特集 平成 松原 謙二 年度 郡市区等医師会長協議会 特別講演 日本医師会 副会長 医療事故調査制度について 27 この記事は、平成27年7月16日に開催された「郡市区等医師会長協議会 特別講演」 の模様をまとめたものです(内容は開催日時点のもの)。 特集 平成27年度 郡市区等医師会長協議会 特別講演 のです。 また、東京女子医大病院事件は、心臓手術中 に人工心肺装置の事故により患者が死亡した事 件です。人工心肺装置の操作を担当した医師が 操作ミスをしたために発生した手術中の事故死 との内部報告書が作成されました。その医師 は、自分の操作が患者の死亡原因であるとする 報告書が誤っていると主張したにもかかわら ず、業務上過失致死容疑で逮捕、起訴されまし た。 私達医師が最善を尽くして、合理的な医学的 判断を下したにもかかわらず、その結果が悪け れば逮捕されるヲ法律上の構成としては、現 ○日本医師会副会長 松原謙二 実に起こりうることとなっています。しかし、 よくよく考えてみますと、どうもどこかがおか はじめに しいことに気付かされます。 刑法で罰する根拠とは 日本医師会副会長の松原でございます。 平成27年10月より、医療事故調査制度がスタ ートします。国民に医療不信が募っていた中で 医師法21条において、「医師は、死体又は妊 制度に関する検討が始まり、約15年にわたり 娠4月以上の死産児を検案して異状があると認 様々な議論が交わされました。今日までの経緯 めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出 を含めてお話ししたいと思います。 なければならない」と定められています。これ は明治時代につくられた法律であり、殺人など 医師の無罪が明らかとなった 刑事医療事故裁判 の事件性があるかどうかを速やかに判断するた めに、医師は警察に届け出る義務を負っていた のでした⑴。 近年の医療事故の中で、我々医師にとって衝 撃的だったものは、福島県立大野病院事件でし ⑴ ょう。福島県は帝王切開中の患者が大量出血に 異状死体の届け出義務 より死亡した同病院での事件を受けて、医療事 故調査委員会を設置し、報告書を公表しまし 【医師法第21条】 た。執刀した医師は常勤の産科医が1人という 医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると 認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければなら ない。 中で、非常にまれで困難な事例に対応したこと を十分に説明したにもかかわらず、業務上過失 致死と医師法違反の容疑で、逮捕、起訴された 大阪府医師会報10月号 (vol.388) →違反は50万円以下の罰金(医師法33条の2) 医療事故調査制度について ところが、医師法21条が拡大解釈されまし 能力があること」ヲの3段階があります。刑 た。死亡診断書(死体検案書)を作成する際、 法第211条第1項に「業務上過失致死傷罪」 が 用紙に記載されている「診断」か「検案」の文 あり、「業務上必要な注意を怠り、よって人を 字のどちらかを二重線で消し、異状死である場 死傷させた者」について罰することとなってい 合は「死体検案書」、そうでない場合は「死亡 ます。つまり、そのままの解釈では、医師は、 診断書」を作成します。かつての医師法21条で 結果的に患者が亡くなってしまうと、逮捕され は、医師自身が診断し、異状死を届け出る必要 る可能性があります⑵。ところが一方で、刑法 がないと判断すれば届け出をする義務はないと 第35条には「法令又は正当な業務による行為 解釈されていたのですが、平成6年、日本法医 は、罰しない」という条文が書かれています。 学会 「異状死ガイドライン」 で、「診療行為に 刑法では、構成要件に該当し、違法で、責任能 関連した予期しない死亡、およびその疑いがあ 力がある者が罰せられると申し上げました。医 るもの」も届けるべき異状死であるとする考え 師は、医師免許を所持していますから責任能力 方が発表されました。その後、学会のガイドラ を有していますが、例えば、手術時に人体にメ インに過ぎなかった「異状死ガイドライン」 スを入れることは、人を傷つけるということに が、厚生労働省の「死亡診断書記入マニュア なり、第一段階の解釈では「傷害」ということ ル」 でもこれを参考とする方針が示されたほ になります。しかし、刑法第35条の正当な行為 か、国立病院に対して厚労省「リスクマネージ によるもので違法行為ではないため、医師が人 メントマニュアル作成指針」 が公表されまし 体にメスを入れても刑法で罰されることはない た。異状死と認めた場合は届け出ることが支持 のです⑶。 され、結果として医療機関からの届け出は増加 しました。 まず皆様に知っていただきたいのは、厚労省 が出した通知は国立病院に対するものだけとい う事実です。また、厚労省が死亡診断書の作成 ⑵ 方法を変更したことも大きな影響を及ぼしまし 業務上過失致死傷罪 た。厚労省「死亡診断書(死体検案書)記入マ 【刑法第211条 第1項】 ニュアル」においても、日本法医学会の「異状 死ガイドライン」を参考とする方針が記載され ていました。これに基づき、患者の異状死を認 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下 の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失に より人を死傷させた者も、同様とする。 めたときには必ず届け出せねばならないとの解 釈ですので、治療の結果、最終的に亡くなら れ、異状死と認められた場合に、管理者がそれ ⑶ を届け出なければならないことになったので す。 刑法で罰せられるかを判断するには「構成要 正当(業務)行為 【刑法第35条】 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。 件に該当すること」「違法性があること」「責任 大阪府医師会報10月号 (vol.388) 特集 平成27年度 郡市区等医師会長協議会 特別講演 性』の担保が保障され、届け出は中立的な立場 医療事故調査制度の概要 である第三者である民間の機構が担当する」と されています。 草案ですがWHO の方針とし 医療事故調査制度で注目していただきたい点 て、これらの基準が満たされなければ、医療事 として、「国ではない第三者機関が調査するこ 故の原因究明・再発防止につながらないとして と」 「調査の中身についてはできる限り匿名化 います。 すること」「調査においては、刑事上の懲罰を 厚労省の「医療事故調査制度の施行に係る検 目的としない報告書を作成すること」ヲの3 討会」に委員として携わるにあたり、まず当初 点が挙げられます。 の案を読んだ時は、大変よくできた法律文であ 日本には儒教の精神が根付いており、「失敗 ると感じました。この制度なら問題はないだろ した時に罰することがその人に対し注意を促す うと思いましたが、その後、制度の中身は省令 ことになり、よい結果がでる」という考えが根 や政令で決めることになると判明しましたの 底にあります。一方、聖書には、「善きサマリ で、検討会で議論を重ねました。検討会では、 ア人の法」というものがあります。これは、悪 ①医療事故の定義、②院内調査をする内容と方 意なく誠意をもって行った行為の結果がたとえ 法、③患者に説明する方法ヲの3つについ 失敗であったとしても、その行為に対して神は て、特に議論を尽くしました⑷。 罰を与えないとの趣旨の法です。英米法には、 医療事故の定義は、非常に難しいものです。 これに則った精神で法律がありますので、日本 「医療に基づくものであること」「主治医が予 のように業務上過失致死・傷害に厳密に対応す 見できたかどうか」を管理者が判断します。 る形の法体系がとられていないのです。 検討会では侃々諤々の議論がありました。と かつては、我が国においても、医師の医療行 にかくすべてを報告するべきだと主張するグル 為は正当業務だから、これを罰するのはいかが ープと、現場としてはすべて報告するのは無理 なものかとの考え方が主流でした。しかし、最 近では「結果が悪ければ医師が悪い」との風潮 があります。医師には、「国民のための医療を ⑷ 医師免許を授かった私達が行う」という使命が あります。その実現を阻害する考え方は、やは 医療事故調査制度 法律(改正医療法)による委任事項 り医師自身で変えていかなければなりません。 「厚生労働省令で定める…」「厚生労働大臣が定める…」 米国では、「システムに問題があれば、その 1 「医療事故」の定義 ために人は間違う。だから、人の間違いを見つ 2 届け出の方法、届け出るべき事項 3 「遺族」の定義 けた場合には、正しくデータを集めて、どのシ 4 遺族に説明すべき事項 ステムで発生したのかを明らかにして、それを 5 院内調査で調査すべき事項、方法 直さねばならない」 との概念が主流です。ま た、WHO (世界保健機関) のドラフトガイド 6 「支援団体」の指定 7 院内調査の結果を「センター」へ報告する際の報告の事項、 方法 8 院内調査の結果を遺族に説明する方法 ラインにおいて、「医療安全分野の報告システ ムは、 報告さ れ た 情報は『非懲罰性』 『匿名 大阪府医師会報10月号 (vol.388) ※下線は厚労省検討会で特に議論された事項 医療事故調査制度について があるので、管理者が判断すべきと考えるグル め主治医が十分に遺族ならびに本人に対して、 ープに分かれました。では、報告を出すときの 具体的に死亡する可能性もあることを説明して 基準は何かを議論したところ、厚労省は当初、 いたかということがポイントになります。例え この案についてはポジティブリストとネガティ ば、糖尿病、高血圧、アレルギーなどの持病が ブリストを提示し、それを基に不明なところは ある患者に対し、何か起こる可能性があること 確認してほしいという意向のようでした。しか を納得するまで説明することです。また、口頭 し、これでは最終的には厚労省が提出すべきか でのやり取りの内容も必ずカルテに記載するこ 否かを判断するということを意味し、報告すべ とが大切です。また、意識不明の患者が救急搬 きものを報告しなかったとみなされた場合、管 送先で亡くなられた時などは、記録を残した上 理者責任を問われることになりますので、管理 で、医療安全委員会において、主治医、看護師 者は何でも提出しなければならない状況に追い ら医療機関の対応者すべてに意見聴取を行いま 込まれてしいます。しかし、「どう考えてもこ す。死亡または死産が予期可能であったとの結 れは仕方がないだろう」という例がほとんどで 論に達したときは対象外とすることになりまし す。このような事例に管理者がどう判断する た。つまり、これら3要件のうちひとつでも当 か、主治医がどのような方法で対応をとるの てはまれば、管理者は異状死を届け出る義務が か、厚労省の法律を専門とする所管と随分議論 法律上はなくなり、管理者は義務を外れるとい をしました。 うことになります⑸。もちろん、一方で、医療 その結果、「手続き論」 ということで3要件 の発展のために報告を集約して、問題点を調査 に整理し、これらの「いずれにも該当しないと することで、医療システムを改善することも重 管理者が認めたもの」としたのです。まず、医 要です。 療事故調査制度では「管理者が予期しなかった 医療にはミスがあるものだとの前提に立ち、 死亡・死産」が対象となりますので、あらかじ 合理的な判断に基づく医療行為によるものは違 ⑸ 「医療事故」の定義(本制度の対象事案) 【改正医療法第6条の10 第1項】 …当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、 又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当 該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定め るものをいう。 医療に起因し、又は 起因すると疑われる 死亡又は死産 管理者が 予期しなかったもの 左記に該当しない 死亡又は死産 制度の対象事案 管理者が 予期したもの ※過誤の有無は問わない →厚生労働省令の定義(要旨)※施行規則1条の10の2 以下のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの 1 管理者が、当該医療の前に、医療従事者等により、当該 患者等に対して、当該死亡又は死産が予期されていること を説明していたと認めたもの 2 管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、 当該死亡又は死産が予期されていることを診療録その他の 文書等に記録していたと認めたもの 3 管理者が当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情 の聴取及び、医療の安全管理のための委員会からの意見聴 取を行った上で、当該医療の提供前に、当該医療従事者等 が当該死亡又は死産が予期されていたと認めたもの。 大阪府医師会報10月号 (vol.388) 特集 平成27年度 郡市区等医師会長協議会 特別講演 法行為から免責するべきだと考えます。医師本 人がなぜミスを起こしたかを分析する必要はあ 医療事故調査の在るべき姿 りますが、重過失を除いて、通常の過失で結果 が悪かった場合は、刑事責任の追及ではなく、 医療事故が起きた時には医療機関が院内委員 事故の分析を優先すべきではないでしょうか。 会を設置しますが、医師会等の支援団体が必要 一方で、民事賠償は仕方がないのではないかと な支援を行います。大阪府医師会の中にも医療 私は考えます。 の安全を担当する課を設けていただきたいと思 そして、調査の対象とする内容では、病院等 います。医賠責と同じ課にしますと利益の相反 の管理者が調査に必要な範囲を選択することが が発生するためです⑹。また、厚労省通知に 重要になります。調査の範囲は管理者が決める は、「調査の結果、必ずしも原因が明らかにな ことであって、調査の対象となっていない領域 るとは限らないことに留意する」「再発防止は があったとしても、合理的な理由があれば、管 可能な限り調査の中で検討することが望ましい 理者の責任にならないという仕組みを文章に明 が、必ずしも再発防止策が得られるとは限らな 記しました。 いことに留意する」が示されましたが、この文 章は私の意見に基づき盛り込まれました⑺。 再発防止策は、医療では次につながるもので すが、法律の世界ではそこに過失があったとの 証明になってしまいます。先程、「予期」 とい う単語を使いましたが、法律では「予見」と言 大阪府医師会報10月号 (vol.388) 医療事故調査制度について います。「予見ができなかった」 とは十分な配 度で実施するわけではない」との趣旨を表して 慮が足りなかったことであり、過失傷害である います。 ヲ法律学的にはこれが当然の判断になりま 医療事故調査・支援センターへの報告事項に す。そこで今回は、「予見」 ではなくて新たに ついても、様々な意見がありました。例えば、 「予期」という用語をつくりました。「 『予期』 医療事故の当事者である医師の意見を取り上げ と『予見』は違う。予見はしていても、再発防 ず、その医師に責任が押し付けられますと、管 止策があるような過失を証明することをこの制 理者に対する責任はなくなります。また、調査 報告の結果を速やかに明らかにすれば、管理者 は社会的に非難されずに済むかもしれません ⑹ が、「個人が責任追及されないこと」 が担保さ 院内調査で調査すべき事項、方法 れない限り、事故の当事者である勤務医のキャ 【改正医療法第6条の11 第1項】 リアは終わってしまいます。このために、福島 病院等の管理者は、医療事故が発生した場合には、厚生労働省 令で定めるところにより、速やかにその原因を明らかにするため に必要な調査 (以下この章において「医療事故調査」 という。) を行わなければならない。 県立大野病院事件、東京女子医大病院事件が起 こったのであり、また、2人の医師は最後ま で、自分が間違っていたとは認めていませんで →厚労省令で示された調査方法(要旨) した。当該医療従事者も報告書の内容について ※施行規則1条の10の4 発言する機会が必要ではないでしょうか。もち 病院等の管理者が次の中から必要な範囲で選択し情報の収 集、整理を行う ろん患者にもその機会を与えるのは当然です。 1 診療録その他の診療に関する記録の確認 このため、患者の意見が報告書に盛り込まれる 2 当該医療事故に係る医療従事者からの事情の聴取 3 「2」以外の関係者からの事情の聴取 際に、記載あるいは添付するものとして、医療 4 解剖 従事者の意見も加えていただくようにしまし 5 死亡時画像診断 6 使用された医薬品、医療機器、設備その他の物の確認 た。また、管理者と意見が対立している場合は 7 血液又は尿その他の物についての検査 それも明瞭にした方がいいと私は考えます。 医療界は、外部からは一枚岩のように見えま すが、管理して責任を負う立場の管理者と、実 ⑺ 際に医療を行う勤務医の立場があります。その 医療事故調査の方法等 ため、事故が起きた際に、「担当の勤務医が注 意を払わなかったため」となってしまいます。 →厚労省通知で示された「医療事故調査の方法」 ○ 医療事故調査は医療事故の原因を明らかにするために行 うものであること。 ※原因も結果も明確な、誤薬等の単純な事例であって も、調査項目を省略せずに丁寧に調査を行うことが重 要であること。 ○ 調査の結果、必ずしも原因が明らかになるとは限らない ことに留意すること。 ○ 再発防止は可能な限り調査の中で検討することが望まし いが、必ずしも再発防止策が得られるとは限らないことに 留意すること。 東京女子医大の事件では、使用した装置に不 具合があったという背景があったにもかかわら ず、担当医の主張はほとんど認められませんで した。きちんと主張していることを検証せずに 放置することが当たり前になってしまいます と、勤務医は安心して仕事ができなくなりま す。そのようなことにならないよう、報告書で は、当該医療従事者の意見を取り入れ、更に、 大阪府医師会報10月号 (vol.388) 特集 平成27年度 郡市区等医師会長協議会 特別講演 当該医療従事者等の関係者については匿名化す いない場合、関係者の意見が明らかに食い違う ることも決まりました⑻。 場合や、報告書を目的外に使うことが明らかな 患者側への説明については、調査結果を患者 場合が該当します⑽。医療事故調査制度におけ 側に伝えないのかとマスメディアからも批判を る報告書には、すべて「この制度の目的は個人 受けました。そのため、遺族への説明は、口頭 に懲罰を与えるためではなく、医療の安全を確 または書面、もしくはその双方の適切な方法に 保するためのものである」との趣旨の枕詞がつ より行い、「調査の目的 ・ 結果について、遺族 いています。もし、報告書の目的外使用などが が希望する方法で説明するよう努めなければな 明らかであると感じれば、「医学的な発展に資 らない」こととしました。法律用語では「努力 するという法益に反するので協力できない」と 義務」にあたり、これを怠っても法律上の罰則 おっしゃっていただければよいと思います。 はなく、合理的な理由がある場合は行わなくて すべてを明らかにしてすべてを説明すれば、 もよいということです⑼。 必ず許してもらえるヲ私はそのようには考え 合理的な理由とは、調査がまだ十分に行えて てはおりません。患者側が感情的になっている 場合もあります。その結果として医師が黙秘権 を行使するようになれば、全く医学の進歩はな ⑻ くなり、同じ事故が繰り返し起きてしまうでし センターへの報告事項・報告方法 →厚労省通知で示された「報告事項・報告方法等」 ○ 本制度の目的は医療安全の確保であり、個人の責任を追 及するためのものではないことを、報告書冒頭に記載す る。 ○ 報告書はセンターへの提出及び遺族への説明を目的とし たものであることを記載することは差し支えないが、それ 以外の用途に用いる可能性については、あらかじめ当該医 療従事者へ教示することが適当である。 ょう。懲罰ではなく医療の安全を推進するもの であると法律文で述べられている以上、通知文 や省令においてもその目的を守るようにしてい ⑼ 遺族への説明方法について ○ センターへは以下の事項を報告する。 日時/場所/診療科 →厚労省通知で示された「遺族への説明方法」 医療機関名/所在地/連絡先 医療機関の管理者の氏名 患者情報(性別/年齢等) 医療事故調査の項目、手法及び結果 調査の概要(調査項目、調査の手法) 臨床経過(客観的事実の経過) 原因を明らかにするための調査の結果 ※必ずしも原因が明らかになるとは限らないことに 留意すること。 調査において再発防止策の検討を行った場合、管理 者が講ずる再発防止策については記載する。 当該医療従事者や遺族が報告書の内容について意見 がある場合等は、その旨を記載する。 ○ 医療上の有害事象に関する他の報告制度についても留意 すること。 ○ 当該医療従事者等の関係者について匿名化する。 ○ 医療機関が報告する医療事故調査の結果に院内調査の内 部資料は含まない。 ○ 遺族への説明については、口頭(説明内容をカルテに記 載)又は書面(報告書又は説明用の資料)若しくはその双 方の適切な方法により行う。 ○ 調査の目的・結果について、遺族が希望する方法で説明 するよう努めなければならない。 ⑽ 遺族への説明の例外 →以下のような場合には、調査報告書を遺族に交付できないことも ありうるのではないか? ⃝ 十分な調査がおこなえなかった場合 ⃝ 関係者の意見が明らかに食い違う場合 ⃝ 報告書を目的外に使用することが明らかな場合 大阪府医師会報10月号 (vol.388) 医療事故調査制度について ただきたいと思っています。 る専門的な知識を有した方を各学会、医界との 連携でリストアップしておき、委員を斡旋する センター調査の報告方法・ 報告事項について システムを構築することです。更に、報告の必 要性の有無を判断する相談窓口を設け、医療事 故調査に活用できる資源を把握し、速やかに 再発防止策は大変難しいものがありますが、 Aiと解剖を手配していただくような仕組みを 今回、センターに報告する調査の結果には内部 作っていただきたいと思います(⑿・⒀) 。 調査は含まない旨を明記していただきました。 地区医師会が単独でこれらの対応をすること 最終的には、リーガルチェックをかけること は大変ですから、事故が起きた時には、情報収 で、法律的に正しく、法令の目的に資するよう 集、委員の人選など、府医が地区医師会と協力 な形の報告書にしていただければと思っていま して、実施してください。各会員のための制度 す。 として運営し、最終的には患者の安全確保を推 本制度の目的は医療の安全の確保であり、個 進する制度を目指していただきたいと考えま 人の責任を追及するものではありません。した す。 がって、センターでは、調査の内部資料につい そのほか、府医の役割として、他の支援団体 ては、法的義務のない開示請求には応じない。 を統括して協議会を運営する中心的な役割を担 つまり、刑事、民事訴訟において裁判所から命 令を出された場合は、開示しなければなりませ ⑾ んが、それ以外の要請には応じないこととなっ ています⑾。 センター調査の遺族及び医療機関への 報告方法・報告事項について 先程も少し触れましたが、医療事故調査制度 における各医師会の役割として支援団体になっ →厚労省通知で示された「報告方法・事項」 ていただく必要があります。支援団体は都道府 ○ センターは調査終了時に以下事項を記載した調査結果報 告書を、医療機関と遺族に対して交付する。 日時/場所/診療科 医療機関名/所在地/連絡先 医療機関の管理者 患者情報(性別/年齢等) 医療事故調査の項目、手法及び結果 調査の概要(調査項目、調査の手法) 臨床経過(客観的事実の経過) 原因を明らかにするための調査の結果 ※調査の結果、必ずしも原因が明らかになるとは限 県ごとに何カ所も設けられます。大阪府ではそ の中核的な役割を大阪府医師会が担い、リーダ ーシップを執っていただきたいと思います。 医療機関の中には、日常使用しているCTを 死亡した人に使うことに抵抗があるとの意見も ありますので、工夫すべき点があります。ま ず、医師会がやらねばならないのは、Ai ・ 病 理解剖の手配のほか、委員会に適切な方を推薦 することです。人選に関し様々な意見がありま すが、各都道府県医師会が最善だと考える方法 で委員を決定していただきたいと思います。法 律、省令、通知には委員の選出方法を一切指示 らないことに留意すること。 ※原因分析は客観的な事実から構造的な原因を分析 するものであり、個人の責任追及を行うものでは ないことに留意すること。 再発防止策 ※再発防止策は、個人の責任追及とならないように 注意し、当該医療機関の状況及び管理者の意見を 踏まえた上で記載すること。 ○ センターが報告する調査の結果に院内調査報告書等の内 部資料は含まない。 しておりません。このため、適切な判断ができ 大阪府医師会報10月号 (vol.388) 特集 平成27年度 郡市区等医師会長協議会 特別講演 っていただきたい。最終的には、相談窓口、 当事者の意志が認められないような報告書は本 Aiや解剖といった院内事故調査委員会への支 来提出する必要はありませんが、それでも報告 援、調査結果の第三者機関への報告の支援、更 する場合もあるでしょう。また、患者側が納得 に遺族への説明の支援が挙げられます。また、 していただけたと思っていても、訴訟のために 日医ではコーディネートを担当する役員の研修 警察へ報告書を持っていく可能性はあります。 も検討しています⒁。 今回の制度で法務省が恐れていることは殺人の 更に、日医では、院内事故調査の費用の補て 見逃しや、医療事故の無罪判決が出た際の影響 んについては、医療事故調査制度に伴う「日本 です。そのため、法務省側はこの制度をなるべ 医師会院内調査費用保険」として新たな保険制 く医療界に任せようとしています。制度運用に 度を創設しました。日医A1会員の皆様には医 あたっては、管理者が報告をする必要があると 賠責の特例対象として日医の医賠責に組み込ん 判断した場合、速やかに届け出ていただき、内 でいますので、ゼロ床から99床以下の病院の開 部できちっとした精査をする。最終的に第三者 設者も含めて今の費用の範囲で対応する仕組み 機構に匿名で報告書を提出し、十分な分析が行 をつくりました⒂。 われた後、レポートを各医療機関に配布するよ 先程申し上げたとおり、不適切であったり、 うな仕組みになると考えられます。 ⑿ ⒀ 医療安全対策委員会 中間答申(平成27年4月) 日医 医療安全対策委員会 中間答申(27年4月)から 「医療事故調査制度における医師会の役割について」 都道府県医師会の具体的な役割 1 はじめに 2 都道府県医師会が具体的に果たすべき役割 ⑴諮問及び諮問の趣旨 ⑵日本医師会及び国等の取組 すべての都道府県医師会は、医療事故調査制度施行時から、 ⑶本委員会での取組 2 都道府県医師会が具体的に果たすべき役割 「医療事故調査等支援団体」としての中核的な役割を果たすべ きである。 ⑴支援団体としての中核的な役割 ⑵病院等の管理者の責務 ⑶支援団体としての具体的な役割 3 都道府県医師会としての準備事項 病院団体、大学病院、医学団体等の各支援団体間の総合的 な連絡調整 会員、非会員を問わず、医科、歯科、助産施設等からも要 請があれば支援 必要に応じて、隣県、ブロック内での県医師会相互の応援 体制も検討 ⑴地域での医療事故調査に活用できる資源の把握と連携関係の構 築 ⑵医師会内での人材育成及び体制整備 ⑶会員、地域住民への周知 ⑷常設の医療事故調査制度支援組織の創設 ⑸各ブロックにおける広域的取組 →具体的な支援の内容としては… 4 「第三者機関(センター)」との連携・協力 相談窓口機能 5 日本医師会が具体的に果たすべき役割 院内事故調査委員会への支援 ⑴日本医師会 医の倫理綱領の再徹底 医師会の紹介、斡旋による外部委員の参加→地域の学会、 医会との連携 Ai、解剖、遺体搬送、遺体保管等を実施可能な施設、業 者との連絡体制 ⑵都道府県医師会への要請 ⑶全国一定レベルの調査機能確保のための取組 ⑷「第三者機関(センター)」との協議・調整 ⑸Ai、解剖等の経費をカバーできる保険制度の創設、周知 ⑹2年後の医療事故調査制度の見直し(法附則第2条)への対応 ⑺医療版裁判外紛争解決手続き等の検討 6 おわりに 大阪府医師会報10月号 (vol.388) 院内調査結果の第三者機関(センター)への報告の支援 報告書の作成など 遺族への説明の支援 医療事故調査制度について ところが、管理者ならびに遺族は、医療機関 度施行後も、様々な課題が発生することが予想 側の説明を受けて理解できない場合は、第三者 されますが、充実したものとなるよう努めてま 機構に対して届け出された報告書について精査 いります。 するよう依頼することができ、その分の報告書 府医へのご支援、ご協力を皆様にお願い申し は出されます。第三者機構から出される報告書 上げ、私の話を終わりとさせていただきます。 にリーガルチェックをかけ、個人を懲罰するよ (文責:広報委員会) うな目的外使用にならないよう、私はこの制度 の構築に現在取り組んでいます。重ねて申し上 げますが、管理者が不要として届け出ていない 場合には、この制度は作動しません。 このように医療事故調査制度では、医療事故 が発生した時、各医療機関が調査を円滑に進め る体制を構築するとともに、公正な調査結果を 第三者機構に提出できるよう、都道府県医師会 のお力添えをいただきながら進めています。制 ⒁ ⒂ 日医 医療安全対策委員会 中間答申(27年4月)から 医療事故調査制度に伴う 「日本医師会 院内調査費用保険」 都道府県医師会がなすべき準備 3 都道府県医師会としての準備事項 都道府県医師会は、これ(医療事故調査制度の施行) に向け た準備として、早急に次の事項に取り組むべきである。 1.趣 旨 「医療事故調査制度」 の も と で、院内事故調査の実施にかか った費用を保険で補償する 2.保険の対象者(被保険者) 日医A1会員の う ち、 す べ て の 診療所と、99床以下の病院の開 設者及び管理者 (開設形態の個 人、法人は問わない) 対象会員は、約77,800名 3.保険金額、保険期間等 期間中500万円 平成27年10月1 日から1年間、毎年更新 4.支払い対象となる費用 院内事故調査に際して医療機関 が支払った費用のうち、当該医 療機関が外部に支払ったもの 例) 遺体の保管、搬送、Ai (死 亡時画像診断)、解剖、院内調 査の外部委員に対する謝金、 交通費等 5.保険契約の形態 日本医師会が 保険契約者と な り、対象となるA1会員を被保 険者とする契約を、保険会社と 締結 ⑴地域の医療事故調査に活用できる資源の把握と連携関係の構築 協力が期待できる大学 ・ 学会 ・ 医会等の病理医、診療専門 医、Ai・解剖施設、基幹病院等の施設の規模、能力、マンパ ワー等の正確な情報を早急に把握 ⑵医師会内での人材育成及び体制整備 センターへの報告、院内調査の要否等に関する相談に迅 速・的確に対応できる役職員の育成と継続教育 院内調査を遂行できる病理医、診療専門医の専門チーム を複数編成 ⑶会員、地域住民への周知 制度の概要、相談窓口の設置などについてのアナウンス ⑷常設の支援組織の設置 医師会内の支援組織 → 調査支援に派遣する委員の選 定、支援の検証 県内の支援団体間の連携組織 → 支援組織相互の支援内 容、基準等の統一 ⑸各ブロックにおける広域的取組 自県単独では支援団体として不足する機能を検討 近隣県、ブロック内で応援要請等の体制を検討する協議の 場を設置 大阪府医師会報10月号 (vol.388)
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