講演資料

平成25年度業務実績発表
南岸低気圧前方降水域のgenerating
cellとZdrと結晶形
中井専人・本吉弘岐・石坂雅昭・山下克也
(防災科学技術研究所 雪氷防災研究センター)
1.はじめに
2014年2月8日-9日、14日-15日の南岸低気圧
 関東甲信地方などに大雪をもたらした。
 日本海側を含む広い範囲に雲粒なし結晶からなる降雪
をもたらした。
 このような降雪は雪崩弱層を形成し得ることが近年明
らかになってきている。
 その降雪過程の解明において雲の鉛直及びメソスケー
ルの構造の調査は重要な1ステップである。
平成25年度業務実績発表
南岸低気圧前方降水域のgenerating
cellとZdrと結晶形
中井専人・本吉弘岐・石坂雅昭・山下克也
(防災科学技術研究所 雪氷防災研究センター)
1.はじめに
事例
 08case:2月8日の事例
雲粒のついていない降雪粒子が観測された期間:
2月8日00JST-17JST(石坂ほか,2015,雪氷,77,285-302)
 14case:2月14日から15日にかけての事例
雲粒のついていない降雪粒子が観測された期間:
2月14日11JST-15日07JST(石坂ほか,2015,雪氷,77,
285-302)
2.研究方法
2-1.データ
降水域の分布と移動
気象庁全国合成レーダー(10分間隔、以下GRと表記)の降
水強度値
• 時間分解能以外は気象庁ホームページの『レーダーナ
ウキャスト』と同等
長岡における降雪雲の鉛直構造
偏波ドップラーレーダーX-POL(Iwanami et. al., 1996)
• 雪氷防災研究センター屋上
• 2方位のRHI観測データのみ
(製造後20年を経て一部ハードウェアの故障のため
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-1.降水域の動き(気象庁合成レーダー)
長岡近辺の降水は、14日13JSTから23JSTごろまでは南から北方向、14
日23JSTごろから15日14JSTまでは南東から北西方向へと移動しており、
比較的隙間の多い降水域の中に北東-南西に走向を持つ(前半は雁行)不
明瞭なバンド構造が見られた。
2.研究方法
パラメーター名
2-2.X-POLデータ解析
単位
dBZ
Zh
(反射強度因子)
Vel
m s-1
(ドップラー速度)
Zdr
dB
(反射因子差)
Kdp
deg km-1
(偏波間位相差変化率)
備考
水平偏波
雨データによる校正
RHI折り返し補正
鉛直流+粒子の落下速度
雨データによる校正
高仰角データによる補正
レーダーのデフォルト出力値
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
 方位290度のRHI観測を示す。合成レーダーによる長岡近辺の降水域の
移動方向はS-NのちSE-NEであり、この面内では陸から海の方向に降水
域が移動していた。
 上層の降水が先に現
れ、下層へと広がり、
そのあと上層の降水
がなくなった。降水
頂(10dBZ)は最大で
8000mに達した。
 上空7000mに20dBZの
降雪が現れそれが降
下して地上の強い降
水をもたらしたよう
に見えるストリーク
状パターンがしばし
ば見られた。
山の陰で
見えない。
日本海上
海岸線:23km
新潟・福島県境31km
標高約1400m
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
長岡上空のZhと269度、290度の高仰角RHIから求めた風向風速
ベクトルは風向風速、カラーはZh
南岸に GR降水域が分水嶺を越える。
GR降水
T1 T2
上陸
強い南東風
T3
0dBエコー頂
7000m~9000m
10dBエコー頂
6000m~8000m
雲粒なし降雪結晶
前方に流出する雲
S→N
<4 mm hour-1
00
06
12
18
本体の雲
SE→NW
>4 mm hour-1あり
00
06
12
18
00
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
長岡上空のZhと269度、290度の高仰角RHIから求めた風向風速
ベクトルは風向風速、カラーは鉛直速度(鉛直流+粒子の落下速度)
南岸に GR降水域が分水嶺を越える。
S1
S2
GR降水
T1 T2
上陸
強い南東風
T3
雲粒なし降雪結晶
上昇流
00
06
12
18
00
06
12
18
00
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
14日1728JSTのZeh
の鉛直断面
この時刻には明瞭
なストリークは観
測範囲内になく、
Zehは比較的水平
方向に一様であっ
た。
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
領域12 高度
7000m→4000m
Zh5dBZ→17dBZ
Zdr0dB→0.5dB
氷晶の成長によ
る形状の扁平化
が考えられる。
領域56
Zh18dBZ-33dBZ
Zdr0dB±0.4dB
高度の同じ領域2~4より
Zdrが小さく、ばらつく。降
雪粒子が異なるか差分減衰や
分解能、感度の影響か不明。
領域34 高度
4000m→1000m
Zh17dBZ→25dBZ
Zdr0.6dB→0dB
雪片形成などの
ためと考えられ
る。
領域7 高度<1000m
領域34とあまり差
がない。地上まであ
まり変化せず(昇華が
なく)降っていたと思
われる。
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
14日2358JSTのZhの鉛
直断面
高度7000mを越える高
さにセル状の、それ
に続く下方にスト
リーク状の構造が見
られた。このような
構造は本事例でしば
しば見られ、高高度
での降雪粒子形成は
結晶型に関係するも
のとして重要と考え
られる。
第9図
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
 ZdrはZhが大きいほどプラスから0に近づく。領域2はストリークを含み、ストリー
ク内での降雪粒子の形状や姿勢が外部と異なることを示唆する。
 ZdrとKdpで分布にやや違いが見られた。領域124についてZhの増加に対してZdrで
は減少傾向を示す一方、KdpはZhが21dBZまで増加し、21dBZから25dBZにかけては領
域1のセル状部分を除いて減少する傾向を示した。この差異は粒径の大きい粒子と
小さい粒子で偏平度が異なることを示唆する。
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
 領域3はほぼ正のZdrを示し、領域6では他の領域と異なりZhが27dBZから
15dBZにかけて小さくなるほどZdrが0.3dBから-0.2dBへと減少している。領
域6は降雪粒子が昇華している領域と考えられ、昇華に伴う雪片形状や落
下姿勢の変化があったことが示唆される。
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
 1時間毎
のZh-Zdr
散布図の
変化
典型的RHI
距離
-50kmから-15km
高度
● 5000mから8000m
○ 2500mから5000m
◇ 1500mから2500m
■ 500mから1500m
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
距離
-50kmから-15km
高度
● 5000mから8000m
○ 2500mから5000m
◇ 1500mから2500m
■ 500mから1500m
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
距離
-50kmから-15km
高度
● 5000mから8000m
○ 2500mから5000m
◇ 1500mから2500m
■ 500mから1500m
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
距離
-50kmから-15km
高度
● 5000mから8000m
○ 2500mから5000m
◇ 1500mから2500m
■ 500mから1500m
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
距離
-50kmから-15km
高度
● 5000mから8000m
○ 2500mから5000m
◇ 1500mから2500m
■ 500mから1500m
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
距離
-50kmから-15km
高度
● 5000mから8000m
○ 2500mから5000m
◇ 1500mから2500m
■ 500mから1500m
3.2014年2月14日南岸低気圧による降雪
3-2.X-POLによるRHI観測
生成セル内ではZdrが
0に近い。ストリーク
内も同様だがやや下
にずれる。Kumjian
(2014)も同様の報告
をしているが、観測
報告的な記述のみ。
生成セルの偏波特性
はまだよくわかって
いないらしい。
4.まとめ
関東甲信地方などに大雪をもたらした2014年2月14日-15日の南岸低気圧に
よる降雪雲について、レーダーデータ解析を行った。解析された特徴は以下
の通りである。
 10dBZ降水頂は8000mに達するほど高く、低温型降雪結晶をもたらしていた。
 低気圧前方に流出したと考えられる雲においては、Zdrは約0dBまたは正の
ことが多く、上空から0dB→0.5dB→0dBの変化を示すことがあった。最下
層で降水のない領域では負のZdrが観測された。これらは雲粒なし砲弾集
合等低温型結晶成長、併合、昇華に伴う粒子形状の変化を表すと思われる。
 低気圧本体と考えられる雲においては、雲粒付き、また樹枝を含む雪片が
観測され、Zdrは正負を含めて短時間で変動した。ただし差分減衰の影響
について調査が必要である。
 KdpはZdrに似た変化を示したが時刻によってZdrに連動しないことがあっ
た。雪片と小粒子の分離など、降水量推定に向けた有用な特性値が得られ
る可能性がある。
 低気圧に伴う前線などでしばしば観測される生成セルがよく見られ、周囲
とは異なるZdrを示した。
 ドップラー解析から得られた断面内風速値では高度2500m付近にジェット
を解析しており、今後、安定度との関係で山岳波と降雪粒子成長との関係
なども解析できるかもしれない。