講義資料

財政学Ⅱ
1
第4回
社会保障(3)公的年金
2015年10月23日(金)
担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)
2
公的年金(1)
 日本の公的年金制度は主として、国民年金と厚生年金・共済年金の2層からなる(スライド3)。
 国民年金はすべての人が加入する基礎年金であり、「一階部分」と呼ばれる。これに対して厚生年金・共済年金は、基礎
年金に上乗せされる年金であり、「二階部分」と呼ばれる。
 厚生年金・共済年金の加入者(被保険者)は、同時に国民年金の加入者ともみなされる。
 厚生年金と共済年金は、被用者年金とも呼ばれる。
 各年金の被保険者
 国民年金:日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人。
 厚生年金:厚生年金の適用を受けている会社に勤務するすべての人。
 共済年金:公務員・私立学校教職員など。
 公的年金には、給付の要件によって老齢年金(退職年金)、障害年金、遺族年金の三種類がある(スライド4)。
 老齢年金(退職年金):被保険者が一定年齢に達した(退職した)場合に、本人に給付される。
 障害年金:被保険者が重度の障害を負った場合に、本人に給付される。
 遺族年金:被保険者が死亡した場合に、遺族に給付される。
3
公的年金(2)
出所:日本年金機構HP
4
公的年金(3)
国民(基礎)年金
厚生年金
共済年金
公的年金の給付の種類
老齢(退職)年金
障害年金
老齢基礎年金
障害基礎年金
老齢厚生年金
障害厚生年金
退職共済年金
障害共済年金
遺族年金
遺族基礎年金
遺族厚生年金
遺族共済年金
5
公的年金(4)
公的年金制度の概要
財源
制
度
区分
第1号被保険者
国
民
第2号被保険者
年
金
第3号被保険者
厚生年金
被
用 国家公務員共済組合
者
年 地方公務員共済組合
金
私立学校教職員組合
被保険者数
(万人)
給付
老齢年金
保険料(率)
本人
事業主
1,864
15,040円
-
3,793
-
-
960
-
-
3,472
8.560%
8.560%
106
8.285%
8.285%
収入額
国庫負担
基礎年金に
かかる費用
の2分の1
34.3兆円
負担額
平均
年金月額
支給開始年齢
11.8兆円
5.8万円
65歳
-
16.0万円
-
21.1万円
-
284
8.285%
8.285%
-
21.9万円
50
6.823%
6.823%
-
20.7万円
注:数値は2012年度末現在。ただし、保険料収入額および国庫負担額は2014年度予算ベース。
出所:『平成26年版厚生労働白書』、厚生労働省資料「公的年金制度の概要」より作成。
報酬比例部分 一般男子・女子 61歳
厚生年金女子 60歳
坑内員・船員 60歳
定額部分 一般男子・共済女子 65歳
厚生年金女子 63歳
坑内員・船員 60歳
給付総額
20.0兆円
26.4兆円
6.9兆円
6
国民年金
 被保険者は三種類に区分される。
 第1号被保険者:自営業者、学生、フリーターなど。
 第2号被保険者:会社員や公務員など。
 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている配偶者。
 毎月の保険料は1万5250円(2014年度現在)。
 毎年280円ずつ引き上げ、2017年度以降は1万6900円で固定。
 第1号被保険者は自分で保険料を納める。第2号被保険者の場合は、厚生・共済年金の保険料に国民年金の保険料が含まれ
ており、厚生・共済年金の各制度が国民年金に「基礎年金拠出金」を交付する。第3号被保険者については、配偶者であ
る第2号被保険者が加入する年金制度が保険料を一括負担する。
 40年加入(20~60歳)で全期間にわたって保険料を納めた場合、65歳から給付される満額の年金(老齢基礎年
金)は年間で78万100円(2015年4月より)。
 国民年金は全国民に保障すべき「基礎年金」として、財源をすべて税金で賄う「税方式」への移行を主張する
議論がある。
7
厚生年金・共済年金
 現役時代の賃金におおむね比例した額を給付することで、現役時代の所得を代替する役割を果たす。
 保険料率は、厚生年金が17.120%、国家公務員共済組合と地方公務員共済組合が16.570%、私立学校教職員共
済が13.646%(2013年9月現在)。
 毎月の保険料は、標準報酬月額(厚生年金の場合)に保険料率を掛け合わせた額を労使で折半して負担。
 標準報酬月額:被保険者が毎月受け取る給与やボーナスに基づいた額。
 「社会保障と税の一体改革」に基づき、厚生年金と共済年金は2015年10月に一元化。
 保険料率も段階的に引き上げられ、2018年に18.3%で統一。
 ただし、私立学校教職員共済は2027年に統一予定。
 厚生年金の所得代替率はこれまで約60%であったが、少子高齢化の進む中、現役世代の負担を抑制するために
「マクロ経済スライド」が2004年に導入され、今後は50%を下回らない水準にまで下がる予定。
 所得代替率:現役世代の手取り収入に対する夫婦の年金受給額の比率。現役世代に対してどれくらいの年金を受給できる
かを示す。
8
積立方式と賦課方式(1)
 年金には積立方式と賦課方式がある(スライド9)。
 積立方式:長期にわたって保険料を積み立てるとともに、それを運用して利子を加えた積立金を退職後に取り崩していく。
 インフレに対応して年金給付額の実質価値を維持することは困難。しかし、人口構成の変化に影響を受けない。
 賦課方式:退職世代が必要とする年金給付額を、その年の現役世代(被保険者)が負担する。
 世代間扶養の考え方に立脚し、インフレに対応できるという利点あり。しかし、人口構成の変化に影響を受けやすい。
 現在の日本の公的年金は賦課方式を基本とする。しかし同時に、将来の高齢化に備えるために積立金の運用を
行っているので、修正積立方式と呼ばれる。
 運用は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が行う。
 公的年金制度の創設当初は積立方式がとられていたが、高度成長による国民所得上昇に給付水準を合わせたこと、インフ
レに運用実績が追いつかなかったこと、高齢化が当初の想定を超えて進んだこと、高度成長の終焉によって経済成長率が
低下したことにより、修正積立方式に移行。
 賦課方式維持のための給付額抑制策
 年金給付額は現役世代の手取り賃金の伸びに応じて改訂されてきたが(賃金スライド)、2000年の制度改正で、物価の
伸びに応じて改訂されるように(物価スライド)。
 2004年に導入されたマクロ経済スライドでは、賃金や物価の伸び率から被保険者数の減少と平均余命の伸びを反映した
一定率(スライド調整率)を控除して給付額を改訂することに。
9
積立方式と賦課方式(2)
出所:厚生労働省HP
10
積立方式と賦課方式(3)
マクロ経済スライドの仕組み
(物価)賃金
上昇率
前年からの賃金
(物価)の伸び
スライド調整率
実際の年金額の
改定率
例)賃金(物価)上昇率が1.5%で、スライド調整率が0.9%のとき、
実際の年金額の改定率は0.6%となる。
出所:第3回社会保障審議会年金部会資料2「マクロ経済スライドについて」(平成23年9月29日)