国立大学法人 名古屋工業大学大学院 社会工学専攻 土木材料研究室 瓦の再資源化と有効利用 愛知県は屋根瓦(三州瓦)の全国出荷枚数の約 6 割を占めています。循環型社会を実践する上 で、中部圏からの「使用済み瓦の有効利用方法」の発信と提案に携わりたいと考えています。 身近な資源である「使用済み屋根瓦」の有効利用を進める上で、用語の定義を更新しました。 ※土木材料研究室が関わった論文(審査有り:2005 年~2015 年)に使用された用語を基に見直 しと整理・統一を図ったものです。 1.用語の定義 土木材料研究室では、次のように用語を定義しています。 廃(棄)瓦: 屋根瓦として使用されない、廃棄処分となる瓦。規格外瓦と使用済み瓦を含む総称。 論文等では、「瓦廃材」との表記もある。 規格外瓦: 生産工程で発生する、性能を満たさない規格外品(約 5%程度)。 論文等では、再生資源であることを提示するため、「規格外品廃瓦」との表記もある。 使用済み瓦:屋根の葺き替え時や家屋解体時に発生する使用済み屋根瓦。(屋根瓦として再使 用されることがない瓦:リユースされない瓦。) 論文等では、再生資源であることを提示するため、「家屋解体廃瓦」との表記もある。 瓦リサイクル材料:屋根瓦として使用されない粘土瓦を破砕処理し、用途に応じて整粒したリサイ クル材料。再生資源。 例えば、「破砕瓦:規格外瓦使用」、 「粉砕規格外瓦骨材:規格外瓦使用 」及び 「瓦チップ:使用済み瓦使用」など。 瓦粗骨材: 使用済み瓦を破砕・整粒して、粗骨材相当に調整した瓦リサイクル材料。 瓦細骨材: 使用済み瓦を破砕・整粒して、微粒分を取り除き、細骨材相当に調整した瓦リサイク ル材料。 瓦細粒粉: 使用済み瓦を破砕後、5mm 篩を通過した紛体を多く含む瓦リサイクル材料。 循環型舗装:熱や水が循環可能な舗装。具体的には、路盤材は瓦チップ(粗め)、表層は瓦チッ プを骨材に利用したポーラスコンクリートまたはエアモルタル。 瓦 POC: 粗骨材をすべて瓦骨材に置き換えて製造したポーラスコンクリート。 瓦エアモルタル:細骨材をすべて瓦骨材に置き換えて製造したエアモルタル 2.解説 瓦リサイクル材料の経緯(分類など) 瓦の分類 粘土瓦は「釉薬瓦」と「いぶし瓦」に大別され、吸水率の上限値が規定されています。釉薬の使 用もあり、粘土瓦製品は各種管理基準を満たした後、工場製品(JIS)として出荷されるため、副産 物として発生する「規格外瓦」及び「使用済み瓦」も安全性の高い材料と言えます。なお、研究対 象に用いた瓦リサイクル材料を検査した結果、アルカリシリカ反応性試験結果は「モルタルバー法」 で無害との結果が得られています。 土木材料研究室(ツルマイ生コン) 国立大学法人 名古屋工業大学大学院 社会工学専攻 土木材料研究室 廃(棄)瓦・規格外瓦・使用済み瓦 ・屋根瓦として使用されない、廃棄処分となる瓦。規格外瓦と使用済み瓦を含む総称。 ・「廃」の名称は屋根瓦として使用することがないことを示すために標記した経緯があります。 ・これまでの用途開発と利用実績等、資源として他の用途に利用する上で問題がないことがひろく 認識されてきたことから、「規格外瓦」、「使用済み瓦」の名称の使用も問題ないと考えています。 2015 年度までの投稿論文では副産物であることを示すため「廃」を冠しています。 瓦リサイクル材料(規格外瓦) ・規格外瓦は、製造時の厳格な品質管理により、生産量の約5%発生します。 ・規格外瓦を粉砕し特に細かく粉砕したものは、例えば「シャモット:愛知県陶器瓦工業組合」とし て瓦の粘土原料の一部にリサイクル利用されています。通常の骨材程度の大きさに分粒したも のは、例えば「特殊シャモット(13mm 以下)」と呼ばれ販売されています。それ以外には、三州セ ラミックス路床材(0-20mm)、再生砂(瓦砂:5mm 以下)が製品としてあります。 ・現在、粘土瓦の主な生産地(愛知県・島根県・兵庫県)では、瓦工場より発生した規格外瓦を破 砕・粒度調整して建設分野を対象にした瓦リサイクル材料を、破砕瓦(愛知県陶器瓦工業組合)、 粉砕規格外瓦骨材(石州瓦工業組合)として販売・用途開発を進めています。 ・規格外瓦は、工場出荷時に品質検査を満たさなかった規格外品を示します。したがって、「破砕 瓦」や「粉砕規格外瓦骨材」は工場製品と位置付けることができると考えています。ただし、使用 済み瓦が混入したものは該当しないとの認識です。 ・規格外瓦から製造された瓦リサイクル材料は、工場製品と同等の資源と考えると、建築等の意匠 的な材料としての利用が有意と思われます。 ※共同研究当時(2005 年~2007 年)は「三州瓦廃材」、「廃瓦」の名称で論文発表を行っていま す。 瓦リサイクル材料(使用済み瓦) ・日本家屋などに使用されている屋根瓦は、屋根の葺き替えや家屋解体時の選別により使用済 み瓦となります。日本家屋の平均寿命を約 30 年とすると、毎年 500 万トン弱もの瓦が使用済み瓦 として発生します。現状での家屋解体等により発生する使用済み瓦は、年間 100~200 万トン程 度と言われています。 ・使用済み瓦を中間処理施設にて破砕・整粒した瓦リサイクル材料は、例えば、瓦チップ(一般社 団法人瓦チップ研究会)と呼ばれ、建設分野で幅広く利用されています。 ・土木材料研究室では建設分野(コンクリート材料等)での利用を考え、粒度調整することで「瓦粗 骨材」、「瓦細骨材」、「瓦細粒粉」との名称で用途開拓・技術開発を進めています。 ・使用済み瓦を原料にした瓦リサイクル材料は、全国どこでも入手できる社会基盤材料として安定 供給可能な資源といえます。 ・共同研究(一般社団法人 瓦チップ研究会)における用語の対応 瓦チップ:使用済み瓦を破砕・粒度調整したもの、すなわち、瓦リサイクル材料を示す。 瓦チップ粗骨材:瓦チップの粗骨材相当品。「粗め」。瓦粗骨材。 瓦チップ細骨材:瓦チップの細骨材相当品。「細め」。瓦細骨材。 瓦チップ細粒粉:瓦チップの紛体を多く含む細骨材相当品。「細粒粉」。瓦細粒粉。 和み舗装:表層は瓦 POC、路盤材も瓦チップ(3000)を使用した透水性舗装。循環型舗装。 土木材料研究室(ツルマイ生コン) 国立大学法人 名古屋工業大学大学院 社会工学専攻 土木材料研究室 ※瓦チップ粗骨材の製造工程に比べ、瓦チップ細骨材の製造は作業工程が多く、かつ、除去し た紛体の安定した有効利用が十分ではない。したがって、瓦チップ細粒粉の有効利用方法や 用途開発・開拓が急務である。 ※土木材料研究室では、瓦チップ研究会との共同研究を通して、瓦資源のゼロエミッションを目 指しています。 3.瓦リサイクル材料の特徴とコンクリート用材料としての課題 ・運送費から利用可能な地域が限定されることと、種別・製造時期・経年劣化により品質がばらつく こと、が挙げられます。 ・瓦自体が多孔質であるため、破砕・粒度調整された状態での吸水率は高く、すりへり易いため、 通常のコンクリート用骨材の物性とは大きく異なります。(軽量骨材に近い) ・含水率の管理が煩雑であるため、用途に応じ保管時の状態を選択する必要があります。(乾燥 状態と湿潤状態:材料管理、フレッシュコンクリートの制御、自己養生性能の付与など、優先順位 により選択) ・軽量骨材と同様に「凍結融解試験」で要求性能を満たすためには、空気量を多くする必要があり ます。 4.瓦リサイクル材料に関する考え方(チューポールニュース vol.19(2014 年発行)を加筆修正) 日本の風景を造る素材の一つに「瓦」があります。 昭和 59 年の「粘土瓦」の生産量は、約 477 万トンです。日本家屋の平均寿命を約 30 年とする と、今年(平成 26 年)は約 477 万トンもの瓦が使用済み瓦として発生します。また、製造時の厳格 な品質管理により、生産量の約5%は規格外となり、今年も製造に伴う規格外瓦が発生します。 規格外瓦を原料とした副産物は工場製品として扱うことで建築用材料として、使用済み瓦を原 料とした副産物は全国どこでも入手できることから、社会基盤材料として有効な資源(リサイクル材 料)といえます。 ここでは、使用済み粘土瓦を破砕・粒度調整した副産物を「瓦リサイクル材料」と称して、話をし ます。粘土瓦は「釉薬瓦」と「いぶし瓦」に大別され、吸水率の上限値が規定されています。釉薬 の使用もあり、粘土瓦製品は各種管理基準を満たした後工場出荷されるため、副産物である瓦リ サイクル材料も安全性の高い材料と言えます。なお、研究対象に用いた瓦リサイクル材料を検査 した結果、アルカリシリカ反応性試験結果では「モルタルバー法」で無害との結果が得られていま す。 地盤分野では、多孔質性の素材そのものを活かした、暗渠用疎水材・水質ろ過材・土壌改良 材・有機培養材・埋め戻し材などに加え、近年では、液状化対策としての有効性も検討されていま す。 コンクリート分野では、ヒートアイランド現象の緩和や雨天時の排水を目的にした舗装(コンクリ ートやポーラスコンクリートとして)に加え、内部養生効果を活かして構造物(鉄筋コンクリートとして) の骨材として瓦リサイクル材料を用いた実施工があります。瓦リサイクル材料を用いた硬化コンクリ 土木材料研究室(ツルマイ生コン) 国立大学法人 名古屋工業大学大学院 社会工学専攻 土木材料研究室 ートの特徴には、圧縮強度が高く、弾性係数は少し下がる傾向が見られます。 瓦リサイクル材料は通常の骨材と比べると、その多孔質性に起因して密度が小さく、吸水率が 高く、破砕値も3倍程度あり、すりへり抵抗性も小さい材料です。コンクリート用骨材として使用する 場合、材料管理が容易な気乾状態での使用では、練混ぜ中に吸水される水量を事前に補水(表 面噴霧)してフレッシュ時の流動性を確保する必要があります。湿潤状態での使用では、表面水 の制御の煩雑さに加え、瓦自体に入り込んだ水の影響も勘案して、耐凍害性を確保する必要が あります。ただし、瓦リサイクル材料の保水性をうまく利用すると、内部養生効果を発揮し、かつ、 水で満たされた空隙が空になることで、凍結融解抵抗性も得られます。 瓦リサイクル材料は一般的な骨材と比べると取り扱いにより、成果品の性能に違いや差が出や すい材料です。要求性能を満たすために、瓦リサイクル材料の給排水性能を設計・施工時に制御 する必要があります。また、再利用を繰り返すためには、可能なら他の骨材とブレンドしない利用 が望ましいといえます。現在、多くの機関で瓦リサイクル材料の有効利用が進められていますが、 広く普及するに至っていない原因は、そこにあると考えられます。 5.瓦リサイクル材料を対象にした論文一覧(土木材料研究室関連:査読有) ・家屋解体廃瓦を用いたポーラスコンクリートの温熱特性 (コンクリート工学年次論文集、35 巻 1 号 1531 頁 1536 頁 2013 年 7 月) ・家屋解体時に発生する廃瓦を用いたポーラスコンクリートの基本物 (コンクリート工学年次論文集、34 巻 1 号 1552 頁 1557 頁 2012 年 6 月) ・瓦廃材を用いたポーラスコンクリートの基本的物性 (セメント・コンクリート論文集、65 巻 2011 号 501 頁 508 頁 2012 年 2 月) ・三州瓦廃材のコンクリートへの有効利用 (コンクリート工学論文集、21 巻 2 号 1 頁 11 頁 2010 年 5 月) ・ポーラスコンクリートの透水試験及び空隙率試験方法に関する研究 (コンクリート工学年次論文報告集、31 巻 1 号 1699 頁 1704 頁 2009 年 7 月) ・三州瓦廃材を用いたRC梁部材の特性 (セメント・コンクリート論文集、61 巻 2007 号 550 頁 557 頁 2008 年 3 月) ・三州瓦廃材を用いたコンクリートの耐久性 (セメント・コンクリート論文集、61 巻 2007 号 542 頁 549 頁 2008 年 3 月) ・瓦廃材のコンクリート用骨材への適用性に関する研究 (コンクリート工学年次論文報告集、28 巻 1 号 1577 頁 1582 頁 2006 年 7 月) ・瓦廃材を細骨材として用いたコンクリートの物性 (コンクリート工学年次論文報告集、27 巻 1 号 1405 頁 1410 頁 2005 年 6 月) 2005 年 6 月 22 日 論文発表 2015 年 8 月 28 日 Web.更新 ※記載内容に対してお気づきの点(不備や誤り)をご連絡いただければ幸いです。 土木材料研究室(ツルマイ生コン)
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