日本における小売業の プライベートブランド戦略 2年 目次 1. はじめに 2. プライベートブランドとは 3. プライベートブランドの歴史 4. セブンプレミアム 5. プライベートブランドのメリット 6. プライベートブランドのデメリット 7. まとめと今後の展開 参考文献・参考 URL 谷 1. はじめに 近年、プライベートブランドが注目を集めており、多くの小売りがその開発に取り 組んでいる。今やプライベートブランド商品がスーパーやコンビニエンスストアで並 んでいるのは日常的な光景である。しかし、プライベートブランドがこれほど注目さ れるようになったのは最近のことのように感じる。本稿では、プライベートブランド の歴史と現在のプライベートブランドの特徴を調べることにより、プライベートブラ ンドの誕生から現在に至るまでどのように変化を遂げてのきたかについてまとめ、今 後プライベートブランドはどのように展開していくのか、そして、小売りはプライベ ートブランドにどのように向き合っていくべきかについて、プライベートブランドの メリットとデメリットを挙げることによって考察していきたい。 2. プライベートブランドとは 小売りが企画・開発を行い、その店独自のブランドとして販売する商品を指す。製 造はメーカーに委託している。現在の代表的なものには、イオンのトップバリュやセ ブン&アイホールディングスのセブンプレミアム等がある。それに対し、メーカーが 企画・開発を行い、全国の小売店で販売されている商品をナショナルブランドという。 プライベートブランドの最大の特徴はナショナルブランドよりも安いことで、安さの 理由として以下の 2 つが挙げられる 1。まず、プライベートブランドは企画・開発を 行った小売店とその系列店でのみ販売されるため、商品の認知度を上げるための広告 宣伝費がかからない。次に、小売店は商品の配送に専用の物流センターを利用してい るため、工場と販売店の間の中間物流を省くことができ、物流コストを抑えることが できる。最後に、プライベートブランドはメーカーに計画的に大量生産を注文し、売 れ残りも小売り側が完全に買い取る。そのため、廃棄ロスが比較的少なくなり、メー カーも安心して安く生産してくれる。このように、プライベートブランドは、様々な コストを抑え、大量生産・大量買取りを条件にメーカーに製造を委託しているため、 安く提供することができるのである。 3. プライベートブランドの歴史 プライベートブランドの第 1 号は 1959 年に発売された大丸のスーツ「トロージャ ン」であった。そして、1960 年にはダイエーが缶詰を発売し、食品、家電、衣料品 等様々な分野へと次々に手を広げていき、プライベートブランド開発の中心的存在に 1 日本経済新聞社・編(2009)30~33 ページ なった。この頃のプライベートブランドは低価格のみを追究しており、また、生産を 中小メーカーに委託していたこともあり、品質がナショナルブランドより劣っていた。 高度成長期やバブル経済の日本では、消費者の生活も安定しており、ブランド志向も 高かったため、低価格のプライベートブランドの人気は上がらず、景気が悪い時のみ 注目を集めた。しかし、バブル経済が崩壊して円高が進むと、消費者の節約志向が高 まり、低価格のプライベートブランドに注目し始めた。小売りは生き残りの為に一斉 にプライベートブランド開発に乗り出し、1994 年にはジャスコ(現イオン)のトッ プバリュ、2007 年にはセブン&アイのセブンプレミアムが誕生した。そして、2007 年のサプライムローン問題、2008 年のリーマンショッック等により日本経済は低迷 を続け、原料価格高騰の影響でナショナルブランドの価格が上がったこともあり、プ ライベートブランドの人気は定着していった 2。 4. セブンプレミアム 第 3 章ではプライベートブランドの歴史について見てきたが、この章では、近年の プライベートブランドの特徴についてまとめる。 近年の代表的なプライベートブランドの 1 つに、セブン&アイホールディングスの セブンプレミアムがある。セブンプレミアムは低価格だけでなく、質へのこだわりも 徹底している。低価格で品質が良いセブンプレミアムは、2007 年に誕生して以来売 上を伸ばしており、2012 年度には 4700 億円に達し、2015 年にはセブンプレミアム の売上を 1 兆円、グループ全体のオリジナル商品の売上を 3 兆円まで伸ばすことを目 指している 3。 セブン&アイが質の向上のために行っている取り組みは以下の 3 つである 4。第一 に、チーム体制による商品開発である。セブンプレミアムは、コンビニエンスストア のセブンイレブン、スーパーのイトーヨーカ堂やヨークベニマル、百貨店のそごうや 西武といった、セブン&アイホールディングスの異なる業態の商品部がチームとなっ て開発を行っている。プライベートブランドのメリットの 1 つには商品に顧客の意見 を反映しやすいことである。各業態がそれぞれの得意分野における商品の開発チーム のリーダーとなってチームを引っ張っていくことにより、顧客の意見をより商品に反 映しやすくしている。第二に、大手メーカーへの製造委託である。質へのこだわりを 徹底するためには、高い技術力と商品開発能力を持った大手メーカーと取引すること が重要である。最近では、メーカーとの共同開発により生まれた商品も多い。第三に、 商品のリニューアルを絶えず行うことである。セブンプレミアムでは 1 年間で約 70% 2 3 4 http://www.yomiuri.co.jp/adv/wol/opinion/economy_081208.html https://www.7andi.com/company/challenge/1042/1.html 緒方知行、田口香世(2013) の商品が入れ替わっており、常に顧客のニーズに合わせた商品を提供している。顧客 が商品に対する意見やコメントを投稿できる「プレミアムライフ向上委員会」という サイトも商品革新に役立てている。 セブン&アイはセブンプレミアムのサブブランドとしてさらに質にこだわったセ ブンゴールドを 2010 年に誕生させた。セブンゴールドはナショナルブランドよりも 高価格な商品が多いが、味や品質のよさが顧客の人気を集めている。2013 年 5 月末 時点のセブンゴールドの売上比率は全体の約 2%であったが、2015 年には 15%にま で拡大していくという目標を掲げている 5。 このように、近年のプライベートブランドは質を追究したものが増え、消費者のニ ーズが多様になったこともあり、さらに人気が高まっていった。 5. プライベートブランドのメリット この章では、プライベートブランドのメリットについて、小売り側と消費者側の両 方の観点から見ていきたい 6。 まず、小売り側から見たプライベートブランドのメリットについて考察する。小売 り側のメリットは以下の 3 つが挙げられる。1 つ目は、店のオリジナリティーを表現 できることである。プライベートブランドは各小売店が独自に開発する商品であるた め、各企業のイメージアップにつながる。2 つ目は、製品の価格や原材料、製造方法 等を自由に設定・変更することができることである。ナショナルブランドはメーカー が開発した商品であるため小売り側が商品開発や製造に口出しすることはできない が、プライベートブランドに関しては小売り側に発言権があり、顧客の意見や要求を 反映しやすい。3 つ目は、ナショナルブランドよりも利益が上がることである。第 2 章で述べた通り、プライベートブランドでは広告宣伝費や物流費といった費用がかか らないため、ナショナルブランドよりも粗利益が高い。 次に、消費者側のメリットは、ナショナルブランドよりも低価格で商品を購入でき ることである。第 4 章で述べた通り、近年では低価格だけでなく、質にこだわった商 品も次々に開発されている。経済低迷が続く現在、ナショナルブランドと同等、もし くはさらに上質な商品を安く購入できることは消費者にとって大きな魅力である。 6. プライベートブランドのデメリット この章では、プライベートブランドのデメリットについて、同様に小売り側と消費 5 6 緒方知行、田口香世(2013)131 ページ 藤野香織(2009)16~19 ページ 者側の観点から見ていく 7。 まず、小売り側のデメリットは以下の 2 つである。1 つ目は、在庫リスクが大きい ことである。第 2 章で述べた通り、プライベートブランドの場合、売れ残りは小売り 側が全面的に買い取っている。そのため、小売りは確実に商品を売り切らなくては利 益を上げることはできない。2 つ目は、製品に対する責任を負わなくてはならないこ とである。例えば、商品の安全性に問題が生じた場合、ナショナルブランドではメー カーがその責任を負っているが、プライベートブランドは企画・開発を行った小売り 側も責任を負わなくてはならず、企業のイメージダウンにつながる危険性もある。 次に、消費者側のデメリットは、商品選択の幅が狭まってしまうことである。店頭 にプライベートブランドの増加はナショナルブランドの減少につながり、消費者が購 入したい商品が店頭から消えてしまう可能性がある。 7. まとめと今後の展開 これまでプライベートブランドの歴史や現在のプライベートブランドについて見 ていく中で、プライベートブランドが価格訴求型から価値訴求型へと変化していった ことが分かった。その背景には、製造を任されているメーカーの技術力の向上や消費 者の質に対する意識の高まりがあり、それが近年のプライベートブランドの人気につ ながったと考える。セブン&アイがセブンプレミアムやセブンゴールドの拡大を目指 していることから、今後も質にこだわったプライベートブランドが更に普及していく だろう。ナショナルブランドと違い、プライベートブランドは自社のオリジナリティ ーを表現することができる。少子高齢化や消費税増税により需要が減少している現在、 顧客を自分の店に呼び込み、他社と差別化を図ることができるプライベートブランド 戦略は、各小売りの生き残りの為にさらに重要になってくる。しかし、第 6 章で述べ たように、プライベートブランドばかり大量に店頭に並べてしまうとナショナルブラ ンドが減ってしまい、顧客は品揃えが悪いと感じてしまう。プライベートブランドの 人気が高まってきたとはいえ、ナショナルブランドの人気は衰えたわけではない。そ のため、小売りはナショナルブランドとプライベートブランドをうまく両立させて販 売しなくてはならない。そして、その限られたプライベートブランドの中で、顧客の ニーズを見つけ出し、売れる商品を開発していくことが重要だと考える。 7 藤野香織(2009)16~19 ページ 参考文献 緒方知行、田口香世(2013) 『セブンプレミアム進化論 なぜ安売りしなくてもうれ るのか』朝日新聞出版社 日本経済新聞社・編(2009) 『PB 「格安・高品質」競争の最前線』日本経済新聞社 出版 藤野香織(2009) 『PB 商品 企画・開発・販売のしくみ PB 商品の企画、生産から 売り場展開、リニューアルまで』同文館出版 参考 URL http://www.sej.co.jp (セブン-イレブン) http://www.yomiuri.co.jp (読売新聞) http://www.7andi.com (株式会社セブン&アイ HLDGS.)
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