地域栄養サポート自由が丘

Healthist Topic
地域栄養サポート
自由が丘
管理栄養士が案内する
「食育」の現場
栄養について一緒に考え
取り組んでいくことが大切
管理栄養士
米山久美子さん
vol.29
文◉編集部 text by Healthist 写真◉三浦英絵 photographs by Hanae Miura
地域に密着し、在宅療養中の患者宅を訪問して栄養食事指導を行っている「地域栄養
サポート自由が丘」の管理栄養士である米山久美子さん。好きな食べ物を無理にやめ
させるのではなく、食べられる範囲が広がる栄養指導を心掛けており、患者本人が自
分の健康を考えてやる気になるように対応している。
地域栄養サポート自由が丘の管理栄養士として活躍
のため先生は、栄養のプロである管理栄養士と組み、
中の米山久美子さんは、高校生時代に祖母が認知症で
そういう人たちのサポートをしていきたいと思い、人
糖尿病も患っていたため、食事制限のある人でも美味
を介して私が紹介されたのです。そこから話が進み、
しく食事が摂れるように考えてあげたいと思い、管理
興味があるのなら一緒に訪問栄養食事指導の組織を立
栄養士を目指したという。短大卒業後、高齢者施設と
ち上げてみませんか、という話になりました」
病院で実務経験を積み、管理栄養士の資格を取得。そ
こうして、2010 年に地域栄養サポート自由が丘を
の後は、病院などの管理栄養士を経て、フリーランス
木下医師とともに立ち上げた米山さんは、地域の勉強
として働いていたときに木下皮フ科の木下三和子医師
会へ積極的に参加して管理栄養士はこういうことがで
と出会うことになる。
きます、ということを知ってもらうことにチカラを注
「木下先生は、在宅患者さんの往診もしているのです
いだ。しかし、管理栄養士が具体的にどのように役立
が、褥瘡
(床ずれ)
がなかなか治らない患者さんの治療
つのか理解してもらえず、苦労が多かったと米山さん
に当たり、栄養も大事だということを地域の方々と話
は振り返る。
し合っていたのです。また、寝たきりになった患者さ
「ケアマネジャーや地域の専門職が集まる勉強会など
んを多く診ていて、胃ろうになった人は口から食事を
に参加し、在宅療養者に対し栄養コントロールのため
摂れずに一生を終えてしまう、病気で食事を制限され
の適切なアドバイスができ、摂食胭下障害の人には適
た人はずっと制限されたままになってしまう、という
切な食事形態を提案できますなどという話を聞いても
ことを少しでも改善したいとも考えていたのです。そ
らい、利用していただいて結果を出していくしかあり
現在、約 25 人の栄養サポートを担当している米山さん。高齢者世帯、
療養食の人など様々だ。 (写真提供:地域栄養サポート自由が丘)
地域栄養サポート自由が丘は、木下医師(写真中央)と 2 人の常駐する
管理栄養士で話し合いを行いながらサポート内容を決めていく。
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世間話をしながら普段の食生活を聞くようにすることで、訪問栄養食
事指導で訪れた人に最適なアドバイスをするように心掛けている。
普段の食事を確認す
るため、冷蔵庫の中
もチェック。一人暮
らしの高齢者の場合、
賞味期限切れの食材
が混ざっていないか
も注意している。
ませんでした。同時に低栄養に対するサポートも実践
して、結果をしっかりと出すことで、今では管理栄養
士が入った方がいいと考えてくれる人が地域に増えて
います」
実際、管理栄養士の米山さんが在宅医療のチームに
加わったことで、入院しなくなるケースや高齢者世帯
の場合でも食事や栄養状態が安定するケースがあると
いう。
冷蔵庫には、患者さ
んの食生活で注意し
てもらいたいことを
米山さんが手書きし、
貼り付けられていた。
これを見て、患者の
意識が徐々に変化し
ていけばと言う。
在宅で療養中の患者宅を電車で訪問
現在、地域栄養サポート自由が丘には米山さんを含
め常駐の管理栄養士が 2 人、非常勤の管理栄養士が 10
人在籍しており、計 12 人で約 60 人の患者の食事・栄
様々です。患者さんは、かかりつけ医が往診に来てい
養面についてサポートを行っている。米山さんは、そ
る人がほとんどで、摂食胭下障害の場合は歯科の先生
の中の約 25人を担当しており、1日だいたい 3 件を回る。
とチームを組んで取り組んでいます」
「1 日 3 件では少ないのですが、訪問する家と家の移
取材時に、2013 年 3 月から月 2 回、訪問栄養食事指
動は電車を利用しており、駅から離れている家もある
導をしている患者宅へ同行させてもらった。現在 87
ため、どうしても回れる件数が限られてしまいます。
歳で一人暮らしの患者は、ケアマネジャーからの紹介
私が担当しているのは、腎臓病や糖尿病など療養食、
で栄養食事指導を行うようになったそうで、米山さん
低栄養、摂食胭下障害や胃ろう管理の患者さんなど
はその方の栄養食事指導の流れとエピソードを次のよ
うに話してくれた。
「首に腫瘍があるため気道を圧迫しており、在宅で酸
素吸入もしていて、血圧も高く、目も悪くなってきて
いたため、これ以上太ってしまうと手術もできなく
なってしまうので、心配したケアマネジャーが私に連
絡をしてきたのです。最初に訪問したとき、夜中まで
TV を見ながらお菓子などを食べ、TV ショッピング
で美味しいものを買うのが好きだと言われました。ま
た、夜中まで食べているため胃がもたれて朝は食べら
摂食嚥下障害患者の場合、歯科医師、歯科衛生士、家族と連携しなが
ら栄養面のサポートを行う。
(写真提供:地域栄養サポート自由が丘)
れず、1 日 2 食だと言うのです。そのため、22 時以降
に食べることはやめられますか、朝食を食べるように
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地域の高齢者を対象にした料理教室も開催し、食生活における栄養バ
ランスの大切さを伝えている。
(写真提供:地域栄養サポート自由が丘)
米山さんは「在宅療養されている人たちは、家族と同居、一人暮らし
など様々なので、その人にあったサポートを心掛けています」
と語る。
できますか、とだけ言わせてもらいました。すると、
次に訪問したときには 21 時以降食べることをやめて
いて、体重も落ちていたのです。その後、徐々に信頼
関係が築けていき、色々なことも相談してくれるよう
になり、訪問時には笑いが絶えず、楽しく訪問させて
いただいています」
患者本人の意識が変わる指導を目指す
な場合には、ご家族などの介護者、また他職種と連携
「訪問栄養食事指導で大切なのは、信頼関係と患者さ
を取りながらサポートし維持、改善を目指します」
ん本人の意識」と米山さんは言う。家族やヘルパーが
そして最後に、今後の目標を次のように語った。
食事を管理していれば、その人もサポートをしてくれ
「訪問栄養食事指導は、これから需要が増えていくと
るが、一人暮らしだと本人の意識がとくに大切になっ
思います。そのため、私たちが取り組んでいるような
てくるからだ。
システムが全国に広がっていってくれれば嬉しいです
「私は、食べられる可能性が広がる栄養食事指導を心
ね。そのためにも、在宅で栄養サポートを必要として
掛けています。食べてはいけないと思っていたものを
いる人たちに喜んでいただけるような結果を出して、
食べることができ、検査結果の数値は食べることを我
貢献していければと思っています」
慢していたときよりも良くなっている、ということを
目指しています。それと同時に、言われて嫌なことは
言いません。例えば、美味しいから食べていると患者
さんが言っているのに、それはカロリーが高いからや
めましょうと頭ごなしに言うことは決してしません。
他の部分でできることがあれば、それで対応していく
ようにすればいいのです。検査での数値が悪化してい
れば、食事の面からその理由を説明するなどして、少
しずつ関心を持ってもらえるように工夫をし、本人に
状況をしっかりと把握してもらうことが大切だと思い
ます。そのような指導を続けていると、患者さん本人
が考えるようになって、病気に悪影響となる物や必要
以上の食事量を摂らなくなったり、必要以上の制限は
しなくなります。ただ在宅療養者の中には、認知症な
どによりご自分で判断が困難な方もいます。そのよう
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木下皮フ科
地域栄養サポート自由が丘
http://www.kinoshita-clinic.com/
一般皮膚科診療、フットケア外来に加えて、訪問栄養食事指導
をする地域栄養サポート自由が丘も併設。自宅で安心して食事
ができるように、幅広く食のサポートを行っている。東京都世
田谷区奥沢 5-20-1 ☎ 03-3718-9907