圧電素子による プレス加工波形の可視化

主要記事
圧電素子による
プレス加工波形の可視化
*
㈱エンインダストリーズ 山田英二
プレス加工はプレス機械に金型をセッティング
するところから始まる。では、どのようにセッテ
ィングされているか。多くの企業が熟練のオペレ
ーターの経験と勘に頼っている。なぜならばプレ
開発した。また、トレサビリティー遵守にも大い
YYYYYYYYYYYYYYYYYY
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装置の概略
に役立つと思われる。
ス機械は同型のモデルでも精度が異なり、他モデ
従来は生産中の熱変位などの下死点変位を、位
ルとなれば構造に相違があるため、当然のように
置センサで測定することによる寸法管理でプレス
加工曲線に違いが発生し、熟練者の技量が必要と
加工の品質を見ていたが、圧電素子を使用したひ
なる。熟練者不在の海外生産では深刻な問題であ
ずみセンサや加圧センサを導入することにより圧
る。
力管理が可能となった(写真 1)
。面出しをした
今回、プレス機械の精度差が「金型のセッティ
コラムに M 6 ボルト 1 本で取付けるだけの圧電
ング時間」
「生産量」
「製品の安定性」に及ぼす影
ひずみセ ン サ(型 式 PSS 100)を 例 に 取 る と、
響に着目してプレス加工時の荷重を波形に置き換
1μStrain 百万分の 1 のひずみ)をピークとして
え可視化できるようにした。これによりプレス機
0.
1% の分解能まで検出できるので、非常に細か
械の精度・金型の状態を数値化でき、理論的に金
くコラムのひずみを介して加圧状態が見えるよう
型のセッティングができる装置として PLM 01 を
になった。本来のプレスの加工状態は「圧力の変
化で見る」と、寸法管理よりはるかに精度良く正
*
(やまだ えいじ):代表取締役社長
〒507−0818 岐阜県多治見市大畑町 5−11 ミリオンハイ
ツ 102 号
TEL : 0572−23−2761 FAX : 0572−23−2762
e−mail : yamada@en−i.
jp
確に状態が把握できる。また、従来の抵抗ひずみ
を原理とする荷重計に対して数百倍の感度を実現
した。圧力信号は大容量で直接モニターに送られ
るので、抵抗ひずみの信号に比べて十分な大きさ
を持つ。このことはプレス加工のような厳しい環
境性の中では重要な耐ノイズ特性・耐震性におい
て非常に有利となる。
PLM 01 は電子式カムスイッチで下死点付近の
モニタリングしたい角度範囲を設定し、その範囲
の加圧信号を TFT 画面上に表示する(写真 2)
。
表示された波形は 3 点までをピーク管理すること
ができる。プレス回転数に対しては 2000 SPM ま
で追従可能であり、ほとんどの高速プレス機械で
使用できる。すべてのデータを PC に出力して保
存ができ、ティーチ(任意のデータ)やエラーデ
写真 1 PLM 01 の各種センサ
68
ーターのみを選択して保存することも可能である。
プ レ ス 技 術
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圧電素子によるプレス加工波形の可視化
クラウン
コ
ラ
ム
スライド
写真 2 PLM 01 のモニター画面
上型
セ
ン
サ
金型内で発生した荷重の伝わり方を図 1 に示
す。ストレートサイド形プレスの場合、上型側は
下型
ボルスタ
スライドを介してコンロッド、クランクシャフト、
クラウンと順に伝わり、下型側はボルスタ、ベッ
ベッド
ドの順に伝わる。そして、最終的にクラウンとベ
ッドを連結しているコラムに負荷され、コラムに
ひずみが発生する。PLM 01 はそのひずみの変化
を高感度で測定することを可能としている。今後
荷重の伝わり方
図 1 金型内で発生した荷重の伝わり方
は中型・大型プレス機械用や油圧プレス機械用の
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YYYYYYYYYYYYYYYYYY
実例と考察
システムも積極的に開発していく予定である。
1.プレス機械のシンメトリーの測定
ストレートサイド形プレスは 4 本のコラムが配
置されており、ボルスタ中心に対してシンメトリ
次に PLM 01 が実際にどのように活用できるの
ーに設計されている場合がほとんどである。加工
かを測定実例を踏まえて解説する。PLM 01 で測
時のコラムへの負荷もバランス良く等分されるの
定する対象は、負荷がかかった状態のプレス機械
が理想と考えられる。しかし、実際は組立や部品
精度、金型単体、そして生産中の負荷変位の大き
精度のばらつき、機械構造の影響によってシンメ
く分けて 3 つである。測定方法やセンサの取付け
トリーが崩れている場合がある。このシンメトリ
位置を変えることにより、さまざまな波形を測定
ーを、PLM 01 を使用して測定、確認することが
して分析する。
重要である。
センサの取付け位置は大きく分けて 2 つである。
プレス機械精度や生産中の負荷変位を測定する場
①4 本のコラムの同じ位置に PSS センサを取付
ける
合は、ストレートサイド形フレームであればコラ
②同突きプレートなどを使用して、すべてのコラ
ム、C 形フレームであればフレームの中央辺りに
ムに同じ負荷が伝わる条件にして、プレス機械
取付ける。油圧プレスに多い柱式プレス(コラム
を稼働させて負荷をかける
がない)は天板(アッパーフレーム)に取付けす
③負荷波形を比較して各コラムのピーク値のばら
ることにより加工波形を測定できる。金型の負荷
つきが基準値内に収まっていることを確認する
を測定する場合は、ダイセットなどのプレートに
4 本のコラムのばらつきが大きい場合は、プレ
直接取付けする。最も初めに確認する必要がある
ス機械自体の精度不良が考えられる。事例として、
のはプレス機械本体の負荷時の精度に問題がない
良品を生産していた金型を別のプレス機械に搭載
かである。それを確認した後で、金型の分析に移
して生産したが、製品の要求精度を得ることがで
行することによって、加工波形の測定の信頼性が
きなかった(図 2)
。このプレス機械は、静的・
確保できることとなる。
動的精度に問題がなかったため、PLM 01 で波形
第 53 巻 第 5 号
(2015 年 5 月号)
69
前左コラム
前左コラム
後右コラム
前右コラム
左右のひずみ量が大きく異なる
図 2 プレス機械のシンメトリーの測定例
リンクプレス
クランクプレス
図 3 タイプの異なるプレス機械による波形比較の測定例
を確認するまでは、金型の問題を疑って長時間に
この現象は、プレス部品生産をしている現場で
渡り金型調整を実施していたが、実際はプレス機
は感覚的には把握されているが、実際に PLM 01
械のシンメトリーが崩れていることが製品の精度
を用いて波形として確認することで、感覚を可視
不良の原因であった。
化することができ、製品の安定生産を実現する上
2.プレス機械の構造の違いによる加工波形の比
で重要な指標となっている。
較測定
3.金型の荷重バランスの測定
これまで PLM 01 による測定を実施したプレス
金型設計者が金型を設計する際は、加工工程だ
機械は、メーカー、機種もさまざまで、このプレ
けでなく、偏芯荷重を抑えるために荷重バランス
ス機械の構造上の違いが、プレス加工波形に大き
をできる限り金型全体で均等になるように設計を
な影響を与えることが確認された。すべての加工
行う。この荷重バランス状態も PLM 01 の測定で
に当てはまるわけではないが、プレス機械の構造
確認することが可能である。プレス機械のシンメ
の傾向として、同一金型で比較した場合、リンク
トリーに問題がないことが前提になるが、左右前
プレスの方がクランクプレスよりも波形の増幅が
後の各コラムの波形を比較することによって確認
小さいようである(図 3)
。
できる。荷重バランスの良い金型は、加工波形の
70
プ レ ス 技 術
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圧電素子によるプレス加工波形の可視化
形状もピーク値も各コラムの
左右前後でほぼ同じ値になる。
加工波形に大きな違いが出る
場合は、金型調整を行うが、
調整後の荷重バランスも波形
で確認できるため、改善スピ
図 4 ショットごとの負荷変位を測定、センサの取付位置により微細かす
上がり検出の可能性もある
ードが格段に早くなる。
4.金型の生産回転数と適正
経時変位
150
ダイハイトの根拠
100
現状の生産条件(回転数と
50
ダイハイト)は、良品を生産
などによって異なった精度の
50
1, 0
60
1, 0
70
1, 0
80
1, 0
90
2, 0
00
0
1,
1,
10
0
20
0
30
0
40
0
50
0
60
0
70
0
80
0
90
0
いはないが、使用年数・構造
00
1, 0
10
1, 0
20
1, 0
30
1, 0
40
0
0
することができる点では間違
図 5 長時間の変位でメンテナンス時期の把握にも役立つ
プレス機械から適正な回転数
とダイハイトを導き出すのは
熟練のプレス技術者に依存せ
ざるを得ない。それでもプレ
ス機械と金型の相関関係が明
確でないため、回転数を抑え
て生産されていることがほと
下型ダイセット 4 点締めの波形 /1 ショット目
下型ダイセット 4 点締めの波形 /2 ショット目
んどである。つまり、根拠が
曖昧な生産回転数と適正ダイ
図 6 4 点締めはショットごとに波
形が上下し、取り付け面にフ
レッチングが発生。6 点締め
は波形が安定している
ハイトの関係を、PLM 01 を
使用して明確にすることによ
って、不良率が低減され、結
果として高生産性につながる。
6 点締めの波形 / 変化しない
①現状の生産条件で安定時の基準波形を取得する
6.金型ダイセットの加工時の挙動測定
②回転数を上昇させて加工波形を測定し、基準波
金型の下型ダイセットなどにセンサを取付けし
形にできる限り近づけるようにダイハイトを調
て、加工時の挙動を測定したところ、今まではあ
整する
まり重要視されていなかった下型とボルスタの締
③製品の寸法測定を実施して良品が出ているか確
結が、とても重要であることが確認できた。図 6
認する
は下型ダイセットに取付けしたセンサの波形だが、
個々の特性を持つプレス機械と金型を、最適に
製品寸法に悪影響が出ると思われるほどの大きな
マッチングさせることによって、最良の生産条件
変位が出ている。下型とボルスタをできる限り多
を得ることができる。
くの個所で締結することによって、下型のばたつ
5.生産中の負荷変位の測定
きを抑えることができ、安定生産の一助になると
良品生産時の加工波形を基準として、生産中の
負荷変位を測定し、比較判定をする(図 4)
。エ
考えられる。
☆
☆
ラー時の出力も標準機能で搭載しており、抜きパ
プレス加工は、工作機械のように機械単体での
ンチなどの負荷を常時監視することによって、金
仕事ではなく、プレス機械・金型・材料、ほかに
型メンテナンス時期の把握にも使用可能である
送り装置などの集合体の作業である。加えて金型
(図 5)
。
第 53 巻 第 5 号
(2015 年 5 月号)
の重量・取付け方法・材料の落し穴もプレス加工
71
①ストリッパーが材料にタッチ
②抜き加工
③ブレークスルー
④曲げ加工
⑤下死点
⑥ストリッパーの戻り
⑤
②
④
⑥
①
③
※ブレークスルーを可視化
図 7 可視化波形の解析例
精度に大きな影響を与える要因である。先にも述
めて「荷重の可視化」を活用し始めている(図 7)
。
べたが、良品生産への条件出しは、今までは経験
PLM 01 を活用するうえで、測定した波形の解
豊かな現場のオペレーターにより何とか行ってき
析が必要になる。さらに「荷重の可視化」できる
たが、製品のさらなる高精度化、否応ない海外で
メリットをどのように利用するか、目的意識が重
の生産においては良品生産のための数値化による
要である。解析するにはプレス機械および金型構
理論的な生産システムが求められている。各企業
造の知識が求められるがこの解析力を高めること
で測定を実施して測定波形を見たオペレーターの
こそ重要な技術になってくる。今後のプレス加工
方が言った言葉が「あっ、やっぱり!」である。
はプレス・金型の解析・分析を展開させることに
感づいてはいるものの今までは立証する手立てが
より即効性のある改善につながることが求められ
なかったのである。手探りと言う言葉があるが、
る。プレス機械の解析は当社が全面的なサポート
まさしく今までのプレス加工は手探り状態であり、
を行うがプレスメーカーも PLM 01 を活用し始め
よく良品を生産できていたと改めて感服する。し
ており、さらに解析力が充実すると思われる。
かしながら何とか条件を出して生産していたとい
うのが事実であろう。すでに PLM 01 を生産現場
に取り入れた企業には、金型を改善し、プレス機
資 料 協 力
トルーソルテック㈱
代表取締役
佐藤哲夫
械の特性を管理し、その上で適正ダイハイトを決
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プ レ ス 技 術