青学の新学部創設の手続き上の問題点と提案、 及び「地球社会共生学部

2014 年 4 月 30 日
青山学院理事長 安藤 孝四郎 様
青山学院大学学長 仙波 憲一 様
青山学院大学国際政治経済学部教授
小島 敏郎
青学の新学部創設の手続き上の問題点と提案、
及び「地球社会共生学部」の問題点
現在、青山学院大学執行部の方々は地球社会共生学部の新設作業を進めておられますが、
その手続き及び内容にはいくつかの問題点があります。現状では青山学院の評価に関わる
事態が生じるおそれがあると考えますので、老婆心ながら、新学部創設に係る大学内部の
手続き上の問題点と提案、及び地球社会共生学部の内容の問題点を文書にて提出します。
1.新学部創設の手続きの問題点と提案
【提案】
地球社会共生学部の対する文部科学省の認可が下りる前に、遅くとも学生募集を公表す
る前に、すなわち人事問題へと発展する前に、全学部に諮ることを提案します。
【理由】
(1)新学部を設置するには、文部科学省の認可に加えて、全学部の議が必要となります。
青学に新学部を設置するには、文部科学省の認可の他、「青山学院大学学則」の改正が必
要となります。そして、学則の改正は、
「第64条 この学則の改正は、学部長会、教授会
及び大学協議会の議を経たのち、常務委員会及び理事会の承認を得て、学長がこれを行う。」
とあるように、少なくとも「全学部の教授会での議」が必要になります。
(2)地球社会共生学部申請は、全学部の賛成が得られていない見切り申請です。
しかるに、地球社会共生学部を文部科学省に認可申請するに際しては、青学の全学部の
了解を取り付けられず、過半数の了解を持って認可申請が行われました。そして、
「構想中」
として青学のホームページには既に掲載されています。
「構想中」というのは、「文部科学省の認可」と、「全学部の教授会の議」の両方が得ら
れていないからですが、「文部科学省の認可」が得られても、「全学部の教授会の議」が得
られていなければ、
「構想中」であることに変わりはありません。「全学部の教授会の議」
は大学の内部問題ですから、世間の常識としては、青学は大学内部の了解も得られていな
いのに文部科学省の認可を申請し、学生を募集しているのかということになるでしょう。
(3)既成事実の積み重ねによるシカタガナイ決定は、知の集合体たる大学がとるべき方
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法ではありません。
今後の展開ですが、地球社会共生学部を推進する人々にとっては、文部科学省の認可を
取り、受験生に告知したという既成事実を作って、各学部の教授会の議を取り付けるとい
う意思決定方法を取ろうと考えられていることと推察できます。
既成事実の積み重ねによる意思決定方法は、新学部が適切かどうかという議論は無用と
いう「問答無用の意思決定方法」であり、議論をしてもシカタガナイという「思考停止に
よる意思決定方法」です。
「知の集合体である大学」の自殺行為であり、取るべき方法では
ありません。各学部は、既成事実にとらわれることなく議論を行い、地球社会共生学部が
青学にふさわしい学部かどうかを審議をすることが正しい方法であると考えます。
(4)受験生募集の公表後では地球社会共生学部問題が学長信任・不信任問題となります。
各学部が「問答無用による意思決定」や「思考停止による意思決定」による意思決定方
法を採用しないとすれば(当然そのような意思決定をすることとなると思いますが)
、申請
段階で全学部の了承が得られていない地球社会共生学部創設には大きなリスクがあります。
端的に言えば、全学部の議が得られなかった場合、学長以下の方々は辞任されることに
なります。それが、社会における最低限の責任の取り方だからです。そして、学期半ばで
新たな学長選出ということになります。すなわち、地球社会共生学部新設問題が、新学部
の良し悪しという問題に加えて、学長信任・不信任問題へと発展することになります。
このように、大学執行部が、意図的に、学長と学部との対立構図を創り出すことは、ど
のような結果となろうとも、どちらかが傷つく結果となり、大学として好ましいことでは
ありません。
2.地球社会共生学部の問題点
さて、地球社会共生学部には、いくつかの問題点があります。前身のアジア国際学部(仮
称)についても申しあげておりますが、これらの問題点への回答はなされておりません。
(1)相模原キャンパスは理系又は文理融合の学部を集積するという基本方針に反します。
相模原の遊休施設を使うなら、どんな学部でも良いというものではありません。
青学は、文系学部を青山に移す、そのタイミングと同時に、相模原キャンパスに理系、
あるいは文理融合の学部の創設をするということが、基本方針であったと理解しています。
地球社会共生学部は、青山キャンパスに文系学部を集めるという基本方針に反します。
(2)他大学の同系統分野の学部は、学内の学部との重複が避けられています。しかし、
青学の地球社会共生学部は、青学の他の学部と重複し、かつ、新奇性がありません。
新学部を設置する場合、①その大学に設置されている既存学部では対応できず全く新し
い学部を作るケースと、②既存学部を統廃合して新学部を設置するケースがあります。
地球社会共生学部の紹介ホームページには、他大学の同系統分野の学部が掲載されてい
ますが、他大学の学部では基本的にこれらの学部と他の学部との重複が避けられています。
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重複があるならば、既存の学部・コースを充実すれば良いことは明白だからです。
例えば、上智大学の総合グローバル学部についてみてみます。上智大学では、新設後の
学部は、神学部、文学部、総合人間科学部、法学部、経済学部、外国語学部、国際教養学
部、理工学部、総合グローバル学部の 9 学部となります。競合する可能性のある学部は「国
際教養学部」ですが、国際教養学部は「比較文化(美術史、文学、宗教・哲学)」
、「国際経
営学・経済学」
、
「社会科学(人類学・社会学、歴史学、政治学)
」であり、新設の「総合グ
ローバル学部」は「国際政治論/市民社会・国際協力論」及び「アジア研究/中東・アフ
リカ研究」であり、重複は避けられています。
他方、青学では、
「地球社会共生学部」が新設された場合、文学部、教育人間科学部、経
済学部、法学部、経営学部、国際政治経済学部、総合文化政策学部、理工学部、社会情報
学部、地球社会共生学部の 10 学部となります。青学が提供している既存学部のカリキュラ
ムに即して「地球社会共生学部」の新規カリキュラムを見ると、地球社会共生学部は、国
際政治経済学部をはじめとする既存の学部と論理的に重複しています。
「地球社会共生学部」
は青学の既存学部の部分を集めてきた「ごった煮感」があります。
学部の重複は、無駄で非効率であるばかりでなく、受験生に対しても学部選択を迷わせ、
迷惑となります。
また、社会学(ソシオロジー)や、メディア・情報学は、歴史のある領域ですが、既に
青学の既存学部にあるばかりでなく、新しく目玉とするには新奇性の魅力に欠けます。
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(3)地球社会共生学部は、英語で授業する、留学必須、寮生活可能という形式が特徴か
もしれません。
地球社会共生学部は、カリキュラム面からみた場合は、青学の他学部との重複を避けら
れません。それでは、他学部とは何が違うかと言えば、地球社会共生学部の特徴は、その
カリキュラム面(内容)にあるのではなく、英語教育、留学必須、寮生活可能という形に
あるということができます。例えば、地球社会共生学部の教員は、英語教育に関しては、
全員ネイティブ講師であり、授業は「English Only」であることが特色とされています。
しかし、英語教育は青学全体として提供するものではないかと思います。
(4)試みに、相模原キャンパスに置く新学部の判断基準を挙げてみます。
1)相模原キャンパスに新設する「文理融合」又は「理系」の学部であること。
さらに言えば、相模原市はリニア新幹線駅ができることになっており、今後の発展が期
待できる都市です。研究機関もあり、相模原市との協力関係を築きながら、青学相模原キ
ャンパスが発展するという「新学部」構想が望ましいと考えます。
2)青学の既存学部との重複がない学部であること。
3)教育及び学究(学問)としての領域として成立すること
4)他大学と比較して競争力のある学部であること。
例えば、受験生にとって、魅力的であり、卒業後の進路が期待できることです。
5)
「青学らしさのある」
(青学のブランドイメージを向上させる)学部であること。
6)時代の変化、高等教育のニーズに合致した学部であること。
結語
新学部としてどのような学部を作るべきか、知の集合体としての大学ですから、他の先
生方もここに記したこと以外にも様々な意見・疑問をお持ちと思います。地球社会共生学
部に賛成される方は、それらの疑問に真摯に答えられて、作業を進めるべきであると思い
ます。既成事実を積み重ねることによって議論を封じ、議論無用での意思決定や、「シカタ
ガナイ」から思考を停止して物事を進めるという意思決定は、大学にあってはならないこ
とだと信じます。
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