(第12回糖鎖科学コンソーシアムシンポジウム(JCGG)要旨集, 2014, p

第1日
12 月 4 日(木)
産学連携セミナー
16:35-16:45
糖タンパク医薬品の創製に向けた糖鎖改変技術
糖鎖産業化に向けたこれまでの取り組み:
GLIT、グライコバイオロジスク研究会
産業技術総合研究所、幹細胞工学研究センター 平 林 淳
バイオ医薬品については、そもそも先行品と
同一物を作るのは不可能であり、そのことが
後続品製造認可に際し大きな問題となる。一
方、糖鎖が重要な要因となって薬効が顕著に
上昇したり、血中安定性が向上したりするケ
ースも報告され、バイオ医薬品における糖鎖
の問題はますます顕在化している。また、先
行品のスペック(糖鎖構造など)が必ずしも適
切であるとも限らない。
今後、GLIT の活動の一部はバイオ医薬品開
発の糖鎖課題を議論するグライコバイオロジク
ス研究会に引き継がれていく。グライコバイ
オロジクス研究会は糖タンパク質医薬品の製
造と分析・解析技術の革新を目指す任意組織と
2006 年 12 月に産総研・糖鎖医工学研究センター
して、2010 年 12 月に設立された。グライコバイ
(成松久センター長)が設立された際、糖鎖研究成
オロジクス研究会の主テーマである均一糖鎖構図
果の産業展開を図るべく
「糖鎖産業技術フォーラム
をもつ糖タンパク質製造技術の開発イメージを以
( GLIT : Glyco-innovation and Industr ia l
下に示す。これまで会員相互の技術交流をベース
Technology)」が関係業界団体、および代表的研
に年一回のペースで研究会を開催、最近 3 年はオ
究者らによって結成された。GLIT は、当時まだ
ープン形式でのシンポジウムを企画開催してい
糖鎖解析のためツールや経験の乏しかった産業界
る。多くのアカデミア、産業界からの積極的な参
に対し各種イベントを連続的に企画・開催すること
画をお待ちしている。
で、相互の技術交流や研究成果の普及を通
し、実のある共同研究の発展を支援した(上
図参照)
。その結果、肝線維化マーカー診断
キットの製造承認や幹細胞表層糖鎖検出プ
ローブの発見など顕著な成果が見られるこ
とを迎え、2014 年 7 月、その役目を終えた
と判断し、本年度で閉会することを決めた。
一方、糖鎖産業化を睨んだ新たな課題と
して 2015 年頃に特許切れを迎える各種バイ
オ医薬品(いわゆるバイオシミラー)問題が
浮上した。低分子医薬と比べ構造が複雑な
Reference
1) バイオ医薬品開発における糖鎖技術(監修:早川堯夫、掛樋一晃、平林淳)シーエムシー出版、2011 年
1) 転換期を迎えたバイオ医薬品∼成否のカギはオープンイノベーションと糖鎖制御、平林淳、MEDCHEM NEWS, 23 (2), 2013
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第1日
12 月 4 日(木)
糖タンパク医薬品の創製に向けた糖鎖改変技術
産学連携セミナー
第
16:45-17:05
日 産学連携セミナー
1
微生物のエンドグリコシダーゼを用いた
糖鎖の付加と改変
石川県立大学生物資源工学研究所 山 本 憲 二
生体内のさまざまな生命現象において多彩な働
は酸塩基触媒残基のみを有し、基質の GlcNAc の
きをする複合糖質の糖鎖は真核細胞の小胞体やゴ
2- アセトアミド基が求核残基として機能する。す
ルジ体で生合成される。その生合成はATPなど
なわち、通常のグリコシダーゼが糖−酵素反応中
の高エネルギー化合物の関与によって生合成され
間体を形成するのに対してオキサゾリン反応中間
た糖ヌクレオチドを基質として、糖転移酵素の働
体が形成される。そこで、オキサゾリン反応中間
きにより行われ、その反応には数十にもおよぶ酵
体の形成に関与すると考えられる Asn-175 を部
素反応が関わっている。
位特異的変異した N175A を作成して、オキサゾ
我 々は 土 壌 より 単 離 同 定 し た 糸 状 菌Mucor
リン反応中間体を基質とした糖転移反応を行った
hiemalis が生産し、糖タンパク質の N- グリコシド
結果、長時間反応を行っても糖転移生成物はほ
結合糖鎖を加水分解して遊離するエンド型グリコ
とんど加水分解されずに増加し高収率で得られ
シダーゼの endo- β -N -acetylglucosaminidase が
た。すなわち、このような変異酵素が「グライコ
加水分解活性のみならず、糖転移活性も有するこ
シンターゼ」様に機能することが明らかになった。
とを見出し、その糖転移活性を活用することによ
さらに、Asn 残基を Gln 残基に置換した変異酵素
って、さまざまな化合物に糖鎖が付加できること
N175Q は高マンノース型糖鎖およびシアロ複合
を明らかにした。すなわち、本酵素(Endo-M)は
型糖鎖のオキサゾリン化合物を基質とした糖転移
糖転移活性によって、水酸基を有する化合物に糖
反応によって生成物が高収率で得られることが明
鎖供与体から糖鎖を付加することができるユニー
らかになった。これらの成果によって、Endo-M
クな酵素である。我々は Endo-M のこの特徴的な
による糖鎖化合物の大量調製が実用化レベルで行
活性を利用することにより、生理活性ペプチドに
えることが現実的になった。
糖鎖を付加した糖ペプチドやインフルエンザ
ウイルス感染阻害剤などの化学 - 酵素合成
(chemo-enzymatic synthesis)に 成 功 し、
さまざまな機能性糖鎖化合物を合成した。
通 常、 グリコシダ ー ゼ の 糖 転 移 反 応 は
拮抗する加水分解反応が優先して起こる
ため、生成物の量は非常に少なく、さら
に、一度生成した糖転移生成物もグリコシ
ダーゼの基質となるため、再び加水分解さ
れ、糖転移生成物の収率はさらに減少す
る。すなわち、グリコシダーゼの糖転移活
性によって糖転移生成物を高収率で得るた
めには糖転移反応を促進して糖転移生成物
の加水分解反応を抑制することが重要であ
る。 我 々 は Endo-M が substrate- assisted
catalysis という機構によって働く酵素であ
ることを見出しているが、このような酵素
図 Endo-Mの反応機構と変異酵素の糖転移反応
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産学連携セミナー
17:05-17:25
糖タンパク医薬品の創製に向けた糖鎖改変技術
Endo-M を用いる糖鎖付与技術の工学的展開
東海大学工学部応用化学科、東海大学糖鎖科学研究所 稲 津 敏 行
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1990 年代に開発された Endo-M を用いる糖鎖転
ュガーリングタグと名付けた糖鎖修飾技術を報告
移反応は、N- グリカンを有する様々な糖鎖複合体
した。さらに、小分子の糖構造を持たない糖鎖修
を調製できる唯一の方法といっても過言ではな
飾剤ライブラリーの構築を進めている。また、最
い。その後の技術革新、特に、改変型酵素の誕生
近では天然型、並びに、改変型 Endo-M の固定化
と糖鎖供与体としてオキサゾリン誘導体を用いる
を試み、マイクロリアクターを目指した研究を開始
化学の発展により、今や定量的に糖鎖複合体を得
した。マイクロフローシステムを含め、その連続合
ることは、難しいことではなくなっている。しか
成システムの確立を急いでいる。SGP から糖ペプ
し、これまでの技術は研究室レベルであることも
チドを得るまで工程を例に、バイオリアクターのコ
否めない。酵素が市販されるようになった今、そ
ンセプトを図に示した。
の工業的な利用を考える時期が来たといえよう。
本講演では、こうした工学的な展開を指向し行っ
我々は、糖鎖受容体の必須構造を明らかにし、シ
ている研究の一端を紹介する。
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糖タンパク医薬品の創製に向けた糖鎖改変技術
産学連携セミナー
第
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日 産学連携セミナー
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人工機能性糖鎖とエンドグリコシダーゼを利用する
ネオグライコバイオロジクスの創製
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・創薬生命工学分野 伊 藤 孝 司
近年、抗体医薬をはじめ、組換え糖タンパク質
サイトーシスによる細胞内取り込み、およびリソ
を用いるバイオ医薬品の発展は目覚しく、その
ソームへの輸送原理に基づいている。しかし、一
重要性が増大している。しかし哺乳類培養細胞
般に哺乳類細胞株による組換えヒトリソソーム酵
株による組換え糖タンパク質の大量生産は、抗体
素の生産性は低く、また上記のリソソーム酵素へ
分子のような一部のタンパク質を除き、一般的に
の付加糖鎖における末端 M6P や Man 残基の含有
は困難で、製剤としても高コスト化する。また
量によりその有効性が左右される。
組換えタンパク質に付加される糖鎖の不均一性に
本講演では、開発途上ではあるが、この日本発
基く有効性低下、免疫原性や副作用等が臨床上
の糖鎖工学技術を用い、異種生物(カイコ等)で大
問題となる。一方、近年、山本らが発見した糸
量発現・精製した組換えヒトリソソーム酵素の付
状 菌 Mucor hiemalis 由 来 エンドグリコシダ ー ゼ
加糖鎖を均一な N 型糖鎖に置換したネオグライコ
(endoM)のトランスグリコシレーション作用と、
酵素の創製と、糖鎖機能を利用する当該リソソー
正田らが調製法を確立した N 型糖鎖オキサゾリン
ム酵素欠損症(リソソーム病)の酵素補充療法への
誘導体を利用する糖鎖挿げ替え法により、均一な
応用をふまえた、人工糖タンパク製剤(ネオグラ
N 型糖鎖と生理活性をもつ人工糖ペプチドまたは
イコバイオロジクス)の開発アプローチと有効性評
糖タンパク質の創製と医薬品開発への応用が可能
価系について紹介する。
になりつつある。
リソソ ー ム 病 は、 リソソ ー ム 酵
素の遺伝的欠損により、基質の過
剰蓄積と多様な臨床症状を伴う一
群の先天性代謝異常症(40 種程度
存在)である。近年、哺乳類培養細
胞株で生産した組換えヒトリソソ
ーム酵素製剤を患者に投与する酵
素補充療法(Enzyme replacement
therapy: ERT)が 6 種 の 疾 患 に 対
し臨床応用されている。この ERT
は、リソソーム酵素に付加される
非 還 元 末 端 マンノ ー ス -6- リン 酸
(M6P)やマンノース(Man)含有高
マンノース N 型糖鎖と、これらに対
する標的細胞表面の糖鎖レセプター
(M6PR や ManR)との結合、エンド
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