解剖・栄養生理学 消化器系の解剖と生理II 参考書: 山本ら 第18章 Mader 第5章 この講義で身に付けること • • • • 小腸と大腸の解剖と役割について理解する 分泌液に含まれる消化酵素の働きを理解する 分泌液の制御メカニズムについて学ぶ 主な栄養素の消化・吸収メカニズムについて理 解する • 肝臓、膵臓と胆のうの解剖と役割について理解 する • 肝疾患の主な種類と症状について学ぶ 先週の話と 今週の話 • 口腔から食道、 胃までの話 • 今週は小腸と大 腸で起きる消化・ 吸収メカニズム • 肝臓や膵臓、胆 のうの働き 坂井と橋本.ぜんぶわかる人体解剖図.2011.p65. 臓器の位置関係 坂井と橋本.ぜんぶわかる人体解剖図.2011.p182 小腸は3つの部位に分けられる 1. 十二指腸 2. 空腸(腹部の左上部も しくは口側2/5) 3. 回腸 十二指腸 • 空腸と回腸は腸間膜 空腸 で後腹膜と繋がる • 日本人の小腸の長さ 回腸 は約6.5m • 大腸との結合部 ⇒回盲弁 http://www.integris-health.com/ih/layouts/digestive/smallIntestine2.jpg 大十二指腸乳頭の構造 肝臓 総肝管 胆嚢管 総胆管 胆嚢 オッディの 括約筋 大十二指腸乳頭 または ファーター乳頭 膵臓 膵管 十二指腸の 一部 http://curezone.com/upload/Liver_Flush/Telman/Blog/oddi.jpg 空腸と回腸の解剖 小腸の構造 • 筋層は内側に輪状筋、外側に縦状筋 絨毛 漿膜 筋層 粘膜下層 粘膜 輪状ヒダ 動脈 静脈 http://media.tiscali.co.uk/images/feeds/hutchinson/ency/0008n029.jpg 乳び腔も存在 小腸の構造 細菌成分の分解酵素 を持つパネート細胞 が存在する 粘液を分泌 リンパ小説が集まり パイエル板を作る •粘膜には腸絨毛が生えている •腸絨毛は1層の微絨毛を持つ小腸上皮 細胞と杯細胞で構成されている 坂井と橋本.ぜんぶわかる人体解剖図.2011.p189. 小腸の役割 • 食物に含まれる栄養素や水分を吸収 • 吸収の効率を上げる様々なしくみ – 長さ:消化管全体が約8m、小腸だけで約6m – 輪状ヒダ:粘膜の面積を広げる – 腸絨毛や微絨毛、陰窩:さらに面積を広げる • 輪状ヒダや絨毛による面積の増加は無 かった場合の600倍以上 – 約3300cm2から約2,000,000cm2(~200m2) へ 小腸では様々な分泌液が合流する 膵液 胆汁 腸液 小腸では様々な分泌液が合流する 弱アルカリ性(炭酸水素イオン) 膵液 1)び粥を中和 2)消化酵素の活動環境を整える 消化酵素 胆汁 腸液 膵液の分解酵素は三大栄養素 全てに対応 分解酵素の分類 名称 役割 タンパク質 分解酵素 トリプシン -タンパク質をポリペ プチドへ キモトリプシン カルボキシペプチダーゼ -タンパク質をアミノ 酸へ 脂肪分解酵素 リパーゼ -中性脂肪を脂肪酸 とグリセリンへ 糖質分解酵素 アミラーゼ マルターゼ ラクターゼ -デンプンを二糖類に -麦芽糖をブドウ糖に -乳糖をブドウ糖とガ ラクトースに 各民族における小腸ラクターゼを発現する成人の割合 哺乳動物は離乳を促進す るため成人、成獣はラクター ゼを欠くが、牧畜の永い歴 史のある白人は例外。 Kagawa, Y. et al. “Single nucleotide polymorphisms of thrifty genes for energy metabolism: evolutionary origins and prospects for intervention to prevent obesityrelated diseases” Biochem Biophys Res Commun. 295(2), 2002, 207-22 小腸では様々な分泌液が合流する 弱アルカリ性(炭酸水素イオン) 膵液 1)び粥を中和 2)消化酵素の活動環境を整える 消化酵素 胆汁 腸液 腸線・十二指腸線 弱アルカリ性の粘液 消化酵素なし* 小腸では様々な分泌液が合流する 弱アルカリ性(炭酸水素イオン) 膵液 1)び粥を中和 2)消化酵素の活動環境を整える 消化酵素 胆汁 腸液 肝臓で生産 胆のうで貯蔵・濃縮 胆汁酸と色素 腸線・十二指腸線 弱アルカリ性の粘液 消化酵素なし* 胆汁の役割 • ビリルビンは壊れた赤血球内のヘムの鉄以外 の成分 – – – – • 鉄は造血に再利用 グロビンは肝臓でアミノ酸として再利用 アルブミンと結合して肝臓へ(間接ビリルビン) 肝臓でアルブミンが外れて(遊離型ビリルビン)胆 汁 胆汁酸の役割 – 液体に含まれているリパーゼの酵素作用を受けや すくさせる – 脂肪酸とグリセリンを微粒子化(ミセル化)させ吸収 を促進させる • 膵液 分泌のきっかけは? – 味覚刺激(反射性分泌) – ホルモン(化学分泌) • セクレチン(消化酵素の少なくHCO3イオンの多 い膵液) • コレシストキニン・パンクレオザイミン(消化酵素 の多い膵液) • 腸液 – 主に局所反応(腸粘膜の刺激に反応) – 反射性と化学分泌もきっかけ • 胆汁 – ホルモン(CCK)がオッディ括約筋を弛緩 胃と十二指腸付近における分泌制御 胆汁 K細胞 I細胞 GIP D 細胞 CCK pH低下 ソマトスタチン プロスタグランジン 壁細胞 G 細胞 膵液 ガストリン HCl ペプシノーゲン 主細胞 S細胞 セクレチン ペプシン 消化 ほかにも多くの消化管 ホルモンが関わっている (香川と野澤参照) 栄養素は主に小腸で吸収される 糖質 単糖 タンパク質 アミノ酸 脂質 脂肪酸 グリセリン 糖質とタンパク質は肝門脈(血管)を通じて運搬 脂質はリンパ腺を通じて運搬 ビタミンと電解質、水も95%が小腸で吸収 ミネラルはFe. Ca, Znは空腸で、その他は回腸で吸収 筋肉 肝臓 人工甘味料の使用 ダイエットと吸収 – サッカリン – スクラロース • 甘味の増強・低カロリー 天然甘味料の摂取を制限 • 脂質(コレステロール)の 吸収阻害 – 食物繊維(特に水溶性) – キトサン • 有効性が認められていな い物注意が必要 • http://www.underconsideration.com/brandnew/archives/coke_2.jpg http://www.webstaurantstore.com/splenda-sugar-substitute-1-gram-packet-2000-cs/splenda-sugar-substitute-1-gram-packet-2000-cs.jpg 人工甘味料で耐糖能機能が低下? 腸内微生物は体 内の生理学的経 路や肥満、糖尿病 の発症とも関係 (Suez et al. Nature, 2014) • • • マウスを使った研究で11週目に耐糖能機能障害を発 生させた 人工甘味料(サッカリン、アスパルテーム、スクラロー ス)は吸収されない⇒腸内微生物の機能変化に関与 381人を対象:人工甘味料の摂取とメタボの症状(体 重増加、WHR、HbA1c、GTT等)との間に正の相関 小腸の運動 • 大きく3つに分けることが出来る 1)分節運動 - 腸管がいくつかの分節に分かれることで食物 を混ぜ合わせることが出来る 2)蠕動運動 - 口側が収縮すると肛門側が弛緩することで食 物が大腸のほうに輸送されていく 3)振子運動 - 縦走筋が収縮・弛緩することで混ぜ合わせ や輸送が行われる(ヒトではこの運動は弱い) 複数の小腸運動の調節システムが存在 1)内在神経 -アウエルバッハ筋層間神経叢と副次的な神経叢で あるマイスナー(マイスネル)粘膜下神経叢が輪状筋と 縦走筋の自動性を調節 -カハール間質細胞(カハール介在細胞)(アウエル バッハ神経叢の神経に接するc-Kit蛋白質を持つ)が 消化管運動のペースメーカーとして機能を持つ 2)腸外からの外来自律神経系 -副交感神経が運動と緊張を強める -交感神経が弱める 3)消化管ホルモン(ガストリン、セクレチン、CCK等) 大腸の部位 • • • 盲腸、結腸、直腸 盲腸にはリンパ小節を多く含む虫垂 結腸は上行・横行・下行(じょうこう・おうこう・かこう)とS状 に分けられる 坂井と橋本.ぜんぶわかる人体解剖図.2011.p191. 小腸と大腸の構造の違い • • • • 腸絨毛や輪状ヒダは存在しない 小腸より多くの杯(さかずき)細胞 腸線にはパネート細胞を含まない 結腸独特の形状 – 結腸膨起(けっちょうぼうき)くびれとふくらみ – 結腸ひも3本の縦に走るすじ – 腹膜垂(ふくまくすい)結腸ひもに沿って存在 する脂肪が入っている腹膜の袋 大腸の役割 便 粥状 の食物 1)食物のカス 2)分泌物 3)細菌・細胞 水分の吸収 腸内細菌 1)有機物の産生 2)腐敗物質の産生 排便の メカニズム 坂井と橋本.ぜんぶわかる人体解剖図.2011.p191. • • 直腸膨大部に便が溜まる膨張(進展受容体) 排便中枢(脊髄)便意(大脳皮質) 肛門の開閉をコントロールしている筋肉 – 内肛門括約筋(不随意筋)と外肛門括約筋(随意筋) 排便を一定時間コントロール 下痢と便秘 • • 大腸で水分吸収機能が働かないと下痢になる 病原体の感染:病原体の排出を促そうと蠕動運 動が促進⇒水分の吸収が行われず下痢になる – 飢餓などの栄養不良から感染し下痢を引き起こす⇒ 栄養不良の悪循環 • 神経系の下痢:神経系が腸壁を刺激することに • よる下痢 大量の水分喪失⇒脱水&電解質バランス喪失 – 体重2%の水分ロス:渇きと食欲減退 – 体重10%の水分ロス:腎不全、循環不全 – 体重20%の水分ロス:死亡 発展途上国の5歳未満の子供では 栄養不良に伴う下痢の発症が深刻 急性呼吸器感染 その他 栄養不良に伴う 死亡率 出生前からの 栄養不良 下痢 マラリア HIV はしか WHO Environmental Burden of Disease Series, No. 12. 2005 下痢と便秘 • 食べ物が腸に長時間留まると水分が吸収され 排泄が困難になる • 日本内科学会の定義:3日以上排便がない状 態、または毎日排便があっても残便感がある 状態 • 便秘予防に有効なもの – 水分 – 食物繊維 – 適度な運動 – 脂肪など 確立・ほぼ確立した生活習慣病関連発がん因子 要因 がんの部位(国際評価)* がんの部位(日本人)† 喫煙 口腔・咽頭、食道、胃、大腸、喉頭、 肺、膵臓、肝臓、腎臓、尿路、膀胱、 子宮頚部、骨髄性白血病他、乳房 食道、胃、肺、膵臓、子宮頚 部、肝臓(大腸、乳房) 飲酒 口腔、咽頭、食道、大腸、喉頭、肝臓、 食道、大腸、肝臓 膵臓、乳房 運動不足 結腸、乳房(閉経後)、子宮体部 肥満 食道腺、大腸、乳房(閉経後)、子宮体 乳房(閉経後)、大腸、肝臓、 部、腎臓、膵臓、胆嚢 (子宮内膜) 野菜・果物 不足 野菜:口腔、咽頭・喉頭、食道、胃 野菜:食道、(胃) 果物:口腔、咽頭・喉頭、食道、胃、肺 果物:食道、(胃、肺) 塩分・塩蔵 胃 食高頻摂取 大腸 胃 *喫煙・飲酒:IARC monograph on the evaluation of carcinogenic risks to humans その他:World cancer research fund/American Institute of Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer †厚生労働科学研究費:第三次対がん総合戦略研究事業「生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班 大腸癌罹患率の人種差 (年齢調整) 1988ー1992年 70 60 男性 女性 罹患率(10万対) 50 40 30 20 10 0 日本人 ハワイ日系人 中国人 タイ人 米国白人 米国黒人 人種 香川靖雄, 「消化管疾患の人種差と食習慣」, 『総合臨床』, 54(9), 2005.9 p.2363-8 大腸がんの頻度 • 国立がんセンター中央病院で1990年~1995 年の間に切除された1,409例の大腸がんの発 生部位と頻度 http://www.naitouiin.jp/img/data_daityozu.jpg 大腸がんと食物繊維 • • 国立がんセンターによる研究 (Int J Cancer. 2006) 摂取量が極端に少ない人では大腸がんを発症する可 能性がある http://epi.ncc.go.jp/images/uploads/jphc_outcome036_img002.gif 日本人の食物繊維摂取量 • 平成23年国民健康・栄養調査結果 – 全体:13.7g/日(20歳以上:14.1g/日) – 成人男性:13.9g/日(20歳以上:14.4g/日) – 成人女性:13.5g/日(20歳以上:13.9g/日) • 2010年度摂取基準 – 成人男性:19g/日 – 成人女性:17g/日 まずは食物繊維をしっかり摂取することが重要 付属性実質性器官 • 消化管の働きを助ける器官 1) 肝臓 2) 胆嚢 3) 膵臓 http://images.medicinenet.com/images/Pancreas_07.jpg • • 最大1kg・右葉と左葉 下面に肝門 肝臓の解剖 右葉 食道 – 肝動脈(酸素を供給する 胆嚢 動脈:栄養血管) – 門脈(吸収した栄養素を 含んだ血液を集める静 胆管 総肝管 脈:機能血管) 総胆管 – リンパ管・肝管(胆汁を 幽門 分泌する管) 十二指腸 – 神経 • 上面に肝静脈下大 静脈へ 左葉 胃 小腸 膵臓 http://www.alternativehealth.co.nz/liver/liver03.jpg 肝臓の解剖 マクロファージの一種 有害物質の処理 腺房 洞様毛細血管 中心静脈 クッパー細胞 細胞間胆細管 肝細胞 洞様毛細血管管腔 ディッセ腔 クッパー 細胞 小葉間動脈 小葉間静脈 小葉間胆管 脂肪取り込み能力が高い Vit. A貯蔵、繊維化に関与 肝星細胞 (伊東細胞) 樹状細胞 免疫細胞 http://www.nature.com/nri/journal/v6/n3/images/nri1784-f1.jpg 肝臓の役割 1. 物質代謝 • 糖質の貯蔵と合成 • タンパク質の合成(アルブミン、プロトロンビン 等)と分解(尿素の生産) • タンパク質からの糖や脂肪の合成 • 脂肪の合成と分解 • ミネラルの貯蔵など 2. 解毒(薬の成分やアルコールの分解) 3. 胆汁の生産と分泌 4. 循環血液量の調節 リポ蛋白の動態 脂肪酸などが細胞利用 に放出される キロミクロン 2 リポ蛋白リパーゼ VLDL 小腸 IDL 1 3 肝臓 LDL コレステロール を合成・運用 余分なコレ ステロール は胆汁へ HDL 7 コレステロールを肝臓に放出 コレステロール回収 HDL コレステロール を放出 4 6 5 余分なコレステロールは細胞外に放出 細胞 代謝に 使用 肝疾患 • 繊維化によって血液が肝臓に入りにくくなる 門静脈の血液が他の静脈へ – 静脈瘤 – 脾静脈に流れると脾臓の腫大(脾腫)が起きる – 肝臓で解毒できていない血液が肝臓を迂回して大 静脈へ流れようとすることで肝性脳症が起こる • 肝硬変で黄疸や腹水、クモ状血管腫などの症状も起 きる – 黄疸:ビリルビンの代謝障害(肝前、肝、肝後性があ る肝前はビリルビンの処理が間に合わない、肝 後は胆汁の排出経路が塞がるもの) • 血中GOTやGPTが肝臓の状態をよく反映する 肝疾患 • 肝炎(急性、劇症、慢性) – ウィルス性(A~E型が存在、A型、B型、C型[ワクチ ン無し]が有名。A・E型は水系感染。B型は親子間・ 輸血での感染が起きる) • 脂肪肝(脂肪が過剰に蓄積した状態) – アルコールの過剰摂取により肝臓の分解能力が追 いつかない状態 – 非アルコール性脂肪性肝疾患(Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: NAFLD)と非アルコール性脂 肪肝炎(Non-Alcoholic Steatohepatitis; NASH) 異所性脂肪の蓄積 – 禁酒・生活習慣の改善が必要 肝硬変 (肝機能の低下) 肝細胞の死滅・減少し繊維化肝機能を持たない 結節ができる 肝炎⇔脂肪肝⇒肝硬変 肝硬変が進行すると非可逆的 http://www.geocities.jp/nagoyarakusoukai/runners/200201photo1.jpg 胆嚢の解剖 胆嚢管 • • • 総肝管 胆嚢 総胆管 • • 肝臓下部に付着 肝臓で生産された 胆汁を貯蔵・濃縮 肝臓⇒肝管・総肝 管⇒胆嚢管⇒胆 嚢 胆嚢⇒胆嚢管⇒ 総胆管⇒十二指 腸 コレシストキニン が放出に作用 http://3.bp.blogspot.com/_6vuDCyLxSio/SZiO7CKoUnI/AAAAAAAAB_8/9SDM-BthZBc/s320/gallbladder_diagram.jpg 膵臓の解剖 http://www.nagoya-1st.jrc.or.jp/cancer/img/sui-gan.jpg
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