有機磁性体による量子スピン系研究の最近の展開 大阪府立大院理、東大物性研 A 、阪大院理 B 、阪大先端強磁場 C 山口博則、小野俊雄、細越裕子、大久保毅 A 、河野洋平 A 、橘高俊一郎 A 、 榊原俊郎 A 、下川統久朗 B 、萩原政幸 C 近年、有機磁性体を用いた量子スピン系の研究に新しい展開が見られている。有 機物の設計性と多様性を効果的に取り込んだ有機磁性体によって 、これまでに実現 例のなかった多種多様な量子スピンモデルの形成が可能になった。それらの一部を 紹介するとともに、設計性を拡張した新たな量子スピン系構築の最近の進展を紹介 する。 安定ラジカルにハロゲン元素を修飾することによって、分子間の磁気相関に関わ る分子軌道の変調を試みてきた。この手法は、修飾するハロゲン元素 の種類と修飾 位置の組み合わせにより、高精度の分子軌道変調を可能にする。さらに、化学的な 安定性も備えており、組合せの数に相当する多くの新規磁性体を生み出すことがで きる。これまでに、フェルダジルラジカルにこの手法を適用することで、有機物の 設計性と多様性を活用した磁性体の設計を行ってきた。拡張π共役系である このラ ジカルでは、スピン密度分布の正と負が交互に現れるため、分子積層 のずれによっ て磁気相互作用の符合が変化し易い傾向を持つ。その結果、強磁性と反強磁性の両 方の相互作用を併せ持つ磁気格子が数多く形成された。 3-Cl-4-F-V においては、強磁性鎖を反強磁性的にカップルさせたフェロレッグラ ダーを初めて実現し[1]、さらにその磁気相互作用を高精度に変調することに成功し た[2]。その一例である 3-I-V では、フェロレッグラダー以外の相互作用が引き起こ すフラストレーションの効果によって、マグノンの束縛状態から成る特異な量子状 態を実現している可能性が示唆された [3]。2-Cl-6-F-V では、強磁性鎖を反強磁性的 に繋げて二次元的に敷き詰めたハニカム格子を実現した[4]。α-2,6-Cl 2 -V では、ねじ れた五角形が頂点を共有して三次元的に拡がるユニークな格子を 実現した[5]。強磁 性と反強磁性の磁気相関から成る五角形にフラストレーションが生じ ており、飽和 磁場近傍の磁化曲線には特異な振る舞いが観測された。最近は、スピンモデル設計 性のさらなる拡張を目指した合成にも取り組んでいる。ハロゲン元素の修飾位置に ランダムネスを導入することで、ボンドランダムネスを持つハニカム格子を実現し た。また、有機ラジカルを遷移金属元素に配位させた分子性の金属錯体を合成し、 有機無機ハイブリッドスピンによるスピンサイズと磁気異方性の 変調 を実証 した 。 [1] H. Yamaguchi, K. Iwase, T. Ono, T. Shimokawa, H. Nakano, Y. Shimura, N. Kase, S. Kittaka, T. Sakakibara, T. Kawakami, and Y. Hosokoshi, Phys. Rev. Lett. 110, 157205 (2013). [2] H. Yamaguchi, H. Miyagai, T. Shimokawa, K. Iwase, T. Ono, Y. Kono, N. Kase, K. Araki, S. Kittaka, T. Sakakibara, T. Kawakami, K. Okunishi, and Y. Hosokoshi, J. Phys. Soc. Jpn. 83, 033707 (2014). [3] H. Yamaguchi, H. Miyagai, Y. Kono, S. Kitta ka, T. Sakakibara, K. Iwase, T. Ono, T. Shimokawa, and Y. Hosokoshi, Phys. Rev. B 91 125104 (2015). [4] H. Yamaguchi, A. Toho, K. Iwase, T. Ono, T. Kawakami, T. Shimokawa, A. Matsuo, and Y. Hosokoshi, J. Phys. Soc. Jpn. 82, 043713 (2013). [5] H. Yamaguchi et al., Sci. Rep. 5, 15327 (2015)
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