第二回 未来戦略ワークショップ 資料 イノベーションとは?今後日本で

第二回
未来戦略ワークショップ
資料
イノベーションとは?今後日本でイノベーションが起きるのか。
1
イノベーションとは
イノベーションの定義
全く新しい技術や考え方を取り入れて、新たな価値を生み出して、社会的に大きな変化を起
こすこと
シュンペーターによる定義
シュンペーターはオーストリアの経済学者で、1911 年世界で初めて、イノベーションとい
う言葉を用いた。
イノベーションとは、
【経済活動の中で生産手段や資源、労働力などを、
それまでとは異なる仕方で新結合すること】
以下の5つがある。
新しい生産物、または生産物の新しい品質の実現
新しい生産方法の導入
新しい販路の開拓
原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
新しい組織の実現
つまりイノベーションとは発明である必要はなく、今あるものを今までとは異なるやり方
で結びつけるだけで、実現できるということである。
2
持続的イノベーションと破壊的イノベーション
このようなイノベーションの定義によれば、ソニーのウォークマンやアップルの iPhone
や iPod だけでなく、百円均一ショップやスターバックスもイノベーションである。
一方ある業界でイノベーションが起こると、今まで業界を制覇した企業が退場し、新たな
企業が業界を制することが少なくない。iPhone の台頭により、ガラケーと呼ばれる従来の
携帯電話は市場が急速に縮小した。過去にはパソコンの普及により、日本語ワードプロセッ
サが市場から消えた。もし自社が取引している企業が、イノベーションの波に飲み込まれ、
短期に市場を失えば、自社の経営への影響は少なくない。従って、中小企業経営においても、
イノベーションの本質を理解し、取引先の動向を注目することが重要と考える。
では、「なぜ優良企業が失敗するのか?」
ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンは、多く事例の研究し、
優良企業がその競争力と収益力を高めるために努力するほど、イノベーションから遠ざか
1
り失敗へ突き進むことを明らかにした。これが「イノベーションのジレンマ」である。
クリステンセン氏によれば、イノベーションには「持続的イノベーション」と「破壊的
イノベーション」の2つがある。
【持続的イノベーション】
ある技術が開発されると、当初は技術の向上に応じて、性能も大きく向上する。しかし
技術が成熟すると、多額の費用をかけ研究開発しても性能向上の度合いが低くなる。この
時間と成⻑の曲線はS字を描くことから、技術のS字曲線と呼ばれる。
そして技術が成熟し成⻑の限界が予想されると、企業は新しい技術の開発に取り組む。
そして新たな技術が確立すると、再び⾼い成⻑が実現する。従って技術の向上は、図1のよ
うな曲線で高められる。これが持続的イノベーションである。この場合、今までに蓄積した
技術と経験が、次の技術の開発に有利な条件となる。従って多くの場合、今までのリーダー
企業が、次のリーダー企業になる。
図1
技術の進化とイノベーション
【破壊的イノベーション】
破壊的イノベーションとは、従来の持続的な技術とは全く異なる破壊的技術で、市場に
参入することである。
多くの破壊的技術による製品は、従来の製品よりも性能が低く、それまでの市場では受け
入れられない。しかしそれまでとは異なったニッチな市場では、その特徴が評価され、新た
な顧客に受け入れられる。その市場は大手企業が参入したいとは思わないような小さな
市場である。
しかし性能は低くても、この新たな特徴が顧客に評価され、急速に市場が拡大する。市場
の拡大と共に基本性能が徐々に向上し、従来の製品に近づいてくると、大手企業の市場を奪
うようになる。そうなって始めて大手企業は脅威を感じ、対応しようとする。しかし、破壊
的技術のメーカーは、それまでの経験で蓄積した技術とノウハウで大手企業を引き離して
しまう。その結果、大手企業は次第に市場シェアを奪われ、市場から退出するはめになる。
2
図2
持続的イノベーションと破壊的イノベーション
破壊的イノベーションの例 1
《電話》
1875 年グラハム・ベルが電話の特許を取得した
時、ベルは電話を、電信事業を発展させるためのも
のと考えて、電信会社ウェスタン・ユニオンに技術
を10万ドル(現在の貨幣価値で170万ドル)で
譲渡しようとした。
ウェスタン・ユニオンのウィリアム・オートンは、
「この会社が電気を使ったおもちゃごときをどうや
ってものにしろというのかね」
初めて電話をテストするベル
と鼻であしらったので、ベルはしかたなく自ら事業化
することにした。
1878年コネティカット州に創立された最初の電話会社の通話距離はわずか数マイル
にすぎなかった。ベルは、二点間の通話サービスのライセンス事業を展開した。電話は人々
の間に、近隣のオフィスや裕福な家庭の使用人との通話手段として広まった。1年後には、
加入者が購入した電話機は1万7千台を超え、1900年には利用者数は100万人を超
えた。それでも⻑距離通話に占める電話の割合はまだ3%に過ぎなかった。しかしベルの
電話会社AT&Tは、純利益が1300万ドルだったのに対し、ウェスタン・ユニオンの
純利益は600万ドルだった。1910年ついにAT&Tがウェスタン・ユニオンの経営
権を買い取った。
3
新市場型破壊とローエンド型破壊
破壊的技術により新たな市場に参入する企業は、そのビジネスモデルが今までにない
ビジネスモデル、いわば破壊的なビジネスモデルである。
この破壊的なビジネスモデルには、新市場型破壊とローエンド型破壊の 2 種類がある。
3
【新市場型破壊】
新市場型破壊とは、゛価格が低い゛とか、゛持ち出せる゛とか、゛使いやすい゛など今
までとは異なる価値基準で、今まで顧客でなかった「無消費」の人たちを顧客にする。
例えば、ソニーのトランジスタラジオは、自分の部屋でラジオを聞きたいというティーン
エージャーに新たな消費をつくりだした。同様に家庭用の感熱紙ファックスは、今まで
ファックスのなかった個人の家庭に新たな消費をつくりだした。
このような人々にとって、破壊的技術の製品を使う以外には、選択肢は「使わない」こと
だけだった。従って、ソニーのトランジスタラジオは、音が薄っぺらでも、顧客にとって
「ラジオがない」状態よりもはるかにましだった。同様に家庭用の感熱紙ファックスも、専
用の感熱紙が必要であったり、送信に時間がかかったりしても、「ファックスがない」状態
よりもはるかにましだった。
一方従来のラジオやファックスのメーカーは、新市場型破壊の企業をライバルとはみな
さなかった。これらの製品の市場は価格が安く、利益も少なく、大手企業からみれば魅力が
なかった。大手企業は、利ザヤの薄い収益源は新市場型破壊の企業に渡し、自分たちは持続
的イノベーションで高い収益を上げる事を選択した。
【ローエンド型破壊】
ローエンド型破壊は、限られた機能の低コストの製品を提供することで、従来市場の最も
ローエンドの顧客を獲得して成⻑するものである。これはすでに「消費者」であるが、価格
や機能などがローエンドの顧客の要求を満たさなかったために、需要が拡大しなかった層
である。ここに機能は限られるが低価格の製品を提供することで⼤きな成⻑を得た。
しかし低コストの製品を提供しても十分な利益を上げるためには、新たなビジネスモデ
ルの構築が必要である。従来の企業と同じ収益構造では、低コストは収益性を圧迫し、体力
のある大手企業に勝つことは困難である。
例えば、1960 年代ウォルマートなどのディスカウントストアは、ペンキ、金物、スポー
ツ用品などの耐久消費財をデパートより低価格で販売し、売り上げを急増させた。彼らは、
在庫を年五回転以上回転させるビジネスモデルにより、粗利益率 23%でも十分な在庫投資
収益率(120%)を実現できた。その結果、デパートよりも低価格で売ることができた。
対するデパートは、在庫を年に三回転させるビジネスモデルのため、40%の粗利益率を確保
しないと、十分な在庫投資収益率(120%)が得られなかった。
デパートの顧客にとって、ペンキ、金物、スポーツ用品などの耐久消費財は、顧客自身が
使い方を良く知っており、高度に訓練された販売員を必要としなかった。つまりデパートに
「過保護」にされた顧客だったのである。
このようなローエンド型破壊者から攻撃を受けたデパートには、二つの選択肢がある。
・ディスカウントストアに対抗して、価格を下げる
しかしデパートの在庫回転率3回転では、自社の在庫投資収益率が大幅に低下する。
・自社はより利益率の高い高額商品に経営資源を集中する。
その結果、デパートはこれらの商品の市場をディスカウントストアに明け渡しいく。
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破壊的イノベーションの例 2
《トランジスタラジオ》
1947 年、ベル研究所は世界で初めてトランジスタを開発した。初期のトランジスタは、
出力が小さく、それまで主流の真空管には遠く及ばなかった。
ソニーの井深大は 1952 年アメリカの友人から、ウエスタン・エレクトリック社(以降、
WE 社)が 2 万 5000 ドル(約 900 万円)でトランジスタの特許を公開していることを知
った。井深は、翌年 WE 社とライセンス契約を締結したが、WE 社は「何に使うのか?
これは補聴器ぐらいにしかならない」と言った。
井深は自らトランジスタの製造工程も開発し、
1955 年トランジスタラジオを発売した。このラジオ
は真空管式のラジオに比べ、音は薄っぺらで受信性能
も低く、性能も大したことはなかった。しかしアメリ
カのティーンエージャーにとって、うるさい親から逃
れて好きなポップミュージックを聞くためには、他に
方法はなかった。その場合、性能は問題ではなかった。
1955 年は、エルビス・プレスリーがテレビ出演し、
熱狂するティーンエージャーたちに大人たちが顔を ソニー最初のトランジスタラジオ
しかめた時代だった。
しかし当時の真空管の大手企業、RCA、ゼニス、ゼネラル・ラジオにとっては、価格
が安く利益率も低く、市場が限られるトランジスタラジオの魅力は乏しかった。真空管ラ
ジオには、購入後も補修用の真空管の販売や交換の大きな市場ができていた。彼らもトラ
ンジスタの研究に取り組んでいたが、目指していたのは家庭のリビングに置く大型のラジ
オだった。それができる間に、市場は小型のトランジスタラジオに席巻された。
4
業界のトップ企業であるが故に転落する「イノベーションのジレンマ」
多くの場合、破壊的技術は業界のトップ企業ではない企業から生まれる。トップ企業は
トップ企業に至る過程と、それまでに築いた価値観が、自らのイノベーションを阻害する。
これが「イノベーションのジレンマ」である。これは以下のプロセスを経る。
(1) 新規参入企業が、その破壊的技術でローエンド市場に足場を確保し、成⻑を遂げる。
新規参入企業にとって、ローエンド市場でも十分な市場規模であり、自社が獲得した
破壊的なビジネスモデルは、ローエンドでも魅力的な収益をもたらす。
例
ソニーのトランジスタラジオの生産台数は、当時のソニーには十分魅力的な台数
であった。
(2) 製品の機能が向上し、破壊的技術で従来の企業を席巻し、業界の優良企業となる。
5
(3) 優良企業となった後、自社の売上と利益が最大となるように、最も成果が期待できる
分野に重点的に経営資源を投入する。
例
トランジスタラジオやその他の製品も、常に競合からの攻撃にさらされている。
自社の売上や利益を維持するためには、常に商品開発と技術開発を行い、より良い製品
を開発しなければならない。そのため企業は必要な経営資源は、できる限り効率よく配
分しようとする。
(4) ⼩規模な市場では⼤企業の成⻑ニーズを満たさない
ローエンド市場や新市場で新たなニーズが見つかっても、優良企業にとっては市場
規模が小さい。主力商品で競合と激しい競争を行っている企業にとって、貴重な経営
資源を投入するほどの魅力がない。
(5) 存在しない市場は分析できない
商品企画や研究開発の効率を高めるためには、市場の動向を調査し、顧客のニーズに
合った製品や技術を開発しなければならない。しかし破壊的技術による市場は今まで
存在しなかった市場であり、存在しない市場は分析できない。
従って新市場型破壊では、市場調査と事業計画が役に立った実績はほとんどない。
また多くの場合、専門家の予測は外れる。
従って新市場型破壊に取り組むには、市場規模も売り上げも分からない事業に、資金
と人を投入しなければならない。これは財務的には良い判断とは言えず、このような
意思決定は容易ではない。
例 ソニーは 1990 年代から米国流の付加価値経営を導入し、資本効率の最適化を図っ
た。その結果、それまでの革新的な製品を生み出す土壌が失われていった。
(6) 組織の能力は無能力の要因になる
従来の持続的技術を開発するための、洗練された組織や人材とその価値基準は、新た
な破壊的技術に取り組む際には、妨げとなる。
例 過去に NTT が携帯電話に取り組んだ時、NTT にとって通話品質は固定電話同様
にクリヤで聞き取りやすい通話が基準だった。スカイプや LINE などの無料通話は
NTT の求める基準には達していなかった。しかし顧客にとって、スカイプにより低料
金で⻑時間海外と通話できれば、低い音声品質は許容できた。
(7) 技術の供給は市場の供給と等しいとは限らない
技術が進歩することで、持続的技術の製品はいずれ顧客のニーズを超えてしまう。
その結果、顧客の選択基準は、性能から信頼性、さらに利便性、最終的には価格へ変化
する。
6
一方企業は競争力を高めるために、より高性能、高利益率のハイエンド市場を目指して
競争する。その結果ローエンド市場に空白ができ、破壊的技術を持った競争相手が入り込む
余地ができる。この製品の性能が市場の需要を追い抜いてしまうことが、製品のライフサイ
クルの各段階を移行する最も大きな要因である。
こうして破壊的技術で業界のリーダーとなった企業が、持続的技術では常にリーダー的
な立場にありながら、忍び寄る破壊者に突然市場を奪われ、リーダー企業の地位を失うので
ある。
専門家の迷言
」
「テレビは半年もすれば市場から消える。毎晩、合板の箱を凝視することに、人はすぐ飽きるだろう。
1946 年ダリル・ザヌック(20世紀フォックスのプロデューサー)
つあれば足りる」1943 年トーマス・J・ワトソン(IBM 初代社⻑)
「世界に“コンピューター”は 5 つあれば足りる」
」1962 年デッカ・レコーズ
「彼らのサウンドは好きになれない。ギターのグループは廃れつつある。
」
ビートルズを拒んだレコード会社
」1981 年ビルゲイツ(マイクロソフト創始者)
「将来的にもパソコンのメモリは 640KB もあれば充分だ。
」
」1959 年IBMの幹部(ゼロックスの創始者に
「複写機の潜在的な世界市場は、最大5千台と思われる。
」
宛てた手紙)
」1977 年ケン・オルセン(DEC 社の創業者兼社⻑)
「個人が自宅にコンピューターを持つ理由はない。
」
5
技術の進歩と製品の陳腐化
【相互依存型アーキテクチャ】
その技術が「十分でない」状態にある時、製品を構成する各要素の間の特性は、適切に
チューニングする必要がある。これは製品の設計思想にも関わり、「相互依存型のアーキテ
クチャ(設計思想)」と呼ばれる。これは別名「垂直統合モデル」、あるいは「すり合わせ型
ものづくり」とも呼ばれる。
例えば、初期の大型コンピューターは、プロセッサからメモリ、オペレーティングシステ
ムや入出力機器まで、全てコンピューターが最適な性能を発揮できるようにカスタマイズ
され、チューニングされていた。これはミニコンや初期のアップルのパソコンなども同様で
ある。これには各要素技術に対する高度な知識と調整能力が必要であり、この段階で新規
企業が参入しても成功は難しい。
同様に自動車もエンジンやサスペンション、ECU などがお互いに最適化され、チューニ
ングされて、優れた乗り心地や静かで滑らかな走りを実現している。
【モジュール型アーキテクチャ】
企業が競合との競争に打ち勝つために性能と機能を高めていくうち、顧客の要求を超え
てしまう「オーバーシューティング」が起こる。その結果、顧客は他社と比較を始める。
顧客は改良された製品を喜んで受け入れるものの、そのために割増価格を払う気はなくな
る。そして自らの望むものを出来るだけ手軽に手に入れようとする。
こうなると、少しでも性能を高めるために、個々の要素を最適にチューニングする必要が
なくなる。むしろ、より低価格を実現するために各要素(モジュール)を標準化し、大量生産
7
して低価格を実現した方が競争力が高まる。その結果、モジュール型の製品アーキテクチャ
が台頭する。
こうしてモジュールの設計・製造の外部委託、インターフェースの標準化、製品のコモデ
ィティ化が始まる。これは統合型リーダーへの破壊的攻撃となる。
日本は「すり合わせ型のものづくりが強い」という意見がある。しかしこの理論によれば、
ある製品が永遠にすり合わせ型であることはない。競争に打ち勝つために製品の改良を続
けていれば、いつかオーバーシューティングが起こる。それは自動車も例外ではない。
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破壊的なアイデアを生み出す国
【アメリカ】
多くのアメリカ企業にとって市場を創造した経験は一回だけである。後は、破壊的技術に
興味を示さず、上位のマーケットへ進出して成⻑に専念してきた。一方でアメリカでは、破
壊的技術やアイデアを持った技術者や経営者がスピンアウトし、出身元の企業に破壊的な
攻撃を仕掛ける。ベンチャーキャピタルが資本を提供し、彼らを後押しする。これが活発に
行われているのが、シリコンバレーである。
【台湾】
多くの企業が毎年設立され、破壊的なマーケットに狙いを定めている。広達電脳(クォン
タ・コンピュータ)は、ささやかな量のラップトップパソコンの製造請負から始めて、徐々
に業界のバリューチェーンに食い込み、デルなどのデザインにまで進出した。
一方で台湾企業の多くは新たな市場への破壊的な原動力を生み出しているわけではない。
【韓国】
韓国の成⻑を⽀えてきたのは⼤財閥であり、相対的に低い⼈件費や政府の補助を有効に
活用して、造船、鉄鋼、自動車、家電、半導体などの巨大市場で存在感を示している。ハイ
エンド市場への成⻑の余地は残っているが、低い人件費のメリットがなくなった時、如何に
して破壊的な市場へ参入するかという大きな課題がある。
【中国】
自国にハイエンドからローエンドまで幅広い市場を持つ強みがある。ローエンド市場に
は先進国のハイエンド製品では満足できず、「非消費」の層が膨大に広がっている。自国市
場が求める製品を適切に提供すれば、破壊的な攻撃が可能である。
例えば、電動バイクは中国市場で急速に普及し、年間 2000 万台以上の販売実績があり、
すでにエンジン付きバイクを追い抜いている。この電動バイクは、動力性能や航続距離では
エンジン付きバイクにかなわないが、低いランニングコストとガソリンスタンドのインフ
ラのない地方で使えるという点で破壊的である。
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【日本】
トヨタ、シャープ、ソニー、新⽇本製鉄、神⼾製鋼所、キヤノンなど多くの⽇本企業は破
壊的イノベーションで世界の市場に参入し、成功してきた。トヨタはトヨタ生産方式という
低コスト・高品質の生産、シャープは液晶電卓、ソニーはトランジスタラジオやトリニトロ
ンテレビ、新⽇本製鉄や神⼾製鋼所はアメリカ市場の最も低い品質を求める層に安い
スチール製品、キヤノンは卓上コピー機、などである。こうしてローエンド市場参入した企
業は次第に性能を上げ、市場全体を席巻して行った。
しかし多くの日本企業がイノベーションのジレンマに陥っている。次の⾶躍的な成⻑と
なる破壊的マーケットは、彼らには小さすぎ、漠然としていた。競合と競争の為に効率的な
研究開発の仕組みは、新しいマーケットを創出するには適切でない。
また国が介入する新事業、高品質テレビや第五世代のコンピューターなども典型的な生
き残りのためのマーケットであり、すでに確立している技術の軌跡に沿うものである。これ
らは次の破壊的なニッチ分野を探す際役に立つことはほとんどない。
革新的なアイデアは数人で
《ソニー》
ソニーは 1950 年から 1982 年の間に12の新市場型破壊事
業に成功した。例えば、トランジスタラジオ、⼩型の⽩⿊テレ
ビ、ビデオカセットレコーダー、携帯型ビデオレコーダー、 ウ
ォークマン、3.5 インチフロッピーなどである。ソニーは、
これらの新製品開発の決定を創業者の盛田氏と五名ほどの
腹心だけで行っていた。
彼らは人々を観察し、「本当はどんな『用事』を片付けようとしているのか」
考えることによって、破壊の足掛かりを探し、驚異的な実績を上げていた。
その後、盛田達が経営から身を引くと破壊的事業は著しく減少した。ソニーではMBA
出身者たちが多く採用された。彼らは市場を細分化し、定量的に成⻑性を分析した。この
手法は既存市場での持続的な改良には役立ったが、直感的な観察によって何かを洞察する
ことはできなかった。
破壊的事業には、人々が片づけようとしている「用事」を見極め、迅速な開発とフィー
ドバックが欠かせなかったのである。
7
破壊的なアイデアを評価する 3 ステップ
多くの製品や技術のアイデアは、頭の中に浮かんだ時点で破壊的であることは極めて
少ない。そのアイデアを実現に向けて形成する中で、⼤きな成⻑性を秘めた破壊的なアイデ
アとして形作られる。
それぞれの事業プランの、破壊的なアイデアとしての可能性を評価するには、以下の
3ステップの関門をパスする必要がある
9
〈ステップ1〉
・今までお金やスキルがないなどの原因で、手に入らなかったり、できなかったり、高額な
費用で専門家にやってもらっていた人が大勢いるか?
・この製品やサービスを利用するために、わざわざ不便な場所に移動しなければならない
か?
〈ステップ2
ローエンド型破壊の可能性〉
・市場には、価格が低ければ性能面で劣っても喜んで購入する顧客がいるか?
・ローエンドの「過保護にされた」顧客を勝ち取るために、低価格でも魅力的な利益を得ら
れるビジネスモデルを構築できるか?
ローエンド型破壊では、低い粗利益率でも魅力的な利益を実現するための、間接費の削減
や資産を素早く回転させる製造プロセスと、ビジネスプロセスの改良の組合せであること
が多い。
〈ステップ3〉
・自社の考える破壊的イノベーションは、業界の大手企業すべてにとって破壊的であるか?
いずれか1社でも、その企業にとって持続的イノベーションであればその企業が勝ち、新
規参入者が勝つ見込みはほとんどない。
「片づけるべき用事」とは、市場調査の落とし穴
大手ハンバーガーチェーン店が「どうすればもっとミルクシェイクの売上を増やすことがで
きるのか」市場調査を行った。
従来のマーケテイング手法
顧客の属性を基に細分化し、顧客の満足度を高めるためヒアリン
グを行った。とろみ、チョコレート成分、価格などを聞き「顧客が
何を求めているか」を調査し、競合と比較分析して製品を改良し
た。しかし売上を延ばす事は出来なかった。
顧客の片づける「用事」に注目した調査
別の調査では、顧客が「ミルクシェイクでどんな用事を片付けようとしているのか」に着目
した。最初に購入時間を調査した結果、ミルクシェイクは半数が早朝にテイクアウトで購入さ
れていた。次に顧客にヒアリングして、彼らが「どんな用事を片付けようとしているのか」、
「もしミルクシェイクを雇わなければ、他にどんなものを雇うのか」を聞いた。
その結果分かったことは、彼らは通勤時間が⻑く退屈なので、車の中で何か楽しめるものが
欲しかったのだった。まだ空腹ではなかったが、何も食べなければ10時頃には腹が減ること
が分かっていた。彼らは皆急いでいたし、運転中の為片手しか使えなかった。時には他のもの
を雇うこともあった。
・ベーグルはパンくずが車内に散らばってしまう。ジャムが入っていれば、ハンドルがべたべ
たになってしまう。
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・バナナはすぐに食べ終わってしまい、退屈な通勤時間の解消にはならない。
結局用事を一番うまく片付けることができたのがミルクシェイクだった。粘っこいシェイク
をストローで吸えば20分も持たせることができる。こぼす心配もなく片手でうまく飲め、他
のものよりも後で空腹を感じなかった。
ヘルシーさには満足していなかったが、問題ではなかった。健康的になることは、本来片付
けようとする用事ではなかった。そして顧客はやりたくない用事には手を出さないのである。
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イノベーションに必要な資金
事業には資金調達は不可欠である。特に破壊的技術で市場に参入する企業には、資金調達
は避けて通れない。この事業の成⻑期に必要な資⾦は、
「成⻑は気⻑に待つが、利益は気短にせかす」資金である。
破壊的技術やビジネスモデルで、今まで存在していない市場に参入し、「無消費」に対抗
する際には、うまくいった場合でも市場が成⻑するのに時間がかかる。従って破壊的市場は
しばらく小規模なままで⼤きな成⻑は望めない。
一方で破壊的ビジネスモデルがうまくいき、顧客がその製品に喜んでお金を払うかどう
か、つまり儲けの出るビジネスモデルかどうかは早く検証しなければならない。そして問題
があれば早く修正しなければならない。そのためには、「利益を気短にせかす」資金でなけ
ればならない。破壊的ビジネスモデルが儲けが出るビジネスモデルで、しかも顧客の支持が
得られるものであれば、破壊的イノベーションを通じて上位市場に移行することが可能で
ある。
しかし往々にしてベンチャーキャピタルからの資⾦は事業の成⻑を求める。そして
「成⻑は気短にせかすが、利益は気⻑に待つ」資金により、イノベーターは誤った方向に向
かい成功から遠ざかる。
あるいは、企業の成⻑が失速し、破壊的技術で新たな市場に参入しようとすると、企業の
資⾦が成⻑を気短にせかしてしまい、成⻑事業を⽴ち上げるために本来やるべきことを見
失ってしまう。つまり成⻑を期待して、儲けが出るかまだわからないビジネスに資⾦をつぎ
込み、後戻りできなくなってしまうのである。
革新的なアイデアは何度も失敗の後に生まれる
コンピューター科学を専攻した大学生マックス・レプチンは、
1998 年夏セキュリティ・ソフトウェア会社を立ち上げるために
シリコンバレーに移り住んだ。彼はスタンフォード大学の暗号
化技術の授業をのぞいた時、居合わせたヘッジファンド経営者
ピーター・シールと意気投合し、携帯端末向けのセキュリティ
ソフトの会社を立ち上げた。
当初の構想はクレジットカードやパスワードなどの個人情報
を安全に送信できるソフトウェアを用意しパームパイロット
11
などの携帯端末を財布代わりにするものだった。期待して製品を市場に投入したが、顧客
はパームパイロットの利用者の中でも個人情報に関心のある一部に限られ、市場規模があ
まりに小さかった。
そこでパームパイロット間のお金を送信するためのソフトウェアの開発に取り組んだ。
大手ベンチャーキャピタルから資金を得て急成⻑を遂げたが、間もなく壁に当たった。
「パームパイロット間でお金をやり取りするために直接会うのなら、小切手を渡せばいい
話じゃないか。」
だが、このアイデアを煮詰めて行くうちに、パームパイロットとコンピューターを同期
させて、別のパームパイロットのユーザーにお金を送りたいという要望に気がついた。
「そこで電子メールにお金を添付するというアイデアが浮かんだ。」
これが電子メール決済サービスで世界最大手の会社、現在のペイパルとなった。もし
2人が最初の製品を市場に投入し失敗していなければ、今の成功はありえなかった。携帯
端末を財布代わりにするという発想が失敗だったように、最初のパームパイロットの実験
も無残な失敗だった。だがこうしたカギとなる実験を行ったからこそ、成功に不可欠な最
高の手がかりを得ることができた。
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イノベーションを確実に手にする方法
進化論の誤ったイメージ
進化論によると現在の生物は進化の過程を経て、現在の環境に最適な姿に「進化」したこ
とになる。そして単細胞生物から脊椎動物、魚類から爬虫類、哺乳類と進化し、その頂点に
立っているのが人間である。
ところが最近その学説に疑いがも
たれている。例えば、ファーブルは昆
虫の生態を観察するうち、昆虫は最初
から生きるための完全な術を知って
いたと確信した。ツチバチはハナムグ
リの幼虫に卵を産み付ける。ツチバチ
の幼虫は、ハナムグリの幼虫を殺さず
に生かしたまま、食べて育つ。しかし
食べる個所を間違えると、ハナムグリ
図3
の幼虫は死んでしまい、その結果ツチ
二つのイノベーションのイメージ
バチの幼虫も死ぬ。つまりツチバチは、
最初からハナムグリの幼虫を食べる手順を完璧に知っていたのである。これは後から学習
したとは到底考えられないとファーブルは思った。
つまり左のように生物は進化の階段をステップアップしたのではなく、右のように様々
な生き物がバラバラに現れ、たまたま環境に適応したものだけが繁栄しているのである。
12
同様にイノベーションも、どのイノベーションが
優れたイノベーションか、それは市場が決定すると
考えられる。それは時代とともに、周りの環境にも
影響される。
右の図はインターネットの発展と共に発展した
ウェブブラウザの系譜である。初期のブラウザは、
1993 年に NCSA の Mosaic が登場し、
それから 1997
年までに40以上もの製品がリリースされた。しか
し以降は Internet Explorer と Netscape Navigator に
図4
ブラウザの進化
集約された。そして世にいうブラウザ戦争が勃発し、
Internet Explorer に集約された。
ところがその後 Netscape Navigator を作りなおした Mozilla Fire Fox がリリースされ、
さらに Google が Google Chrome をリリースした。
今や他にも Opera や Safari などもある。
このようにその時と環境、そして様々な要因により市場を制するものが異なる。
これを予測することは極めて困難である。その結果、アップルの携帯端末ニュートン、
モトローラの衛星電話システム「イリジウム」など多くの画期的な新事業が敗れ去った。
それでも確実にイノベーションを成功させる唯一の方法は、失敗を恐れずにチャレンジを
繰り返し、早く結果を検証することにつきる。たくさんチャレンジすれば、当たる確率は
高くなる。厳選されたプロジェクトに多額の資金を投入するより、資金をかけずに規模の
小さいプロジェクトを何度も数多く行う方が成功に近いといえる。
ソニーは革新的な製品を数多く発売したが、一方ヒットせずに消え去った製品もある。こ
の中には、皆さんが全く知らない商品もあるかもしれない。しかしこれがなければ、ヒット
商品は生まれなかったと言えるのではないだろうか。
エルカセット
DAT ウォークマン
データディスクマン
PCM レコーダー
図5 過去のソニー製品
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エアボード
未来は予想通りになる? 首相官邸より「伊野辺家の一日」
朝7:00
直之、由美子、大輝らも起きてきて、家族全員が居間
で朝の団欒のひと時。
壁には103インチの大型ディスプレイ。分割画面
と専用ヘッドホンで各人が好きな映像(TV、インター
ネット、等)を見る事が可能だが、今日は美咲が留学し
ている北京のTV放送を皆で見ながら談笑している。
朝8:00
直之が出勤。
バス、電車を利用して自宅からオフィスに向かう。
テレワーク制度の普及、フレックスタイム制(20年前
にはこう呼ばれていた)の普及等により、通勤に伴う
過密な人の移動がなくなったおかげで、バスも電車も
座って乗れる。直之の会社の社員の半分は自宅で仕事
をしている。かつて勤めていた大企業でも3割がテレ
ワーク対象者らしい。
「かつての通勤地獄がまるで嘘のようだ」そんな事を考えながら、昔の週刊誌を読むよう
に携帯フレキシブル・ディスプレイに映し出されるニュースを読む。
ちなみに、伊野辺家は⻑期耐⽤可能な技術により作られた住宅で、200年も持つと⾔わ
れている。地震などの自然災害にも強く、建物の倒壊実験では、震度7でも倒壊しない。地
震の際にも、地震の揺れを自然に察知し、各種インフラや家電製品などがネットワーク化し
て二次災害を防止するシステムが作動するので、安心だ。
バスは、バッテリー充電型の電気自動車だ。今では公共交通機関としてのバスはすべてこ
のタイプか燃料電池車になっている。
また、最近、人工光合成技術などにより、CO2をエネルギー源として走る自動車が開発
されて、実用化が期待されている。
道路も極めてスムーズな流れ。全国的には未整備なところも一部残されているらしいが、
直之の通勤経路地域はITS(高度道路交通システム)が整備されており、3年連続で交通
事故ゼロを達成している。
参考 URL
http://www.kantei.go.jp/jp/innovation/chukan/inobeke.html
政府のイノベーション 25 戦略会議
最終報告
http://www.cao.go.jp/innovation/action/conference/minutes/minute_addup.html
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イノベーションついての感想
2015 年2月15日の勉強会では、イノベーションについて参加者から活発な意見交換が
なされた。
【イノベーションについて】
改めてイノベーションを考えると難しい。いろいろな説明を聞いても良く分からない。しか
し身近な周りを見てみると、様々な変化が起きている。これもある意味イノベーションでは
ないか。例えばコンビニのコーヒーや消せるボールペンなど。消せるボールペンは、きっと
ボールペンで間違えて困った人が考えたと思う。一方消せることで公文書を扱うところで
は大問題になった。
【変化について】
ものづくりの世界はここ20年で大きく変わった。技術がないと作れなかったものが、機械
が進歩し、新人でもできるようになった。それらは80点かもしれないが、80点でよいも
のも随分あり、そういった仕事が海外に移っている。これから20年さらに変化することを
考えると恐ろしい気がする。
職人の技術は今や機械の中に入ってしまっている。だから職人では食べて行けない。その
機械を使いこなす技術者にならなければならない。そのためには品質だけでなく、生産性も
上げなくてはならない。一方で伝統工芸品などはいまだ職人の世界である。生産性はあまり
考えられていない。
【イノベーションはどこにあるのか】
映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」では、2015 年、つまり今の時代にタイムスリ
ップしている。しかし今は映画とは全然違う。宙に浮くスケボーもない。未来を予測するこ
とは困難と感じる。
旧日本軍は、38 式歩兵銃で一発必中を狙った。しかし米軍のように自動小銃で弾幕を張
った方が、確率は低いが戦果は上がる。
あるいは生まれてくる子供の中に、ある一定割合は必ず障害者が生まれる。健常者が生ま
れるためには、障害者は不可欠なことだと聞く。従って障害者がいてこそ、健常者が存在で
きる。同様にイノベーションを起こすためには、一定割合で失敗するのは避けられないので
はないか。
一方で大企業の人事評価や成果主義は、失敗を許さない傾向にある。このような環境で
イノベーションを起こすのは容易ではない。また株式公開企業は、株主からも資本効率が低
いと突き上げを食らう。
しかし中小企業は株主からの制約はない。好きなことができる。極論すれば、成功するま
で続けていれば失敗ではない。途中でやめるから失敗する。大前研一氏は、自分の起業塾の
塾生一人に 200 万円与えるが、失敗は問わない。その代わり成功すれば、株主としてキャ
ピタルゲインを得る。
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【イノベーションのヒントは身近な不満から】
今回学んだ事例からも、身近なところにイノベーションのネタはある。不満に思っているこ
と、満たされないことがあれば、そこからイノベーションが生まれる。難しく考えずにどん
どんアイデアを出し、良かったら褒めてあげると、どんどんやる気を出すのではないか。
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