EEPニューズレター - 松原研究室

2015年2月1日
EEP Newsletter, No.6
E - Education Promotion Newsletter
教育の情報化推進に向けて
〒520-0862
滋賀県大津市平津 2-5-1
滋賀大学教育学部・滋賀大学大学院教育学研究科
松原研究室
http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/
ニューズレター
教育情報化推進研究会は,2010年の発足
から今年で5年目となりました。今まで
に,このニューズレターは,創刊準備号,
創刊号,第2号,第3号,第4号,第5号
と続き,今回はその第6号となります。
今号では,右にあるように,近畿職業能力
開発大学校の平松部長より,巻頭言を頂戴し
ました。深く感謝申し上げます。
本研究会の主たる目的は,教育の情報化
に対して,今まで以上に,その関心を高め
成果を上げるために,有効な情報や教育・
研究に関わる者の知恵を共有することを重
視しています。
また,同時に上記研究会の姉妹関係に
ある情報学教育研究会も別途活動を続けて
います。これら2つの研究会の成果を効果
的に反映させるため,協働による学習支援
環境として,協働学習支援環境の構築にも
力を注いでいます。
上記の2つの研究会と協働学習の支援
環境につきましては,既にW ebサイトを
立ち上げています。今後順次充実してく
予定ですので,関心をお持ちの皆様の
ご理解とご協力を賜れば幸いです。
第6号
情報化による教育訓練の進化
近畿職業能力開発大学校滋賀校(ポリテクカレッジ滋賀)
能力開発部長
平松英康
ポリテクカレッジは,厚生労働省所管の大学校です。ほとんどの大学は,文部科学省の所管と
なりますが,防衛省の防衛大学校など文部科学省以外にも大学校があり,当校もその1つになり
ます。当校は20年あまり前に滋賀県近江八幡市に設立し,機械系の生産技術科,電子技術科,情
報技術科,建築系の住居環境科の4科で1,700人余りの卒業生を地域産業界に送り出しています。
ユビキタス社会の到来に対応するための技術者を養成するために,当校では7年前に電子技術
と情報技術を融合し,ハード・ソフト・通信技術に対応できる電子情報技術科を創設していま
す。また,機械分野でも情報技術の発展や3Dプリンタの普及により今まで加工・組立が不可能
だった製品づくりが可能となってきました。
情報技術の発達により様々な分野で今まで不可能だったことが可能になってきました。私ども
の行っている教育訓練においても教える内容や教え方が進化しています。
見えなかった機械の内部を見ることができたり,実際につくる前にシミュレーションができた
り,あらゆる方向から製品を見ることができたり,設計の間違いを教えてくれたり,言葉で表現
できなかったことが一目瞭然となり,分かり易く説明できるようになっています。その反面,コ
ンピュータやソフトという情報技術,情報化に頼り,それがなければ何もできないということに
なりかねないとも言えます。情報技術・情報化を活用するには活用するための人の思考が備わっ
目
ていることが必要条件だと思います。
次
この間「ドイツが国を挙げて推進する第4次産業革命」という記事を目にしました。そのコン
1
情報化による教育訓練の進化
平松英康
セプトを一言で表すと,「つながる工場」とのことです。インターネットなどの通信ネットワー
クを介して工場内外のモノやサービスと連携することで,今までにない価値を生み出したり,新
しいビジネスモデルを構築できる時代になってきました。
2
社会の情報化,情報の社会化
松原伸一
「外国語活動・外国語(英語)」と
「教育の情報化」
大嶋秀樹
3
算数・数学科教育の情報化について考える(3)
- 「教材研究の方法」とICT活用 渡邊慶子
4
私どもポリテクカレッジにおける学修も含まれており,制度上も大学と大学校が省庁を超えて連
携できるようになってきました。
国内では,誰もが利用できる加工機械を備えた「ものづくりラボ」の設置や,人型ロボットな
ど教材として利用できる製品も身近になっています。
滋賀県では,サッカーロボットに取り組む子どもたちが多く,当校でもサッカーロボット教室
レポート:技術科教育における3Dプリ
ンタの活用を目指して
黒木竜成,山口 諒
5
技術科教育研究懇談会のお知らせ
研究会からのお知らせ
6
編集部
昨年9月に,大学設置基準の規定により大学が単位を与えることのできる学修を定める件の一
部を改正する告示が交付され,文部科学省から全国の大学に対して通知されています。その中に
を行い地域の小学生に論理的な考え方を教えています。単に,ロボットというハードウェア,プ
ログラムというソフトウェアを勉強するということではなく,サッカーロボットを通して論理的
な考え方を身に付けてもらうことが大切だと思っています。論理的思考は将来科学者や技術者に
なる子どもだけではなく様々な分野に進む際にも役に立つものです。このような取り組みも情報
技術の発達により身近になっています。
情報化はあらゆる分野で不可欠なものですし,情報化は活用方法が有効であればあらゆる分野
で飛躍的に効果を上げることができるものだと思います。技術教育の分野でも情報化による飛躍
的な進歩を期待しております。
Page 1
教育の情報化推進に向けて
EEP Newsletter, No.6
社会の情報化,情報の社会化
滋賀大学教育学部
1.データと情報,情報とコンピュータ
多くの人は,「データ」と「情報」を区別して使用しているのだろうか。ま
た,「情報化」という言葉を聞いて,何をイメージするだろうか。この問い
かけは,筆者が授業の中で取り上げるテーマの例である。授業では,
「情報化」と聞いて,「コンピュータ化」をイメージする人が多かった。他
に,「電子化」をあげる者もいたが,これは,コンピュータのことを電子計
算機と表現していたことに由来するものと考えられる。electronicの背景
に,computerがあるためで,電子メール(e-mail)という表現も同様の理
由による。
それでは,「情報化=コンピュータ化」という構図は,いつごろ,どのよ
うな背景で形成されたのだろうか。その答えは容易ではないが,恐らくコ
ンピュータ処理の歴史に関係がある。
そもそも,データ処理(data processing)とは,データを知識(情報)に
変換するコンピュータ処理のことである。この用語は,コンピュータの発
明以来,長い間使用されてきたが,コンピュータの処理対象がより複雑
で高度なものになるにつれて,情報処理(information processing)とい
う用語が好んで使用されるようになった。現在では,データ処理システム
は,情報処理システム(または,単に情報システム)とも呼ばれ,ほぼ同
義とされる。このことは,「データ処理=コンピュータ処理」と「データ処理
=情報処理」との構図から,「情報=コンピュータ」という構図が形成さ
れ,また同時に,「情報=データ」という構図も生じている。そのため,
「情報」は「コンピュータ」の意味で使用され,「データ」も「情報」も区別で
きない現状を引き起こしている。その結果,「○○の情報化」と言えば,
「○○のコンピュータ化(電算化)」と考えるのが常識ともいえる状況に
なっているのである。このような状況は,これ自体で大きな問題が生じる
訳ではない。しかしながら,「情報教育」においては,いささか問題が重
大である。つまり,「情報=コンピュータ」の構図は,「情報教育=コン
ピュータ教育」の構図となり,誤解を生じてきたからである。すなわち,情
報教育とは,単なるコンピュータ教育(スキル教育)ではなく,情報活用
の実践力,情報の科学的な理解,情報社会に参画する態度,の3つの
観点からバランスよく構成されるものとして位置づけられるとともに,情報
のモラルや安全に関わる教育についても強調されているところである。
松原伸一
たこともあり,課題解決過程が軽視されるという懸念もあった。課題解決
過程自体がいわゆる学習過程そのものであり,これを短縮・簡略化する
ことは,学習の深化を伴わないことが多いことに気付いたのである。その
結果,教育の世界では,効率化を無視しても良いという極論も時に妥当
性を持つと考えられたこともあり,情報化の概念とともに,その推進にお
いて困難な状況を生じることもある。
結局のところ,情報化に伴う新
しい教育の在り方を探ることは永
遠の課題であるのかもしれな
い。その為には,量的な面だけ
でなく,質的な面においても充
分に考察されなければならない
だろう(図1)。
会社における業務の情報化
学校における教育の情報化
病院における医療の情報化
銀行における金融の情報化
店舗における決済の情報化
:
図1
各分野における情報化
3.情報の社会化
「社会の情報化」という表現は,馴染みのあるものである。これは,コン
ピュータの発明,情報のディジタル化,データ処理の自動化・高速化,
ネットワーク化などの進展が私たちの周辺環境だけでなく社会全体にお
いて情報化されることを意味し情報社会の概念の源流となっている。
一方,情報メディアは,パーソナル化,モバイル化,クラウド化,ソー
シャル化へと進展し,そこで流通する情報は,新たなコミュニティや社会
を形成している。このような特徴を捉えて,筆者は,「情報の社会化」と呼
んでいる。
つまり,ネット上の各種サイト(掲示板,ブログ,まとめサイト,…)や,無
料電話等のサービス会社が提供するメッセージ交換サイト,画像やテキ
ストなどをネット上にアップして情報共有を行うサイトなどの他に,仮想空
間を共有するサイト,新しいビジネスモデルに基づくサービスなど,次々
に広範に渡るサービスが登場している(図2)。
本来,情報は,物(物質)とは異なる特徴を有し,これは時として長所
であり,短所でもある。つまり,情報は,直接にはコンピュータと無関係で
あり,特に情報社会では,情報のもつ特殊性を理解することが重要であ
る。
2.社会の情報化
コンピュータの誕生から30年程経過した頃,様々な分野においてコン
ピュータ利用が進められた。1970年代はコンピュータの機能をどこに利
用・応用するかという課題があらゆる分野の緊急なテーマとなったので
ある。これが,いわゆる社会の情報化と総称されることになるが,しかしな
がら,単に,社会の情報化といっても,それぞれの分野により,コン
ピュータ利用の考え方は様々である。
例えば,効率化・最適化という考え方は,会社などのビジネスの現場
では欠くことはできないもので,コストとパフォーマンスとの関係で議論さ
れることが多い。しかしながら,教育の分野では必ずしもそうではないの
である。特に,児童生徒の学習においては,効率化を進めるあまりに,
学習時間の短縮,教育経費の削減,答えの暗記,などに重点が置かれ
Page 2
図2 「社会の情報化」と「情報の社会化」
参考文献
松原伸一(2014)ソーシャルメディア社会の教育~マルチコミュ
ニティにおける情報教育の新科学化~,開隆堂.
教育の情報化推進に向けて
EEP Newsletter, No.6
「外国語活動・外国語(英語)」と「教育の情報化」
滋賀大学教育学部
平成27年度 4月からは,小学校・中学校・高等学
校・特別支援学校のすべての校種・学年で学ぶ児童・
生徒が,「生きる力」を育むという理念のもとではじ
まった,現行学習指導要領での教育体制に移行する。
この現行学習指導要領のもとでの教育体制は,平成23
年4月に小学校・特別支援学校小学部で,平成24年4
月には中学校・特別支援学校中学部で全面実施とな
り,平成25年4月から学年進行ではじまった高等学
校・特別支援学校高等部への入学生が3年生となる,
平成27年4月からの1年間で,足かけ5年をかけてのす
べての校種・学年での全面実施への道のりが完成す
る。知・徳・体のバランスのとれたこれからの社会を
「生きる力」を育むというのが,現行学習指導要領の
基本となる考え方となっている。 本稿では,そうし
た現行学習指導要領の教育体制の中での,「外国語活
動・外国語(英語)」,「情報」,「情報化」という
3つのキーワードに目を向け,「教育の情報化」と
「英語教育」の関わり,さらに今後の「教育の情報
化」と「英語教育」方向性について見ていくことにす
る。
まず,「情報」と「外国語活動・外国語(英語)」
との関わりについては,中学校学習指導要領 第2章
各教科 第2節 外国語 第2 各言語の目標及び内容
等 英語 2 内容 (1) 言語活動 ア 聞くこと の
記載は,「(エ)自然な口調で話されたり読まれたり
する英語を聞いて,情報を正確に聞き取ること。」と
いう記載が目に入る。さらに,高等学校学習指導要領
外国語編 のコミュニケーション英語Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの目
標 では,「英語を通じて,積極的にコミュニケー
ションを図ろうとする態度を育成するとともに,情報
や 考 えな どを 的確 に理解 し たり 適切 に伝 えたり す
る・・・」という記述が目に留まる。また,小学校学
習指導要領では,本編では見当たらないが,外国語活
動解説編 3 指導計画の作成と内容の取扱い 1.
「(6) 音声を取り扱う場合には,CD,DVDなどの視
聴覚教材を積極的に活用すること。その際,使用する
視聴覚教材は,児童,学校及び地域の実態を考慮して
適切なものとすること。」についての解説部分で,
「外国語を初めて学習する段階に当たる外国語活動で
は,ジェスチャーや表情などの視覚情報もコミュニ
ケーションを図る際には大切な要素となってくること
を踏まえると,CD,DVDなどの視聴覚教材の積極
的な活用も極めて有効である。」という記述を見つけ
ることができる。
大嶋秀樹
さ ら に,「情 報 化」と「外 国 語 活 動・外 国 語(英
語)」との関わりについては,『教育の情報化ビジョ
ン~21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指し
て~』(文部科学省,2011)では,「外国語活動」(小
学校)については,2件の記述部分が,「外国語」
(中学校・高等学校)では,4件の記述部分があり,
図表1:学力の3要素に対応した授業像の例(具体的
な授業事例)の,1. 基礎的・基本的な知識・技能の
習得では,「知識・技能の確実な定着」(個別学習)
(中学校・高等学校),「発音」(一斉学習・個別学
習)(小学校・中学校・高等学校)のそれぞれが,ま
た,2. 思 考 力・判 断 力・表 現 力 等 の 育 成 で は,
「スピーチやプレゼンテーション」(協働学習)(中
学校・高等学校)が,そして,3. 主体的に学習に取
り組む態度の育成では,「内容への興味関心を高める
指導」(小学校・中学校・高等学校)が示されてい
る。「情報化」という言葉は,学習指導要領本体(小
学校・中学校・高等学校)にこそ登場しないが,「教
育の情報化」という言葉が,小学校・中学校・高等学
校 の 学 習 指 導 要 領(「外 国 語 活 動・外 国 語(英
語)」)をとおしての「生きる力」(ここでは,「学
力の3要素」)の育成をつなぐ形になっている。
こうしてみると,「教育の情報化」が,現行学習指
導要領の小学校・中学校・高等学校の「英語教育」を
つないでいることがわかる。「情報」や「情報化」と
いう言葉を耳にすると,つい,「機器」というイメー
ジが先行しがちだが,「情報」は,「外国語活動・外
国語(英語)」では,伝達内容(伝達のコンテンツ)
にかかわる部分で,言葉のコミュニケーションでは,
必要不可欠な中心部分で,「情報化」は,現行学習指
導要領の「生きる力」を育む,「学び」を推進する役
割を担う部分(『教育の情報化ビジョン~21世紀に
ふさわしい学びと学校の創造を目指して~』(文部科
学省,2011)ということになる。
そして,現在,この現行学習指導要領は,はや,2016
年度には,改訂へと進んでおり,「英語教育」について
は,その方向を示す道筋が『今後の英語教育の改善・充
実方策について 報告 ~グローバル化に対応した英
語教育改革の五つの提言~』
(英語教育の在り方に関す
る有識者会議)(2014) で昨年9月に示されている。その
中で,2. 必要な改革について 改革4. 教科書・教材の
充実 で,「ICTの活用」ということが明記され,「学
び」を育む「英語教育」の「教育の情報化」がさらに加
速することが示されている。
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教育の情報化推進に向けて
EEP Newsletter, No.6
算数・数学科教育の情報化について考える(3)[1][2]
- 「教材研究の方法」とICT活用 滋賀大学教育学部
渡邊慶子
「情報化教育」において用いられるICT教育機器には、電子黒板やデジ
タル教材(教科書)、など、ICT活用を促す様々なものが存在する。教師に
とって,ICT(情報通信技術)の活用に対する態度や,ICTの活用に関する知
識・技能の習得は,高性能な教育機器の選択肢の増大にともなって,その
探求の必要性が叫ばれている。
ICT活用という面において,私たちの生活環境,そして学習・指導環境
は,ものの数年間のうちに激変することを求められている。電子黒板や情報
探索ツールをもつ様々な機器が積極的に導入され,特に情報検索におい
ては、学習という営みにも大きく影響している。例えば、算数・数学科の授業
で提示される問題についても、検索キーへ問題などを入力する作業で、
様々な解やそれに関する情報が得られるようである。このような状況は、どの
校種、教科においても大きな変化かもしれない。さらには,この情報検索は,
指導側,即ち教師にとっても,実際のところ強力なツール,機能であるといえ
よう。
本稿では,教師の「算数科の教材研究」という授業の準備段階での営み
に対して,如何に情報検索というツールが影響しているのか考え,算数授業
の教材を調べたり,考えたりする教師の活動について述べてみたい。
ここでは,ある教員養成課程の学生(3回生・以下、A)が算数科授業の教
材研究を通して,教育実習期間中に情報探索ツールとの付き合い方を考え
た事例を簡単に紹介する。
この「四角形」をかいた子ども(以下,C)は,クラス42人中わず
か1人であった。Aは,「Cの図は四角形といってよいものか自分(A)も
断言できない上に,Cの図を取り上げると,対角線の話ができなくなる。」と判
断し,本時で取り扱わないことを瞬時に決めた。結果、Aは自分の意図に合う
「四角形」のみを取り上げて,本時のねらいに沿った(Aの学習指導案に沿っ
て)授業を展開できた。
【授業後】
本時の授業を終えたAには,(学習指導案通りに授業を進められたにも関
わらず)心残りがあった。それは,Cの複雑な表情である。Cは「四角形」をかく
作業後、「自分のかいた四角形が授業ではとりあげられなさそうだ…」と悟る
と,(なんとなく悲しいような表情を浮かべて),図1を消しゴムで消して,「長方
形」のようにみえる図を定木も使わず急いでかいて,その画用紙を,表1の長
方形の枠に収めた。
このCの様子が気になったAは,「Cさんは何を考えていたのだろう」と教科
書をみながら考えてみた。そして,A自身の言葉(学習指導案にかいていた
子どもへの指示)を書きだしてみた。
「これから,画用紙(A3判)を1人に一枚配ります。そこに,四角形を一つか
いてください。あとで,みんなで見せ合いますから,なるべく大きくかいてみま
しょう。」
4本の 直線で かこまれた
Aは「四角形」が教科書でどのように説
形を,四角形 といいます。[3]
明(定義)されているのかを確認した。
2.事例:教材「四角形って何?」を作り上げるまで
3.図形の教材研究と情報探索ツール
【前提】
Aは,小学生の算数の授業を担当することになった。担当する子どもたち
は,前時までに,「三角形・四角形/正方形・長方形・直角三角形/二等辺
三角形・正三角形/平行四辺形・ひし形・台形」について学習している。本
時での授業のねらいは「四角形について,それらの対角線の本数や長さ,
交わり方の特徴を表(表1)にまとめることを通し,対角線の特徴から四角形
を調べたり,かいたりすることができる」であった。このねらいが達成できるよ
う,Aは学習指導案を作成し,授業に挑んだ。
【授業中】
図1のような形は四角形である。ただし,小学校算数科で明示的に取り扱う
「長方形」や「ひし形」など凸型四角形ではなく,凹型四角形とも呼ばれる四
角形である。Aは指導案作成の段階で,凹型四角形の存在は考えず,凸型
の四角形のことのみを念頭に置いて先述したような指示を子どもにしていた。
図形の「定義」を子どもが素直に体現したおかげで,Aは凹型四角形の存在
に気づくことができたのである。
Aは図1が四角形であることを教科書の説明で気づいたものの,「凹型四角
形」ということばまでは分からなかった。この時,Aは図1が何モノなのかを知ろ
うとしたが,この時点では情報探索ツール(検索キ-)にどんなことばを打ち
込んで検索すればよいのか分からない状況に直面したのである。その後,
「四角形とは何か」というキーワードから情報検索ツールや書籍などによって
「凹型四角形」という名称とその意味にAはたどり着く。
1.はじめに
表1.授業の「まとめ」の場面で想定できる「表」
(問)対角線の長さや交わり方を調べて,次のア,イ,ウにあてはまるものをえらび,
○をかきましょう。
長方形
正方形
台形
平行
ひし形
四辺
形
ア 2本の対角線の長さが等しい。
○
○
イ 2本の対角線が交わった点で,そ
○
○
○
○
れぞれの対角線が2等分される。
ウ 2本の対角線が垂直に交わる。
○
Aは子どもたちに授業の導入場面で次のよ
うな作業をするよう指示した。
「これから,画用紙(A3判)を1人に一枚配り
ます。そこに,四角形を一つかいてください。あ
とで,みんなで見せ合いますから,なるべく大
きくかいてみましょう。」
このとき,Aは,これらを上記の表の最上段
に適宜並べるなどして,子どもの図を用いる予 図1:ある子どもの図
定だった。
しかしここで,Aにとって想定外の事態がおこった。子どもたちの作業を見
回っていると,Aが全く想定していなかった図(図1)を描く子どもの姿が目に
とまった。
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4.おわりに
四角形、長方形、平行四辺形…とその図形の定義を学習していても,「四
角形は(三角形のように)とがっていない」というある種の感覚が人の判断の
基準となって,図1のようなかたちを四角形と見ることができない状態となるこ
とがある。Aは図1をかいていたCの考えを,Aも含めてC以外の他の子どもも
「(図1は)四角形ではない」と意見していたことを想起して,「四角形とは何
か」を考えるための授業を実施すべく,新たに学習指導案を作成し始めた。
この教材研究は,結局のところ「四角形とは何であったか」という図形概念に
ついての疑問に教師側(A)が立ち返ることから始まっている。
近年,「我々の周りには情報があふれている」と耳にするが,上述の事例
から言えば,情報を獲得しようとするまでに,我々は様々な事態に気を配り,
そしてそれを探究する姿勢をもち,更には自分の既知を見つめて反省する
努力が必要なのかもしれない。
引用・参考文献
[1]渡邊慶子(2012)「算数・数学科の情報化について考える―「問い」を生
み出すきっかけをつくるICT活用の可能性―」,『教育の情報化推進に向
けて ニューズレター』No.3,p.2
[2]渡邊慶子(2013)「算数・数学科の情報化について考える―「授業づくり」
とICT活用の可能性―」,『教育の情報化推進に向けて ニューズレ
ター』No.4,p.2
[3]橋本吉彦他(2011)『たのしい 算数 2下』大日本図書,p.4
教育の情報化推進に向けて
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レポート:技術科教育における3Dプリンタの活用を目指して
黒木竜成,山口
諒(滋賀大学教育学部松原研究室)
1.はじめに
②設計図により造形できるので授業構成が容易
私たちは,近年普及してきた3Dプリンタを用い
た技術科教育について考察するにあたり,まずは3
Dプリンタがどういったものなのか知る必要がある
と考え,2014年5月28日滋賀県近江八幡市にある近畿
職業能力開発大学校滋賀校(ポリテックカレッジ滋賀)
において行われた学校説明会に参加させていただき
ました。本稿では,そのレポートを兼ねて,技術科
教育への活用について考察を行う。
3DプリンタはCADデータさえあればコン
ピュータが処理するため,決まった時間で製作がで
きる。一方,木材加工では,個人の技量で進行速度
が異なるため授業の構想を練り直さなければならな
い可能性がある。3Dプリンタを導入することで年
間を通した授業計画が立てやすいと言えるだろう。
2.3Dプリンタの概要
3Dプリンタは工業用から家庭用まで様々な種類
が存在するが,ポリテックカレッジ生産技術科に設
置されているのは,Stratasys社製Dimension eliteと
いう製品である(図1)。特徴としては,①学校に
も設置可能な中型サイズ,②高精細な造形が可能,
③高強度かつ高耐久性,④簡単に除去可能なサポー
ト材,⑤操作が容易なソフトウェアなどがげられ,
市場価格は,498万円でプロ向けの機材である。
③日常生活に直結した技術科教育が実施可能
生徒にものづくりへの興味関心を持たせる上で,
日常生活に結び付いた授業を行う事は必要不可欠で
ある。一例としてポリテックカレッジでは(図2)
のような小物入れを製作していた。他にもスマート
フォンケースやスパナなど3Dプリンタで製作でき
るものは多岐に渡っている。実用的なものを製作す
るとなれば,製作図が考えやすくものづくりに対す
る抵抗感が希薄になることが予想される。
図2 小物入れ
④怪我をしたり失敗することが少ない。
図1 3Dプリンタ本体
3.技術科教育への導入
3Dプリンタを技術科教育に導入することによ
り,以下の4点が期待される。
①最先端技術を駆使したものづくりが体験可能
今日の技術の発展はめまぐるしく進化し,日々新
しい技術が生まれている。それに伴い教育内容にも
進化が求められている。3Dプリンタを用いた授業
もその中の一つと言えるのではないだろうか。3D
プリンタという最先端技術を駆使した授業を行う事
で,生徒たちのものづくりに対する興味関心の向上
が期待できる。
木材加工とは違い,のこぎりやかんなを使うこと
がないため製作過程で生徒が怪我をするリスクが下
が る。ま た,設 計 図 を 読 み 込 ま せ れ ば あ と は コ ン
ピュータが処理するため生徒が考えたものを正確に
造形することができる。
4.おわりに
技術科教育における3Dプリンタの可能性につい
て考察した。多くのメリットがあるので魅力的な教
材の一つと言えるが,導入する上で価格面,教師へ
の負担,多様なものづくり経験などにおいて課題も
ある。技術科教育における活用には,これらの問題
を解決することも重要である。
3Dプリンタのレポートに際し,平松英康様(近
畿職業能力開発大学校滋賀校 能力開発部長)にご協
力を頂きました。感謝申し上げたい。
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教育の情報化推進に向けて
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技術科教育研究懇談会のお知らせ
編
集
部
技術科教育研究懇談会(CTE: Colloquium of Tech-
技術科教育研究懇談会
nology Education )が2年目を迎えました。本研究懇談
CTE: Colloquium of Technology Education
会の事務局は,滋賀大学大学院教育学研究科松原研
究室に置かれ,技術科教育のさらなる充実・発展を目
名
称:本会の名称は,技術科教育研究懇談会とする。
趣
旨:本会は,技術科教育のさらなる充実・発展を目指し,中長期的な展望を構想するため科
学的な視点に立って,研究懇談を行うものとする。当面のテーマとしては,次のよう
な項目があげられる。①技術科教育における教育情報化, ②技術科教育の実践事例,
③技術科教育の課題と展望,④その他,技術科教育に関すること。
営:本会の事務局を滋賀大学大学院教育学研究科松原研究室に置く。
表:松原伸一(滋賀大学大学院教育学研究科/滋賀大学教育学部)
指し,中・長期的な展望を構想するため科学的な視点
に立ち,研究懇談を行うものとしています。
運
代
研究懇談会の当面のテーマとしては,①技術科教
事務局:大津市平津2-5-1 滋賀大学大学院教育学研究科 松原研究室
事務担当 宮内
育における教育情報化,②技術科教育の実践事例,③
技術科教育の課題と展望,④その他,技術科教育に関
組
活
すること,が設定されている。
稔(滋賀大学教育学部附属中学校)
織:技術科教育に関する十分な実績(教育経験と研究業績)を有し,技術科教育研究におい
て,中長期的な展望に際し,建設的な意見や知見を提供できる者で組織(構成)する。
動:必要に応じて適宜開催し,研究懇談を行う。
研究懇談会の組織について,技術科教育に関する
十分な実績(教育経験と研究業績)を有し技術科教育
研究において中長期的な展望に際し,建設的な意見
や知見を提供できる者で構成するとされる。
なお,2015年3月に,技術科教育研究懇談会2015が
開催されることになっています。詳細については,懇
談会のサイト(www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/cte/)を
参照されたい。
技術科教育研究懇談会2015の開催について
主 催:技術科教育研究懇談会(CTE: Colloquium of Technology Education)
開催日:2015年3月28日(土)13:00-17:00
会 場:滋賀大学教育学部(大津市平津2-5-1)第1講義室
※JR石山駅よりバスで20分,徒歩5分
内 容:技術科教育における大学と教育現場の連携について(案)
タイムテーブル(案)
13:00〜13:20 受付・挨拶
13:20〜14:50 ワークショップ(教材体験)
14:50〜15:10 休憩
15:10〜16:40 情報交換
16:40〜17:00 挨拶
研究会からのお知らせ
教育情報化推進研究会(2014年度コアメンバー)
◎
松原伸一
大嶋秀樹
渡邊慶子
滋賀大学教育学部
滋賀大学教育学部
滋賀大学教育学部
教 授
教 授
講 師
※ 2014年度のコアメンバー(本学部内)を掲載
※ ◎は研究会代表
<編集部>
横山成彦
大阪学院大学高等学校
講
師
教育の情報化推進に向けて
協働学習支援環境(CLSE)の紹介
研究成果の一部を公開する目的で協働学習支援環境(CLSE)をWeb上
に構築し,新しい教育方法の開発に向けて試験的な運用を始めています。
CLSEの特徴は,必ずしもグループ活動を前提とするのではなく,むしろ
個人が学習を進めるにあたって,ICTを活用することにより学習者相互の
インタラクティブな情報交換(情報共有)が互いの学習活動を支援する
ような自然な環境の構築を目指し,ユビキタス社会の「いつでも,どこでも,
誰でもが」ネットワークに繋がる環境で,学習者同士が教えあい学びあう
ものとして位置付けています。
ニューズレター
No.6
2015年2月1日
教育情報化推進研究会(SIG_EEP,EEP研) http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/sig_eep/
協働学習支援環境(CLSE)
http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/clse/
滋賀大学教育学部・滋賀大学大学院教育学研究科 松原研究室
〒520-0862 滋賀県大津市平津2-5-1
http://www.mlab.sue.shiga-u.ac.jp/
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