効率と柔軟性が ますます向上するLED製造装置

manufacturing | MOCVD TOOLS
効率と柔軟性が
ますます向上する LED 製造装置
キャロライン・ヘイズ
LED 業界は 2 ケタ成長が続き、その焦点にも変化がみられるが、有機金属気
相成長( MOCVD:metal organic chemical vapor deposition )装置市
場は、緩やかな成長を続けている。この市場では、さらに効率が高く、さま
ざまな基板に対応する装置が登場している。
パワー LED 部品市場は、携帯電話、
200 万ドルの設備投資を差し控え、市
コンピュータ、TV ディスプレイから一
場において万一景気が低迷した場合に
般照明へと用途の範囲を拡大させてい
過剰設備のリスクを負うことを避けよ
る。それに伴って需要は高まっている
うと考えるケースが多いと述べた。
が、LED 製造のエピタキシャル成長に
そのような中で大胆な一歩を踏み出
必要なMOCVD 反応炉を製造する企業
した企業がある。中国のサナン・オプ
には、大きな影響は生じていない。販
トエレクトロニクス社( Sanan Opto­
売の増加は緩やかだが、MOCVD 装置
elec­tron­ics )
だ。同社は最近、MOCVD
国の複数の企業が複数台の MOCVD
メーカーはウエハレベルのエピタキシ
装置への投資を決断し、最大規模の 1
反応炉を数百万ドル規模で発注したこ
に必要な時間を短縮し、素子の均一性
つとなる発注を行った。GaN(窒化ガ
とから、LED 市場において供給過剰が
を高める方法を追究している。また、
リウム )ベースの LED を提 供 する中
生じる可能性を指摘する記事を掲載し
さまざまなウエハサイズに加え、LED
国大手の同社は、独アイクストロン社
た( http://bit.ly/1L4YXpS )
。 その記
分野で従来から一般的に使用されてい
( Aix­tron )製の MOCVD シャワーヘッ
事は、米ストラテジーズ・アンリミテッ
るサファイア以外の基板にも対応する
ドツールを 50 台発注した(納品は 2014
ド社( Strategies Unlimited )のアナリ
反応炉が求められており、このニーズ
第 4四半期)
。フォックス氏によると、ア
ストらによる調査結果に基づくものだ
に対する取り組みも進められている。
イクストロン社や米ビーコ社( Veeco )
った。その後、そのような動きは縮小
米 IHS 社で主席アナリストを務める
といった MOCVD 市場の約 90% を占
傾向にあった。サナン社の発注は、時
ジェイミー・フォックス氏
( Jamie Fox )
める企業で、1 四半期あたりの販売台
期的にアイクストロン社の最新業績結
は、需要の高まりが注文の殺到につな
数は通常 2 台であるという。アイクスト
果には反映されていない。次回の四半
がらない理由を次のように説明した。
ロン社に対する大型発注により、中国
期決算報告に含まれる予定である。
「 LED 需要が少しだけ増加したのなら
最大のウエハおよびダイ製造企業であ
アイクストロン社は 2014 年第 3 四半
ば、メーカーは既存の機械類によって
るサナン社の生産能力は高まることに
期決算( 2014 年 9 月締め)で、1790 万
それに対応することができる。LED 需
なる。また、このような大規模な設備
ユーロ( 2030 万ドル)の損失を計上し
要は大きく増加しているが、ほとんど
投資は、受注が控えていることを確信
た。損失額は、第 2 四半期の 1060 万
の企業が機械類を追加せずに、生産効
していることの表れでもある。この動
ユーロ(1200 万ドル)
から増加している。
率を上げようとしている」
。新しい装
きを、西欧諸国の企業向けに最終製品
電源管理製品など、同社の LED 以外
置のコストは高く、LEDの利幅は低いこ
を製造する中国企業への供給を確保し、
の技術に対する顧客の関心が高まって
ビーコ社の「 EPIK700 」は、センターイン
ジェクションフロー「 IsoFlange 」と、均質
なラミナーフローと均一な温度特性を実現す
るためのウエハコイル「 TruHeat 」を採用し
ている。
とが、LED メーカーが慎重な姿勢を崩
「 LED 生産拠点」としての地位確立を
いると、同社は報告した。アイクスト
そうとしない要因になっている。フォッ
目指す中国による取り組みの一環であ
ロン社は、同社の LED 顧客は「業界
クス氏は、MOCVD 装置をほぼ 100%
るとする見方もある。
における厳しい競争」に直面している
で稼働している企業でさえも、およそ
LEDs Magazineは4 年前の1月に、中
と分析していた。
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2015.6 LEDs Magazine Japan
基板の選択肢
ストラテジーズ・アンリミテッド社に
よると、GaN LED 市場は規模が大きく、
2013年の市場規模は推定144億ドルで、
2018 年には 259 億 8000 万ドル相当に
達する見込みだという( http://bit.ly/
10zl855 )
。HIS のフォックス氏は、GaN
MOCVD 反応炉の 2014 年の出荷台数
を 254 台と見積もっている。そのほと
んどがアジアに出荷されるという。
ほとんどの白色パワー LED が GaN
をベースとしており、その大多数がサ
ファイア基板上で製造されている。そ
の他 に、GaN-on-SiC(炭 化ケイ素 )や
GaN-on-Si(シリコン)
もある。第 4 の選
択肢は、中村修二教授が共同創設した
LED 企業である米ソラー社( Soraa )が
アイクストロン社の「 AIX G5+ 」は、200mm( 8 インチ)の GaN-on-Si ウエハ上の均一性を実
現する。
使用するGaN-on-GaNである。中村氏は、
世界で初めて青色 LEDを開発したこと
べた。同社の顧客には、独オスラム社
不整合を補償するためのバッファ層が
で、赤崎勇教授と天野浩教授とともに
(Osram)
、台湾エピスター社
(Epistar)
、
必要となる。これによって複雑さとコ
ノーベル物理学賞を受賞した。青色LED
韓国サムスン社( Sam­sung )、韓国 LG
ストが増す可能性があるが、シリコン
に蛍光体を加えることで、白色光が生
社、韓国ソウル半導体社( Seoul Semi­
ウエハの初期コストが低いことと設備
成される
( http://bit.ly/1DCMmDS )
。
con­duc­tor )などが名を連ねている。ジ
が再利用できることから、スケールメ
ウエハや基板のサイズには、かなり
ェンセン氏によると、LED 分野の顧客の
リットによって相殺が可能と考えられ
のばらつきがある。GaN-on-Si に取り
大多数( 90% 以上)
が GaN-on-sap–phire
ている。
組む新興企業は、8 インチ以上の大型
(サファイア)を採用しているが、この
現時点で、米クリー社( Cree )が単
ウエハをターゲットとし、MOCVD 反
5 〜 10 年の間にわずかながら移行が見
独で自社の GaN-on-SiC 技術を推進す
応炉におけるエピタキシャル成長の後
られたという。GaN はコストが高いた
る一方で、ソラー社は GaN-on-GaN の
の、製造のバックエンド工程において、
め、GaN-on-GaN を採用するのは「有
LED アーキテクチュアを、「ほぼ完ぺ
主流の半導体ファブを利用したいと考
効数として」まだわずか 1、2 社だが、
き」な結晶構造を持つとして推進して
えている。サファイアLEDメーカーは、
GaN-on-Siについては、数年前には、研
いる。ウエハと成長層が同質であるこ
2インチから4 インチへと移行中で、将
究開発は盛んだが製造はゼロであった
とから、LED チップの出力密度を高め、
来的にはさらにサイズが拡大される見
のに対して、それよりも研究開発が減
より小さな面積でより多くの光を生成
込みである。どの技術においてもエピ
少し製造が増加していると同氏は述べ
させることができる。
タキシャル製造プロセスは似通ってお
た。ただしそれでも、GaN-on-Si を採
「 GaNは興味深い」とジェンセン氏は
り、同じ蒸着方法が利用されている。
用するのはまだ 2、3 社に限定されると
述べた。
「効率が高く、歩留まりが高く、
いう。
最終的に輝度の高い素子が生成され
シリコンは、多くのメーカーにとっ
る。しかし、コストがあまりにも高す
装置メーカーへの影響
ビーコ社で MOCVD 技術および事業
て費用対効果の高い選択肢である。前
ぎる」
。価格に劇的な変化が生じて、
担当上級副社長を務めるジム・ジェンセ
述のとおり、既存の IC 製造設備と手法
サファイアの 100 倍というコストの問
ン氏( Jim Jensen )
は、多様な基板を使
が利用できるためである。しかし、GaN
題が克服されるか、再利用の可能性が
用する企業の数に変化が見られると述
とシリコンの格子の不整合によって、
開かれない限り、利用が増加すること
LEDs Magazine Japan 2015.6
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トと均一性)が求められているとジェ
はないと同氏は考えている。
ンセン氏は述べた。同氏はこの状況を
GaN-on-Si の見通し
総括して、
「資本の効率は、1 ドルあた
アイクストロン社は 2 年前、GaN-on-
り 1 日あたりのウエハ(で算出される)
」
Si 技術を採用する「 AIX G5+ 」を発表
と述べた。
した。AIX G5+ は、200mm 口径のウ
「顧客は常に、供給メーカーに対して
エハ 5 枚の処理に対応する、Planetary
均一性の改善を求め、スペックの向上
Reactor「 AIX G5 」向けのハードウエ
アおよびプロセス機能である。この機
能は現在、AIX G5ファミリの一環とし
GaN MOCVDシステム「TurboDisc EPIK700」
のレシピ設定を行うビーコ社の MOCVD エン
ジニア。
を求める」とジェンセン氏は付け加え
た。これは 1 つの公式で表されるもの
ではないと同氏は述べた。使用するプ
ロセスに応じて、均一性を割合で測定
て提供されている。
アイクストロン社は、GaN-on-Siに力
制御されていることが、
「シリコン形式
する顧客もいれば、標準偏差や波長の
を入れている。アイクストロン社でマ
の製造に対してまさに求めているもの」
均一性で測定する顧客もいる。EPIK700
ーケティング担当副社長を務めるライ
という評価が得られている。200mm
は、基板とディスクに対するガスのフ
ナー・ベッカード氏( Rainer Beccard )
の GaN-on-Si ウエハ上で均一なパター
ローを制御するためのセンターインジェ
は AIX G5+ を発表した際、GaN-on-Si
ンが得られることは、技術開発におけ
クションフロー技術「 IsoFlange 」と、
は「将来の高性能で低コストな高輝度
る成功の証とみなされている。
温度を制御して、ウエハキャリア全体に
LED( HB LED )の製造に対する、非
ビーコ社も、均一性と生産能力が最
わたって均質なラミナーフローと均一
常に有望な候補」であると述べた。同
優先事項であると述べている。同社の
な温度を実現するためのウエハコイル
氏はさらに、G5+ によって 200mm( 8
GaN MOCVD シ ス テ ム「 TurboDisc
インチ)の標準シリコンウエハへと移
EPIK700 」は、前世代の装置の 2 倍以
比較的最近のもう 1 つの変化は、ウ
行することが、次の論理的なステップ
上の生産能力を誇る。反応炉 1 台また
エハサイズに関する動向である。「 5 年
であるとも述 べた。
「それによ っ て、
は 2 台の構成で提供されており、各反
前は、主流は 2インチで、4 インチが登
他にはないスケールメリットが得られ
応炉に 4 インチウエハを 31 枚収容する
場しつつあり、
一部で 6 インチ
(ウエハ)
るため」だと同氏は述べ、費用対効果
ことができ、反応炉 2 台構成のモデル
が採用されている状態だった。現在で
の高い製造プロセスを実現する要素と
で合計 61 枚のウエハが処理可能であ
は、6 インチウエハがもう少し増加し、
して、ウエハサイズと材料を挙げた。
る。8 インチウエハの場合は、反応炉
主流は4インチでおそらく40%を占め、
ウエハサイズが大きいほど、ウエハあ
1 台あたり 6 枚、2 台モデルで 12 枚に
5% 弱を8インチのGaN-Si が占めて、残
たりのダイ数が増加し、所有コストは
対応し、6 インチウエハの場合は、1
りが 2 インチという状態になっている」
低下する。
台 あたり 12 枚、2 台モデルで 24 枚 に
とジェンセン氏は説明した。
歩留まりは、MOCVD装置市場におい
対応する。ウエハ均一性の改善、運用
ウエハサイズが変わり、MOCVD 装
て最も重要な問題ではない。最も優先
コストの削減、生産性の向上によって、
置に調整が必要になるかもしれないが、
されるのは、均一性である。それによっ
前世代装置と比べてウエハ 1 枚あたり
装置メーカーは、ある程度成熟したこ
て、光束と色情報が一致する LED が得
最大 20% のコストが削減可能であると
の市場で予測されるペースに合わせて
られるためである。つまり、均一性が
同社は見積もっている。
変化を導入することもしている。消費
高まれば生産性が高まり、製造コスト
「 TruHeat 」の両方を採用している。
者主導のエンド市場における価格競争
は低下する。
一般照明市場
AIX G5+を早期に導入した顧客から
一般照明分野において LED への移行
とする顧客の最終的な目標が、この市
は、5 枚すべての 200mm ウエハ上の
が進んでいることも、MOCVD 装置メー
場を左右する。
パターンが完全に回転対称で均一であ
カーに影響を与えている。一般照明用
ること、標準的な厚さのシリコン基板を
LED では、進歩に伴って、効率的な設
使用すること、ウエハボックスの動作が
備投資、所有コスト、性能(スループッ
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2015.6 LEDs Magazine Japan
に参戦しつ、資本効率を最大化しよう
著者紹介
キャロライン・ヘイズ
(CAROLINE HAYES)
は、
LEDs Magazine の寄稿記者。
LEDJ