人体熱負荷量に基づく代謝量およびふく射量の影響

平成 26 年度
人間情報工学領域
修 士 論 文 要 旨
6625029 竹谷 翔平
屋外歩行空間の人体温熱評価
-人体熱負荷量に基づく代謝量およびふく射量の影響1 緒言
人体の温熱状態の把握は温熱環境設計や,熱中
症を防ぐために重要である.人体の温熱状態を定
量的に表すことが出来る指標として,人体の熱収
支に基づき,温熱環境 6 要素(気温,湿度,ふく射
量,風速,代謝量,着衣量)を含む,人体熱負荷量
が挙げられる[1].熱中症は様々な環境で報告されて
いるが,特に屋外では,歩行などの運動を伴いな
がら日射の影響を受けるため,発症しやすいとさ
れている[2].そこで,異なる運動状況における人体
の温熱状態を,人体熱負荷量を用いて定量化するこ
とを目的とした.また,安全,快適な都市設計の基
礎構築として,歩行中の樹木による日射遮蔽が人
体の生理反応に及ぼす影響を明らかにすることを
目的とした.
2 実験方法
実験 1 では,異なる環境(サッカー競技場,テ
ニスコート,アスファルト路面,屋内競技場)で
運動させることで,人体の温熱状態を定量的に把
握する.実験 2 では,屋外で歩行実験を行い,日
射透過率 7.3%の模擬樹木を用いて日射遮断し,そ
の際の日射曝露時間が人体に及ぼす影響を,人体
熱負荷量を用い定量化し,その際の生理反応を明
らかにすることを目的とした.
2.1 計測項目
環 境 条 件 と し て , 気 温 お よ び 相 対 湿 度 (T&D
TR-73U) , 短 波 放 射 量 お よ び 長 波 放 射 量 (EKO
MR-60),風速(Young CYG-81000)を1分間隔で測定
を行った.人体条件として,皮膚温を,Hardy-Dubois
の平均皮膚温の算出法にならい [3],額,腹,上腕,
手甲,大腿,下腿,足甲の7点,深部温を直腸で,
サーミスタ(日機装サーモ N542)にて1 分間隔で測
定した.代謝量は,呼気代謝モニタリングシステ
ム(S&ME VO2000)にて酸素摂取量および二酸化炭
排出量を測定し,代謝量を算出した.心理申告と
して,ASHRAE Standardに従い[4],2分毎に温冷感
及び快適感を記録した.
2.2 実験プロトコル
実験1は,各条件50分間行うが,安静時,回復時
として開始後10分,終了前10分間は立位安静とし
た.開始後10分~40分は立位静止,55 m/min の歩
行,167 m/minの走行の3 条件で行った.
実験2は,各条件50分間行い,開始後10分,終了
前10分は安静時,回復時として立位安静とした.
10分から40分については,①立位安静(30分日射曝
露),②立位安静(30分日射遮断),③55 m/minの歩行
(20分日射曝露,10分日射遮断),④55 m/minの歩行
(10分日射曝露,10分日射遮断,10分日射曝露),⑤
55 m/minの歩行(10分日射曝露,5分日射,10分日射
曝露,5分日射遮断)の5条件とした.
2.3 人体熱負荷量の算出
温熱環境評価をする際や熱中症を未然に防ぐた
めには,人体の温熱状態を正確に把握する事が必
要である.そのため本研究では,式(1)で定義した
人体熱負荷量Floadを用い,人体温熱状態を定量化す
る.
Fload =M – W + Rnet – C – E
(1)
ここで,M は代謝量,W は機械的仕事量,Rnet は正
味ふく射量,C は顕熱損失量,E は潜熱損失量を表
し,単位は全て[W/m2]である[1].
3 実験結果
3.1 実験 1 結果
図 1 に各運動強度における代謝量の経時変化を
示す.立位安静時の代謝量は,屋外,屋内による
ふく射環境による差はほとんど見られず,立位安
静時の代謝量は 56 [W/m²]となった.代謝量は運動
開始後急激に増加し,歩行時では 120 [W/m²],走
行時では 322 [W/m²]となった.
図 2 に各実験環境における人体熱負荷量の内訳
を示す.人体熱負荷量における潜熱損失量は屋内,
屋外で 14~17 [W/m²]と同程度であったが,顕熱損
失量は屋外 32 [W/m²],屋内 3 [W/m²]と屋外条件で
高くなった.また,
正味ふく射量は屋外 121 [W/m²],
屋内-12 [W/m²]と,屋内では環境側への放熱が確認
された.夏季の暑熱環境において,環境要素であ
るふく射量と,人体内部で発熱される生理的要素
である代謝量は,人体熱負荷量の受熱要素として
構成される.一方,放熱要素である,顕熱,潜熱
損失量,機械的仕事量による放熱量は,本実験で
の最も運動強度の高い走行条件でも 145 [W/m²]と
なり,ふく射量と同程度であるため,夏季の日射
曝露下においては,運動による代謝量の増大は,
人体の温熱状態を悪化させる要因となる.
3.2 実験 2 結果
図 3 に立位安静時における平均皮膚温の経時変
300
200
100
0
0
Football
field
Tennis
court
S:standing
W:walking
R:running
400
200
0
-200
S W R S W R S W R S W R S WR
Metabolism
Radiation
Sensible heat loss
10 20 30 40 50
Elapsed time(min)
standing
walking
running
Asphalt Gymnasium
road
Mechanical work
Latent heat loss
Human thermal load
36
34
32
0
0
-1
100
-2
0
0
-3
10 20 30 40 50
Elapsed time (min)
thermal sensation
comfort vote
(a)without solar radiation(30-40min)
50
skin temperature under different solar
2
300
1
0
200
-1
100
-2
0
0
3
400
-3
10 20 30 40 50
Elapsed time (min)
thermal sensation
comfort vote
(b)without solar radiation(20-30min)
Human thermal load[W/m2]
200
1
3
400
Thermal sensation
Comfort vote
300
2
10 20 30 40
Elapsed time(min)
radiation during standing
Thermal sensation
Comfort vote
Human thermal load[W/m2]
Human thermal load[W/m2]
3
with solar radiation
without solar radiation
metabolism under different walking speeds
400
standing
Fig 3 Time-dependent changes of mean
Fig 2 Contents of human thermal load
Fig 1 Time-dependent changes of
38
2
300
1
0
200
-1
100
-2
0
0
10 20 30 40
Elapsed time(min)
thermal sensation
Thermal sensation
Comfort vote
Heat flux[W/m 2]
Metabolism[W/m2]
400
Athletic
field
Mean skin temperature(℃)
600
500
-3
50
comfort vote
(c)without solar radiation(20-25,35-40min)
Fig 4 Time-dependent changes of human thermal load, thermal sensation and comfort vote during walking
化を示す.平均皮膚温は日射遮断を行なうことに
より,1.0 ℃低下した.また,この傾向は歩行時に
も見られ,歩行時では 1.4℃低下した.
図 4 に各日射曝露条件における歩行時の人体熱
負荷量と温冷感および快適感の経時変化を示す.
本実験で用いた模擬樹木により,日射遮断時の正
味ふく射量は 19 [W/m²]と日射曝露時と比較すると
150 [W/m²]減少した.それに伴い人体熱負荷量も減
少し,日射曝露時 245 [W/m²],日射遮断時 76 [W/m²]
となった.立位安静時,歩行時にいて,日射遮断
を行なうことで,人体熱負荷量が低下し,温冷感
は低下,快適感は増加する傾向が確認された.日
射遮断時の温冷感を,日射遮断前 10 分間の平均の
温冷感と比較すると,30 分から 40 分に日射遮断し
た条件では 1.5 の減少,20 分から 30 分までに日射
遮断した条件では 0.8 の減少,20 分から 25 分,35
分から 40 分に日射遮断した条件では,それぞれ 0.5,
0.6 の減少した.
これらの結果のように,歩行時における温冷感
は,日射遮断を行うまでの時間が長い条件で,温
冷感は大きく低下する.人体熱負荷量は 1 秒間あ
たりの貯熱量を表しており,日射曝露を行なった
時間が長いことで,より多くの熱量が貯熱されて
おり,日射遮断するまでの貯熱量と受熱量の差が
温冷感の値に影響を与えると考えられる.
4 結論
日射曝露下において,様々な運動状況による被
験者実験を行ない,人体の温熱状態を,人体熱負
荷量を用いて定量化した.その結果,日射曝露に
よるふく射量,運動による代謝量の増加が,暑熱
環境下における人体の温熱状態の悪化に繋がり,
その改善として,歩行中の模擬樹木によるふく射
が人体の生理反応に影響を及ぼすことが示唆され
た.
参考文献
[1] 島崎康弘,他 2 名,”人体熱負荷量に基づく温熱
性快適指標の提案”, 日本冷凍空調学会論文
集, Vol.26,No.1, (2009), pp113-120.
[2] 岩井壽夫,”熱中症~日本を襲う熱波の恐怖~”,
ヘルス出版, (2011),pp25.
[3] Hardy, J.D., Dubois, E.F.,”The technique of
measuring of radiationand convection”, Journal of
Nutrition, Vol.15, pp.461-475, (1938).
[4] Gagge, A.P., Fobelets, A.P.and Berglund,
L.G., ”A standard predictive index of human
response to the thermal environment”, ASHRAE
Transactions, Vol.92, (1986), pp.709-731.