフラ管理者のニーズを
踏まえた実験や解析ならびに現場実証を行い、これ
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た実用的なシステムを開発し提案する。
に維持管理業務にモニタリングシステムを組み込
計測技術
具体的には、①管理者ニーズを整理するととも
材料劣化 力学挙動
らに基づいた最先端のモニタリング技術を活用し
視覚的
むためのシナリオを作成して要求性能を仮定す
る。この仮定をもとに、②試験桁等を活用して室
内実験、高度解析技術を通じて劣化機構を検証す
証を行う。そして、①での仮定を②③の検証、実
証結果からのフィードバックを受けて見直す。こ
うして得られた管理者の要求と技術の成果を踏ま
えて④維持管理レベルに応じたモニタリングシス
テムの総合的な適用性を評価・検証し、⑤実用的
なモニタリングシステム、例えば管理水準に応じ
【課題 B】診断の補助
【課題 C】効果の確認
ひび割れ検出技術(光ファイバ,AE センサ等)
劣化信仰監視技術(腐食センサ,
電磁波レーダ等)
鋼材損傷検出技術(AE センサ)
たわみ測定技術(小型無線加速度センサ)
振動特性測定技術(振動測定,
振動モード解析等)
鋼材張力変動測定技術(磁歪センサ)
表面変状把握技術(航空機画像,UAV 等)
無線センサネットワーク技術(ホッピング通信技術,
M2M 無線型センサ等)
伝送
る。③センサ、伝送技術、データプラットフォー
ム等を組み合わせて高速道路や国道などで現場実
【課題 A】点検の補助
巡回型データ収集技術(無線)
移動通信技術(Wi-MAX,FOMA,LTE 等)
データ高速通信技術(光ファイバ)
超高速データ処理技術(非順序型実行原理,高速データアクセス基盤)
データ
蓄積・
分析
非定型ビッグデータ処理技術(異形式データ統合・検索・加工)
予兆検知技術(インバリアント分析,異種混合学
習,統計的手法,多変量解析)
劣化診
断解析
高度 FEM 解析技術
可視化
構造物可視化技術(CIM)
,AR(拡張現実)
)
図−3 管理者の課題と技術開発要素(出典:モニタリングシス
テム技術研究組合資料)
たモニタリングレベルやシステム活用ガイドライ
指す研究開発は、これまでを通じて初めてのこと
ン等を提案する(図−2)。
である。
イノベーションの視点から見れば、技術研究組
①管理者ニーズと要求性能の検討
結果のフィードバック
結果のフィードバック
②試験桁等を活用した
劣化機構検証
③モニタリングシステム
の現場検証
連携・調整
各種データの活用
④総合的評価・検証
⑤実用的なモニタリングシステムの提案
図−2 「モニタリング技術の活用による維持管理業務の高度化・
効率化」の研究開発の進め方(出典:モニタリングシス
テム技術研究組合資料)
合そのものが「新しい組織の実現」であることに
加え、その活動の成果は、インフラ管理者から見
れば「新しい品質の財貨=管理水準の設定」とそ
のための「新しい生産方法=モニタリングシステ
ムの導入」であり、技術やサービスを提供する企
業から見れば「新しい販路・市場の開拓」と言え
るだろう。
4
東北インフラ・イノベーション・
コンソーシアム
前述のように先進的な技術開発が進む一方、自
また、この研究開発の中では、管理者ニーズを
治体が行うインフラ管理を支援するための“新しい
「点検補助」「診断補助」「効果確認」の3課題に
点検・ 診断方法の導入”を試みる地道なイノベー
分類し、モニタリング技術を「計測」「伝送」
ションも進んでいる。本稿では、東北インフラ・
「データ蓄積・分析」「診断・解析」「可視化」
イノベーション・コンソーシアム※1が行っている
に構造化して、課題と技術開発要素との関係を整
ICT 機器を用いた点検・診断業務の技術支援、作業
理している(図−3)。
支援の取り組みを紹介する。
このようにインフラ管理上の課題・目標を明確
現在、自治体が行う橋梁の点検・診断業務は、
にして分野横断的に技術を組み合わせ、複数の団
その多くがコンサルタント等に対する委託で実施
体が分担・協力して実用的なシステムの開発を目
されている。国土交通省の指導により、ほとんど
※1 インフラメンテナンスとITのノウハウを融合した新たな事業モデルを構築すること、技術交流、技術者の育成により東北地方の被災地 のインフラ復旧支援やインフラの維持管理の効率化等に寄与することを目的に設立された組織。構成員は、東北大学、東京大学、東日本
高速道路㈱東北支社、㈱ネクスコ・エンジニアリング東北、㈱復建技術コンサルタント、ムラタオフィス㈱、ユーシーテクノロジ㈱。
8
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Part 1 特別寄稿
の自治体で1回目の橋梁の点検・診断は終わってお
こうした状況のなか、東北大学、東京大学を中心
り、その点検・診断結果から導き出された長期修繕
に、産学が連携して自治体が行う点検・診断業務を
計画に基づいて計画的な補修が行われている。ま
支援する現場実証が、モデル自治体(人口約3万
た、道路法の改正(平成26年7月施行)により、
人、道路延長約350km管理橋梁約170橋、道路管理
自治体に対して5年に1回の橋梁点検が義務付けら
担当職員6人)で始まっている。現場実証における
れ、今後は近接目視による点検が必要となる。
主な検討課題は次の通りである。①点検・診断業務
その一方で、こうしたインフラの維持管理に関す
に費用がかかり補修にお金が廻らない。点検・診断
る課題も明らかとなってきている。例えば、国土交
業務にかかるコストを下げるため、ICT機器を活用し
通省が実施した自治体へのアンケート調査では、自
て職員自ら点検・診断ができないか。②維持管理上
治体の大きさによって多少の差異はあるものの、
は適切な診断と補修計画が重要だが、技術的な判断
「予算の不足等により、構造物の機能・サービス水
を要するため、職員には荷が重い。適切な診断と補
準低下のほか、安全性に支障が生じる:86.4%」
修計画を策定するにはどのような支援が有効か。
「老朽化する構造物等が増加し、適切に維持管理・
検討課題①では、GPS機能を搭載し前回点検の
図5
ṡπσ଀ᚨỉᎊ஥҄ầᡶớɶỂỉভࣞʙ᪮
結果を容易に参照することができる橋梁点検支援端
更新を行うための職員数が不足する:69.6%」
「増加する老朽化構造物等への対応により、新規投
末を用いて、点検結果の精度、所要時間等を従来の
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௒ᚋᠱᛕ䛥䜜䜛䛣䛸
点検方法と比較し、改善点を抽出する(図−5)。
資が困難となる:68.9%」などの声が上がってい
䛿ఱ䛷䛩䛛䠛䠄」ᩘ㑅ᢥ䠅
8)
る (図−4)。
端末機で損傷
34.1%
㒔㐨ᗓ┴
䠄N=41䠅
䠄N
41䠅
87.8%
87.8%
41.5%
4.9%
4
9%
0.0%
92.7%
19.5%
35.7%
42 9%
42.9%
ᨻ௧ᕷ
䠄N=14䠅
64.3%
78.6%
50.0%
0.0%
0.0%
78.6%
26.1%
䛭䛾௚
ᕷ༊⏫ᮧ
䠄N=880䠅
37.3%
1.4%
0 7%
0.7%
23.5%
68.9%
67.6%
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図−5 橋梁点検支援端末
᪂つᢞ㈨䛜ᅔ㞴䛸䛺䜛
過年度の損傷位
置・損傷状況を
端末機で確認
ቑຍ䛩䜛⪁ᮙ໬ᵓ㐀≀➼䜈䛾ᑐᛂ䛻䜘䜚䚸
現場実証の結果、橋梁点検支援端末を使用した場
᪤Ꮡᵓ㐀≀➼䛾⤫ᗫྜ䛜ᚲせ䛸䛺䜛
合、コンサルが行う従来の点検方法に比べて、外業
26.6%
37.5%
⥲ᩘ
Copyright䠄N=935䠅
Social Capital
Design,
1.5%
86.5%
をスケッチ
ண⟬䛾୙㊊➼䛻䜘䜚䚸ᵓ㐀≀➼䛾ᶵ⬟䞉
䝃䞊䝡䝇Ỉ‽䛜పୗ䛩䜛
Inc.23.7%
69.6%
86.4%
間では約8割(55分)の短縮により、全体の作業時
68.9%
ᵓ㐀≀➼䛾⪁ᮙ໬䛜㐍⾜䛧䛶䜒ᑐᛂྍ⬟
間は52分の短縮となった(表−5)。
䛷䛒䜚䚸≉䛻ၥ㢟䛿䛺䛔
0.6%
8)
図−4 公0%
共施設の老朽化が進む中での懸念事項
20%
40%
60%
80%
䛭䛾௚
時間が1橋梁あたり約1割(約4分)の増加、内業時
100%
表−5 橋梁点検の作業時間(実測調査)
外部作業時間
(1 橋点検)
内部作業時間
(点検調書)
従来の点検方法(コンサル点検
員)作業日:H26.5.23
46 分
70 分
橋梁点検支援端末(東北大研究
員)作業日:H26.5.22
49 分
15 分
橋梁点検支援端末(モデル自治
体職員)作業日:H26.5.23
83 分
ー
また、東京大学が独自に行ったある自治体が保有
する点検・診断データの照査の結果、建設コンサル
タントが行った点検・診断業務の納品物において、
損傷内容・レベルの判断ミスと思われるものがサン
プルデータの1/10から見つかっており、前述のア
ンケート調査で明らかとなった課題以外にも技術的
支援など対処すべきことは多い。
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また、前回点検との比較機能により同じアング
また、補修工法や補修手順等の検討にはより高
ルで撮影が可能となるため、自治体職員でもコン
度な技術力が必要となるため、コンサルに発注す
サルと同程度の点検記録が可能であることが判明
る場合にも、十分な技術力を有するコンサルに委
した。一方で、新たに発生した損傷や初回点検の
託できる手続きを導入する、専門家のセカンドオ
橋の損傷は見落とすことも考えられるため、概略
ピニオンを得るなどの対応も有効と思われる。
踏査において技術者が橋全体あるいは要注意箇所
こうした現場業務に即した実証と改善の積み重
の状況を見ておく、初回点検では自治体職員に技
ねが“新しい点検・診断方法の導入”には必要で
術者が同行する等の対応が必要であることも明ら
ある。ここで紹介したモバイル型橋梁点検支援端
かとなった。
末や損傷評価支援システム等を用いた現場実証の
検討課題②では、過去の点検・診断結果をもとに
取り組みは、全国各地で行われている点検・診断
類似の損傷写真を一覧で表示する損傷評価支援シス
業務に革新をもたらす可能性があり、地道なイノ
テムを使って、異なるレベルの技術者が同じ点検結
ベーションの一つといえるだろう。
果の診断を実施するとともに、策定済みの長寿命化
計画の内容と技術者が判断した補修計画を比較し
図6
て、その妥当性と改善点を抽出する(図−6)。
Ver20141030
5
モバイル機器の可能性
ここまで、インフラ管理における様々なイノ
部位・損傷種類等のパラメータ
の設定により絞り込み
似た損傷から順に詳細を確認
ベーションに向けた取り組みを見てきたが、最後
に、こうした技術開発の動向を踏まえて、イノ
ベーションを推進する上において、大きな役割を
果たすであろうモバイル機器の可能性について述
べてみたい。
いつでもどこでも同じ業務環境を提供できるモ
バイル機器は、他の分野における活用例や導入の
インパクトを見ても、今後のインフラ管理のイノ
ベーションを考えるうえで欠かせない存在であ
る。一方、ロボットによる点検やモニタリングシ
図−6 損傷評価支援システム
© Yusho ISHIKAWA ,The University of Tokyo
ステムの導入等によってインフラ管理の業務内容
現場実証の結果、損傷評価支援システムを利用
が変わり、通信技術や解析技術の進展によってモ
することにより、損傷種類や損傷ランクの区分は
バイル機器に期待される機能や利用方法は大きく
一定のレベルで可能となるものの、その要因や対
変わる可能性がある。筆者は、大きく分けて2つの
処方法の考察は、自治体職員でも若手コンサルで
方向性があると考えている。高機能化と簡素化で
も難しく、十分に経験を積んだ技術者が必要であ
ある。
ることが判明した(表−6)。
高機能化は、人工衛星等の情報活用、通信網の
表−6 技術者レベルごとの診断結果の比較(34データ)
充実と通信速度の向上、コンピュータ、データ
ベースの処理速度の向上等を利用して、モバイル
技術者レベル
所用時間
診断内容
診断結果
通常診断(コンクリート
診断士経験 14 年)
43 分
損傷判定
原因推定
複数の損傷
原因を推定
システム診断(コンクリ
ート診断士経験 3 年)
50 分
損傷判定
原因推定
複数の損傷
原因の推定
は、不十分
照を必要な時に必要な場所で提供し、また位置情
システム診断(モデル自治 53 分(A)
損傷判定
体職員 A,B 資格経験無)
58 分(B)
損傷の原因
推定は困難
処理するなど、これまで事務所で行っていた単純
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機器の機能を飛躍的に向上させるものである。例
えば、現場業務の遠隔支援や大量の過去情報の参
報の自動入力などの機能を活用して現場で簡単に
な作業等を削減し、人の技術力を高めるための環
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Part 1 特別寄稿
境と時間を提供する。こうしたサービスをいつで
機器は、現場業務とのインタフェースとして、ICT
もどこでも業務従事者に提供するインタフェース
による技術革新と現場業務の改革を繋いで、インフ
としての要求に応じてモバイル機器の高機能化は
ラ管理におけるイノベーションの牽引役となる可能
進んでいくだろう。
性を秘めている。モバイル機器がもたらす新たなイ
簡素化は、通信網の充実、コンピュータ性能の
ンフラ管理に期待したい。
向上と価格の低下等を利用して、だれでも気軽に
使えるモバイル機器とそれを利用したサービスを
提供するものである。モバイル端末をはじめとす
る様々な機器はコモディティ化が進み、サービス
もより安価で便利なものが出てくると思われる。
例えば、島根県が利用する防災安全点検システム9)
参考文献
1)社会整備資本審議会道路分科会「道路の老朽化対策の本格実
施に関する提言」建議(平成26年4月)
2)Joseph A. Schumpeter:“Theorie der Wirtschaftlichen
Entwicklung, 2. Aufl.”、1926(塩野谷祐一、中山伊知
は、市販の安価なモバイル機器にゲームをダウン
ロードするのと同じようにクラウド上のストアか
ら必要なシステムを必要なだけ既製品をダウンロー
ドする。業務用に開発された同種のシステムと比べ
て多少機能は劣るが、現場で利用するのに十分な機
能を備えており価格も格段に安く、費用対効果は極
郎、東畑精一訳「経済発展の理論(上)」、岩波書店、
1977)
3)内 閣府政策統括官HP:戦略的イノベーション創造プログラ
ム、http://sip-cao.jp/
4)内 閣府政策統括官「SIPインフラ維持管理・更新・マネジメ
ント技術研究開発計画」(2014年5月)
5)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、科学技
術振興機構「SIP/インフラ維持管理・更新・マネジメント技
めて高い。
6
おわりに
術」に係る採択課題/実施体制の決定に関する公表
http://www.nedo.go.jp/content/100571544.pdf
http://www.jst.go.jp/pr/info/info1052/besshi1.html
6)国土交通省 社会インフラのモニタリング技術活用推進検討委
員会「資料2-2 分野別の管理者ニーズ(ワーキンググループ
今後、インフラ管理においてもモバイル機器の利
用は一層進むと思われるが、その利用形態は他の技
の検討状況報告)」 (平成26年7月)
7)国土交通省「社会インフラへのモニタリング技術の活用推進
に関する技術研究開発に係る公募の採択」、http://www.
術開発と連動しながら進化し、より高機能でより簡
mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_000282.html
素な機器やサービスが提供されるだろう。また、時
8)社会資本整備審議会・交通政策審議会「今後の社会資本の維
計、メガネ、衣類等にコンピュータを埋め込んだ
持管理・更新のあり方について」中間答申 参考資料(平成
ウェアラブルなモバイル端末が、インフラ管理の分
野でも利用されるようになるだろう。
インフラ管理の基本は現場業務である。モバイル
25年5月)
9)マイクロソフトHP「WIN8タブレット導入事例:島根県」
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