「新飼料資源の栄養価とその活用について」

第 436 回月例研究会資料
「新飼料資源の栄養価とその活用について」
講演の概要
「畜産とは余った食料やヒトは利用できないが家畜には利用できる資源を飼料
として家畜に給与して、食料や衣料や労役などヒトにとって有益なものを生産す
る産業である。余った食料とはヒトが食べ残した食物というだけではなく、ヒト
のより高度な食生活を営むために、各種の食品に加工を施した際に生ずる副産物
や食料として生産したもので品質の劣るものなども含まれる。さらに、生産過剰
になっている食料や、これらの食料を生産していた土地を用いて生産され る飼料
作物なども含まれる( 飼料製造管理者講習会 テキスト「飼料学」よ り)」。
わが国では近年、様々な要因による食生活の変化により多様な食品系副産物が
新たに産出され、また食品の加工や輸送、販売の方法の変化により産出される副
産物の成分は、旧来の食品副産物と比べて大幅に変化しているものもある。そし
て国の食料政策により 、例えば飼料用 米やホ ールクロップサイレー ジなどの調製、
給与が奨励されるようになり、旧来給与されることが少なかった多様な新資源が
飼料として活用され始めている。食品系のいわゆる「エコフィード」や政策によ
る「水田作飼料 」、地 域バイオマス活用とし ての「木質系飼 料」な どがその例であ
る。これらはわが国の食の自給率を高め、地域の産業振興に寄与することが期待
されているが、これに伴い、飼料の供給体制や家畜に対する飼料給与体系も変化
し始めている。旧来多くは使用されていなかった新資源飼料等の活用について、
その栄養価、特徴、供給体制、給与方法、他の資源との併用法などを理解し、適
切にかつ経済的に家畜 に給与することが今後 重要である。
このような我が国の飼料事情の変化の中で、本講演はこれ等周辺の研究成果や
給与実態を紹介し、今 後の畜産経営の中で「 飼料特性を活かして上 手に設計する」
とともに、新飼料資源の経済性と必要要件などを模索し、今後の我が国畜産飼料
の方向性を考えるため の材料提供としたい。
平成 27 年 5 月 19 日
木村畜産技術士事務所代表 日本獣医生命科学大学
名誉教授
木村信熙
一般社団法人日本科学飼料協会及びその会員は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法
律」等のコンプライアンス(法令順守)の重要性を認識し、これを推進してまいります。
日本科学飼料協会
第436回 月例研究会
平成27年5月19日(火)
馬事畜産会館会議室
新飼料資源の栄養価と
その活用について
KAPEO 木村畜産技術士事務所
代表 木村 信熙
(日本獣医生命科学大学名誉教授)
第1部 飼料の評価方法と
新飼料資源
栄養学の進歩と飼料の評価方法
飼料とは?新飼料資源とは?
・バイオマス資源の飼料化 ・エコフィード
・新国産飼料(新自給飼料) ・輸入新飼料原料
家畜栄養学の進歩と飼料
• 家畜の栄養要求量にあわせた畜種別、ステージ別、生産量別の飼
料設計が可能になっている
• 飼料設計に必要なもの
①動物の情報(畜種、ステージ、生産量…)
②飼料の情報(有効成分、有害成分、嗜好性…)
③飼養管理の情報(季節、環境、施設…)
栄養の偏ったもの、不足したものでも、
「組み合わせ」と「成分の補給」により十分に使用できる
(1008NK)
(木村畜産技術士事務所2014)
牛による飼料の第1胃内消化
(畜産草地研究所)
①プロトゾアによる消化
プロトゾアや細菌は植物に含まれるデンプン(左)や植物の破片(中央)を分解して利用し、
揮発性脂肪酸(VFA)を排泄している。これが牛のエネルギー源になる。また他の菌類も捕食し
増殖する。下部消化管に流出するプロトゾアの体たん白質は牛にとって最大の蛋白源となる。
(木村畜産技術士事務所2014)
牛による飼料の第1胃内消化
第1胃の中で細菌が
飼料に付着して初めて
消化が始まる。
稲わらと、麦わらの消化性の違い
②細菌による消化
(Bar=1μm)
飼料片への細菌の付着と消化
(カナダ連邦レスブリッジ農業研究所)
(木村畜産技術士事務所2014)
21
飼料用穀物の加工
(籾米)
(とうもろこし)
(玄米)
飼料用米の膨軟化加工
(山形県真室川農協にて2011年)
*たん白質が繊維、グルカン、リグニンと
第1胃内微生物による
デンプン粒子の消化
(カナダレスブリッジ研究所1982)
結合。これによりデンプンの消化が悪い。
このマトリックスを破壊するのが穀物加工
の最大の意義
穀物粒の第1胃内未消化残渣
(デンプンを取り囲む蛋白マトリックス*)
(木村畜産技術士事務所2014)
飼料の粒度と第1胃の健康性
細かい飼料(F)と粗い飼料(C)
(Agriculture Canada Lethbridge Res. Sta., N. Kimura, 1977 )
(木村畜産技術士事務所2014)
(「エコフィードをめぐる情勢」平成27年4月農水省より)
(「エコフィードをめぐる情勢」平成27年4月農水省より)
(「エコフィードをめぐる情勢」平成27年4月農水省より)
第2部 飼料用米の評価と
その利用・活用
飼料用米の研究、利用、活用の実態と今後
食用イネの飼料利用部位
稲の部位別乾物重量割合
(KAPEO 2015)
飼料用イネ
飼料用イネの利用方法は2つある
籾
茎
葉
飼料用米
・籾米
・玄米
・SGS *
飼料用米品種
籾が多収
飼料用米・
WCS兼用品種
籾と茎葉の両方が
多収
イネWCS**
WCS用品種
茎葉が多収
*ソフト・グレイン・サイレージ;籾米を粉砕・加水したのちサイレージにする
**ホール・クロップ・サイレージ;植物全体をサイレージに加工(調製)する
(農研機構 作物研究所 稲育種研究分野石井 卓朗2014を改編)
(木村畜産技術士事務所2014)
(「飼料用米の推進について」平成27年4月農林水産省生産局より)
(「飼料用米の推進について」平成27年4月農林水産省生産局より)
(広島県畜技セ 新出昭吾2012)
産官学連携、耕畜連携の研究実用化体制が重要
(木村畜産技術士事務所2014)
飼料イネの評価と
給与試験結果
イネWCS(ホールクロップサイレージ)の肉牛への給与
(木村畜産技術士事務所2014)
成分
玄米と籾米の分析成分と変動
(「飼料用米の生産・給与技術マニュアル<2013年版>農業・食品産業技術総合研究機構」より)
籾米は比較的成分のばらつきが大きい。
(木村畜産技術士事務所2014)
消化性
牛第1胃内挿入法による各種イネのデンプン分解性
(畜草研研究成果情報第9号2010より)
(木村畜産技術士事務所2014)
消化性
牛消化試験によるイネホールクロップサイレージ(WCS)の
可消化養分総量(TDN*)
(畜草研研究成果情報第9号2010より)
(*牛を使った消化試験による、消化された栄養成分の総量:%)
(木村畜産技術士事務所2014)
消化性
飼料用米の加工と牛による消化性、栄養価
(「飼料用米の生産・給与技術マニュアル<2013年版>農業・食品産業技術総合研究機構」より)
(木村畜産技術士事務所2014)
消化性
飼料用米の粉砕粒度と牛に対する栄養価
(「飼料用米の生産・給与技術マニュアル<2013年版>農業・食品産業技術総合研究機構」より)
(木村畜産技術士事務所2014)
(「飼料用米の推進について」平成27年4月農林水産省生産局より)
(吉田宣夫2014平成26年度 飼料用イネ・TMRセンターに関する情報交換会より)
(木村畜産技術士事務所2014)
(参考)平均収量
飼料米482㎏
主食用米530㎏
(KIMURA記入)
(「飼料用米の推進について」平成27年4月農林水産省生産局より)
第3部 DDGSの飼料評価
DDGSとは
穀物等をアルコール発酵させた時の醸造副産物。
とうもろこしより燃料用エタノールを生産するときの
副産物を乾燥した米国産が、わが国では多く使用
されている。
同類のものに古くはウィスキー粕、我が国では焼
酎粕などがあり、最近では国内産の各種醸造副産
物が各種ジスチラーズグレイン、または各種ジスチ
ラーズグレインソリュブルとして多くが飼料安全法
の飼料公定規格別表3中に栄養価暫定値のものと
して記載されている。
業界ではDDGSで通じる。
(KAPEO 2015)
米国とうもろこし耕作面積と生産量の推移
生産量
120
耕作面積
Production
Planted Acres
十億ブッシェル
百万エーカー
104
12.4
89
100
83
84
81
80
40
20
80
6.6
60
1.8
2.2
2.8
3.9
12.0
9.9
74
67
88
7.9
4.2
14.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0
0.0
1930
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010
Source: USDA
(KAPEO 2015)
現在の米国トウモロコシ需要
2014年のトウモロコシ供給量: 155億ブッシェル
12%
34%
12%
Feed/Residual (5.3)
飼料そのほか
Distillers Grains (1.0)
ジスチラーズ・グレイン
Ethanol Only (4.2)
エタノールのみ
Other Uses (1.4)
9%
他の利用
Export (1.8)
輸出
6%
27%
U.S. Corn Update(March 31, 2015) NCGA
Ending Stocks (1.8)
期末在庫
Source: USDA, PRX, 3/11/15
(KAPEO 2015)
日本におけるDDGSの輸入量と配・混合飼料使用量の推移
DDGS輸入量と使用量
2012年度(平成24年度)
輸入量:47.3万トン
配・混合飼料使用量:42.7万トン
500
450
DDGS(千トン)
400
350
300
250
200
150
100
使用量
輸入量
2003年5月
消費・安全局に申請
50
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
20
04
20
05
20
06
20
07
20
08
20
09
20
10
20
11
20
12
0
2004年8月 年
公定規格・暫定値の告示
(財務省「貿易統計」、農水省「流通飼料価格等実態調査」より作成)
(DDGSの使用量データ公表は2010(H22年度以降)
全配・混合飼料中のDDGS割合
2010
2011
2012
2013*
0.89
1.50
1.77
1.87
*2013年3月実績
(KAPEO 2013)
育すう・
成鶏用
1.17
6.12 0.00
0.04
0.98
5.01 0.00
ブロイラー用
肉牛
16.18
11.48
肉牛
養豚用
乳牛
乳牛
乳牛用
11.78
育ス・成鶏
養豚
13.27
53.22
肉牛用
育ス・成鶏
うずら用
ブロイラ
養豚
57.93
ブロイラ
その他の
12.78
家 畜
家きん用
混合飼料計
10.04
平成23年度実績平均
平成25年3月実績
わが国におけるDDGSの飼料品目別用途(%)
(農水省畜産振興課データより作成)
(KAPEO 2013)
DDGSの用途別飼料中の配合率(%)
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
ド
トフ
ペ
ッ
料
飼
合
ー
計
牛
肉
牛
乳
豚
養
イ
ラ
ブ
ロ
配
育
す
・成
鶏
0.0
(H23年度実績 農水省畜産振興課データより算出・作成)
(KAPEO 2013)
トウモロコシ以外のDDGSの牛用評価試験(1)
―小麦・玄米ジスチラーズグレイン―
(青木・米持ら2011‐6月)
(小麦と玄米をおおむね6:4で混合し、燃料用アルコールとして発酵蒸留した副産物を乾燥したもの)
(KAPEO 2013)
試験結果および類似する飼料の
日本標準飼料成分表記載値(%)
粗タンパ 粗脂肪
ク質
可消化粗たん
ぱく質(DCP)
可消化養分
総量(TDN)
A試験結果による
38.3
6.7
26.4
68.5
B試験結果による
62.6
3.4
42.6
68.4
DDGS成分表記載値
26.2
11.0
22.0
84.7
C成分表記載
37.0
7.7
31.8
65.2
D成分表記載
45.1
6.1
27.1
67.6
A:小麦・玄米ジスチラーズグレイン(小麦と玄米をおおむね6:4で混合)
B:精白米・小麦ジスチラーズグレイン(精白米と小麦をおおむね5:1で混合)
C:小麦ジスチラーズグレイン
D:精白米ジスチラーズグレインソリュブル
(KAPEO 2013)
DDGSは乳牛のメタン産生を抑制し、
FCM、乳脂量が高まる
• 牧草サイレージ50%のTMR給与
• (圧ぺんトウモロコシ+大豆粕)
⇒DDGS25%
• 各区6頭
• FCMあたりのメタン産生量 9.4kg⇒7.0㎏
• 305日乳量8,831㎏⇒10,410㎏
• FCM、乳脂量生産が高い
• (いずれもP<0.05)
(北海道総合研究所根釧農試2012)
(KAPEO 2013)
但馬牛肥育牛の産肉性に対する
トウモロコシ蒸留粕(DDGS)の影響
• 11ヵ月齢の但馬牛20頭
• DDGSを濃厚飼料の0、5、10、20%
(トウモロコシの置き換え)
• 10、20%区で肥育中期に飼料摂取量が低下
• 出荷体重はDDGSの量に応じて低くなった(有意差なし)
• 枝肉性状に差なし
• 10、20%区で多価不飽和脂肪酸含量が高い
• DDGSの量に応じて血中GOT,γ‐GTPが高い
(肝機能障害?)
• ⇒但馬牛にはDDGSは5%まで
(兵庫県農技総合センター2013年)
(KAPEO 2013)
自給飼料主体TMRへのDDGSの配合試験飼料
表3 肥育用TMRの
主な原料の配合割合(%)
表2 育成用TMRの内容
0%区
10%区
20%区
19.5
0
0
大豆粕
5
0
0
飼料用米(粉砕玄米)
0
20
20
DDGS
0
10
20
ビール粕
10
10
10
チモシー乾草
20
20
20
23.5
5
1
大豆粕
3
0
0
飼料用米(粉砕玄米)
0
20
20
DDGS
0
10
20
ビール粕
3
3
3
稲わら
8
8
8
〔肥育前期〕
トウモロコシ
〔肥育後期〕
トウモロコシ
栃木・群馬・茨城・千葉・畜草研の共同研究(2013)
(KAPEO 2013)
DDGSを配合した自給飼料主体TMRによる黒毛和種肥育試験
表4 発育成績
0%区
10%区
20%区
(n=5)
(n=5)
(n=6)
前期開始時
354.4
341.4
348.5
0.938
前期終了時
461.8
436.6
454.5
0.724
中期終了時
620.0
584.3
608.7
0.674
後期終了時
794.4
763.1
802.0
0.639
0.86
0.82
0.88
0.592
P値
体 重:(㎏)
日増体量:(㎏/日)
全 期 間
栃木・群馬・茨城・千葉・畜草研の共同研究(2013)
(発育は従来のトウモロコシ・大豆粕飼料と比べて遜色ない)
(KAPEO 2013)
DDGSを配合した自給飼料主体TMRによる黒毛和種肥育試験
表5 枝肉格付成績
0%区
10%区
20%区
(n=5)
(n=5)
(n=6)
枝肉重量(㎏)
506.4
487.7
514.8
0.634
胸最長筋面積(cm2)
57.8
57.4
60.3
0.740
ばらの厚さ(㎝)
8.2
7.8
7.8
0.815
皮下脂肪の厚(㎝)
2.3
2.4
2.3
0.949
歩留基準値(%)
74.1
73.9
74.1
0.967
肉質等級
3.6
4.2
3.3
0.113
脂肪交雑(BMSNo.)
5.6
7.0
5.3
0.150
肉色(BCSNo.)
4.2
4.0
3.8
0.380
脂肪色(BFSNo.)
3.0
2.8
3.0
0.236
P値
栃木・群馬・茨城・千葉・畜草研の共同研究(2013)
(KAPEO 2013)
DDGSを配合した自給飼料主体TMRによる黒毛和種肥育試験
表6 脂肪酸組成(%)
0%区
10%区
20%区
(n=5)
(n=5)
(n=6)
P値
筋間脂肪:
パルミチン酸
(16:0)
24.3
ステアリン酸
(18:0)
オレイン酸
a
24.7
21.1
12.6
11.7
10.1
0.119
(18:1)
53.6
53.2
56.9
0.057
リノール酸
(18:2)
2.4
リノレン酸
(18:3)
0.34
不飽和脂肪酸割合
60.9
一価不飽和脂肪酸割合
58.1
A
3.3
a
4.4
A,a
0.31
b
A
61.4
b
0.021
B,b
0.005
0.29
B
0.002
a
67.0
B,b
0.004
57.8
a
62.3
b
0.039
26.2
a
23.5
B,b
0.003
胸最長筋内脂肪:
パルミチン酸
(16:0)
26.7
ステアリン酸
(18:0)
12.0
12.0
13.1
0.405
オレイン酸
(18:1)
51.9
52.3
54.4
0.063
リノール酸
(18:2)
2.4
リノレン酸
(18:3)
0.3
不飽和脂肪酸割合
58.8
一価不飽和脂肪酸割合
56.1
栃木・群馬・茨城・千葉・畜草研の共同研究(2013)
A
A,a
a
2.8
b
3.0
0.3
0.3
59.4
61.3
56.4
58.0
B
0.004
0.312
b
0.041
0.118
異符号間に有意差有り A,B:P<0.01、a,b:P<0.05
(KAPEO 2013)
第4部 新飼料資源活用の
留意点と今後の問題
新飼料資源活用における技術上の留意点
活用のための飼料エネルギー評価方法の再検討
生産コストと飼料としての適正価格の意識
流通規格と飼料安全性の確保
マルチ連携型畜産システムの構築
新飼料資源利用技術の留意点
ー 飼料特性を知って上手に設計するためにー
高繊維・高脂肪・低デンプン
高水分
保存性、
成分低下、
嗜好性低
下、
カビ発生
有害物産生
畜種・使用量の制限、畜産物の質低下
高脂肪によるカルシウム利用性の低下
特定成分の含有
食塩・有毒物質・反栄養因子
フィチン酸:ミネラル低利用性
タンニン酸:嗜好性、栄養素利用性
加熱による成分変化
特定成分の含有
タンパク質
ビタミン・脂肪
有毒物質の形成
オレイン酸・リノール酸 βカロテン トコフェロール カロテノイド色素 無機リン
原材料独自の特殊機能性成分
(1008NK)
どんな素材であれ、これらの検討が畜種ごと、ステージごとに必要である。
(木村畜産技術士事務所2014)
新資源飼料の問題②飼料のエネルギー評価値がない。そして評価が困難である。
個々の飼料のエネルギー価値評価の重要性
配合品のTDNやME,DEなどのエネルギー値を計算するための、基礎となるそれら
の値が標準日本飼料成分表などに載っていないものが多い。
したがって、その新規飼料の栄養的評価が曖昧なままに使用されることが多い。
その飼料採用による経済評価が曖昧で、その結果は経営に影響する。
TDN,DE,MEは基本的に動物試験が必要⇒簡便法が必要
⇒分析値を用いた各種回帰式の検討
何を分析するか(項目と方法)、の模索と
実際の動物を使った値との比較(相関性)が必要
Ecofeed_ver2.xls(豚用エコフィード設計プログラム)では以下の式を使用している。
DE(kcal/kgDM)=949+(0.789×GE)-(43×%Ash)-(41×%NDF)
ただしGE(kcal/kgDM)=4143+(56×%EE)+(15×%CP)-(44×%Ash)
TDN(%)=DE/4.41/10
(タンパク質の加熱変性に対応した下記の推定式もある)
TDN%=0.91×OCC 中粗タンパク質含量+2.22×粗脂肪含量+1.11×(有機物-粗タンパ
ク質-粗脂肪)-17.84 (川島等、2003)
(KAPEO 2015)
配合飼料のエネルギー表示値の算出ルール
配合飼料の可消化養分総量の値(飼料安全法 飼料の公定規格)
配合飼料の可消化養分総量(以下「TDN」という。)の値は、次の式により算出するものとする。ただし、別
表第3に掲げる原料のTDNについては、同表から読みとるものとする。
(「この表の値を用いよ」「この表にないものは計算の対象外」という意味:KIMURA注記)
TDN(%)=∑〔{(Icpi・d1i)+(Ifai・d2i・2.25)
+(Ⅰnfi・d3i)+(Ⅰfbi・d4i)}・ri・10-4〕
Icpi :当該配合飼料の原料の粗たん白質(%)
d1i :当該原料の粗たん白質の当該家畜の消化率(%)
Ifai :当該原料の粗脂肪(%)
d2i :当該原料の粗脂肪の当該家畜の消化率(%)
Ⅰnfi :当該原料の可溶無窒素物(%)
d3i :当該原料の可溶無窒素物の当該家畜の消化率(%)
Ifbi :当該原料の粗繊維(%)
d4i :当該原料の粗繊維の当該家畜の消化率(%)
ri :当該配合飼料に対する当該原料の配合割合(%)
NRC2001年版TDN推定式
TDN=真の可消化NFC+真の可消化CP+真の可消化FA+真の可消化NDF-7
●真の可消化NFC=0.98×(100-(NDF-NDICP)+CP+EE+灰分)
●真の可消化CP=CP×exp(-10.2×ADICP)
●真の可消化FA=(EE-1) EE含量が<1の場合にはFA=0とする。
●真の可消化NDF=0.75×((NDF-NDICP)-ADL)×(1-(ADL/(NDF-NDICP)0.667)
NDICP:中性デタージェント溶液不溶性タンパク質
ADICP:酸性でタージェント溶液不溶性タンパク質
ADL:酸性デタージェントリグニン
(KAPEO 2015)
自給飼料の成分および栄養(TDN)評価(2)
飼料用イネ
a) 出口(1997)
TDN=-5.45+0.89(OCC+Oa)+0.45 OCW n=89
b)服部ら(2005)
TDN=54.297+1.205 Oa-0.109 Ob-0.462 Ash n=8
c)深川ら(2007)
TDN=0.329 IVDMD-0.688 Ash+44.5 n=16
IVDMDはペプシン・セルラーゼ法で測定
トウモロコシ、ソルガム
a)阿部ら(1988)
TDN=26.4+0.545OCC+1.413Oa (全国)
b)牧草・飼料作物栄養値検討委員会
TDN=29.6+0.659(OCC+Oa) (北海道)
TDN=89.89-0.752ADF
(北海道)
c)大槻(2001)
TDN=30.4+0.627(OCC+Oa) (北海道、九州)
(永西 修2014年11月講演スライドより)
飼料適正価格の考え方
ーDDGSと飼料米を例にー
配合飼料の価格を決める要因
・穀物相場:(作付け、投機、天候、国際情勢)
・米国内運賃(輸送手段、ルート)
・海上運賃:フレート(数量、国際情勢)
・為替レート
・日本国内運賃(工場の立地、生産規模)
・配合加工賃(生産規模、専用化率)
・国内配送代(数量、ばら化率、工場と農場の立地)
・手数料(数量、直販率)
・配合飼料補填金
(木村信熙2008)
飼料の適正な価格とは
• 飼料の価格は、飼料の養分含量のほかに、その飼料の需要と供給の
関係、色調、風味などの外観、運搬、貯蔵、取り扱いの難易などの
種々の条件によって大きく支配され(、変動し)ている。
• しかし、飼料は家畜が必要とする養分を過不足なく供給することを目的
としており、その価格は主として養分含量によって決まるはずであり、
養分含量からみて相対的に割高な飼料と割安な飼料とがある。
• (わが国の)畜産の分野ではその生産費の過半が飼料費によって占め
られているので、入手できる飼料のうちで養分含量の割に相対的に安
いものを選ぶべきである。
• 価格を決めにくい自給飼料についても、その養分含量からみてどの程
度の価格になっているかを知ることは、畜産経営の上からも極めて重
要なことである。
(吉田実(1985)「改著飼料学」森本宏編、養賢堂)
(KAPEO 2015)
Petersenの適正価格評価法
• 配合飼料業界では、飼料設計において線形計画法(linear programming algorithms) などを
用いて最適原料条件(least cost feed formulation)を求 める。そのために予め 各種飼料原料
の栄養成分などの評価値や、使用制限要因、価格などを蓄積している。
(飼料成分値のデータベースとコンピュータのネットワークが必須)。
畜草研がHPで提供している「豚用フィード設計プログラムEcofeed_ver2.xls」(2009年11月掲載)
ではエクセルのアドインソフトであるソルバーを用いた、線形計画法による食品残さや飼料原料
の配合割合を算出する方法を採用している。
http://www.naro.affrc.go.jp/nilgs/contents/program/ecofeed/index.html
• 農場やTMRセンターでは新規原料を用いる場合、同じ種類の飼料の着目する成分と 値段とを
比較して採用の可否を決めることが多い。この方法は経験とカンに頼ることになる。
• その養分含量からみて相対的に安いものを選ぶための簡便な手法の例としてPetersenの適正
価 格評価法がある。 (J.Dairy Sci.,15,293,1932)(飼料の適正な価格(計算式の記載あり) 、吉田実
(1985) 「改著飼料学」502‐508p、森本宏編、養賢堂)
• 栄養的にも経済的にも重要なタンパク質とエネルギーに着目した評価法。エネルギーとしてトウ
モロ コシ、たん白質として大豆粕のDCP、TDN含量を採用している。計算が簡単で実用的である。
LP計算の結果と大差ない。
• 大豆粕、トウモロコシ価格より算出した、その飼料の養分含量に見合った価格を適正価格として
算出する。これより安ければ経済的、高ければ不経済を意味する。
(KAPEO 2015)
粗飼料価格評価用の
大豆粕係数、トウモロコシ係数
およびアルファルファ係数
サイレージやイネWCS、TMRなどはこのような
繊維要因を取り入れた価格評価が必要
大豆粕係数
トウモロコシ係数
アルファルファ乾草係数
(KAPEO 2015)
各種飼料の牛用飼料価値と大豆粕、トウモロコシの市価から求めた適正価格
大豆粕
係数
トウモロコシ
係数
市価*1
円/kg
適正価格
円/kg
差*2
飼料名
DCP
TDNDCP
大豆粕
41.4
35.40
1.000
0.000
46.1
-
-
トウモロコシ
5.5
74.45
0.000
1.000
27.7
-
-
トウモロコシ(高脂肪)
7.0
77.15
0.033
1.020
グレインソルガム
6.9
71.24
0.040
0.938
24.6
27.8
3.2
小麦
10.2
68.54
0.130
0.859
26.8
29.8
3.0
大麦
7.6
66.77
0.069
0.864
25.4
27.1
1.7
モミ米
3.8
63.33
-0.024
0.862
22.8
玄米
5.3
75.65
-0.010
1.021
27.8
大豆(乾燥加熱)
35.6
64.30
0.795
0.486
50.1
生米ヌカ
10.7
69.84
0.141
0.871
30.6
脱脂米ヌカ
13.6
42.22
0.269
0.439
34.2
24.6
▲9.6
フスマ
11.9
50.77
0.210
0.582
21.6
25.8
4.2
ホミニーフィード
6.3
76.10
0.016
1.014
28.8
コーングルテンフィード
18.0
57.63
0.353
0.606
33.1
DDGS
22.0
62.69
0.447
0.629
29.9
38.1
8.2
ナタネ粕
32.1
33.72
0.763
0.090
35.3
37.7
2.4
濃縮大豆蛋白
60.9
20.50
1.532
-0.453
脱脂粉乳
32.9
52.43
0.747
0.349
*1:市価は、平成24年度輸入平均価格CIF:財務省「貿易統計」より
29.8
58.1
243.5
44.1
▲199.4
*2:差は適正価格と市価との差
輸入価格(CIF)によるピータセン式評価法は臨海配合飼料工場に適性がある
(KAPEO 2013)
60
(円/㎏)
DDGS適正価格
50
40
大豆粕価格
30
20
大豆粕-トウモロコシ中間値
トウモロコシ価格
10
0
平成 10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
日本における大豆粕、トウモロコシの価格と
DDGSの牛用適正価格の推移
注)大豆かす、トウモロコシは輸入価格(CIF)
(KAPEO 2013)
工場のタイプと飼料の適正価格の比較
飼料
大豆粕
とうもろこし
養分含量
CP(%)
TDN(%)
76.8
45.0
7.6
臨海配合飼料工場
輸入CIF(円/㎏)
62.4*1
内陸TMR工場
相場(円/㎏)
85.0*2
(円/㎏)
80.0
27.5*1
43.8*3
16.3
相場適正価格
64.2
63.4
68.0
20.1
18.6
18.5
63.2
33.8
41.7
42.8
40.9
46.4
48.3
41.2
18.0
13.2
16.1
16.0
15.9
16.3
17.1
13.1
DDGS*4(成分表)
LFDDGS*5(暫定値)
小麦DDGS(成分表)
26.2
29.0
37.0
84.7
78.4
65.2
輸入適正価格
44.0
44.8
49.5
精白米DDGS(成分表)
モミ米(成分表)
玄米(成分表)
飼料用玄米(想定*6)
精白米(成分表)
白酒ヌカ(成分表)
生米ヌカ(成分表)
脱脂米ヌカ(成分表)
45.1
6.5
7.5
9.0
6.8
13.1
10.7
13.6
67.6
67.1
80.9
80.5
80.3
76.4
80.5
55.8
45.1
20.6
25.6
26.8
25.1
30.1
31.2
28.1
差
22.6
*1:H27年2月輸入CIF価格;財務省 *2:H27年4月卸仲値;肉牛ジャーナル
*3:H27-2月単体とうもろこし工場渡し価格(バラ、袋の加重平均);農水省
*4:とうもろこしDDGS *5:低脂肪とうもろこしDDGS(暫定値)
*6:農水省委託プロジェクト研究H25年度課題成績書(2014年5月)の上位CP含量値、
および消化率を日本標準飼料成分表玄米と同じとみなした想定品。
成分表:日本標準飼料成分表(2009年版)
(KAPEO 2015)
旧来のトウモロコシDDGSと低脂肪トウモロコシDDGSの適正価格の推移
(円/㎏)
70
トウモロコシ
大豆粕
中間値
DDGS適正価格
LFDDGS適正価格
60
50
40
30
20
10
0
(75)(125)(100)(102)(102)
(80)(120) (100)(103)(101)
(61)(139 )(100) (98) (103)
1999(H11)
2008(H20)
2015(H27-4)
飼料価格が低い時
トウモロコシが高い時
大豆粕が高い時
2種のDDGS適正価格は同じ
旧来DDGSの適正価格が高い
低脂肪(高タンパク)DDGSの
適正価格が高い
(KAPEO 2015)
新流通飼料の
原料排出元
品質と安全性の (責任の明確化)
確保
契
約
・
排
出
元
の
教
育
・
要
請
・
排
出
元
で
の
確
認
収集業者
契
約
製造業者
迅速な収集、かび
の発生・腐敗した
ものの除去など
専用容器に
よる運搬
分別の徹底
適正な原料の運搬、保管等
迅速な製造、適切な加
熱、成分分析の実施など
適正な製造、品質管理、製品の保
管、出荷、帳簿の整備、
農林水産大臣へ届け出の提出等
迅速な使用など
農家
適正な使用、帳簿の記載等
(農林水産消費安全技術センター「エコフィードガイドラインの概要」2013より一部改修)
(木村畜産技術士事務所2014)
(「TMRセンターをめぐる情勢」農林水産省平成26年3月より)
自給飼料活用型の畜産システム
プロの活用
より科学的に
より経済的に
より持続的に
多様な連携
地域連携
地域産業
地産地消
銘柄化
地産地消
6次産業化
中国四国地域食品残さ飼料化推進協議会
中国四国農政局生産経営流通部2009-02-16に加筆
(木村畜産技術士事務所2014)