8. - 比較政治Ⅰ・Ⅱ

2015年度第1学期「比較政治Ⅰ――リベラル・デモクラシーの比較政治――」
8.利益集団
2015.6.8
1.コーポラティズムと多元主義
利益集団・圧力団体
interest group
特殊な利益の実現を目指して働きかけを行う集団
政
府
↑
↑
利益集団
政党
↑
↑
国
ネオ・コーポラティズム
民
neo-corporatism
政府・労働組合・経営者団体が協調して経済・社会政策の形成を行う政策決定様式
労働組合・経営者団体が経済・社会政策の形成に参加
コーポラティズム
主要な社会的単位が国家システムに統合されている全国的な社会政治的組織化構造
団体間の協調によって社会秩序が作られることを強調する考え方
近代のコーポラティズム:労働者と経営者の階級協調
デモクラシー否定論・独裁と結びつく傾向、
職能代表制
第2次世界大戦後はリベラル・デモクラシーと労資協調を両立させる試みが主流に
国家コーポラティズム
各種団体が政府から独立していない
社会コーポラティズム/ネオ・コーポラティズム
各種団体が政府から独立している
政治的交換
労働者が社会秩序の維持に協力するかわりに、
政府は労働者にとって望ましい経済・社会政策を実施する
労働組合:賃金抑制に協力→物価上昇を抑える
政府・経営者団体:完全雇用の維持と社会保障の充実→失業率を抑える
-1-
<政策形成>
政府
頂上団体
↑
労組
頂上団体
↑
↑
労組
↑
経営者団体
<労働>
経営者団体
<経営>
頂上団体:各分野の利益を全国レベルで代表する団体
多元主義
pluralism
自発的に組織された利益集団が複数存在し、互いに競争を繰り広げている
多元主義
ネオ・コーポラティズム
利益集団の独占度
低
高
利益集団の集権度
低
高
例
アメリカ
ヨーロッパ大陸諸国
集権:頂上団体に決定権限が集中
独占:頂上団体が分裂していない
多元主義:利益集団が政策決定の場へのアクセスをめぐって自由に競争
競争に勝った利益集団の要求が政策に反映
アメリカでは政党の規律が弱い
法案に対しては個々の政治家が自らの判断で投票
ロビイング:政策実現のために働きかけを行うこと
-2-
多元主義の問題点
①民主的か?
②公平か?
ネオ・コーポラティズムの問題点
①民主的か?
②公平か?
経済政策の実績
どうすれば物価を上げずに失業を減らすことができるか?
→政治的交換(賃金抑制と完全雇用・福祉政策)は可能か?
多元主義:複数の労働組合が競合→「囚人のジレンマ」が発生
ネオ・コーポラティズム:頂上団体による独占・集権
→労組が賃上げ要求を控えることが可能
賃上げを控えて物価上昇を抑えやすいのはネオ・コーポラティズム諸国
2.ネオ・コーポラティズムの諸形態
オーストリア:高度のネオ・コーポラティズム(「社会的パートナーシップ」)
「会議所国家」:商業・農業・労働などのいずれかの会議所への加入が義務
労組は単一の頂上団体(労働組合総同盟)の下に組織されている
同権委員会で政府・経営者・労働者が経済・社会政策や賃金について協議
スウェーデン:高度のネオ・コーポラティズム
労働総同盟・経営連盟の双方で集権化が進み、労組組織率も上昇
政策形成における利益集団の意見聴取、行政機関への代表参加
独占度・集権度の高い頂上団体が交渉・協議
-3-
オランダ:高~中程度のネオ・コーポラティズム
労働協会で労使が協議→政府が協約を承認→その枠内で各産業別の賃上げ交渉
政策形成にも労使が関与
社会経済協議会:労使代表と政府任命委員が経済・社会政策について審議・答申
労働組合・経営者団体が分裂→典型例とは言いにくい
共産党系労組を排除してカトリック・プロテスタント・社会主義の3労組が協調
3労組は特権的地位を守るために穏健化→賃金抑制に協力
ドイツ:中程度のネオ・コーポラティズム
頂上団体の独占度が高い--労組は単一の頂上団体(ドイツ労働総同盟)の下に組織化
頂上団体の集権度は低い
賃金交渉は頂上団体の間ではなく、各産業ごとに行われる
活動の重点は全国組織よりもラント・市町村レベルの組織に置かれている
労使協議が経済運営を主導した面も
共同決定
企業の監査役会に従業員代表が参加(半数が従業員代表、但し管理職を含む)
経営評議会:各企業で労働条件の監視・改善にあたる従業員組織
マクロ・コーポラティズム:全国レベル
メゾ・コーポラティズム:産業・政策領域レベル
ミクロ・コーポラティズム:企業レベル
ドイツのネオ・コーポラティズムではメゾ・ミクロが中心
なぜ全国レベルのネオ・コーポラティズムが発達しなかったのか?
・社会的市場経済
市場における自由競争+社会的弱者の保護
政府は経済への介入を控える
→協約自治:賃金交渉は政府の介入なしに労使間で行われる
・連邦制
執行・行政の中心は連邦ではなく、ラント
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マクロ・コーポラティズムが弱いにもかかわらず、賃金抑制が行われている
・共同決定制度
・調整的賃金交渉制度
最大労組である金属部門の賃金水準が他の部門でも基準に
経営者団体が集権的→各産業・企業の回答は横並び
スイス:ミリツ・システムの存在
政策形成に利益集団が深く関与
専門委員会:非公式な意見聴取---4大利益集団と関連する団体・カントン
事前聴聞制:関連団体からの意見聴取が憲法によって義務づけられている
連邦制だが、利益集団は集権的
ミリツ・システム:公的な職務の多くが民間人の兼務によって行われる
スイスは連邦政府の機構がほとんど整備されていなかった
→利益集団に行政を委ねた
70年代以降、ネオ・コーポラティズムを支えていた仕組みが動揺
・利益集団の加入者が減少
・一国単位で経済政策を実施するのが困難に
・ネオ・コーポラティズムへの批判勢力が台頭
メゾ・ミクロのコーポラティズムが中心に
<参考文献>
新川敏光他『比較政治経済学』(有斐閣、2004 年)
真柄秀子/井戸正伸『改訂版
比較政治学』(放送大学教育振興会、2004 年)
レームブルッフ他編『現代コーポラティズム(Ⅰ)(Ⅱ)』(木鐸社、1984 ~ 86 年)
ゴールドソープ編『収斂の終焉』(有信堂高文社、1987 年)
水島治郎『戦後オランダの政治構造』(東京大学出版会、2001 年)
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