群馬県立産業技術センター研究報告(2014) 積層造形機を活用した試作モデルの応力・ひずみ評価に関する研究 狩野幹大 A study on the stress-strain evaluation of the prototype model that utilizes a 3D printer Motohiro KANO プラスチック製品を試作する際、一般的には試作用の金型を加工して射出成形が行われているが、 コストや加工時間の関係から、入れ子などに非鉄金属材料を利用した簡易金型で試作を行う技術の確立 が望まれている。こういった試作の分野では近年 3D プリンタの活用が急激に進んでいることから、本 研究では 3D プリンタによる造形物を試作用簡易金型の一部として利用を検討するため、造形物に荷重 をかけた際の変形の傾向について調査を行った。 キーワード:3D プリンタ、ひずみ計測、圧縮試験 To prototype plastic products, we are using a prototype mold for injection molding. To reduce the cost and processing time, the establishment of technique for a simple prototype mold using a non-ferrous metal material insert is desired. In recent years, 3D printers have become widespread rapidly in the field of the prototype. In this study, to investigate the use of a shaped 3D printer as part of a simplified mold for trial, we investigated trends in deformation when a load is applied to the shaped article. Keywords:3D printer, strain measurement, compression test 1 はじめに ウム合金等を適用した場合について研究が進 められており 1 )、低コスト・短納期のアルミ プラスチック射出成形品は日用品から家電 合金製の簡易金型も実用化が進んでいる例も 部品、自動車部品など様々な分野で利用され あるが、それでも金型の加工には大きなコス ており、私たちの生活になくてはならない製 トと時間を要する。 品である。これらのプラスチック製品を試作 特に、近年普及が進んでいる 3D プリンタ する際には金型を用意して成形を行う手法が で造形した入れ子の利用が可能となれば、現 一般的であるが、金型の加工に必要なコスト 状よりもさらに低コスト・短納期でプラスチ や時間を考慮すると、数個から数百個程度の ック製品の試作を行うことが可能になると予 試作だけのために金型を製作することは、企 想される。しかし、非鉄金属材料の入れ子で 業にとって非常に大きな負担となっている。 は型締めの荷重により入れ子が変形し転写性 そこで、近年ニーズが高まっているのが入 が悪化、成形不良を引き起こすこともあるな れ子などの金型の一部に非鉄金属材料を利用 どの問題が存在し、プラスチック製の入れ子 した簡易金型である。試作における金型の加 ではこの問題がさらに顕著であると考えられ 工時間の短縮やコストの削減が可能となり、 る。そこで、本研究では 3D プリンタによる 需要が高まっている多品種少量生産にも比較 積層造形品をプラスチック射出成型品試作の 的対応しやすい手法である。実際にアルミニ ための簡易金型として利用できる可能性を検 生産システム係 証するため、圧縮荷重を加え、ひずみを計測 5 か所で、それぞれに長さ 5mm の単軸ゲー することで積層造形物の変形の挙動について ジを貼付しひずみ計測を行った。 調査を行い、その傾向をつかむこととした。 2 2.1 方 法 積層造形 試験で使用する積層造形モデルの造形には 以下の機器を用いた。 積層造型機:AGILISTA-3100 (キーエンス社製) インクジェット方式の 3D プリンタであり、 図1 積層造型物(立方体モデル) アクリル系の透明樹脂による造形が可能であ る。本研究の試料の作製にあたっては積層ピ ッチ 20μm での造形を行った。 2.2 ひずみ計測 ひずみの測定には以下の機器を用いた。 圧縮試験機: データロガー: LSC-1/30-2(東京試験機社製) 圧縮速度 1mm/min 最大荷重 1kN NR-600(キーエンス社製) NR-ST04(キーエンス社製) 記録ソフトウェア: 図2 WAVE LOGGER PRO 積層面と荷重方向 (キーエンス社製) サンプリング周期 100ms ひずみゲージ: FRA-5-11-3LT(3 軸) UFLA-5-11-3LT(単軸) (東京測器研究所社製) 2.3 試験方法 図 1 のように 1 辺の長さが 20mm の立方体 を造形し、3 ゲージ式のひずみゲージを 2 枚 貼り付けて計測を行った。また、積層造形の 積層面の方向が変形に及ぼす影響を調べるた め、図 2 のように荷重を積層面に対して垂 図3 積層造形物(簡易入れ子モデル) 直・平行となるようにかけて比較を行う。さ らに、計測したひずみからロゼット解析を利 用して最大主ひずみ、最小主ひずみを算出し て最大主応力と最小主応力を求め、その結果 について検証する。 また、金型の入れ子を想定し、図 3 のよう なキャビティ形状とコア形状のモデルを設計 し造形した。このモデルを圧縮してひずみ計 測し、造形物の形状がどのように影響を及ぼ すかについて検討を行った。ひずみゲージの 貼り付け位置は図 4 に示すキャビティ部品の 図4 ひずみゲージ貼り付け位置 3 結 果 された。これは、積層方向による異方性の影 響によってひずみが不均一になっているから 3.1 積層方向による比較 図 1 の積層造形物に圧縮荷重をかけた時の であると予想される。 さらに、主応力についても増大が確認され、 ひずみについて測定を行った。積層面に対し 荷重が積層面に対して平行に 1kN の加重を て垂直な荷重をかけた場合(図 2(a))のひず 加えた場合、最も付加の大きな部分で最小主 み量を図 5、積層面に平行な荷重をかけた場 応力-4.976MPa が計測された。この数値は垂 合(図 2(b))のひずみ量を図 6 に示す。また、 直に荷重をかけた場合と比較して数倍の応力 表 1 は 1kN の荷重を加えた場合の各ゲージの となっている。応力が一点に集中すると造形 ひずみ量である。 物への負荷が大きくなることから、荷重のか かる治具や部品の造形については可能な限り 荷重が積層面に対して垂直な方向となる姿勢 で造形を行うことが望ましいと考えられる。 図5 図6 ひずみ量(立方体モデル:垂直) 図7 最大主応力(立方体モデル:垂直) 図8 最小主応力(立方体モデル:垂直) 図9 最大主応力(立方体モデル:平行) 図 10 最小主応力(立方体モデル:平行) ひずみ量(立方体モデル:平行) 表1 ひずみ量[μST](1kN) この測定結果に、ロゼット解析を適用して 最大主応力と最小主応力の変化について行っ たものを図 7 から図 10 に示す。 こ こ で は ヤ ン グ 率 E=3.14 、 ポ ア ソ ン 比 ν=0.35 として計算を行っている。 積層面に対して垂直に荷重をかけた場合、 ゲージ 1、ゲージ 2 ともにひずみが均一的で あり規則性がみられたが、荷重が積層面に対 して平行な場合にはゲージ 1 とゲージ 2 でひ ずみにばらつきが生じ、垂直に荷重をかけた 場合と比較してもひずみが大きい傾向が確認 表2 主応力[MPa](1kN) 工作用に用いる治具など、大きな荷重のか かる部品を造形する際には、可能な限り荷 重が積層面に対して垂直となるような姿勢 で造形を行うことが望ましいと考えられる。 3.2 入れ子の簡易モデルの圧縮 図 3 の積層造形物に荷重をかけた時のひず 参考文献 みについて測定を行った。3.1と同様に 2 種類の積層方向で造形を行ったものについて 比較を行う。 型の一部非鉄金属化に関する研究、平成 実際に測定を行った結果を図 11、図 12 に 示す。2 つの結果を比較すると、やはり荷重 が積層面に対して平行な場合に変形に偏りが 発生している様子が確認できる。 図 11 ひずみ量(入れ子モデル:垂直) 図 12 ひずみ量(入れ子モデル:平行) 表3 1) 岩沢知幸ほか:プラスチック射出成型金 ひずみ量[μST](1kN) 4 まとめ インクジェット式の 3D プリンタ造形を 行った造形物を圧縮し、積層面に対して垂 直に荷重をかけた場合、ひずみに均一性が みられた。また、積層面に平行な荷重をか けた場合には、異方性によってひずみが不 均一となり、変形や応力に偏りが発生し、 部分的に負荷が集中しやすくなることが確 認された。 この結果から、金型の入れ子部品や機械 24年度群馬産業技術センター研究報告、 1
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